貧困と飢饉

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000019248

作品紹介・あらすじ

本書は、20世紀に世界各地で発生した「大飢饉」の原因が一国レベルの食料供給能力不足にあったという通説を否定し、人々が十分な食料を手に入れ消費する能力や資格(権原=エンタイトルメント)が損なわれた結果であったことを明らかにしている。著者の「不平等理論」の形成に大きな影響を与え、開発経済学に新たな地平を切り開いた実証分析の成果である。原書刊行後の研究成果を簡潔にまとめた講演「飢餓撲滅のための公共行動」を併せて収める。1998年ノーベル経済学賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • ■一橋大学所在情報(HERMES-catalogへのリンク)
    【書籍】
    https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/173610

  • ノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・センの著書。飢饉の原因分析を食料供給量の減少(Food Availability Decline: FAD)ではなく、交換権原の悪化によるべきと主張する。
    センが示した地域全体の食料供給が減少しなくとも食料価格の上昇や失業といった交換権原の悪化によって飢饉が発生しうるというのは当時としては画期的だったのだろう。飢饉に対する解として物資の直接支援ではなく、雇用の創出や社会保障の実現といった経済的なアプローチを提示していることは今日においても意義があると思う。
    ただ、個人的には交換権原の概念を導入しなければこの結論を得られないのかは疑問に思った。飢饉の発生には、交換権原という個人の潜在能力ではなく、低開発国の社会的条件に本質的な問題があるような気がしてならない。

  • この本はノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・センの作品。貧困について開発経済学的観点から述べている。いきなり権原、権原アプローチという難しい言葉から入っていて少し面食らう。食料供給能力不足が大飢饉の原因ではないという。それは社会保障と経済的・政治的条件によるという。事例としてバングラデシュ、エチオピア、サヘル、インドを取り上げていてわかりやすい。今の日本にも貧困層はいる。この原因も社会保障としてのセーフティーネットの充実が必要だと思う。合わせて考えてみたい。

  • 「飢え」って、どうすればなくなるのだろう。
    と思ったら、読んでみるといい本。

    世界のあちこちで食糧が足りないのは、
    量の問題じゃなくって、
    つまり私やあなたが食べ過ぎてるせいとかではなくって、
    分配の問題だと。

    毎日三食ごはんを食べてる自分に、
    罪悪感感じなくてもいいんだ!
    と、初めて読んだとき安堵したのを覚えています。

  • 【POVERTY AND FAMINES】

    key word: entitlement, deprivation, starvation

    Main theme :The relationship with fortune and human

    In my opinion, this book mentions the importance of the social security.

  • 前に読んだセンの著作(訳本)より、後に出ているんだけれども、実はセンが書いたのはもっと前だったんでした。失敗。
    でも、相変わらずわかりやすかったです。前半のフレームワークの部分を真面目に読んだら、最後のあてはめ部分は結構ざっくりいける感じ。

    要点は、飢饉というのはただ「食糧の量」から見ていても分析にはあまりに限界があって、飢饉を引き起こす原因は、あくまでその人々の権原の問題なんだ、ということです。

    個人的には、緊急支援的な部分にも、より一般的な開発部分にも興味があるのだけれど、大家がここまで正面から緊急援助的なところを取り上げてくれるのも珍しい気がして、共感がもてる。

  • 豊かな先進国で飢饉が生じない理由は人々が平均して豊かだからではない。社会保障制度があるからだ。
    貧困は剥奪の問題である。
    人々の食習慣はもちろん普遍ではないが、驚くほど持続するものだ。
    飢饉は飢餓を意味するが逆は真ならず。貧困という幅広い領域から飢饉という破滅的な現象を検討すべき。
    食料を所有することはもっとも原始的な所有権の1つである。飢饉というとバングラディッシュとエチオピアがケースなんだな。
    バングラディッシュ政府は十分な食料備蓄を持っていなかった。

