根をもつこと(上) (岩波文庫) (岩波文庫 青 690-2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (324ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003369029

作品紹介・あらすじ

根をもつこと、それは魂のもっとも切実な欲求であり、もっとも無視されてきた欲求である。職業・言語・郷土など複数の根をもつことを人間は必要とする-数世紀にわたる社会的絆の破砕のプロセスを異色の文明観歴史観で辿り、ドイツ占領下の祖国再建のために起草した私的憲法案。亡命先で34歳の生涯を閉じたヴェイユ渾身の遺著。

感想・レビュー・書評

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  •  根をもつこと、というこの題名から何を想像するだろう。ヴェイユという独特な哲学者についてあらかじめ知っていなければ手に取ることもないのではないだろうか。ここにいう「根」とは、周囲の集団や環境から喜びや生きがいを汲みとる人のあり方といったものといえようか。根をもつことをヴェイユはこう定義する、「根をもつこと、それはおそらく人間の魂のもっとも重要な欲求であると同時に、もっとも無視されている欲求である。また、最も定義のむずかしい欲求のひとつでもある。人間は、過去のある種の富や未来へのある種の予感を生き生きといだいて存続する集団に、自然なかたちで参与することで、根をもつ。」(上巻p64)。
     人は根をもつ必要がある。ヴェイユのこの洞察を基礎に、戦前戦中のフランスの労働者、農民そして、国民としての根が失われている状況、いわば根こぎについて述べる。それらが、ナチスドイツによるフランスの占領を招いたことと織り交ぜて語られる。そして、下巻ではこのような状況を作り出したフランスの歴史を検討しつつ、将来のフランスにおける根の回復、根づきについて語られる。
     この本をどう読んだらいいか。哲学者ヴェイユの警句としてよむか、社会変革のプログラムと読むべきか。ヴェイユが、条件を付きながらも希望をかけていたド・ゴール政権が戦後このような形にならなかったことを私たちは知っている。
     ヴェイユ自身がいうように、「歴史上純粋な事柄はごくわずかだ。そのわずかなものの大半も、くだんの(自身のために拷問にかけられた奴隷の責め苦を見るに忍びず、自ら出頭した)主人や十三世紀初頭のベジエの住民のごとく、その名が消えてしまった人びとにかかわる。」(下巻p75 ()は書評者)。そういうものの一つとして、この本もあるのだと思う。

  • フランスの哲学者で、第二次世界大戦時に亡命先の英国で34歳という若さでなくなったヴェイユの代表作の一つです。上巻では人間の魂に必要なものは何かをリストアップし、そのなかでも特に著者が重要と考えている「根を持つこと」についての論が始まります。植物にとって根が養分を吸収する重要な役割を果たしているように、人間もなんらかの根を持たなければ魂が死んでしまう。そして根から無理やり引き剥がされた状態、つまり「根こぎ」の恐ろしい影響について上巻では詳しく論じていますが、その中心的話題は祖国の喪失です。フランスはナチスドイツに占領されフランス人は「根こぎ」の状態になりますが、ヴェイユはいかにしてフランス人の魂を回復させるべきかについて最後に述べています。ヴェイユの主張は、国の過去の栄光を愛国心の基盤にしてはならず、むしろ祖国に対する憐れみの心こそが祖国愛の基盤になるべきだということでした。全編通じてなのですが、ヴェイユの主張は人間の心の機微を深く理解できないと、かなり難解かもしれないと感じます。ただ本書のテーマは遠い過去の遠い国の話ではなく、たとえば2011年東日本大震災時の原発事故で、故郷から無理やり引き剥がされて「根こぎ」になってしまった人々をも連想させました。「根こぎ」という病は戦争中の国だけでなく、現代日本にも存在しているという認識のもと、彼女の分析や処方箋は非常に重要な示唆を提供してくれるのではないかと感じました。

  • 第14回アワヒニビブリオバトル「根」で紹介された本です。
    チャンプ本
    2016.06.07

  • 愛着理論と関連がある気がして借りたけど、いきなり読むにはハードルが高かった。

    https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/3541/gallia_18_163.pdf

  • 原書名:L'ENRACINEMENT:Prélude á une déclaration des devoirs envers l'être humain(Weil,Simone)
    魂の欲求(秩序◆自由◆服従◆責任◆平等◆序列◆名誉◆刑罰◆言論の自由◆安寧◆危険◆私有財産◆共有財産◆真理)◆根こぎ(労働者の根こぎ◆農民の根こぎ◆根こぎと国民)

    著者:シモーヌ・ヴェイユ
    訳者:冨原眞弓

  • 【由来】
    ・ヴェイユはどんなもんかと思ってて、大学の図書館でたまたま目にとまったので。

    【期待したもの】


    【要約】


    【ノート】
    ・これは、まだ自分が読める本じゃないって印象。

    【目次】

  • 2016/6/5購入

  • シモーヌ・ヴェイユがロンドン滞在時に発表した論考。
    但し、未定稿だそう(下巻解説による)。
    ヴェイユ自身は実践派というか、行動力のある人物だったようだが、書かれたものは、非常にユニークな思考実験だと一読者としては感じる。哲学を専門的にやっている人がどう感じるかは解らんが……。

  • まだ上巻だけしか読んでないんで、読んでいる最中にとったメモを書いておく。

    ・ヴェイユは「キリスト教的世界」と「宗教」をいかにしてつかいわけているか、いないか。

    ・労働に詩情が生まれると、それが同じ労働同じ結果ならば、より純度の高い服従(=隷属的な)になるのではないか。

    ・「思想」というものの硬さに慣れない。

  • 本屋で見て、買った。(2/27)
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    出たら買おうと思ってる本(1/29)

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著者プロフィール

(Simone Weil)
1909年、パリに生まれ、43年、英・アシュフォードで没する。ユダヤ系フランス人の哲学者・神秘家。アランに学び、高等師範学校卒業後、高等学校(リセ)の哲学教師として働く一方、労働運動に深く関与しその省察を著す。二度転任。34─35年、「個人的な研究休暇」と称した一女工として工場で働く「工場生活の経験」をする。三度目の転任。36年、スペイン市民戦争に参加し炊事場で火傷を負う。40─42年、マルセイユ滞在中に夥しい草稿を著す。42年、家族とともにニューヨークに渡るものの単独でロンドンに潜航。43年、「自由フランス」のための文書『根をもつこと』を執筆中に自室で倒れ、肺結核を併発。サナトリウムに入院するも十分な栄養をとらずに死去。47年、ギュスターヴ・ティボンによって11冊のノートから編纂された『重力と恩寵』がベストセラーになる。ヴェイユの魂に心酔したアルベール・カミュの編集により、49年からガリマール社の希望叢書として次々に著作が出版される。

「2011年 『前キリスト教的直観 甦るギリシア』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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