ブータンに魅せられて (岩波新書 新赤版 1120)

著者 :
  • 岩波書店
3.68
  • (14)
  • (34)
  • (30)
  • (2)
  • (2)
本棚登録 : 234
感想 : 45
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (195ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004311201

作品紹介・あらすじ

「国民総幸福」を提唱する国として、たしかな存在感を放つブータン。チベット仏教研究者として長くこの国と関わってきた著者が、篤い信仰に生きる人びとの暮らし、独自の近代化を率いた第四代国王の施政など、深く心に刻まれたエピソードをつづる。社会を貫く精神文化のありようを通して、あらためて「豊かさ」について考える。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ブータンの本は何冊も読んだが、これが一番面白かった。ぼくはブータンの歴史や風俗より、なによりブータンのひとに興味があったので。真面目で学者らしい書き口のこの本が、ブータンの「人」をよく伝えるのは不思議な気がする。学僧ロポン・ペマラのエピソードは映画になりそうで、電車の中でニタニタしてしまった。4代目ワンチュック王は世紀の名君と言えるだろう。こういう指導者を持ちたいものだと思ったが、こういうひとはおそらく政治家は目指さないし、目指したとしても頂点には立てないのではないかと思った。王制が奇跡をもたらした稀有な例なのかも。

  • 驚嘆する。他のブータンについての本も読んでいきたい。本書を開く前はほとんど関心無かったのに!

  • GNH=国民総幸福
    この概念で世界から注目されるブータン。
    この概念は早くも1976年には謳われたらしい。

    本書の6割くらいは、著者がブータンでの10年の生活で感じた
    ブータンの人々の気質、生活の雰囲気についての記述。

    興味深かったGNHについては最後の方に出てくる。
    読む前の期待感では、
    ブータンはGNHについて、どんな知恵を使って国の制度に
    落とし込んでいるのだろう、というものがあった。
    本文の記述によると、そういう制度的なものではなく、
    ブータン国王もこう述べているらしい。
    「『幸福感』とは非常に主観的なもので、個人差があるため、
    国の方針とはなりえない。
    正確に言うなら、国民一人ひとりの『充足』である。
    充足感を持てることが人間にとって最も大切である」
    つまり、具体的な手法で国全体の進捗を評価するGDP
    のような明確な体系はもたない。


    本書ではより推し進めて、その方針とは
    以下のような問いを発し続けることだ、と述べている。
    (あらゆる行為、活動に際して)
    「それがあなたが人間的であることに対して
    どういう関係があるか?(寄与するか?)」


    感想として、
    GNHという制度があることへの期待感が
    いい形で裏切られたことが、興味深かった。
    科学技術や経済原理は、
    いうなれば誰しもに通じる共通言語だ、
    と思っていてそれは正しいと今でも思うが、
    唯一のものではないということに気付かされた。

    他に面白いのは、
    ブータン通産省の会議において、国外への
    輸出品目を検討した際、
    ある官僚から
    「ブータンが誇る”良質の時間”はどうか」
    という提案があったということ。
    言葉尻だけからの厳密性は保留しておいて、
    こういう発想が出てくることは非常に面白い。

    また、水源涵養林としての森林の意義を
    「電力施設としての森林」と早期に捉え、
    国の7割が失われる前にその価値を明確化したところは、
    先走って失敗した先進国に学んだ賢い例である。

    また、
    近年近代化が進みつつあるブータンの、
    途中をすっ飛ばして一気に携帯電話普及、とか、
    衛星電話普及、とかいう潔さには、
    賢明さを感じます。

  • 筆者に文章力があり、読みやすくすっと頭に入ってくる。
    旅行記よりも踏み込んでおり、得られるものが多い。
    ブータン初心者が読むにはうってつけである。
    が、やはり分析とまではいかないので、その辺りはまた新たに書を探してみます。

  • ブータンは外国人を受け入れなかった。隣国のネパールはヒッピーのたまり場と化したほど自由放任観光政策をとって観光公害が起きたがブータンはそうでない。
    英語が公用語。
    チベット仏教の国だが、信仰の自由はある。

  • GNPでもGDPでもなく、GNH(Gross National Happiness)つまり「国民総幸福」を提唱したことで話題になったブータン。興味深い国です。
    王妃の言葉を引用、「きわめてわかりやすくいえば、GNHの立脚点は、人間は物質的な富だけでは幸福になれず、充足感も満足感も抱けない、そして経済的発展および近代化は人々の生活の質および伝統的価値を犠牲にするものであってはならない、という信念です。」
    色々考えさせられます。

  • 国力を示すものが一般的に言われるGDPではなく

    『GNH(Gross National Happiness)』

    『国民総幸福』を提唱する国のブータン


    非常に考えさせられる国だと思います。


    また国ということでなく、友達や仲間に対してどう思い、接していくことが大切なのかということも学べる一冊だと思います☆

  • 「国民総幸福(GNH = Gross National Happiness)」という理念を掲げるユニークな仏教国ブータンについて、チベット仏教研究者が自らの滞在経験をもとに綴ったもの。

