2035年の世界地図――失われる民主主義、破裂する資本主義 (朝日新書)

  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022952059

作品紹介・あらすじ

戦争、疫病、貧困と分断、テクノロジーと資本の暴走──歴史はかつてなく不確実性を増している。「転換点」を迎えた世界をどうとらえるのか。縮みゆく日本で、私たちがなしうることは何か。人類最高の知性の目が見据える「2035年」の未来予想図。

感想・レビュー・書評

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  • 海外の有識者2人への個別インタビューに対して、国内の有識者2人が討論するという面白い構成。
    各国のコロナ対策の是非、ロシアのウクライナ侵攻に対するスタンスなど、インタビューを掘り下げていくと、有識者によって意見の食い違いがあることが分かり、国籍や立場によって複雑な事情があることを理解した。
    SNSやデジタル技術によって、人々が「単純化」された理論への志向が強くなり、少しでも異質なモノを見つけ次第排除しようとする傾向は、私自身も含め危惧している。リアルの交流が減ると、ついつい異質な他者を排除できるからだ。ただし、同じ価値観を共有できるほど、社会が単純ではない。
    人間は不確実で不完全な生き物。理解できない行動は誰にもある前提のもと、「agree to dissagree」のマインドを意識したいと思う。
    例えば、これまで読んだことの無いようなジャンルの本やニュース記事を読むとか、賛成出来ない意見に少しだけ耳を傾けるとか。そこまでやるのが苦痛であれば、価値観の合う人(仲の良い友人や家族など)と、自分の間にあるビミョーな違いを探して見るのも良いかもしれない。もちろん、アラ探しではなく、良い関係を維持したままが望ましいが。

  • 世界最高の知性が予言する『2035年の世界地図』発売!パンデミックと戦争で「地殻変動」を起こす世界に、私たちの居場所はどこにあるのか?|株式会社朝日新聞出版のプレスリリース
    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001646.000004702.html

    朝日新聞出版 最新刊行物:新書:2035年の世界地図
    https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=24031

  • 本書が登場した経過としては、新聞社による国外文化人を招いて講演をするようなシンポジウムが下敷きになっているそうだ。近年の感染症に関することの故に、国外の人達を招聘して、講演等を聴く人が集まるような催事が行い悪くなった中、国外の識者との対談を収録し、それを巡って国内の識者が討論するような方式ということを試みたのだそうだ。本書はそれらの内容を余すところなく収めたというモノである。
    2020年以降の感染症関係の事柄や、2022年のウクライナでの戦禍というような事柄が在って、何やら「世界は変わった?!」という様相かもしれないが、それらは例えば2019年頃迄に誰かが或る程度精確に予想していたということでもないという面も否定出来ない。大きな変化は何であったのか、その変化で何がもたらされたか、変化も踏まえて社会は如何いう方向に向かうのか、何が起きるのかと考えるべきこと、考えたくなることは多々在る。
    本書は、日本でも訳書が多く紹介されている国外文化人の話しを「基調講演」というようにし、それを巡って国内の識者が「討論」というような体裁で編まれている。「話し言葉」での文章が読み易く、素早く読了に至ったが、同時になかなかに読み応えも在った。
    感染症への対応を巡って「新しい何か」が各国社会に生じたかのように見えるという事柄、所謂SNSによるコミュニケーション、或いはそれらしきモノへの違和感というような提起と、それらを巡る討論が前半であったと思う。
    テクノロジーが行き着いてもたらされた何か、または高度化して変質した資本主義というような提起と、社会の変化と変化し悪い何かというような討論が後半であったと思う。

    2023年に入った時点でも、感染症の件でもたらされた影響は残って続いていると言わざるを得ない面が在る。そしてウクライナの戦禍に関しては、文字どおりに「予断を許さない」という様子で継続中になってしまっている。だからこそ「何が如何なった?如何なって行く?」と、少し立ち止まって考えてみるようなことも求められるのかもしれない。
    感染症の件では、多くの国々で何処か「全体主義的?」な対応も在った。そして各国が「各々の型の資本主義」となっている中で“成長”の不均衡に覆われてしまっている。そういう他方で戦禍である。何か考えるべきことが非常に多い。
    こういう本は、眼に留まった時に紐解いておくべきだと思う。広く御薦めしたい。

  • <目次>
    はじめに
    1民主死後の未来予想図
    ・まもなく民主主義が寿命を迎えるエマニュエル・トッド
    ・危機の時代だからこそ新しい啓蒙が生まれる
     マルクス・ガブリエル
    ・セッション興那覇潤x市原麻衣子
    2資本主義の未来予想図
    ・今こそ命の経済へ舵を切るときジャック・アタリ
    ・不平等な世界で資本主義を信じるブランコ・ミラノビッチ
    ・セッション東浩紀x小川さやか
    おわりに

