新版 ナチズムとユダヤ人 アイヒマンの人間像 (角川新書)

著者 :
  • KADOKAWA
3.70
  • (4)
  • (7)
  • (8)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 112
感想 : 13
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784040822563

作品紹介・あらすじ

アイヒマン裁判を、ハンナ・アーレントらと共に傍聴していた「日本人」作家がいた!
裁判の現場にいた著者による、生々しき傍聴記とアイヒマンの評論。
絶対に許してはならない優生思想と排外主義。その負の歴史を語り継ぐために、当時ベストセラーとなった本書を復刊する。

人類史に残る、恐るべきナチスによるユダヤ人絶滅計画。
その実態と、その背景にある思想は何か、またこの計画の実際的推進者であったアイヒマンの思想はどのようにして形成されたのか。
当時、イスラエルに赴いてアイヒマン裁判を直に傍聴してきた著者が、この謎に独自の光をあてたものである。
まだハンナ・アーレントが著名になる前、裁判の翌年(1962年)に刊行された本書には、「凡庸な悪・アイヒマン」と、裁判の生々しき様子が描かれている。

※本書は一九六二年に角川新書で刊行され、一九七二年に文庫化された作品を復刊し、著作権承継者による解説を加えたものです。
底本には一九七五年の文庫第七版を使用しました。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 1961年イスラエルでナチスの戦犯アイヒマンの裁判が行われた。直接傍聴した著者によるユダヤ人虐殺の実態。
    余りの内容に気が重くなった。シンドラーのリスト(映画)のシーンと重なる所が多々ある。
    何故ユダヤ人はあんなにも殺されなければならなかったのか(600万人くらい)。ナチスは本気でヨーロッパのユダヤ人を絶滅させようと思っていたらしい。
    なぜ彼らは長年にわたり迫害されているのか。
    そして現代イスラエルのパレスチナに対するフレンドリーとは言えない態度の謎。
    ユダヤ人に関してはよくわからない事が多い。
    迫害される理由を考えてみるに、一つには、ユダヤ教の選民主義が思い当たる。
    自分達だけが救われると考えている宗教は外部からは好かれない。
    それではいけないよね、と登場した宗教改革者のイエス・キリストも彼らは殺してしまった。(厳密に言うと命令したのはローマ人だけど)
    異教徒のサマリヤ人を褒めたり、右のほおを殴られたら左を差し出せと言ったり、カエサルのものはカエサルに返せと言うような救世主なんか要らなかったのだろう。
    もう一つは、経済的、社会的に成功しているユダヤ人への妬みだろうか。
    彼らは富を蓄積する事は善であると考える。そこはキリスト教とは大きく違う所かもしれない。

  •  ユダヤ人(など)の大量殺人、ホロコーストにおける、主に殺害対象者の絶滅収容所等への鉄道輸送を一手に担ったアドルフ・アイヒマンの経歴と裁判記録。生き残りの被害者の生々しい虐待の経験の証言が第一部に置かれその後アイヒマンの経歴とナチ・ドイツによるユダヤ人迫害の経過が折り混ざったような文章が続く。  全体として、アイヒマン裁判の記録の面もあるがアイヒマンの個性とナチ・ドイツのホロコーストの概説書の側面が強いか。

     本書にもあるように、文学を超えた出来事であるのでこのような本の方がいわゆるホロコースト文学を読むより今日的教訓になると思われる。例を上げれば、やはりホロコースト研究所を読む方が「夜と霧」や「アンネの日記」を読むより、ヨーロッパ近現代史におけるホロコーストの位置づけやその台頭の理由が視野広く見通せるようになるし、これらの蛮行の背景的思想である反ユダヤ主義(他民族差別)や、本書には殆ど触れられないが今日では欠かすわけにはいかぬ安楽死作戦における優生思想に対抗する視座を獲得しやすくなる。日本人によるヨーロッパ文明の根幹をなすキリスト教やその起源であるユダヤ教などへの文明批評的側面も持つ書籍である。良書認定。

  • 裁判記録を元にしたノンフィクションとなっており、強制連行されたユダヤ人の生き残りの証言は非常にシビアで重い。映画や教科書では語られない、ホロコーストの現実を知ることができる一冊。

  • ホロコーストを生き延びた人々の証言が生々しい。
    戦争が終わった後に敗戦国を裁くということの矛盾。日本人なら東京裁判に思うところがあるが、ナチスとイスラエルでも同じ構図がある。考えさせられる。

  • アイヒマンの昇進は決して早い方ではなかった。ナチは過去の体制の破壊をとなえ、中産下層の不満分子を大量に吸収することに成功したが、ナチがつくりあげたのは實は学歴社会だった。親衛隊でも、大学を出ていなければ偉くなれないのである。第二次大戦がはじまって親衛隊も戦場に出るようになってからは、戦場での勲功で将官になる道が開かれた。そういう場合を別とすれば、大学を出ていないとせいぜい中佐どまりだった。アイヒマンは1939年まで7年かかって、やっと大尉、のちに中佐である。同じ期間に同郷のカルテンブルナーは下士官から将軍へと階段を駆け上がって、後に対象になった。ハイリヒはアイヒマンと年齢は2つくらいしか違わないのに、元海軍中尉の肩書がものをいって、国家保安本部の長官におさまっている。オットー・オーレンドルフは経済学と法律学をおさめた学者で、年齢はアイヒマンより下だが国家保安本部の局長をつとめ、のちに1941年には少将に任官した。例外は、掲示上がりのゲシュタポ・ミュラーくらいだろう。それを思うとアイヒマンは不満だった。この学歴社会で地位を獲得するみちは、ユダヤ人問題の「専門家」というその特権を生かす以外にない。幸いナチの上層部は、ユダヤ人問題の「解決」を最優先政策の1つとしていた。

  • 【1.読む目的】 
    •関心のあるナチスナチズムについて理解を深める
    (誤解のなきように、ナチスの所業は人類最大の愚行の一つだと思っていて、それがときに集団や組織としてまかり通ってしまうことに対して関心がある。)
    •凡庸な悪、と形容されるアイヒマンの裁判記録からその人物像や危うさを知る。

    【2.気付きや気になった点、面白かった点等】
    •ふつうならできることではないし、してはならないことだ。しかし、われわれは嫌悪にうちかたなければならない。少なくともここで起こったことを人びとに告げるために、だれかが生き残らなければならない。


    【3.感想】

  • ユダヤ教から生まれたキリスト教のローマ征覇以来、ヨーロッパにおいてユダヤ人がどのような立場に置かれてきたのか。またそれがどのようにナチスドイツに受け継がれたのか。

    はじめて、そういうことを知れた。

  • 東2法経図・6F開架:316.8A/Mu48n//K

  • 読み応えがある。前半は心が辛かった

全13件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

評論家。筑波大学名誉教授。1929年生。東京大学大学院文学研究科仏語仏文学専攻〔59年〕博士課程修了。94年没。大学院在学中から文芸評論家として活躍。58年には遠藤周作らと『批評』を創刊する。ナチズムに対する関心から、61年アイヒマン裁判傍聴のためイスラエルへ赴く。62年にはアルジェリア独立戦争に従軍取材。立教大学教授などを務めたのち、74年筑波大学教授。著書に『アルジェリア戦争従軍記』『死の日本文学史』『評伝アンドレ・マルロオ』『帝王後醍醐 「中世」の光と影』『三島由紀夫の世界』など。

「2018年 『新版 ナチズムとユダヤ人 アイヒマンの人間像』 で使われていた紹介文から引用しています。」

村松剛の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×