    ブータンがこうしたユニークな政策を打ち出せる背景としては、人口が60万程度の小国であることと、何よりも仏教信仰が人々の日常生活に深く根付いていることが挙げられる。よって、現代日本に於いてブータンと同様の政策をそのまま実現させることは、不可能でありナンセンスであろう。

    しかし、世界中が経済成長という強迫観念に取り憑かれて「国内総生産(GDP)」の増加を至上命題とする経済至上主義が猖獗を極める現代の状況に多くの人間が息苦しさ=生き苦しさを覚える昨今、そうしたイデオロギー(具体的には新自由主義イデオロギー)とは別のヨリ人間的な価値を志向する社会/国家/世界のデザインを考え出さねばならない時期ではないだろうか。

    僕を含め殆どの人間は、別に何十億ドルもの資産を所有したいなどと思っているわけではない。ただただ、自分の能力に応じて仕事をしつつ、生きていることの意味を味える、人間として真当な、ささやかな生活を欲しているだけなのだ。そんな市井の人間の慎ましい望みを叶えるのが政治の使命ではないのか。しかし近年の日本では、財界の利益――それも巨万の利益――追求の為に、持たざる者の生がその全体を以て犠牲に供されてきた。非人間的な生存競争と無謀なギャンブルを強要され、日常の安息が悉く奪われていった。日々を真当に生きている人間に生存の恐怖を強いる社会は、正義に適っていない。

    著者も述べているヒューマニズム――これは決して大仰な"思想"などではなくて、一人一人の日々の生活に根ざした真当な人間らしさを当たり前に求める、という意味でのヒューマニズム――、これを指針にしていかねばならないのではないか。

    本としてはブータン賛美がやや鼻につく。かの国の犯罪状況・刑事制度・軍事制度・税制についても知りたかった。

  • ちょっとしたきっかけでブータンに興味を持っていたのでこの本を読んでみることにしました

    皆さんはブータンという国を知っていますか??

    今チベットの問題が大きく新聞やテレビで取り上げられていますが、ブータンはそのあたりにある国です

    経済発展よりも自分たちのペースで技術やモノを取り入れている彼らは本当にマイペースな人々だと思います

    日本という国は戦後どんどん発展し、暮らしは豊かになってきました

    その一方でブータンのように自分たちのペースで生活をし、経済発展などは二の次だ位に考えている国もあることをぜひ知ってください

  • 題名の通り、今枝さんはブータンの虜になってます。
    読んでるこっちも虜になりそう笑

    もちろんブータンのように昔ながらの伝統が残っていて、日本が近代化する中で失ってきたような心の余裕とか優しさというものがブータンには残っているっていうのは、裏返していえば開発されてない、近代化から取り残されているともいえる。
    実際若者たちはメディアなどを通じて先進国への憧れを持ち、西洋化への道を歩み出してもいるし。
    いいとこずくめとはいえないと思う。生活もやっぱり不便やと思うし。

    でも、それでも国王の政策には目を見張るものがあると思う。
    資本主義の流れにのって、国を開発して観光地にすることもできるやろう。今は開放してない伝統的なお寺や山なども、外貨収入の手だてになると思う。
    でも、信仰心の強いブータン人には、お寺や山(神?仏?が宿っていると信じられている)が仏教徒でもない観光客に汚されることをよしとしない。
    だから、国王の政策で禁止にした。
    本の中でも引き合いに出されているけど、お寺とかを売り物にしてる京都に住んでて、しかも観光客が集うような有名なお寺がたくさんあることを誇りにも思っている私にはない考え方だった。

    貧しいけれど医療・教育は無料。
    こういう政策って、先進国よりも途上国に多い気がする。中南米にもそういう国が多いと思う。
    そういうことを考えると、やっぱり何が”先進”で何が”途上”なのかわからない。
    儲かるか儲からないかじゃなくて、やっぱり国民の命、最低限の生活水準や充足度を保障する。そこに国家の目標があるのが理想なんちゃうかなぁ。

    ブータンの政治についてももう少し勉強して日本やアメリカ、そして北欧などとの政治や体制と比較してみたいと思います。

全45件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1947年生まれ。1974年にフランス国立科学研究センター(CNRS)研究員となり、91年より同研究ディレクター、現在に至る。専門はチベット歴史文献学。著書に『ブータンに魅せられて』(岩波新書)、『ブータン仏教から見た日本仏教』(NHKブックス)、訳書に『日常語訳 ダンマパダ ブッダの〈真理の言葉〉』『ダライラマ 幸福と平和への助言』、『仏教と西洋の出会い』(フレデリック・ルノワール著、共訳)『人類の宗教の歴史』(フレデリック・ルノワール著)(いずれもトランスビュー)などがある。

「2014年 『日常語訳 新編スッタニパータ ブッダの〈智恵の言葉〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

今枝由郎の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×