日本のデザイン――美意識がつくる未来 (岩波新書)

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  • / ISBN・EAN: 9784004313335

感想・レビュー・書評

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  • 今後の日本のあり方、可能性を示した一冊。デザインという手仕事よりな発想ではなく、俯瞰的に、日本をどうプロデュースしていくかという観点から述べられている。
    特に秀逸な前書きは日本という国の素晴らしさを再認識させてくれる。

  • 日本を代表するデザイナーのひとりである原研哉による、岩波書店の月刊誌『図書』における「欲望のエデュケーション」という題名の連載(2009~2011年)をまとめたものである。
    著者は、連載の題名「欲望のエデュケーション」について、「製品や環境は、人々の欲望という「土壌」からの「収穫物」である。よい製品や環境を生み出すにはよく肥えた土壌、すなわち高い欲望の水準を実現しなくてはならない。デザインとは、そのような欲望の根底に影響をあたえるものである・・・よく考えられたデザインに触れることによって覚醒がおこり、欲望に変化が生まれ、結果として消費のかたちや資源利用のかたち、さらには暮らしのかたちが変わっていく。そして豊饒で生きのいい欲望の土壌には、良質な「実」すなわち製品や環境が結実していくのである」という。
    また、本書の題名については、「こうなりたいと意図することがデザインであり、その姿を仮想・構想することがデザインの役割である。潜在する可能性を可視化し、具体的な未来の道筋を照らし出していくこと、あるいは多くの人々と共有できるヴィジョンを明快に描き出すことこそ、デザインの本質なのである」と語る。
    著者は、「ものの作り手にも、生み出されたものを喜ぶ受け手にも共有される感受性があってこそ、ものはその文化の中で育まれ成長する。まさに美意識こそものづくりを継続していくための不断の資源である」とした上で、日本の「美意識」の中心は、「繊細」、「丁寧」、「緻密」、「簡潔」を旨とし、簡素さや空白に価値を見出していく感受性にあると言い切る。
    そして、今後、日本に求められるのは、西欧中心の既成の価値観において「評価される」ことではなく、日本発の価値観において「機能する」ことであり、日本が如何にして世界で「機能する」べきかについて、移動手段、家、観光、素材などについて具体的に語っている。
    著者のいう“デザイン”の意義・価値に大いに共感するとともに、その未来について考えさせてもらった。
    (2014年3月了)

  • 資源が不足しているからこそ、日本は「美意識」という資源を手にした…というところから話は始まる。シンプルという美、そしてシンプルを先駆けしていた足利義政、繊細で丁寧で緻密で簡潔な日本のデザインなど、日本の美意識という観点から我々を勇気付けてくれる一冊。
    様々な小話が盛り込まれているが、リノベーションに関する提案、世の中が丸と四角ばかりワケ、新素材を使った笑う車などまさに目からウロコの情報ばかりだ。

  • デザインの視点から、日本の未来の可能性を考察する。洗練された考えと言葉の選び方で、心地よい緊張感と勇気をもらった。

  • 大阪出張時に購入。丁度デザイン思考に関する本を沢山読んでいた時期。途中で放置してしまった。こういうのは一気に読まないと入らないな。デザインは欲望を具現化する過程。←こんなこと書いていたかなぁ

  • (1)私が読んだのは、原研哉の「日本のデザイン」という本だ。
     内容としては、主に外国のデザインと日本のデザインを比べたものが多い。身近な「JAPAN CAR 飽和した世界のためのデザイン」からシンプルとはなにか、家をつくる知恵、国立公園の観光、ファッション・もののデザイン、そして現在の日本のデザインによって今日の東日本大震災は復興が進んでいるかと思う。

    (2)私が注目したのは、主に2つある。
     ひとつは、「JAPAN CAR 飽和した世界のためのデザイン」の展示会についてだ。本では、こう書いてある。「ここしばらく日本のクルマはある傾向を示しはじめている。少し注意してみるとすぐに気付くが、ひと昔前まで主流を占めていた高級志向のセダンや、スポーティなクーペがめっきりと数を減らし、代わりに四角くてコンパクトなクルマが増えた。つまり実用性に焦点を絞って設計されたクルマの割合がぐっと増えたのである」(19ページ)。確かに最近の車は、燃費がよく走りかっこいいというよりも小さく可愛い軽の車が増えてきた。そのため、車といえば男の人が乗り回すイメージから女の人も車に愛着を持って運転する人が増えたのではないかと考える。これは、外国からすれば、大きな進歩であり、日本経済にも影響を与えていると考える。
     二つ目は、東日本大震災に関係した現在の日本のデザインである。デザインとは、ただ単に外見がかっこいいや可愛いだけでは成り立たない。今までの阪神淡路大震災、東日本大震災を経て日本のデザインは変わった。「受け入れるべきは受け入れ、慎むべきは慎みつつ、前に進み未来を構想する。長い歴史の中で、人間は倦まずたゆまず、そうして大きな困難を克服してきたのである。今回の災害もそうして乗り越えていかなくてはならない」(218ページ)。このように常に日本のデザインはその時、その時代に合ったものを作り出していかなければ、将来残ることはないと考える。

