ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力 (朝日選書)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022630582

感想・レビュー・書評

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  • 「ネガティブ•ケイパビリティ」とは…
    筆者はこう定義する。
    ⚫︎どうにも答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐える能力
    ⚫︎性急に証明や理由を求めずに、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいることができる能力

    仕事や日常生活で、なかなか解決できない問題があることはよくある。その間は、モヤモヤとしながらもやり過ごし、落ち着きどころを探る。ときには、その状態に耐えかねて短絡的な結論に走ることもある。これまで、この宙吊りの状態に耐えることを「能力」と捉える視点はなかった。

    本書では、詩人キーツによるこの概念への気づきを起点に、創作活動をはじめ、医療、教育、国際政治におけるこの能力の重要性が論じられる。特に、筆者が、精神科医として、かつては懐疑的であった伝統治療師にネガティブ•ケイパビリティを見出す過程の話が興味深かった。

    キーツが心酔するシェイクスピアの創作にもネガティブ•ケイパビリティが発揮された軌跡がみられるという。性急な結論づけとは無縁の先が読めない筋書きに、読者は「通常の理解や予想が途絶える領域」まで連れて行かれるのである。3頁にわたる『リア王』のあらすじをたどり納得する。

    本書では、この劇作家と比肩する能力を持つとして紫式部を挙げる。ちなみに、筆者は小説家と精神科医という二つの顔を持ち、ペンネームの帚木蓬生は『源氏物語』の第2帖「帚木」と第15帖「蓬生」から取ったものだという。10頁にわたる源氏物語の要約がやけに分かりやすいのも頷ける。

    終盤、メルケルの寛容とトランプの不寛容、後者とヒトラーの共通点に触れ、不寛容の先には戦争があると説く。また、第二次大戦時、軍部主導の日本の為政者にはネガティブ•ケイパビリティが欠如していたともいう。このあたりの一連の記述に筆者の平和への強い想いを感じた。

    個人的には、問題解決に価値をおく現代教育との対比の話で、学校を休みがちな子どもへの接し方に思いを致した。筆者のいう何とかしているうちになんとかなる「日薬」、ちゃんと見守っている眼があると耐えられる「目薬」を意識し、親としてもネガティブ•ケイパビリティを身につけたい。

  • 世の中には解決できない、しようがない出来事が満ち溢れている。
    しかし、人間は理解したり、早急な対処を求めたりする生き物です。
    そのため、学校でも、いち早く正解にたどりつく力や、スピーディな問題解決能力をもとめる力をつけようとします。
    私も教員として、問題解決のための思考の仕方や、大量の問題を早く答えるような課題づくりをしていました。

    この本では、ネガテイブ・ケイパビリティという能力、答えが出ない!という本来ならマイナスの状態であり続けていく能力の重要性を説いたものです。

    最初から読んでいても、このネガテイブ・ケイパビリティがどういうものかわかりにくかったのですが、要するに考え抜く力であったり、解決できない状態を受け入れたり、問題に向き合うことを諦めなかったりという力を総合して話しているようでした。

    筆者は精神医学にこの力を発揮しており、患者さんとのやりとりで、医者は早急な対処を求められるけれど、実際は解決できないこともあるため、カウンセリングのときには、この力を意識して、患者さんを見守り続けることなどをしているそうです。

    この本では医学のみならず、創作や、政治ついてもネガテイブ・ケイパビリティが発揮される例や、早急に解決しようとすることで起こりうることなどが挙げられています。

    問題解決のためのノウハウ、スキルといった効率重視の本が大量に出回っている中、どっしりと腰を据えて、相手と向き合い続ける力について述べた本は新鮮でした。
    解決できなくてもいい、その対象と向き合い、考え続けていく中でたどり着けるものもある。

  • ネガティブ・ケイパビリティとは「どうにも答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐える能力」、あるいは「性急に証明や理由を求めずに、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいることができる能力」を意味する、とのこと。なるほど、確かにこの時代にあっては耐える能力が必要なのはよく分かる。
    ただ、このケイパビリティの発揮の仕方をまちがえてはいけない、ということを強く思う。「どうにも答えが出ない」と感じたとき、じっと耐えるのがいいのかどうか。実はじっとしていないで自分が動けば解決策を見出すことができる可能性がぐっと上がるんじゃないか。つまり、重要なのは、このケイパビリティの存在を知って発揮することよりも、これを発揮するか否かの判断基準をきちんと持つ、ということなんだと思う。そうしないと、本来動き出さないといけないところなのに「ただ今、ネガティブ・ケイパビリティ発揮中」という言い訳を与えるだけになってしまう。
    著者が伝えたかったポイントとは少しズレているとは思うけれど、ワタシとしては得るところがあったので、許していただきたい。

