スローフード宣言――食べることは生きること (海士の風) [Kindle]

  • 英治出版
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  • ・食べる時、スロー/ファストフード的選択?と問い選択の積み重ねで自分を作る
    ・早く/均一の思考から1903年に米国で販売されていた種と1983年に米国種子貯蔵研究所に存在する種を比較すると66種類の作物の内93%が絶滅

  •  10年ほど前にサンフランシスコを訪れた際、オーガニック食材の豊かさに驚かされました。1971年バークレーにシェパニースというレストランを構え、ファーマーズマーケットや食農教育など、アメリカ西海岸の食文化を根底から変えたのは、カルフォルニア料理の先駆者である、この本の著者アリス・ウォータースです。
     「何を食べるかが、個人の暮らしはもちろん、社会環境、そしてこの地球そのものに影響する。」本当の意味のオーガニックとは農薬を使用しないだけではなく、労働環境まで含めたところにあること、SDGsの根幹を教えてくれる一冊です。

    京都外国語大学付属図書館所蔵情報
    資料ID:657385 請求記号:498.5||Suro

  • アリスさんの著作は「アート オブ シンプルフード」「美味しい革命―アリス・ウォータースと〈シェ・パニース〉の人びと」に続いて3冊目。

    すっかりファンです。

    本書を読み進めていくうちに、結論として「スローフード」はとても禅的な営みであり、つまり「足るを知る」ということかと、自分の意識の焦点があっていった先に、

     「私はいつも「足るを知る」を大切にしています(p.186)」

    という一文が出てきてなんというか、思わず笑ってしまった。

    それはそうだ、こちらの考えることはすべて優しく包み込んだうえで、これまで語ってきたことをあらためて平易に、わかりやすく語ろうとしている本なのだな、と。

    本書で紹介される「いのちのたべかた」、エリック・シュロ―サー「ファストフードが世界を食い尽くす」、福岡正信「自然農法 わら一本の革命」、そしてゲイブ・ブラウンのリジェネラティブ・ファーミングやヘラナ・ノーバッグ・ホッジの「懐かしい未来」、さらにエリオット・コールマンの有機農法まで、ひと通り目を通してきた身としては、著者が伝えたいこと、その背景にある世界観には心の底から共感できる。

    ただ、書中で本人もいうように

     「スローフード文化を伝えるための言葉選びにはいつも苦戦します。この文化を定義する言葉(コミュニティ、寛容さ、協力など)は使い古され、マーケティングにも利用されてきたため、それだけを聞いても人の心が動かなくなってしまったのです(p.108)」

    というように、スローフードという言葉は、単に消費活動の見栄えを飾るための宣伝文句として使い古されてしまった感もあり、その真髄は皿の上だけにあるわけではない。ある生産物の生産から消費、廃棄から還元に至るサプライチェーンのあり方全体を体験的にとらえることで、はじめて実感することができる。

    たぶん世界は一人ひとりの習慣が変わることで、少しずつよくなっていくもので、老若男女いくらか土に触れる機会を持つべきだろう。食べものもちろんだけれど、あらゆるモノづくりの現場にふれることで、人々はやがて「足るを知る」と思う。スローフードは、Fabカルチャーとも地続きな運動であることは、各地の都市農園でもさまざまな実践がある。

    そして僕は近いうちに、仲間といっしょにCSA(Community Supported Agriculture)の事業化を目指したい。

    こども食堂と小水力発電、そしてCSA。ホップ生産とビール、セイヨウネズとジン蒸留という目標あるけど、実現までの時間軸はそれぞれ違うので、できる限りのことはやっていく。

    あと本書は翻訳がよく、とても読みやすいです。

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    果物も野菜も、完熟後に収穫したものの栄養価がいちばん高いのです。そんなことはあらためて言うまでもありません。青果は、収穫された瞬間から生命力を少しずつ失います。ところが何十年もの間、旬でない作物を欲しがってきた社会のために、果物や野菜の輸送距離がどんどん長くなっています。工業的な食糧システムの中では、作物が育った場所から消費されるまでの平均距離は二万四〇〇〇キロです。

    人は半世紀もの間、作物の味や栄養価よりも輸送の利便性を優先してきたのです。そのために、作物たちは生育に合わない土地で育てられるようになりました。私たちはゆっくりとその状態に慣れ、それが当たり前であるかのように受け止められるようになりました。
    p.44