    (3)全体を通して感じたこと。
     それは、日本のデザインはその時の災害や経済の流れに沿って常に変わり続けており、そしてまた、人々もそれに従って変わってきている。外国に比べ、日本のデザインはどこか深く意味があり、ふと時間を忘れてしまうような空間を作り出してしまう。だから、外国からも人気が高く、作り出すのにどこよりも苦労が必要だ。決して外国が簡単に作り出せるというのではなく、その国独自のデザインがあり日本には日本に合ったデザインがあり、その中でもコストや耐久性など場所に合ったものを日本はつね日頃作り出そうとしているのではないかと考える。そしてまた、私はそんなデザインをはじめ、機能性にまで重視している日本のデザインが好みであり、私も将来、日本に大きな影響を示すデザインを作り出してみたいと思った。(愛 20150105)

  • 資料番号:011434438
    請求記号:757.0/ハ

  • デザインは未来を作る、ことを再確認させてくれた。

  • デザイナーの言葉だな、としみじみ思う。どちらかというと無駄のない、洗練された日本語だ。言葉の選び方もハッとするものがある。

    しかし、どこか物足りない。あくや癖がない。幕の内弁当的編集なのだ。「一冊を通して」何かを訴えようという本ではない。どこかお気に入りがあれば、というつくりで、未来への示唆はあちこちにあるが、骨が太くないのである。雑誌の連載をまとめたものとあって、合点がいった。

    気になった示唆のいくつか
    ・住まいやオフィスの環境も、モビリティや通信文化の洗練も、医療や福祉の細やかさも、ホテルやリゾートの快適さも、美意識を資源とすることで、僕らは経済文化の新しいステージに立つことができるはず
    ・精度の高いボールが宇宙の原理を表象するように、優れたデザインは人の行為の普遍性を表象している。
    ・現代の日本人は、小さな美には敏感だが、巨大な醜さに鈍い
    ・抑制、尊厳、そして誇りといったような価値観こそデザインの本質に近い。
    ・ファッションとは衣服や装身具のことではなく、人間の存在感の競いであり交感である
    ・世界から評価されるのではなく、世界で機能するという主体性を持つ。

  • エンプティネス
    しっくりきた

  • 原研哉さんは好きなアートディレクターの一人だ。
    「HAPTIC」展等、非常に好奇心をくすぐられる美しいデザインに、10代の頃から憧れを抱いていた。
    最近、研哉さんが携わった代官山Tサイトに行ってきた。ずっと行きたかったとこ。建設のサインやブランドロゴなどを担当している。居心地が良く、美しい空間だったな。
    本著の中で語られてる「TOKYO FIBER」展が面白そうだな、と思った。見たかった。日産キューブの「笑うクルマ」が可愛かった。クラクションはいわば「威嚇」であるが、もしもクルマが「微笑」を表現出来るなら、街角は相当に和らぐはずだ、という考え。
    考え方がスマートで、なるほど!と思わず微笑んでしまう、そんなデザインはやっぱ素晴らしい。

  • 武蔵野美大教授であり、日本を代表するデザイナー、原研哉さん。
    ”可能性は常に意外性の中にある” の言葉通り、原さんの斬新かつシンプルなアイディアにはほんとに驚かされます。
    常に消費者目線でデザインを追求する原さんの考え方が沢山学べる一冊だと思います。

  • 2014.3.1
    とてもおもしろい。文化論である。
    文化の授業をする時に、文化というものをどう考えるのかという切り口で使えそう。コピーして読ませてもいい。
    デザインのデザインも読んでみたい。

  • 無印良品、愛知万博等を手がけたデザイナー、原研哉の本。

    デザインするということは装飾的に着飾ったり、ものをお洒落にするということではない。
    例えば「考え方」だってデザイン出来るし、するべきだ。
    デザインするということの本質、核心に迫りながら今後の世界、そしてその中での日本の立ち位置や振る舞い方を提案している。