    それにしても、この本で源氏物語のあらすじを知ることになるとは、完全に想定外。なんでも著者の見方によれば、光源氏はネガティブ・ケイパビリティの具現者なんだとか。

  • 知人に勧められて、読んでみた本。
    「ネガティブ・ケイパビリティ」という言葉は知らなかったのですが、
    本を読んでその意味を知って
    「確かにこれからの世の中で必要な考え方だな」と感じました。

    著者の本は初めてですが、精神科医かつ小説家というユニークな経歴。
    なので、本の中身も著者の精神科医と小説家という経歴から来る帰納法的な記述が多かったです。
    例えば、精神科医は〇〇な場面で、ネガティブ・ケイパビリティが必要だとか、
    ××という小説家は、ネガティブ・ケイパビリティを持っていたとか。

    読み手としては、どうやったらネガティブ・ケイパビリティを高めれるか?とか
    その時の難しいことは何か?とかそれをどうやって乗り越えたらいいのか?とかが
    気になると思うのですが、
    そこに対する記述はあんまりなかったような気がします。。
    上記を求める人は、冒頭の「はじめに」を読めば十分でしょう。

    個人的に反省したのは、自分のネガティブ・ケイパビリティが足りずに、
    例えば嫁に対して稚拙に答えを出すことを求めすぎてたな…とかでしょうか。。
    この本は、家庭環境の改善にも役立ちそうです。
    (そもそも著者が精神科医なこともあり、聞くのが上手。)

    あとは、源氏物語のあらすじがまとまっているのが、
    何気に有難かったです(第八章)。
    古文とか大嫌いだったので、そもそも読もうという気にもならなかったので。

    著者の小説も読んでみたくなりました。
    (どちらかというと、戦争モノではなく、病院モノを。)

    ※閉鎖病棟
    https://booklog.jp/item/1/4101288070

  • タイトルである「ネガティブ・ケイパビリティ」とはなにか?それがまさに本書で著者が伝えたい事。「どうにも答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐える能力」‥それは具体的にどんな能力なのか一緒に考えませんか?精神科医で、小説家でもある著者は古今東西の医学書や文学作品、又実体験など様々な例を挙げ問いかける。
    読書会の課題図書として読んだのだが、私自身もそれなりに起伏のある人生を通じて無意識のうちにこの能力が鍛えられ、救われてきたのかもと思った。

  • 初めて読む帚木氏の作品。一度ラジオのインタビュー番組に出演されているのを聞き、とても心に響く内容だったので、今回この著作の評判を聞き、図書館の順番待ちをして手にした。

    ネガティブ・ケイパビリティとは「どうにも答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐える能力」「性急に証明や理由を求めずに、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいることができる能力」とある。どんな展開になるのかワクワクしながら読み始めると、精神医学、教育、文学、芸術とかに携わっている方にはピンと来るのかもしれないけど、どうも自分とは無縁な考え方と感じた。シェークスピア、源氏物語やユルスナールの『東方綺譚』のあらすじを再確認でき儲けものという程度の感想に過ぎなかった。

    実際に感想を書きはじめると、私にも腑に落ちることがあったのを思い出した。縁あって迎えた保護猫が全く懐かず、人馴れを焦る私のとった行動により却って手こずってしまった。最近の保護動物を扱ったテレビ番組でも、見守る力が良い結果を出していることを証明している。それも「解決すること、答えを早く出すこと、それだけが能力ではない」というネガティブ・ケイパビリティの考え方に起因しているのではないだろうか。

    最後に、仏教的な思想だったか『判断しない』という教えがあるが、これも根本的には同じことなのだろうか? いずれにせよ、『言うは易し、行うは難し』なのだと思う。

  • 精神科医であり、小説家である、帚木蓬生さんの著書。本のグループのでの紹介で知り手に取りました。ここんところ、毎晩、寝る前に読んでいて……たくさん付箋を貼っちゃいました。

    教育現場をはじめ、問題解決能力(ポジティブ・ケイパビリティ)が重視されがちな社会の中で。
    『どうしても解決しない時にも、持ちこたえていくことが出来る能力、ネガティブ・ケイパビリティを養うことが大事ではないか』ということ。
    問題を性急に指定せず、生半可な意味づけや知識でもって、せっかちに帳尻を合わせず、宙ぶらりんの状態を持ちこたえる。それも能力の一つなのだと!

