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- / ISBN・EAN: 4900950236107
感想・レビュー・書評
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ホロコーストを題材にした映画は数多くあり、当然どれも残酷でつらく悲しい面を持つのだけど、その中でもこの作品は、群を抜いて「生々しさ」を感じさせます。
ユダヤ人でピアニストのウワディスワフ・シュピルマン。ポーランドの首都ワルシャワに両親や兄弟と共に暮らしていたが、1939年のナチス侵攻により、生活は一変する。
ダビデの星の腕章の強要、ゲットーへの強制移住、財産没収、そしてついには、家畜列車に詰め込まれての収容所移送が始まり…。
知人の機転のおかげで、家族の中で唯一収容所送りから逃れた彼。
それでも、ゲットーに留まっての強制労働や飢餓、理不尽な暴力に苦しみ、死と隣り合わせの生活であることは変わりない。
ある日彼は、知人の手を借りてゲットーから脱出するけれど、それは過酷な逃亡生活の始まりで…。
彼に出来ることはない。
隠れること。
逃げること。
飢えに耐えきれず人気のない廃墟で食糧を漁ること。
街で人が殺されて多くの遺体が転がるのを、隠れている建物の窓の向こうに見つめること以外は。
そんな無力さと、常に死と隣り合わせの恐怖、それでも消えない生への執着が、他者の視点や感情を極端なまでに挟まず、彼の視点から見える世界と彼の行動に焦点を絞りこみながら描かれています。
この視点設定こそ、大きな歴史のうねりの中で、ひとりぼっちの平凡な市民が出来ることなどない…という残酷な事実の強調となり、戦争の残忍さをより一層際立たせるとともに、作品特有の生々しさにつながっているのかと思いました。
ポーランド出身のユダヤ人であるポランスキー監督はホロコーストを実際に体験しているそうで、それが、このリアルさを演出する視点演出に繋がったのでしょうか。
変態要素がないものをポランスキー監督ちゃんと作品にしてるの?と観る前は失礼ながら少し疑っていたのですが、見事です。
そして、シュピルマンを演じたエイドリアン・ブロディの、表情の薄さとそれでも不思議と存分にわかる感情、硬直する表情に反して戦争が激しさを増す中でどんどんボロボロになって行く外見が、死の恐怖に必死に逃げ惑いながらも少なからず心を凍りつかせることでなんとか生きぬいた人々のリアルな生を巧みに表現しています。
つらいのだけど、観るべき作品ですね。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
以前、テレビで「有名な日本人」を海外の人に訊ねてランキングにするという番組がありまして(陸海空)。ブラジルでジャスピオンの黒崎輝が1位になってて驚いたんですが、では同じように「有名なポーランド人は?」って日本人に質問すると…パッと答えられる人は少ないのではないかと。
たぶん日本で一番有名、誰でも名前を知ってるポーランド人はショパンで、次はキュリー夫人とかになるんじゃないのかな。
読書が好きな人に訊ねたら、スタニスワフレムと答えるかもしれない。絵画が好きな人だとベクシンスキーとか?
では映画監督はというと、ロマンポランスキがたぶん一番有名で、他にはアンジェイワイダ、クシシュトフキェシロフスキ、イエジースコリモフスキ…とかかな。
この中で、実は世界中の人が顔を見ているのはスコリモフスキ。理由は『アベンジャーズ』に出ているから笑。
そんなポランスキーの『戦場のピアニスト』、超有名な作品。アカデミー監督賞と、カンヌのパルムドールを受賞している。(因みにこの年のアカデミー作品賞はなんと『シカゴ』…笑。同様にこの年のカンヌの審査委員長はデヴィッドリンチ!さすが!リンチはポランスキーやスコリモフスキに影響受けてるはず)
私がこの映画を初めて観たのはたぶん15年以上前で、その頃に2回観ました。ポランスキーを知ったのもこの作品から。その後、『ローズマリーの赤ちゃん』『反撥』などを観てから、より好きに。
この映画はホロコーストもの…ユダヤ人絶滅政策もの。元々戦争映画は好きだけど、ホロコーストは絶対に忘れてはいけないことなので、題材にした映画は何回作られてもいいと思います。
私の世代だと、『シンドラーのリスト』『ライフイズビューティフル』なんかがあって、その次ぐらいがこの映画。そしてそれぞれ方向性や切り口が異なっています。
『シンドラーのリスト』はドラマ映画。
『ライフイズビューティフル』は戦争コメディ。(ヨーロッパだと『ブリキの太鼓』や『アンダーグラウンド』など、良い戦争コメディ映画がけっこうありますね。)
わりと最近だと、『サウルの息子』はホラー映画の手法で作られています。
では『戦場のピアニスト』はというと、これはサスペンス映画の手法で作られています。
冒頭、主人公シュピルマンが演奏するラジオのブース内。1939年、ドイツのポーランド侵攻から映画は始まります。ラジオのブースは「ガラス窓」で仕切られている。
この後、シュピルマンが生き延びるために延々と逃げ続けるという映画で、隠れ家から外の世界を覗くのは常に「窓」から。彼の一人称視点での戦争が語られる。これはヒッチコックの『裏窓』スタイルです。
一人称視点でのサスペンスなので、自分が殺されるか生き延びられるかの恐怖、ヒヤヒヤさせられるエグい演出で次々と描かれていく。