    「デザイン」は日常の中に溢れている。
    お勧めの一冊。

    まえがきより引用。

    「中国、そしてインドの台頭はもはや前提として受け入れよう。アジアの時代なのだ。僕らは高度成長の頃より、いつしかGDPを誇りに思うようになっていたが、そろそろ、その呪縛から逃れる時が来たようだ。GDPは人口の多い国に譲り渡し、日本は現代生活において、さらにそのずっと先を見つめたい。アジアの東の端というクールな位置から、異文化との濃密な接触や軋轢を経た後にのみ到達できる極まった洗練をめざさなくてはならない。

    技術も生活も芸術も、その成長店の先端には、微細に打ち震えながら世界や未来を繊細に感知していく感受性が機能している。そこに目をこらすのだ。世界は美意識で競い合ってこそ豊かになる。」

  • 「こうなりたいと意図することがデザインであり、その姿を仮想・構想することがデザインの役割である。」
    というように、「もの」のデザインについてだけでなく、デザインを介してルーズになりがちな私たちの欲望について疑問を呈してくれる本でした。
    すっと入ってくる文章に、原研哉さんの文章の上手さを感じました。
    まだまだ日本も捨てたもんじゃない、ここからが勝負だ!と自分の国の素敵さを再確認できる一冊。
    筆者が日本の未来をあきらめていないのがいい。
    私自身も自分の毎日を素敵に「デザイン」していきたいと思えた本です。

    図書館で借りたけれど、購入して、折に触れて読み返そうと思います。

  •  デザイン系を志しており、課題として出たのが本書。
     他にもいくつか課題本はありましたが、前著「デザインのデザイン」が面白かったので購入。
     単行本と文庫本、形は違えど前著の続編の位置づけなのかな? 構成もほぼ同じ。
     日本のデザインを焦点に当てている本書では、現在の問題(大量生産の果てやアパートマンションなどの統一された構造等)の指摘、それらを今よりも良いものにする未来へのアイディアまでも鮮明に記されています。
     鮮明、と書いたのは著者の考えた構想がそんなの夢だよ、無理では終わらないように思えるから。問題点を深く理解されていて、その上で出されたアイディアの数々はひょっとすると今でも実現できるのでは?と読んでてワクワクする。時折入ってるイラストカットも可愛い。
     この方の本を読んでいるとデザインってもはや経済支配するんじゃね?とまで思えてくるからすごい。実際にそうなのかもしれません。
     デザインを目指す人が読むといいと思う。自分が今から携わりたいと思うことに期待と誇りが持てた。

  • 日本人の良さを取り入れたデザインは、世界に通用するし、もっと日本人らしさを前面に出して、世界に発信しようという強いモチベーションを感じるとても良い本だと思う。

  • 【推薦文】
    シンプルとはなんなのだろう。
    リゾートとはなんだろう。
    そもそもデザインとは力の象徴だった??
    デザインとして美という観点から日本という今を見つめなおす。
    広報学科や国際学部にお勧めな本です。
    普通に使っていた言葉を見つめなおせる素敵な本です。

    <情報学部 T>

    企画コーナー「成長する本棚」は(2Fカウンター前)にて展示中です。どうぞご覧下さい。
    展示期間中の貸出利用は本学在学生および教職員に限られます。【展示期間:2013/11/26〜】

    湘南OPAC : http://sopac.lib.bunkyo.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=1606115

  • 大好きなグラフィックデザイナー原研哉氏の著書。

    【まえがきについて】
    デザインとは欲望のエデュケーション。
    この言葉の背景には、
    製品や環境は人々の欲望という「土壌」からの「収穫物」であり、それを生み出すにはよく肥えた土壌が必要。
    デザインとは欲望の根底に影響を与えるものであるという考え方があるとのこと。