    いやぁ〜〜‼︎ 目から鱗でした!読んで良かった。自分自身が、トラブルがあると、宿題を背負っているのが辛くて、どうにか早く解決したいと思ってしまう、せっかち(長女気質?)なので、この、初めて聞いた “ネガティブ・ケイパビリティ” もっと早く知りたかったなぁ。子育てでも、すごく役に立ったと思うの。

    さまざまな角度から論じられています。なので、HOWTOもの、という感じではありません。
    詩人によって発見された、ネガティブ・ケイパビリティ、その概念がどう再発見されたか。医療現場や精神科における検証(ここでの、プラセボ効果の話がすごく面白い)。伝統治療師の行為。シェイクスピアや紫式部の作品の中での検証。教育現場、そして戦争において…。

    個人的には、若い頃「あさきゆめみし」で読んだ時に、どうも源氏が好きになれず、あの世界観に浸れなかった私は、紫式部のあたりだけは速読しちゃいましたが…(^^;;

    ともかく、心に残る言葉がいっぱいありました。私が1番好きだったのは

    『何もできそうもないところでも、何かをしてれば何とかなる。何もしなくても、持ちこたえていけば何とかなる。Stay and watch、逃げ出さず、踏みとどまって、見届けてやる。』

    良いなぁ、この精神。自分も、こういうメンタルを養いたいと思うのでした。

    そして、大事なのは『寛容』と『共感』の精神。なるほどなぁと感じる言葉がいっぱいでした。少しだけ……

    ーーーー

    なまじっかの知識を持ち、ある定理を頭にしまい込んで、物事を見ても、見えるのはその範囲内のことのみで、それ以外に広がりません。

    ネガティブ・ケイパビリティは拙速な理解ではなく、謎を謎として興味を抱いたまま、宙ぶらりんの、どうしようもない状態を耐えぬく力です。

    音楽や美術には、問題設定もその解決もありません。芸術家が何とかして自分なりの仮の解答を差し出したのが芸術だからです。

    親もネガティブ・ケイパビリティを持つ必要があります。わが子が折り合いをつけて進む道を見出す時が来るまで、宙ぶらりんの日々を、不可思議さと神秘さに興味津々の目を注ぎつつ、耐えていくべきです。

    「お前たちは、他人のゴールには絶対辿り着けない。お前がテープを切るのはお前のゴールだけだ。」

    ーーーーー

    帚木蓬生さんの小説はいくつか読んでいて、その度に深い感動があります。
    また少しずつ読んでいきたいです。

  • レベッカ・ソルニットの「迷うことについて」でネガティブ・ケイパビリティに触れられていて、興味を持ったので読んでみたのだが期待していたような本ではなかった。
    「ネガティブ・ケイパビリティは拙速な理解ではなく、謎を謎として興味を抱いたまま、宙ぶらりんの、どうしようもない状態を耐え抜く力です。その先には必ず発展的な深い理解が待ち受けていると確信して、耐えていく持続力を生み出すのです。」
    とあるけれど、私はネガティブ・ケイパビリティ自体には「希望」の要素は含まれていないように思う。むしろ、理解できるかどうかすら分からないところに留まるもののような気もする。共感こそネガティブ・ケイパビリティみたいなことも言うけど、それもちょっと違うような…。

    どうしようもない状況の患者さんたちの話とか、プラセボ効果の話とか(ここ長かった)でちょっとずれてきたなと思ったけど、文学作品のあらすじを長々語り出したあたりではっきりおかしいなと感じ、ヒトラーと同一視してのトランプ批判と旧日本軍批判が始まってもう斜め読みになった。

    「寛容さのひとかけらもない」「軍隊はネガティブ・ケイパビリティとは全く無縁の存在」と声高に批判するけれど、本当に寛容を求め、本当に戦争を止めたいと思うのなら、戦争の悲惨さを延々書き綴るのでは足りないのではないか。むしろヒトラーやトランプや旧日本軍の心にこそどこまでも潜って、早急な価値判断で断罪せずに考え続けるべきなんじゃないのか。
    戦争は腐っても手段なんだから、悲惨さを主張してその効用の宣伝をしたってしょうがないというか、むしろそこに至るまでの経緯と手段としてのメリットをきりきり考え詰めて、はじめて対抗する策も生まれるのでは?と思う。メルケル首相を称揚する文章を読む限り、現実に進行中の戦争そのものには著者は興味なさそうなので、本当はどうでもいいのかもしれませんが。
    理解できないものこそ、放り出さず、寄り添って、留まる、自分の知っている理論から安易な答えを貼り付けない。キーツのネガティブ・ケイパビリティに言及し世に送り出したビオンの言いたいことって、そういうことだと、著者自身が書いていると思うのだけど。

