鏡花短篇集 (岩波文庫 緑 27-6)

著者 :
制作 : 川村 二郎 
  • 岩波書店
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感想 : 37
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003102763

感想・レビュー・書評

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  •  鏡花の本を読んでいると、この世とあの世の境目の「美しくも妖しい幻覚」のようなものを見ているような気がする。
     幻想的なだけではない。気を許すと異世界に引きずりこまれてしまうような、そういう空恐ろしいほどの美がある。
     
     この短編集の白眉は「雛語り」である。
    きらびやかで華やかな雛たちが、鏡花の魔法の掌から流れ出でる。鏡花は言葉の贅をつくし、読み手を幻惑させる。
     
     雛 夫婦雛は言うもさらなり。桜雛、柳雛、花菜の雛、桃の花雛、白と緋と、紫の色の菫雛・・・。

     鏡花の文章は、桜や紅葉を混ぜた美しい錦絵や繊細優美な螺鈿細工を思わせる。

     また、この短編の「貝の穴に河童のいる事」も面白い。
     なんともけったいな河童が主人公である。鏡花は妖怪というか「人にあらざる」異界の住人を好んで描く。時として、生身の人間より生き生きとして魅力的である。
     また、登場する姫神も物語全編を照らし尽くすかのように艶やかでコケティシュな魅力に富んでいる。
     (夜叉が池、天守物語、多神教などの作品を鑑みても、美の化身としての姫神たちの存在は突出している。)
     非現実という異界のベールを纏う時、登場人物たちは底知れぬ魔力を発揮する。その妖しい世界に翻弄されるのも心地の良いものである。
     
     

  • 時は明治。文明開化はしたものの欧化したのはまだ一部。自然は多く残り夜の闇は深い。現世と異界は黄昏時になると溶け合い混ざり合って此方の人間が彼方に引き込まれ、彼方のモノが此方に這い出てくる。句読点はあるのにつらつらと続いてるかのような文体は読んでるうちに自分まで彼方へと拐かされるかのよう。妖しくも美しい女性が出て来る「竜潭譚」「国貞えがく」が良かった。言葉自体も美しい。日本語の美しさを再発見した。

  • 文句のつけようのない短篇集。
    この作品は現在読んだって一切
    目劣りしないのです。
    神秘的さも長編と変わらず健在です。

    お勧めは雀のお話の
    「二、三羽…」や河童が出てくる「貝の穴に…」
    あたり。
    空想生物が出てきても違和感がないのは
    不思議なものです。

    長編よりも短い分
    まとまっていて面白かったです。

  • 情の深さ強さを思う本。怪異、と、現在では一括りに呼ばれかねないものへの尊敬がよく表れている作品集。愛すべき一冊。

  • 再読。短編集とはいえ小説とエッセイぽいものが半々くらい。「二、三羽――十二、三羽」「雛がたり」「七宝の柱」「若菜のうち」「栃の実」あたりはエッセイ(もしくは紀行文)のようなものだったけど、雀の可愛い「二、三羽~」と「雛がたり」は、ちょっと幻想的な仕掛けもあって良かった。

    小説は「竜潭譚」もいいけれど、「薬草取」が好きだな。どちらも美しい女性の妖魔のようなものと少年の話。河童のやつは、なんかこうちょっと『指輪物語』のゴラムを思い出させる(笑)

    解説と編纂は川村二郎。

    ※収録作品
    「竜潭譚」「薬草取」「二、三羽――十二、三羽」「雛がたり」「七宝の柱」「若菜のうち」「栃の実」「貝の穴に河童のいる事」「国貞えがく」

  • 「薬取り」が好きです。でもごんごんごまの話もなんか良かった。

  • すずめの話が本当に良くて、こっちもふっくらしてくる。今の小説よりこの頃以前の小説の擬音の方が珍妙でピンと来るのは気のせい?今のは定例が確立されすぎて、新しい擬音を使うなんて一般の人々(意識的な物書き以外)は思いもよらない。他は薬草取りと国貞えがくは他に好き。鏡花は妖しいイメージが強いけど、夫婦の紀行の話とか、すずめとか国貞えがくの織坊のとか、あったかいところも魅力。

  • 短編小説だったりエッセイ風だったり紀行文だったり。でもやっぱり美しい女人・小動物への愛・奇妙な妖怪達・目を覚ませば忘れてしまう、夢のような経験――鏡花を構成する宝玉のようなそれらが、この短編集にちりばめられているんだぜ。龍潭譚よりは薬草取が好きだったなあ。貝の穴に河童のいる事、は河童の語尾が「〜でしゅ」なのが可愛かった。

  • 手放せない本のひとつ。河童かわいいよ河童。

著者プロフィール

1873(明治6)年〜1939(昭和14)年)、小説家。石川県金沢市下新町出身。
15歳のとき、尾崎紅葉『二人比丘尼色懺悔』に衝撃を受け、17歳で師事。
1893年、京都日出新聞にてデビュー作『冠弥左衛門』を連載。
1894年、父が逝去したことで経済的援助がなくなり、文筆一本で生計を立てる決意をし、『予備兵』『義血侠血』などを執筆。1895年に『夜行巡査』と『外科室』を発表。
脚気を患いながらも精力的に執筆を続け、小説『高野聖』(1900年)、『草迷宮』(1908年)、『由縁の女』(1919年)や戯曲『夜叉ヶ池』(1913年)、『天守物語』(1917年)など、数々の名作を残す。1939年9月、癌性肺腫瘍のため逝去。

「2023年 『処方秘箋  泉 鏡花 幻妖美譚傑作集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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