    安く食事をしようと思ったらいつだってファストフードがいちばんだというのも、ファストフード産業の作り話です。ケンタッキーフライドチキンの「ファミリーセット」は30ドルします。内容はチキン12ピース、サイドディッシュ2皿、ビスケット6つです。一方で、オーガニックな丸鶏を肉屋で買うと、25ドル。高いように聞こえますが、この丸鶏を4人用に3種類の料理にすれば、実はとてもリーズナブルです。1日目は、胸肉を料理し、米とサラダを添えます。翌日はチキンサラダのサンドイッチに。そして、残った鶏の骨はじっくり煮込んで、トルティーヤスープにするのです。
    自分で料理すると、オーガニックの食材で価格も適正な食事をとることができます。料理をして、食材をすべて使いきる。本当に経済的な食を確保するためには、やはりそれが肝なのです。毎日料理をするリズムができれば、前の晩に残ったものを翌日に使うことも簡単です。私は鶏が1羽あれば3種類の料理ができると話しますが、スペインの料理人で活動家のホセ・アンドレスは、鶏が一羽あれば6種類の料理ができると教えてくれました!

    お伝えしたいのは、適正価格で栄養価の高い料理を自分で作る道は、実はたくさんあるということです。食材を育てるところから始めると、日々の食べ物にかかる金額はより一層適正なものになっていきます。ロサンゼルス中南部に暮らす友人で、ゲリラガーデナーのロン・フィンリーは言います。「自分で食べ物を育てることは、お金を刷るようなものだ」と。
    p.76


    スローフード文化は、決して新しいものではありません。人類の始まりから、皆が自然に根差した習慣や実践に導かれてきたのです。にもかかわらず、スローフード文化を伝えるための言葉選びにはいつも苦戦します。この文化を定義する言葉(コミュニティ、寛容さ、協力など)は使い古され、マーケティングにも利用されてきたため、それだけを聞いても人の心が動かなくなってしまったのです。

    それでもスローフード運動には確実に、普遍的な力があるはずです。そうでなければ、何百世代にもわたって世界中の文化を導けたわけがありません。
    p.108


    園芸や農作業は私たちの身体をつくります。土地を大切にすることは、最終的には私たち自身の健康と地球の健康につながるということを理解しなくてはなりません。農作業は尊厳ある立派な仕事であり、精神的にも社会的にも良いものであることを、学校で子どもたちに教えましょう。農業は尊敬されるべきだとする価値観は、どんな職場にも持ち込むことができます。人はもっと、自然、地域、そして、私たち自身の糧となるものとつながることができるし、お互いに協力することができるのです。
    p.179


    皆が2か月間自宅に隔離されていた2020年5月、私たちが提携している桃農家のマス・マスモトがニューヨーク・タイムズのインタビューでこう話していました。「今こそ、スモール・イズ・ビューティフル(小さいものは美しい)です。規模が小さければ、変化を起こすのも簡単なのです」

    大企業がなければ食べものが手に入らなくなるような気がしてしましますが、そんなことはありません。むしろ、誰が自分の食べ物を育てているかが見えることで、食の安全保障は得ることができます。自分の畑で育てていればなおさらです。
    p.190


    地域支援型農業(CSA、Community Spported Agriculture)も、地域と農家を結ぶすばらしい成功モデルです。CSAでは、農家がこれから育てる野菜に対して前払いをします。そうすることで、農家には予め収入が保証され、購入者には毎週または隔週などで、農園でその時の旬な食材が箱いっぱいに届きます。夏ならサンゴールド・チェリートマトやバジルやプラム、冬ならカボチャや根菜、チコリという具合に。CSAが根付く地域には、頼もしいローカル経済圏が築かれています。農家は直接支援され、地域も栄養で育まれる。つまり、共生する関係ができるのです。
    p.198


    鍵になるのは地域性です。他の学校やプログラムで行われたものをそのまま真似してもうまくいきません。学校は、各地に固有の環境、気候、文化、伝統と織り合わさって存在しています。地域に根差したユニークな教育機関同士がつながり、多様な文化がそれぞれに生み出す好事例を世界中から集め、お互いにそこから学び合うことがいま何より大切なのです。
    p.210

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著者プロフィール

アメリカで最も予約が取れないと言われるレストラン「シェ・パニース」のオーナーであり、世界中にスローフードを普及させ、「おいしい革命」を引き起こした料理人。1971年にカリフォルニア州バークレーでレストランを開業し、地産地消、有機栽培、食の安全、ファーマーズ・マーケットなど、今や食のトレンドとなった重要なコンセプトを実践、それはスローフード革命として世界中に広がった。ライフワークの一つとなっている「エディブル・スクールヤード(食育菜園)」は、学校の校庭に生徒がともに育て、ともに調理し、ともに食べるという体験を通して、生命(いのち)のつながりを学び、人間としての成長を促す教育活動として「エディブル教育」に発展し、日本にも広がっている。

「2022年 『スローフード宣言』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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