  • ネガティブ・ケイパビリティとは何か、それを人生に生かすには、というあたりが知りたかったのだけれど、歴史上の人物の誰がその能力を持っていたとかそんな話ばかり。なのでパラパラと斜め読みして終わった。

  • 東大総長が今年の大学院の入学式の式辞でも言及した「ネガティブケイパビリティ」。そこでもこの本が紹介されていたので、読んでみた。

    詩人のキーツが作った言葉、ネガティブケイパビリティ(負の能力、もしくは陰性能力)とは
    「どうにも答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐える能力」「性急に証明や理由を求めずに、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいることができる能力」

    ポジティブでいることが求められる現代は、ポジティブでいることの落とし穴を見過ごしてしまう。
    「この能力では、えてして表層の『問題』のみをとらえて、深層にある本当の問題は浮上せず、取り逃してしまいます」「『分かった』つもりの理解が、ごく低い次元にとどまってしまい、より高い次元まで発展しないのです。」
    しかし、「私たちの人生や社会は、どうにも変えられない、とりつくすべもない事柄に満ち満ちて」いる。
    だから、その真逆の能力であるネガティブケイパビリティが重要になってくる。

    作者は、この能力のおかげで、ずいぶん楽になり、踏ん張る力がついたという。医師として、解決方法がない患者の悩みに直面した時、「この宙ぶらりんの状態をそのまま保持し、間に合わせの解決手間帳尻を合わせず、じっと耐え抜いていくしかありません。耐えるとき、これこそがネガティブケイパビリティだと、自分に言い聞かせます。すると耐える力が増すのです。」

    形にならなかったものが名付けられることで、そのものが存在するようになる。
    プラセボ効果をもたらす心理や不登校の子たちの宙ぶらりんの状態も、ネガティブケイパビリティという捉え方をすることで、くっきりとその存在意義、プラスの意味が見えて来る。
    ただの途中経過ではなく、意味のあるものとして、輪郭がハッキリするのだ。
    名付けのおかげで存在が認識されると、その存在が私たちに力を与えてくれるようにもなる。

    威勢のいい言葉が溢れ、性急に答えを出すことがカッコいいと思われがちな現代で、この言葉が人口に膾炙することは、我々に大きなプラスをもたらすのではないか。そんな期待もできる価値観だ。

  • ネガティブ・ケイパビリティと言う言葉を初めて知った。
    正解があるかも分からない問題に対して、拙速な理解や結論を求めずしばらく放っておく力であると理解した。究極的に平和維持にも。

    人間の脳は分からない状態を不安に感じ何らかの意味付けをするので、実際には難しい思考とも思える。

    ネガティブ・ケイパビリティの本質は。
    何でも答えを出す必要はないと思えること、放っておく力、寛容と共感。

    なぜネガティブ・ケイパビリティが必要か。
    持っている知識で見える世界は限られている、問題解決のための問題設定では事態を甘く見る、平和維持のため。

    どのようにネガティブ・ケイパビリティを発揮するか。
    考えても答えの出ない問題があることを肝に銘じる、じっくり考え他者の意見に耳を傾ける、結論を急がず時間薬の効果を活かす。

    何事にも白黒付け、スピードこそ正義とする昨今において一拍おいて俯瞰する意識は本質を見極めるのに大切と改めて思う。

  • 「ネガティブ・ケイパビリティ」とは
    「事実や理由をせっかちに求めず、不確実さや
    不思議さ、懐疑の中にいられる能力」です。
    (言い換えると、問題を解決しない能力。)

    キーツはシェイクスピアが備えていたこの能力を
    詩人こそ身に付けるべきとしました。

    しかしこれは簡単なことではなく、なぜなら、
    人の脳は、分かろうとする生物としての方向性が
    備わっているから。

    だけれど、人生における問題はだいたいがそんなに
    すぐに解決しないもののほうが多いので
    「宙ぶらりんでいる」能力、ネガティブ・ケイパビリティが
    有効だということでした。