戦争映画の一人称視点、市民の目線だと『この世界の片隅に』もそうでしたが、生活を描くということ。生活で重要なのは食事で、食料が窮乏状態、餓死寸前まで追い詰められての食事がなんとうまそうなことか……。
今回観ていて気づいたのは、ラスト近辺でピアノを弾くシュピルマンの姿が、まるでイエスキリスト(ユダヤ人)のように見えること。
ポランスキー本人もユダヤ人で、ホロコーストから逃げてフランスに渡った人。その後映画監督になったけど、今度は自分の事件でアメリカから逃げるハメに。そのあたりの心情は他の作品でも語られていると思うけど、アパートなどの部屋の中だけの話がやたらと多い。
「窓」が意味するのはもうひとつあって、映画館のスクリーンは観客にとっての「窓」。シュピルマンの視点と、ポーランド戦中史を俯瞰する我々の視点とが重なります。
ポーランド戦中史だと、そもそも第二次世界大戦の始まりは1939年のポーランド侵攻から。そして1943年4-5月のワルシャワゲットー蜂起と、1944年8-10月のワルシャワ蜂起が語られる。あと、有名なアウシュビッツ収容所などのいわゆる絶滅収容所6つは、全てポーランドの国内にありました。
映画は終わるけど、ポーランドの受難は続く。アンジェイワイダ監督の『カティンの森』も観ることをお薦めします。この映画はとにかく映像が素晴らしいですが、どちらもパヴェウエデルマンさんが撮影監督をしています。 -
この映画の良さがわかるのは、後半に出てくる廃屋でのドイツ将校との出会いから。あの当時、ヒトラーの選民思想やホロコーストに嫌悪感を抱いていたドイツ人もいたことも確かだろう。もちろん、その暴走を許し、自らもその歯車となった時点で、彼らの責任は免れない。そんな状況下でも、「シンドラーのリスト」のようにドイツ民間人が多くのポーランド系ユダヤ人の命を救った例のような、人間の「良心」による善行が少なからず行われていたことも事実。しかし、自分たちが託した力(ナチス)が、結局はそれをコントロールできないほど狂暴化させてしまった人間の愚かさを歴史の記憶遺産として万人の心に刻んでおくべき作品です。
撮影の方は、おそらく監督が細部にこだわったため膨大なフィルムが存在したものの、商業的な上映時間を考えると編集せざるを得ない、そのために不自然な小さなカット割りが多くなったのだと想像します。
『戦場のピアニスト』(原題: The Pianist)は、第二次世界大戦におけるワルシャワを舞台としたフランス・ドイツ・ポーランド・イギリスの合作映画。2002年公開。
ユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンの体験記を脚色して映像化している。
カンヌ映画祭では最高賞であるパルムドールを受賞した。アメリカのアカデミー賞では7部門にノミネートされ、うち監督賞、脚色賞、主演男優賞の3部門で受賞した。 主演のエイドリアン・ブロディはこの作品でアカデミー主演男優賞を受賞した。
原作であるノンフィクションは戦争直後のポーランドで『ある都市の死』の題名で1946年に刊行された。冷戦下のポーランドでは、主人公シュピルマンを救ったのが旧敵国のドイツ人では好ましくないため、やむなくオーストリア人としたが、ポーランド共産主義政権の手によりすぐ絶版処分となった。以降、1960年代におけるポーランド国内での復刊の試みもポーランド政府による妨害にあい、ポーランド国内外で再版されることはなかった。シュピルマンの息子アンジェイ・シュピルマンが復刊に取り組み、ドイツで独訳版が出版されたのは1998年、イギリスで英訳版が出版されたのは1999年になってからであった。(Wikipedia) -
戦争に翻弄されるピアニスト。戦うわけでもなく、助けるわけでもなく、うまく立ち回るわけでもない。自分を助けてくれた人を救うことも出来ないピアニストは、ごく一般の我々の姿そのものだ。ヒーローにならなかった主人公を配して、戦争の残酷さと愚かさが際立った。
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☆ 奇跡の生存者 ザ・ピアニスト☆
これはユダヤ人に対して親衛隊と武装警察による
過激な弾圧がリアルに描かれているなぁ、
と思ったら実在のピアニスト・シュピルマンの体験を基にしているんだそうです。
エイドリアン・ブロディは「ジャケット」を観た時も、
死神のような風貌だなぁと思ったけど
本作でもボロボロになった姿はやはり死神みたいだった。
しかし、スーツを着ると一転、高貴な人に見えるんだな。
シュピルマンの運命を左右したドイツ軍将校(トーマス・クレッチマン)も
カッコよかったですね、
ピアノを聴くシーンやコートを譲るシーン、収容所のシーン等々、忘れられません。
ピアニストという名のつく映画はなかなか名作が多いですね。 -
なぜ、人はここまで残酷になれるのか!
過酷な状況でも希望を心にもてるか、自分の心にヒトスジの明るさをもてるか…
人生を生き抜こうと強く感じた映画のひとつ。
ぜひ〜 -
ピアニストである事の証明としてピアノを弾いてみせるシーンがすごくドキドキした。主人公が迫害の連続で心も凍てつきそうだった
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実在のピアニストの体験を映画化した作品。
この映画で描かれたことは、デフォルメもなく実際にあったことなんだろうな。人は狂気になるものなんだと痛感させられる。恐ろしい時代だ。
この手の作品は面白いとか批評するべきものでは無く、見ておくべき映画なんだと思う。