    2022/10に行われた朝日地球会議2022の文字起こしの
    本だとのこと。
    文章が読みにくい。
    せっかく呼んできた海外有識者と
    セッションでの討論がかみ合ってない。
    ブッキングの間違い、かつ、内容が面白くない。
    さすが朝日。
    買って損した。

  • 個人的に面白いと感じたのは、下記の部分。

    P77
    日本語では「アイデンティティ」という言葉は英語のままなのですね。それは良いことです。まだ、その概念すら取り入れていないということですから。


    日本には沢山の外来語があるけれども、カタカナで使っているこれらの言葉は、概念を取り入れていないということなのか。
    ハロウィンやクリスマスも、表面的で商業的な部分を切り取って、お手軽に楽しむものとして取り入れているだけで、確かに概念は取り入れていないのかもしれない。

    自分の中では新しい考え方だったので、新鮮に感じた。

    本自体は、コロナのことや、グローバル化のことなど様々なことを複数の人たちが語っている本で、うん?と思うことも多々あった。発行は今年だけど、これを実際話しているのはもっと前だからか。今となっては。。って感じるものもあった。

    結局、人間を見るしかないし、
    他人のために何をどこまでできるか、がますます問われるようになっていくのかなあ、と思った。

    情報をたくさん持っているだけの人間はAIには当然勝てないけど、そこから考えて考えて考え尽くすことができるのが、人間の強みなのかもしれない。

  • 世界の頭のいい人たちからコンパクトに要点教えてもらおう!という、ある意味とても今っぽい本。中公新書で出た企画が成功したので、後追いという印象もある。
    後追いとはいえ、世界は変わっており、最新の状態を前提にスピーディに新書化してるので、つまらないということはない。
    今回はコロナとウクライナを前提に話している。
    複数の人が話し、それをまた複数の人が感想を言う二重構造で議論が深まっていて良い。
    学ぶとは考える体験であり、時間がかかるためデジタル化やコスパとは相容れないないという言葉は印象的。
    多元的に考えるという言葉一つでも、人によって表現が違い、印象も変わる。
    読後は「もっと本を読もう、ネットは減らそう」となった。

  • 『エマニュエル・トッド』
    (2022年現在、今後の世界情勢について)私は歴史家が本職。でも歴史の話はまったく役立たず。なぜなら、私たちが経験しているのは、まったく新しい何かだから。
    歴史と違う点
    ・20世紀初めは各国人口増加したが、今は中国も含め減少する見通し
    ・冷戦時は、ロシアとNATOが直接対決したことはないが、ウクライナ戦争は、核使用が現実味を帯びるロシア対NATOの本物の戦争
    ・プーチンは独裁者だと言うが、ヒトラーや、ムッソリーニ、スターリンと違いイデオロギーが無い折衷的で多様な独裁者
    ・各国国民は超個人主義になった。それはロシア国民も同じ。だから国家間の経済紛争や戦争が行っているのにどこの国民もここです。だから参加したがらない33

    中国に選択肢は無い。どうしたってロシアに加担せざるを得ない。一方、新興国のインド、トルコ、イラン、パキスタンなどは今後の世界を決める立場になる。しかも彼らは先進国を好きじゃない(旧植民地だから)。それにこれらの国は強烈な父権制文化の国で、女性解放などの先進国の理論には興味を示さない。彼らに選択を迫るのは危険だ39

    『マルクス・ガブリエル』
    ロックダウンシステムは「近代史上で初めて世界が中国を真似たシステム」。直ぐに見直されたが。56

    コロナ禍で分かったのは「国境無き世界」はまだ存在せず、相変わらず「国民国家」が世界の潮流だという姿が炙り出されたこと。結局どの先進自由民主国も、マスクやワクチンを奪い合い、国家内の医療保険制度の範囲に壁を作った57

    SNSでは、自由民主主義の水準に達する会話は成立しない。「Twitterで誰が大統領になったのか」を忘れてはいけない。(ガブリエルはコロナ禍の中でSNSアカウントを消去した)71

    アイデンティティーで人を見るのは間違っている。例えばジェンダーの問題で、相手をノンバイナリーやクエスチョニングの人として見るのは道徳的に間違い。なぜなら見解の是非を「相手のなかの人間性を見て判断」するのではなく「その人のアイデンティティーを見て判断」しているから。ここで言うアイデンティティーとはジェンダー、人種、国籍など72

