短歌は最強アイテム――高校生活の悩みに効きます (岩波ジュニア新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784005008636

作品紹介・あらすじ

「ちばさと」の愛称で親しまれる国語科の熱血教師で、歌人でもある著者が、短歌を通じて学校生活の様子や揺れ動く生徒たちの心模様を描く青春短歌エッセイ。友情、恋、部活といった現在進行形の高校生のリアルに寄り添いながら、「小さな黒板」の歌に「いろいろあるけど大丈夫!前を向いていこうぜ!」の思いを込めてエールを送る。

感想・レビュー・書評

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  • 千葉聡さんの歌文集ですね。
     正確にはエッセイなのですが、随所に短歌が紹介されていて、千葉さんの短歌コーナーもあります。
     高校の国語の先生として、クラスの担任として、部活動の顧問として、かなり充実した教師生活を短歌を基軸に生徒さんとの交流を綴られています。

      カーディガンのまるい背中に射していた
        薄日も消えて授業は終わる

     先生は先生だけど本棚にもたれて
       一瞬夢みたりする
     
     「冷たいってきれい」化学のレポートを
       折って見上げる冬の青空

     あしびきの長々し夜を研究書読み、
       山と積み 崩れて夜明け

     西階段踊り場に射すため長く
       長く引き伸ばされて、光は

     明日の小テストを印刷する
       窓の外には窓のぶんだけ夜空

     今日ここにいない誰かの輪郭を
       懐かしんでるグランドの風

     教師とは幻 みんなが去ったあと
       教室に一人影を落として

     グランドの向こうのビルのもっと向こう
       君の見ていた空から風が

     帰る人、ここに来た人、行くあてのない人、
       みんなを抱け音楽よ

     しゃがみこみミミズが描いた海底の
       城の尖塔高く高くあれ

     文化祭準備期間に突入し
       絵具の手で食うパンとおにぎり

     短歌とは今だけの今のこの子らの
       吐息のあたたかさをうたうこと

     二十四の倍の瞳に見つめられ
       太宰の魅力を熱く緩く語る

     交差点の見える席で食うイチゴパフェ
       本はかばんの闇にしまって

    2017年の発行の本です。大学の講師も兼任されての教師生活は忙しさと生徒さんとの絆も深まって、様々なエピソードに溢れています。
     一方的な視点では無く、生徒さんからのアクションも加味されていますので、学園ドラマを見る思いがしました。
      

  • 進学校に異動となった「ちばさと」こと国語科の教師であり歌人千葉聡のエッセイと短歌集です。

    軽音のライブ後に仲間の歌人からかけられた「こんなにいい学校があるなんて信じられませんでした。」という言葉と同じ印象。フィクションな箇所や著者の思い出フィルターもあると思いますが、まるでドラマか映画の舞台のような青春盛りだくさんな横浜市立桜丘学校が主な舞台です。

    「流行しているポップソングの歌詞のように短歌が若い心のささえにならないだろうか」と考え、歌人としての得意分野の短歌を通じて一人ひとりの心に向き合おうとしてくれる「ちばさと」に高校生という多感な時期に出会えた生徒さんは幸せだなあと思いました。
    そして、自分と同年代もしくは少し年下の世代が全国あちこちの高校で「先生!」と呼ばれ、教鞭を振るっていることを想像すると自分ももっと頑張らないと、と襟を正す気持ちにさせてくれました。

    様々な歌人の短歌やちばさとの短歌が本の中で紹介されていましたが、詠まれた情景がすぐに浮かばないものが多々あり、自分の感受性の乏しさを痛感させられました。人生経験豊かにしてより多くの短歌に共感、感動できるようになりたいものです。

    そんな自分でも共感できた短歌を数首ご紹介して終わりとします。

    「まだ」と「もう」 点滅している信号に走れ私の中の青春 (松村正直 駅へ)
    フォルテとは遠く離れてゆく友に「またね」と叫ぶくらいの強さ (千葉聡 そこにある光と傷と忘れもの)
    プリントを後ろに回す時にだけ吾に伸べられる指先白し (寺井龍哉)
    親は子を育ててきたと言うけれど勝手に赤い畑のトマト (俵万智 サラダ記念日)
    長き長き手紙を書かむと思ひしにありがたうと書けば言ひ尽くしたり (稲葉京子 紅梅坂)
    今僕の芯から突き出す砲丸よ 校舎の向こうの夕空へゆけ (平岡大輝)