    そして、エデュケーションという言葉をあえて選んだのは、この言葉に、教育するという視点に加えて、潜在するものを開花させるというニュアンスが含まれているからだとも。

    このくだりにより、エデュケーションという表現がデザインにぴったりであることが納得できます。

    「潜在するものを開花させる」
    これがデザイナーの仕事であると思いました。

    形になってない欲望。目に見えていない欲望。
    それらを表現し、日常に送り出すことがデザイナーの使命であると思いました。

    まえがきからはまずそのように感じました。

    ・・・続く。

  • ファッションとは人間の生き方やライフスタイルのこと、という言葉がすっと入ってきた。

  •  本書は「デザイン」という切り口から日本の将来展望や未来構想を語ったものです。著者の原研哉氏は、武蔵野美術大学教授で、「無印良品」のボードメンバーでもあります。
     日本の強みのひとつを「美意識」に見つけ、そういった価値観を具現化するものとして「デザイン」を位置づけたり、「デザイン」とは物の本質を見極めていく技術であると定義づけたりと、本書で語られている著者のメッセージはとても興味深いものでした。
     日本の将来に対するポジティブな著者の姿勢は気持ちのいいものです。

  • 好きなデザイナーである氏の新刊。日本の生活の中で歴史を重ね醸成されてきた美意識や道具の在り方を「移動・シンプル・家・観光・未来素材・成長点」の6つに分けて見つめなおしながら、震災後とこれからのデザインについて語る本。
    氏の著作はどれも好きだけど、今回は日本のデザインを見つめなおして未来へ活かすという割には、ややアジア全体ひっくるめて現代の飽和社会への警鐘として紹介、どこもひっくるめて地に足をつけた生活発信のデザインを産み出す地域と定義している感が強い。この辺は少しタイトルとそぐわない気がした。
    でも、デザインによる怠惰な日常生活の改革というか気付きは多かったので、そこは満足。一番深く同意したのは、デザインは欲望をエデュケーションする道具であるという文。社会の側を発端とした、よく考えられたデザインに多く触れて、消費者と生産者とが価値観を共有することで欲望が変化し、ルーズなニーズ(駄洒落のつもり)が教育されてより良い製品や環境を皆が目指すようになる、というのはとても素晴らしい流れだと思う。自分も、なるべく良いと感じるデザインに日常生活で触れる機会を多くしていきたい。生活必需品とか、部屋とか、車とか、美少女キャラとか(えー
    デザイン本?の感想考えてたからか、唐突に思い出した。来年は是非、あいちトリエンナーレ(http://t.co/krfMyiSa)に何回か行って自分なりに楽しむことと、無何有という旅館(http://t.co/lUjAkSGZ)に2泊くらいすることをやることリストに加えておきたい。

  • 2013年3月にHOUSE VISIONを開催した原研哉氏の著作。
    イベント開催に至る経緯(著者の思考や美意識)が読み取れる。講演などで聞いたことのある内容とかぶっている部分もあり、新鮮さはなかった。

  • 日本のデザインの可能性を感じられる本であった。

    日本は工業製品の輸出国であったが、これからは変化を求められる時代。そんな時代にアジアでも島国という環境で独自に育った日本文化の中にあるデザインで勝負していける。

    デザインとは作り出すことではなく環境の本質を考える生活の思想であるという言葉が印象的であった。

  • このデザイナーの周到な言葉づかいに感心。半分まで来たが、簡単に読み飛ばせない。一語、一文に含蓄がある。的確な言葉で精緻な文章を大胆にデザインしているような…。

    最後まで楽しく読み進めることができたのは、どういう状況で、何が課題で、そのための仕事(「ことをつくる」デザイン)とは何かがわかりやすく述べられているからだ。ものづくりでも、人づくりでも、そのための「ことづくり」でも、創造力の根源に言葉があることを実感した。

  • デザイナー的な見方で世界を捉え、日本での生活や娯楽におけるデザインの可能性を示した本。

    基本的に、その時の個人や大勢の意識や時流に合わせてかたちの正解を求めていくのがデザインの考え方なのかな、と思いました。
    ただ、どこまでもより良く、より快適に作り替えようとの提案を読んでいると、そんななんでもかんでもデザインして作り替えようとする必要はあるんだろうか。
    筆者も途中で言い訳ぽく書かれていましたが、あまりに人の意図が介在している生活が快適になるものなのかしらん、という疑問が浮かびます。

    それにしても。文章を読んでいての印象なのですが、非常に豊かな生活をされている、ざっくりと楽天的な考え方をする方に見受けられ、至る所鼻につく感じがありました。
    例えば自動車に関していえば、普段歩いて移動する生活においては、自動車はあまりにも増えすぎていて、危険、景観を壊す、緊張を強いられる、と悪い面もあるはずなのですが、そんなことは話題にもされていません。

