坊っちゃん (岩波文庫 緑 10-3)

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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003101032

感想・レビュー・書評

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  • 著者:夏目漱石(1867-1916、新宿区、小説家)
    解説:平岡敏夫(1930-、丸亀市、国文学者)

  • 言わずと知れた夏目漱石の有名作。
    処女作「吾輩は猫である」が好評を得て、一般的にはその次に発表した小説です。
    無鉄砲で短気で喧嘩っ早く、両親から冷たくあしらわれて育った主人公は、唯一、下女の清にだけたいそう可愛がられ、清から「坊っちゃん」と呼ばれて育ったのですが、物理学校の卒業後、四国の中学校で数学教師として赴任することになる。
    赴任先の中学校で起きた騒動について、坊っちゃんが語り手として書かれたものになっています。

    学校を舞台とした教師が主人公の物語です。
    こういった舞台設定だと、通常生徒といざこざがあって、その後和解し、そして感動の展開なんかがありそうなものなのですが、本作はそういう話ではないです。
    坊っちゃんは生徒にからかわれた結果、職員会議で感情のままに罵倒し、そのまま和解せずに終わります。
    教師たちがメインの話になっているので、学園モノですがお涙頂戴とはいきません。
    ただし、ラストは勧善懲悪となっていて(善も若干やられてますが)、誤読感はスッキリとすると思います。
    あの学校のその後を考えると少し心配な気もしますが。

    文章は口語表現で、非常に読みやすいです。
    ストーリーが頭に入ってきやすく、小中学生でも普通に読める内容だと思います。
    実際に小中学生が読む場合は、子供が読むに不適切と思われる箇所もあるので、実際に読むとなると注意が必要と思います。
    坊っちゃんは青い鳥文庫などからも出ているので、子供向けにはそちらをおすすめします。
    どちらで読んだにせよ文章の軽快さと、また、他の多くの人がレビューで書いている通り純粋な面白さは損なわれないと思います。
    語り手がべらんめえな青年である故か、地の文がかなり特徴的です。
    文学小説らしからぬほどリズミカルで、本を読むときは情景を浮かべながら読むことが多いのですが、本作は情景から頭に浮かび上がってくるような感じで、かなり読みやすいです。
    わかりやすいのは、坊っちゃんの行動・言動が真っ直ぐで正直なためと、行動が逐一インパクトを与えるためかと思います。
    文学小説としては異色ですが、これなら読めるという人も多々いると思います。

    坊っちゃん以外のキャラクターも立っていて、読んでいて楽しかったです。
    坊っちゃんは赴任早々に他の教師陣に「山嵐」、「赤シャツ」、「野だいこ」、「うらなり」、「狸」などとあだ名をつけるのですが、彼らにもそれぞれのポジションがあり、活躍の場があったことがまた本作を名作たらしめる要因だと思います。
    今出版されたとしても普通に楽しんで読める良作だと思います。文学の入り口としてもおすすめです。

  • 自分のなかで漱石ブームなので、十数年振りに読んだ。
    初めて読んだときは、漱石を雲の上の人にように感じていたが、いまは違う。もっと親しみが湧いているし、冗談の好きな人くらいに思っている。

  • 小学生の時に、かなり大ざっぱな児童むけリライト版『坊っちゃん』を読んだことはあるが、オリジナルの通読は今回が初めて。読後の感想を一言で述べると「面白い。が、いいのか、これ?」。

    あらすじ紹介には「正義感に燃える若い教師の奮闘の日々」と書いてある。『金八先生』みたいな熱血教師ものかと早合点しそうになるが、だまされてはいけない。『坊っちゃん』は語り口こそ軽妙だが、のちに『こころ』という作品で人間の孤独についてげんなりするほど粘着質に書いた、あの夏目漱石の作品である。ハートフルストーリーを求めて読むと肩すかしをくらう。

    第一に、主人公の〈おれ〉は理想に燃えて教師になったのではなく、たまたま恩師に教職を斡旋されて、ほかに就職先がなかったから引き受けたという、典型的なデモシカ教師である。それでも普通の小説なら、生徒との交流を通して使命感に目覚め、「生徒から色々なことを教えられ、人間として成長できました」ときれいにまとめるところだろうが、『坊っちゃん』は違う。〈おれ〉はあんまり成長しないし、生徒との間には連帯感のカケラも生まれない。そして赴任後1ヶ月で勝手に辞職してしまう(しかも辞表は郵送で提出)。