  • 「国語科のドアに「校内どこかにはいます」と貼って空を見に行く
     千葉 聡

     横浜市立桜丘高校の国語科「熱血」教員「ちばさと先生」は、歌人である。

     6冊目の著書「短歌は最強アイテム」の副題は、「高校生活の悩みに効きます」。生徒の「悩み」に寄り添う短歌エッセーかと読み始めると、意外にも、ちばさと先生自身も悩み、生徒から折々励ましをもらい、ともに一歩階段を上がってゆくような内容であり、心が洗われた。

     授業はじめ、放課後や土日も部活動の顧問にあてる多忙な教員生活が変わったのは、40代半ばのころ。母親の介護のため、退勤時間を早めて帰る生活になったのだ。慣れない事態に、イライラも募ってしまう。

     そんななか、生徒の親子関係の良さを思い起こし、「親子」とは永遠の課題であることを再確認する。そして、自分を「うさぎ」、母を「うさぎちゃんのお母さん」にたとえ、ごっこ遊びのような介護に変化させ、やさしさと笑顔を取り戻すのだった。

     親子の関係を結び直すという発想の転換は、文学作品がヒントを与えていたことも記されている。親も年をとり、自分も年齢を重ねてゆく事実を前向きにとらえるには、掲出歌のように、「空を見に行く」心の余裕が必要なのだろう。

     海賊より空賊がいい 寝転んでこの空を青く青く蹴る男子

     担任教員であっても、クラスという「船」では生徒と同じ「乗組員」。その全員が「旅の途中」にあると定義づけ、青い空をともに見上げる姿も、すがすがしい。
    (2017年12月17日掲載)

  • 刊行日 2017/11/21
    「「ちばさと」の愛称で親しまれる国語科の熱血教師で、歌人でもある著者が、短歌を通じて学校生活の様子や揺れ動く生徒たちの心模様を描く青春短歌エッセイ。友情、恋、部活といった現在進行形の高校生のリアルに寄り添いながら、「小さな黒板」の歌に「いろいろあるけど大丈夫!前を向いていこうぜ!」の思いを込めてエールを送る。」

    はじめに──「短歌の人」と呼ばれて

    第1章 正義の天使とつきあう方法── 教員歌人「ちばさと」の日常
     ウィキペディアには載ったけれど
     なぜかケンカの仲裁を
     「進学指導重点校」への異動が決まる
     【短歌連作】 今,図書館にいます

    第2章 大冒険が始まる── 小さな黒板を手に入れて
     着任の挨拶は大成功
     「今日のおすすめ短歌」を始める
     恋の歌をめぐって
     なぜこの場所に黒板が置いてあったのか
     「さようなら」が苦手な少女
     青春キャンペーン
     ちばさと,倒れる
     そして夏休みが始まる
     【短歌連作】 高校教師再入門

    第3章 みんな旅の途中──クラスは大きな船
     二年五組の担任に
     授業で大苦戦
     二つの部の顧問に
     学級通信を捨てられて
     そこに本があったから
     外間先生の思い出
     代理ピアニスト,大いに汗をかく
     ちばさとは変態歌人(!?)
     九月のある朝の出来事
     古典の勉強会スタート
     「先生,ごめんなさい」
     三年五組卒業日記
    【短歌連作】 空賊になって

    第4章 好きな呼び方で友だちを呼ぼう──人間関係を深めるには
     千葉くんの友だちは田中くん,高橋くん
     名字ではなく名前を呼ぼう
     「呼び名自己申告制」を始める
     呼び名をプロデュースしよう
     【短歌連作】 横浜駅西口にて

    第5章 「友情」と「恋愛」は永遠の練習問題──どちらにも正解はありません
     「名前で呼んでくれるんですよね」
     先生がとれそうな賞
     大縄跳び大会のあとで
     『伊勢物語』をもとに恋を語れば
     恋愛尊重法を制定したい
     ライバルは最高の友人
     【短歌連作】 海の底のにぎやかなカフェ

    第6章 いちばんの味方,いちばんの敵──親と出会い直す
     子育てはツッコミ力で
     親は友だち
     母が倒れた
     外はまだ明るいのに
     親を叱るということ
     ちばさと,うさぎちゃんになる
     文学を味方につけて
     親子関係は永遠のテーマ
     【短歌連作】 空ひとつ