    個人的にすぐ正解を求めてしまう癖があるので
    「宙ぶらりん」に耐える精神力を身に付ける
    努力をしたいです

  • ある機関紙で紹介されていたので、買ってみた。「ネガティブ・ケイパビリティ」の能力を強くして、もっと生きやすくなりたいという思いから。
    読み始めは興味深くページを進めたが、6章あたりからペースが落ちて来て、9章(教育)は再び共感しながら読んだが、10章は飛ばし読みしてしまった。飛ばし読みをすることはあまりないのだけれど…
    意義深い主題だが、読みながら構成上ついていきにくいところが時々あり、1冊の本としての完成度は高くないと感じてしまった。(編集の問題か…)

    詩人キーツが兄弟宛ての手紙の中で、シェイクスピアは「ネガティブ・ケイパビリティ」を有していたと書いていたことを、後に精神科医ビオンが見つけ、精神分析の分野でも「ネガティブ・ケイパビリティ」の重要性を説いた背景があるそうだ。「ネガティブ・ケイパビリティ」という概念の誕生秘話についてはもっと短く紹介して、5章くらいのボリュームでまとめたほうがすっきりするのではないか。キーツやシェイクスピアから始まった「ネガティブ・ケイパビリティ」という定義に縛られ過ぎている気がする。「答えの出ない事態に耐える力」だけでは、ありきたり過ぎるのだろうか…
     
    「答えの出ない事態に耐える力」は、シェイクスピアや紫式部、ユルスナールなどの大作家だけでなく、芸術活動を続けているほとんどの人が、多少の違いはあっても有している能力だと思う。また、「答えの出ない事態」は、研究者、事業家、サラリーマン、闘病者、介護者など、あらゆる立場の人々が日常的に直面している問題だ。なので、大作家の作品を殊更多くのページを割いて取り上げていることに違和感を覚えた。

    「答えの出ない事態に耐える力」で思い浮かべるのは、大震災の後、仮設住宅に住み続けている人たちだ。日々生きていくために、否応なく「ネガティブ・ケイパビリティ」を持たざるを得ず、共感のない事態にも直面し闘っていかなければならない。「ネガティブ・ケイパビリティ」を持ち続けるためには、何よりも共感が大切なのだとあらためて気づかされた。

  • 結論を急がず、混沌をそのまま受け入れる
    ネガティブケイパビリティ、
    大切な能力だと思う。

    ただ、紫式部やシェイクスピアと
    議論が深まるより横滑りしていった印象。

  • 解決不可能なもの、答えを簡単に出せないもの、分からないものをそのままにしてその事態に耐える力をネガティブケイパビリティというとのこと。
    これはとても今の時代こそ必要な力のように感じられる。
    小説や絵画という芸術において、また戦争という事態においてなどそれが必要だろうと思われる場面について章を改めて考察しているのが興味深かった。
    第七章の中で、米国のノーベル賞作家の7割がアルコール依存症だったという話が出てきたが衝撃的だった。統合失調症の性向と創造性との関連も興味深かった。著者が医師であり小説家でもある立場から考察していることで話の信憑性がより深く感じられたように思う。
    小説家にはネガティブケイパビリティが必要だというのは間違いないように私も感じました。
    第十章にはまた深く考えさせられました。ここに掲載された戦士された学生兵士の方々の言葉が胸に迫り苦しくなりました。
    そして今の世界の現状を思うと…途方に暮れる思いもします。
    寛容であることの必要性、共感を養うことの大切さを改めて認識します。今読まれるべき一冊と思います。

  • ネガティブケイパビリティとは
    分からないものを分からないままにしておく能力のこと。
    ついつい私達はわからない物事をすぐに解決しなきゃと思ってしまうけど、
    分からない事を分からないままにしておく事で、
    より深い解釈や創造を得ることが出来る。
    というのは理解したし、面白いと思うけど、
    源氏物語とかシェイクスピアの戯曲のあらすじが
    どうネガティブケイパビリティにつながっていくのかがいまいちピンとこなくて、そこが少し残念だった。

  • “ネガティヴ・ケイパビリティとは、「どうにも答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐える能力」をさす”

    問いに対して、すぐに答えが出ないこともたくさんある。ネガティヴケイパビリティはそういうのを肯定どころか、すすめている考えなんだろうな。私が最近気になっている「考えを発酵させる」ということに似ている気がする。

    学生の時は、必ず答えがある問いしか出ない。だけど、日常の問いには答えが無いことが多くて、あれかな、これかな、と考え続ける。また、新しい考え方を取り入れると、違う方向へ行くこともある。