    さらに「文豪作品=美しい日本語のお手本」という先入観もぶち壊してくれる。計算されつくした巧みな文章には違いないのだが、語り手の〈おれ〉が短気な江戸っ子という設定なので、悪口雑言のオン・パレードでなのである。〈おれ〉の悪態のうち2割くらいは正当な批判であり、そこを掘り下げればいくらでも深読みできると思うが、残りの8割はどう考えても単なる言いがかりだ。ポンポンと歯切れがよくユーモラスなのでついクスッと笑ってしまうが、松山を「不浄な地」呼ばわりは、漱石先生といえどもいかがなものかと思う。『坊っちゃん』を松山の観光資源として活用してもらうことで、罪ほろぼしになっているとは思うけれど。

    とりあえず「明治時代から学級崩壊ってあったんだな」ということや、「3年以内に職場を辞める若者って昔からいたんだな」ということがわかった。ある意味、漱石ってやっぱすげぇ、と思わざるをえない。

    • hei5さん
      私も遠い昔ジュニア版を読んだことがあり、「今さら坊っちゃんなんて」と思ってましたが、あなた樣の感想文をひょんなキッカケで拝見致し、
      近日中に...
      私も遠い昔ジュニア版を読んだことがあり、「今さら坊っちゃんなんて」と思ってましたが、あなた樣の感想文をひょんなキッカケで拝見致し、
      近日中に再讀しやうと決意しました。ありがとうございます。
      2023/12/11
  • 単調に思ってしまった物語。

  • 漱石の作品の中でも最も大衆的で最も親しまれている作品。主要な登場人物は全員欠陥を抱えている。そして自分は坊ちゃんに似ていると感じた。おそらく読者の誰もがうらなりや野太鼓、山嵐、赤シャツ、若しくは狸といった主要な登場人物の誰かに似ていると感じるであろう。そこがこの作品を今なお親しまれるべき作品にしている理由だと思う。とにかく登場人物に自分の欠点が投射されていて愉快でたまらない。

  • 2015/12

  • 「気をつけろったって、これより気の付けようはありません。わるい事をしなけりゃ好いんでしょう」
    赤シャツはホホホホと笑った。別段おれは笑われるような事をいった覚はない。今日ただ今に至るまでこれでいいと堅く信じている。考えて見ると世間の大部分の人はわるくなる事を奨励しているように思う。わるくならなければ社会に成功はしないものと信じているらしい。たまに正直な純粋な人を見ると、坊っちゃんだの小僧だのと難癖をつけて軽蔑する。それじゃ小学校や中学校で嘘をつくな、正直にしろと倫理の先生が教えない方がいい。いっそ思い切って学校で嘘をつく法とか、人を信じない術とか、人を乗せる策を教授する方が、世のためにも当人のためにもなるだろう。赤シャツがホホホホと笑ったのは、おれの単純なのを笑ったのだ。単純や真率が笑われる世の中じゃ仕様がない。清はこんな時に決して笑った事はない。大に感心して聞いたもんだ。清の方が赤シャツよりよっぽど上等だ。

  • 言わずと知れた名作だけれど。
    本当にちゃんと内容を知っている人が、どれだけいるだろう。
    縁あって松山に行くことが多いが、今回改めて読んで、あまりにイメージと違いすぎていて仰天した。
    何かと見かける坊ちゃん団子などのイラストから、勝手に「坊ちゃんとマドンナは良い仲」なんて思い込んでいた。
    全然違う。
    松山が坊ちゃんを推すから、てっきり松山で面白おかしく嫌な教師をやっつける話と思っていたのに。
    全然違う。
    むしろ、なぜ松山は坊ちゃんを推す気になったのか、不思議でならないくらいだった。
    そして何より、あとがきと又聞きによると、この話で坊ちゃんがしたことの中には、作者の漱石自身が実際にしたことも含まれているらしいことが、驚きだった。
    何となく、『こころ』のせいなのか、漱石には知的で落ち着いた(そして色々な逸話から、神経質な)人だと思っていたのだけれど…思いの外、やんちゃだったのかも。
    数作品読んだくらいで、その人を知ったような気でいちゃいけないものだ。

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著者プロフィール

1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)にて誕生。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表。翌年、『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。

「2021年 『夏目漱石大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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