    第7章 ステージは薄暗がりの中──部活は光と影に彩られて
     青春映画を撮影するとしたら
     部活のおかげで健康に
     まさかのステージ・デビュー

    あとがき
    ブックガイド

  • 悪いけど、私こういう先生はちょっと苦手です。
    立派だと思うし、子どもの担任なら良かったね、と喜ぶとは思うが。

    学校の先生は普通の倫理観があって、(特に中学以上は)授業がちゃんとしていればそれでよいと言うか、それ以上関わりたくないと思っていた。先生は友達でもライバルでもなく、勉強を確実に教えてくれて、その科目の面白さを伝えてくれて、それでもにじみ出す人柄があたたかければもう十分。
    誕生日とかどうでもよい。

    まあ現役の先生だから勤務校、生徒、その親、同僚、上司を悪くは書けないのは仕方ないと思う。生徒はみんな真面目で勉強、部活、友情、恋に正面から精一杯取り組んでいる。この本のメインの対象は高校生だけど、その中にはそうでない子どももいるだろう。私がそうであったように、ひねくれてて友達も少なく、部活もせず(部活の上下関係が苦手)、親ともぶつかってばかりの生徒もいると思う。そういう生徒が救いを求めて文学に親しむことも多いと思うが、これを読んだら、ひねくれものにも門戸を開く文学界も、やっぱりこんなものかとがっかりしてしまいそう。

    それだけでなく、この著者の書いていることに納得できない。

    「子どもが小さいとき、親は文字どおり「保護者」だ。だが子どもが大きくなる中で、親は「保護者」から「頼りになる友だち」へと役割を変える。(中略)そしていつしか親は「頼りになる友だち」から「親友」へとランクアップする。」(P150)

    この文章が一番ぎょっとした。私は親と友だちになったことはないし、子どもと友だちになったこともない。親と友だちは別だと思っている。もちろん親と「親友」になる子どももいるだろうけど、それが一般的なのか?大人になって聞いてみたら、十代の頃、親とは仲良くできなかったって言う人は結構いるし、大人になっても親とうまくやれない人もいるる。気は合わなくても、付き合わざるを得ないのが親で、そこが友だちと違って難しいんだと思うけど。そしてそういう鬱屈というか、憂いが物語や詩になることもあると思うけどね。

    この人の作風は爽やか(熱血)青春短歌ってことで、短歌は(個人的には好みでないとしても)、これで良いと思うけど、エッセイ部分は、疎外感を感じていた若い頃を思い出して具合が悪くなってしまった。
    青春メインストリームにのれないどころか触れもしなかったからこそ、文学に救いを見いだしていたのだけど。
    こんな青春が送れるなら特に文学は必要ない気もするが。(純文学は)

  • 國學院大學大学院文学研究科単位取得退学。

  • 31文字に情景と感情の余韻を記す。非常に頭を使う言葉探し。言葉と想いが合致した時の心地よさは格別なはずだ。読む側も心の動きがイメージとしてとらえられたら、心地よい余韻に浸ることができる。日々の生活や学校生活に流れる様々なことを表現しながら、短歌の世界に導いてくれました。

  • こんな先生になりたい。そして中学や高校の時に出会いたかった。たくさん大好きな先生に出会ってきたけれど、こんなに人を大切にする先生には出会って来なかったと思う。

  • 短歌そのもののはそこそこ良かったが、すごく良かったわけではない。しかし、なにげないところで、ほろりとしてしまう。

    千葉先生のまなざし、生徒とのやりとりが素敵。

    実は手に取ったのは、母校が舞台だったから!!

  • 歌人にして高校教諭の「ちばさと」先生が、日々の学校生活や生徒との関わりを真摯につづり、そこにぴったりの現代短歌を紹介している。この短歌がしみじみと心にしみる。さまさに「短歌は最強アイテム」だ。短歌交じりエッセイの傑作である。

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著者プロフィール

1968年、神奈川県生まれ。高校教諭。
1998年、第41回短歌研究新人賞受賞。歌集に『飛び跳ねる教室』『今日の放課後、短歌部へ!』『短歌は最強アイテム』『グラウンドを駆けるモーツァルト』、小説に『90秒の別世界』、共編著に『短歌タイムカプセル』、編著に『短歌研究ジュニア はじめて出会う短歌100』などがある。歌人集団「かばん」会員。國學院大學、日本女子大学の兼任講師。

「2021年 『微熱体』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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