    どうしたらいいんだろう?と悩んでる人に寄り添って、いく。そんな状態のことをいうのかな。みんな答えを求めているばかりじゃなくて、一緒に悩んだり、共感してもらうことも大事だよね。

  • p6 ネガティブ・ケイパビリティ それは事実や理由をせっかちに求めず、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいられる能力

    p63 ネガティブ・ケイパビリティを培うのは、「記憶もなく、理解もなく、欲望もない」状態だという

    私達の脳は、ともかくなんでもわかろうとします。わからないものが目の前にあると、不安で仕方がないのです

    p66 より前頭葉を発達させたヒトでは、分かるためにこの記号を大きく発展させた

    p73 自然と対峙したとき、今は理解でない事柄でも、不思議さや神秘に対して拙速に解決策を見出すのではなく、興味を抱いてその宙吊りの状態に耐えなさいと主張します

    p77 ネガティブ・ケイパビリティは拙速な理解ではなく、謎を謎として興味を抱いたまま、宙ぶらりんの、どうしようものない状態を耐え抜く力です。その先には駆らなず発展的な深い理解が待ち受けていると確信して、耐えていく特殊な持続力を生み出すのです。

    p87 人の病の最良の薬は人である

    p89 このような主治医の処方を日薬と目薬で表現します 
    何事もすぐには解決しあせん。数週間、数ヶ月、数年、治療が続くことがあります。しかし、なんとかしていくうちになんとかなるものです。これが日薬です

    目薬 あなたの苦しい姿は、主治医である私がこの目でしかと見ていますということです

    p100 こうしてみると、身の上相談には、解決法を見つけようにも見つからない、手の付け所のない悩みが多く含まれています。主治医の私としては、この宙ぶらりんの状態をそのまま保持し、間に合せの解決で帳尻を合わせず、じっと耐え続けていかなけれはなりません。耐えるとき、これこそネガティブ・ケイパビリティだと、自分に言い聞かせます

    p102 治すことはできないがトリートメントはできる
    トリートメント=治す行為

    p107 人の記憶装置は、決して過去をそのまましまい込むのでなく、将来への展望に沿って、ある部分は消去され、別のものが新たに挿入されていくのだと推測されたのです

    p202 GA ギャンブラーズ・アノニマスが目指すのは、単にギャンブルをやめることではなく、人としての徳目を身につけることです。その徳目として、思いやり、寛容、正直、謙虚があげらています。これら四徳目は、ギャンブルにうつつをぬかしているうちに、ことごとく失われていきます。

  • 「ネガティブケイパビリティ」の概念を詳しく知りたくて読む。
    イメージはつかめたような気がする。たぶん、何となく。。。
    完全に腑に落ちて人に伝えられる、
    というレベルには至らなかった。

    キーツ、シェイクスピア、紫式部。
    そしてメルケル首相、トランプ大統領、そして戦争。
    豊富なたとえ話が私には高尚すぎたか、
    色んな情報が詰め込まれており、正直戸惑った。

    ただ、プラセボ効果の話は、単純に面白かった。

  • 判型も小さく目立つ本でもないが、書名「ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力」が目にとまり。引き寄せられるように手にとった本。
    ネガティブ・ケイパビリティという概念に出会えたこと、その意味するところを知ることができたのは、本当にありがたい。
    ネガティブ・ケイパビリティ、寛容、共感、の欠如がこの今の世界の生きづらさの根源にあるのだということが理解できた。
    多くの人に読んで欲しい。とくに、子育て中の方、これから親となるような方には、ぜひおすすめしたいと思う。

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著者プロフィール

1947年、福岡県小郡市生まれ。東京大学文学部仏文科卒業後、TBSに勤務。退職後、九州大学医学部に学び、精神科医に。’93年に『三たびの海峡』(新潮社)で第14回吉川英治文学新人賞、’95年『閉鎖病棟』(新潮社)で第8回山本周五郎賞、’97年『逃亡』(新潮社)で第10回柴田錬三郎賞、’10年『水神』(新潮社)で第29回新田次郎文学賞、’11年『ソルハ』(あかね書房)で第60回小学館児童出版文化賞、12年『蠅の帝国』『蛍の航跡』(ともに新潮社)で第1回日本医療小説大賞、13年『日御子』(講談社)で第2回歴史時代作家クラブ賞作品賞、2018年『守教』(新潮社)で第52回吉川英治文学賞および第24回中山義秀文学賞を受賞。近著に『天に星 地に花』(集英社)、『悲素』(新潮社)、『受難』(KADOKAWA)など。

「2020年 『襲来 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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