  • アジア人初のノーベル経済学賞を受賞した、アマルティア・センの出世作。
    権原(エンタイトルメント)理論を解説した本。

    大規模な自然災害が発生し、それが飢饉を引き起こしたとしたら、その原因は何だろうか。
    一般的に考えれば、食料の総供給量の減少が大規模な飢饉を引き起こすと考えられる。しかし、センはそこを批判する。

    全ての人は権原によって生活している。自給自足の農民でない限り、食料を手に入れるにはそれ相応の財が必要である。この財集合を手に入れられない場合、人は飢饉に陥る。つまりこの場合は交換権原の剥奪といえる。

    本の後半はケーススタディになっているが、どの場面においても主張は変わらない。すなわち、飢饉は米の総供給量減少(FAD)によって引き起こされたものではなく、権原の剥奪によって起こったものだということだ。
    例を挙げると、バングラデシュでの大飢饉が発生した年の米の総供給は、前後年と比較してもピークであった。また、困窮者割合が多かった県においては、米の一人当たり供給量は増加していた。
    従って、FAD説による飢饉の説明はできない。

    一方、米価に焦点を当てると、飢饉の年に大幅に上昇していた。また、死者の大部分は貧農、すなわち自給できない農民であった。そして大規模な洪水によって雇用が減少したのである。従って、飢饉の原因は貨幣と米の交換権原の減少によって引き起こされたものだとセンは結論付ける。

    理論だけではなくケーススタディを交えているので、権原理論は理解しやすいだろう。しかし、いくつかの点において納得できない点も多い。
    例えば、バングラデシュの例では、職業別にみたときに、飢饉による死者のトップは一般労働者であった。しかし、本書では農民の交換権原減少しか解説されていない。農民においては、土地の所有量である程度の説得力を持たせているが、果たして一般労働者をうまく解説できるかは疑問である。

    どっちにしろ、権原理論を理解するには必読であることには変わりない。

  • 非常に刺激的というかチャレンジングな本です。

    センは飢餓のメカニズムとして「食糧不足が飢餓を引き起こす(堅くいうところの食糧総供給量の減少が飢餓をもたらす)」という従来の常識に挑戦します。

    では、どう挑戦したのかというと「貧困層の購買力の低下が、飢餓を引き起こす」と反論します。

    購買力の低下とは、食料価格の上昇もしくは貧困層の可処分所得の減少、あるいはその両方によってもたらされます。

    センは過去の飢饉を検討し、飢饉当時「食糧供給量は減少していなかった」と指摘し、その代わりに貧困層の失業などによる「可処分所得の減少」に注目し、それこそが飢饉をもたらしたメカニズムだ、と主張します。

    本書は「日本の食料自給率の低下」を憂う論者にぜひ読んでいただきたい。というのも世界の食料危機が起きた際、日本のように購買力のある国には世界から食料が流れてきます(より高い価格で売れるから)。世界の食糧危機が発生した際、真っ先に被害を受けるのは途上国の貧困層でしょう。

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著者プロフィール

1933年、インドのベンガル州シャンティニケタンに生まれる。カルカッタのプレジデンシー・カレッジからケンブリッジ大学のトリニティ・カレッジに進み、1959年に経済学博士号を取得。デリー・スクール・オブ・エコノミクス、オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、ハーバード大学などで教鞭をとり、1998年から2004年にかけて、トリニティ・カレッジの学寮長を務める。1998年には、厚生経済学と社会的選択の理論への多大な貢献によってノーベル経済学賞を受賞。2004年以降、ハーバード大学教授。主な邦訳書に、『福祉の経済学』(岩波書店、1988年)、『貧困と飢饉』(岩波書店、2000年)、『不平等の経済学』(東洋経済新報社、2000年)、『議論好きなインド人』(明石書店、2008年)、『正義のアイデア』(明石書店、2011年)、『アイデンティティと暴力』(勁草書房、2011年)などがある。

「2015年 『開発なき成長の限界』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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