    著者がこの本でおっしゃるデザインは、モノがあふれていて選択肢が多い中でどう洗練させていくか、という前提に基づいていると感じましたけれども、万人の生活はそうモノがあふれているわけでもそんなに洗練を望んでいるわけでもないのではないかと。
    筆者の求める豊かさと自分の豊かさの落としどころは、ちょっと違うところにあるみたいです。

    どうにも素直に納得できない本でしたが、あくまでこの筆者の理想とする考えを述べたものであり、普遍的なデザインの考え方ではないのだろうと捉えます。

  • 裸の王様は確信を持ってエンプティをまとっている、という発想は、
    初めてだな、と思った。

  • 日本人は「何もないことの豊かさ」を感じ取れる、独特な美意識を持っている。シンプルではなくてエンプティであること、空虚であることから新鮮な感覚がどんどん生まれてくる。
    そういった日本人の美意識は資源である。他の国には決して無い特徴であり、強みである。天然資源はお金で買うことができるが、文化の根底で育まれた感覚資源は買うことができない。
    少子高齢化や産業の空洞化、グローバル化の潮流に飲み込まれる日本。工業化に邁進してきた今までのあり方ではいけない。日本人が今まで培ってきた美意識に回帰して、新たな日本のあり方をデザインする必要がある。

    「GDPは人口の多い国に譲り渡し、日本は現代社会において、さらにそのずっと先を見つめたい。アジアの東の端というクールな位置から、異文化との濃密な接触や軋轢を経た後にのみ到達できる極まった洗練をめざさなくてはならない。技術も生活も芸術も、その成長点の先端には、微細に打ち震えながら世界や未来を繊細に関知してゆく感受性が機能している。そこに目をこらすのだ。世界は美意識で競い合ってこそ豊かになる。」

  • ものではなく、ことをつくる。

  • 多くのデザインプロジェクトに携わり、世界中から高い評価を得てきたデザイナーが日本の未来に向けて語った書。

    デザイナーとは程遠いエンジニアの私にも、共感できる部分が多くありました。

    本書で著者は日本についてこのように書いています。
    「日本には天然資源がない。しかし、この国を繁栄させてきた資源は別のところにある。それは、繊細、丁寧、緻密、簡潔にものや環境をしつらえる知恵であり感性である。天然資源は今日、その流動性が保証されている世界においては買うことができる。
    (中略)
    しかし文化の根底で育まれてきた感覚資源はお金で買うことはできない。求められても輸出できない価値なのである。」

    そして、我々日本人は、自らの文化が世界に貢献できる点を、感覚資源からあらためて見つめ直してみてはどうだろうかと提案します。

    現在、多くの国で、日本の「おもてなし」が評価されはじめています。
    これも日本特有の感覚資源だと思いますが、本書を読んで、「おもてなし」と同じように、日本人特有の緻密さや繊細さが世界に類を見ない日本特有のデザインを作り上げていることに気付きました。

    本書では、クルマ、家、ファッションなど、様々なデザインについて触れていますが、その中で、クルマを例にとると、著者は以下のように言っています。

    「トヨタ、日産、ホンダのデザイン部門の人々と会して、意見交換をしていた時のことである。今の日本のクルマでユニークなものは何かという話題で意外な意見の一致をみた。3社の人々が共通して指摘したのが、ダイハツの『タント』という軽自動車である。
    このクルマのどこが特徴的かというと、それは軽自動車の基準、すなわち、長さ・幅・高さの基準をいっぱいに活かした、極めて率直な四角い形状にある。
    軽自動車の基準を最大限に活用しようという長年の工夫が実って、単に小さいだけではない、知恵と技術が凝縮した『四角いかたち』が育まれてきたのである。おそらくこれから、世界に認知される『JAPAN CAR』のひとつの典型をなす形である。」

    とても印象深いエピソードでした。
    ダイハツのタントは、日本だからこそ生まれたデザインです。
    このような日本のデザインをもっと積極的に世界にアピールしていけば、いつか日本らしいデザインが日本の新たなアイデンティティとなる日がくるのかもしれません。

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著者プロフィール

グラフィック・デザイナー。1958年岡山市生まれ。武蔵野美術大学教授。日本デザインセンター代表。
文化は本質的にローカルなものととらえつつ、日本を資源に世界の文脈に向き合うデザインを展開している。広告、商品、展覧会、空間など、多様なメディアで活動。
著書は『デザインのデザイン』(岩波書店/サントリー学芸賞受賞)、『白』(中央公論新社)ほか多数。

「2014年 『みつばち鈴木先生』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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