    SNSでフェイク認定されてBANされる、といった国家が行えば「言論統制」と大問題になることを、Twitterなどの一企業が行っていることは異常 與那覇98

    「現代に歴史は参考にならない」は賛成。無文字社会から文字社会になり、歴史は「記憶=暗唱」⇒「記録=叙述」になった。そして現代、歴史は「データ=検索」の時代になってしまった。必要な時に歴史を「つまみ食い」する。私は「歴史家」という肩書きを辞めて「評論家」になった。與那覇109

    「日本はアジアで唯一の先進国」というパターナリズムをそろそろ捨てるべき。技能実習生というシステム自体が「途上国人を勉強させてやる」という建て前で成り立っている。これを「人口減少で衰退する日本の生活を維持するため『お手伝いに来てもらっている』」と正直に改めるべき。與那覇119

    グローバリゼーションの原因のひとつは「道徳にとらわれない自己利益の追及」だ。「これは禁止されていない」「法的には間違っていない」と経済活動する。これは道徳を外部委託している(政府や行政たけが担っている)ことが関わっている。しかし難しいのは利益追求と道徳がトレードオフになっていて、解決法が見つからないこと。ミラノビッチ167

    アフリカや南米、一部のアジアの国で見られるような極端な貧困や低開発がなくなった世界ができたとする。おそらくそうすると、より人々の交流が活発になるのと、各国内(先進国)の格差問題や不平等の縮小が起こると予想できる。ミラノビッチ186

    「リープフロッグ現象」先進諸国が経験した段階を「蛙飛び」にして新興国で特定の技術やインフラが先進国より速いスピードで整備、浸透すること。アフリカでは銀行口座持てなかった人々が電子マネーを使い、物資が行き届かず餓死者が出てた村にドローンでモノが供給されたり、携帯ゲームで教育が普及したりしている224

    ジャック・アタリの「ポイズンフードをやめよう」「ナチュラルなものを接種しよう」という主張に疑問。アフリカでは虫害や干ばつに強いので遺伝子組み換え大豆が人々の命を救っている。反ポイズンフード思想を先進国の理論で、無自覚に、急速に強要すれば反論と大混乱を招く。小川227

    SNSは秒で情報を得られるが、「考える」ことが出来ない。《人新世の資本論》は面白かったが、結論の「一人ひとりが考えて立ち上がるしかない」が不満。本当に今必要なのは「一人ひとりが立ち上がるために、人々に啓蒙や教育をどう届けるか」という方法論だ。東229

    AIの恋人が出来たとする。長いあいだ恋人として会話したけれど、ある日、実は会話はアルゴリズムだったと発覚する。その「恋人」に「今まで会話してくれてありがとう」と言えるか。多くの人は「裏切られた」と思い結婚詐欺に遭ったと同じように感じるのでは?東239

    私は「人々はそんなに理解しあわなくてもいい」と心から思っている。「理解しあえなくても共存できればいい」と考えるのが大事。この考えは人類が共存しあえる社会を作れる可能性がある。それに自分や自分と同じ考えのグループが、危機に陥って解決策が無い時、自分たちの思想が破綻したときに、全く想像もつかない「別の考え」を得られるリスクヘッジにもなりうる。小川240

  • 寄せ集めだ

  • 4人の著名な哲学者、歴史家や経済学者のパンデミック後の10年を展望した未来予想を紹介しています。ウクライナ戦争の現状は決して楽観的な展望を予想できるものではありませんが、総じて4人の世界的な知識人は人類の将来について楽観的であり、自由民主主義を背景にした「資本主義」に対して肯定的です。日本の役割にも期待しています。熱い戦争はしない。冷戦は抑える。グローバル化への復帰の三原則は、21世紀も民主主義の時代であり続ける条件としています。目先のウクライナやパレスティナ情勢、トランプ復権のアメリカに象徴せれる分断社会、中国への甘い味方や日本の程度の低い政治や政治家の混乱状況を見ている限り、日本の政治的リーダーに多くは望めません。少子化対策、女性活躍、AIの普及等日本復元の必要条件も多い。

  • トッドさんが好きなので買いました。以下引用ではないのですが、
    「第一次世界大戦、第二次世界大戦と現在起きている紛争は違う。前者は人口が増え、成長している世界で起きた。現在は衰退国の戦争である。本質的に全然違うものである。現在は国民の意思と乖離し、政府が戦争をしている。」
    納得。だからどうなる、というところまでは落とし込めていません。歴史学者のトッドさんでさえも未知の領域なのである。そのうち考えをまとめてくれないかな。

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著者プロフィール

1951年フランス生まれ。歴史人口学者。パリ政治学院修了、ケンブリッジ大学歴史学博士。現在はフランス国立人口統計学研究所(INED)所属。家族制度や識字率、出生率などにもとづき、現代政治や国際社会を独自の視点から分析する。おもな著書に、『帝国以後』『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』などがある。

「2020年 『エマニュエル・トッドの思考地図』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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