戦車将軍グデーリアン 「電撃戦」を演出した男 (角川新書)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784040823218

作品紹介・あらすじ

新書大賞2020第1位『独ソ戦』著者の最新作!!

「電撃戦」はなかった!
『「砂漠の狐」ロンメル』に続き、欧州を征服し、第二次世界大戦を席捲した名将の素顔を暴く。
伝説となった戦車将軍は、ドイツ装甲部隊をいかにしてつくりあげたのか?
『独ソ戦』著者の最新作にして、最新学説による、これまでの俗説を一掃する決定的評伝!

第二次世界大戦の緒戦を華々しく飾ったドイツ装甲集団を率いた著名な将軍にして、「電撃戦」の生みの親とされ、連合軍からも「名将」と畏怖された男、グデーリアン。
ところが、「電撃戦」というドクトリンは存在しなかったことが今では明らかになっている。
ロンメル同様、グデーリアンの研究は日本では遅れていた。
いまでは否定されている数十年前に人口に膾炙した伝説が、未だに独り歩きしているのだ。
彼は国粋主義者だった。が、純粋な愛国者だったのか、それともナチの賛同者だったのか? 
ヒトラー暗殺計画にどこまで与していたのか?
欧州を征服した男にして、伝説となった戦車将軍の仮面を剥ぐ。
――ドイツ装甲部隊はいかにしてつくられたのか、その真相が明らかとなる。

【目次】

序 章 さらば夏の光よ
第一章 仮面を剥がされたグデーリアン
第二章 青年将校
第三章 多くの戦訓を得た第一次世界大戦
第四章 敗戦と義勇軍体験
第五章 自動車部隊へ
第六章 戦車に注目せよ
第七章 装甲部隊の「総稽古」
第八章 砲火の洗礼
第九章 不完全な勝利
第一〇章 「バルバロッサ」作戦
第一一章 深淵への転落
第一二章 斜陽を受けながら
終 章 修正された自画像

あとがき
グデーリアン年譜
主要参考文献
写真・図表について

感想・レビュー・書評

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  • ドイツ装甲師団の機動力の威力を十二分に発揮し、一連の勝利を上げた「パンツァ-・ゲネラル(戦車将軍)」のニックネ-ムをもつグデ-リアンの栄光と零落の生涯を追った『砂漠の狐・ロンメル』に続く大木毅氏の、ドイツ国防軍と英雄神話解体新書。ソ連を打倒し、東方に巨大帝国の建設を政治目標にしていたヒトラ-総統の思惑と二正面戦争への懸念に疑義を唱えたグデ-リアンは、モスクワ前面での敗北により解任された。 プロイセンの大地主の家に生まれ「名将」の誉れをを欲しいままにしたが、自画自賛の『電撃戦』を刊行しこの世を去った。

  • レン・デイトンは、その著書『電撃戦』(1989年)において次のように述べている。
    「1940年5月、機甲部隊と車両化部隊を集中的に投入して遂行されたドイツ軍によるベルギー領アルデンヌ森林地帯の突破、フランス領ドーヴァー海峡沿岸までの侵攻作戦は、(略)戦史上これこそが唯一のほんとうの電撃戦の例として残っている」
    独ソ戦の緒戦まではドイツ機甲師団が縦横無尽に電撃戦を展開していたように妄想していたので、この記述にさえ些か驚いたものだった。
    ところが、本書『戦車将軍 グデーリアン』はついに「『電撃戦』はなかった!」とまで言い切ってしまう(帯の宣伝)。さすがに「なかった」というのは言い過ぎのような気はするが、既にグデーリアンの『電撃戦』(原題『一軍人の回想』)の脚色甚だしきは「欧米諸国における(略)現代の定説」であり、ドイツ機甲師団の創設者にして電撃戦の立役者であるという赫々たるグデーリアン像も揺らいでいる。
    それではどこまでが事実でどこまでが演出なのか。著者は、最新の研究成果も踏まえながら、諸資料を照合してグデーリアンの実像を追い求める。それは単なる偶像破壊ではなく、グデーリアンという稀有の人物をドイツ機甲師団の歴史の中に正しく位置付けることになるだろう。

  • 帯にある「電撃戦は無かった」が、グデーリアンの著書の「電撃戦」が都合良く編纂されていることと、ドイツ軍のドクトリンに「電撃戦」なるモノは無かったのダブルミーニングだったとは。うまい帯を着けたものだ。

    それにしても、グデーリアンの萌芽ロンメルよりも余程「伝説」と「実像」の乖離した人物であったとは意外であった。そりゃ、誰でも自分を良く見せようとはするものだけど。

    優秀な作戦指揮官止まりはともかく、国粋主義的なプロイセン軍人の典型ってのはなあ。

  • ドイツ軍は戦略次元においては粗放な思考しか持たなかったと書くがじゃあ徹頭徹尾、戦略次元で動けた国が古今東西見渡して挙げることができるだろうか?ちょっと大戦時のドイツばかり見すぎでは。

  •  第二次世界大戦における「電撃戦」で欧州を席巻したドイツ装甲部隊の生みの親と呼ばれるハインツグ・デーリアン将軍の評伝。
     前作のロンメルの評伝と同様、様々な脚色によってゆがめられた「グデーリアン像」に対し、ファクトをベースに実際の姿をあぶりださんといているのが本書の大きな特徴だと思います。

     ロンメルの場合、周辺の人々の様々な思惑が脚色されたロンメル像を形作った(ロンメル自身は1944年に服毒自殺を遂げているので当然なのですが)のに対し、グデーリアンの場合は自身がこれを意図した点がロンメルとの大きな違いでしょう。
     彼の回想録には、自身の手によって画期的な装甲戦術が編み出され、暗愚な上司の無理解に悩まされながらも装甲部隊創設を成し遂げ、戦中では多大な戦果を挙げたものの、ヒトラーやその取り巻きの無能によってこれが無に帰せられたことが綴られています。
     しかし本書を読むと、これらが(嘘とまでは言わないものの)大きく脚色された物語であることがわかります。

     構成としてはグデーリアンの青年将校時代から、第一次世界大戦での活躍、戦間期の活動、そして第二次世界大戦と戦後の活動に至る、グデーリアンの一連の歴史経過がたどられます。
     その中で大きく3つの(グデーリアンにとっての)「不都合な真実」が語られます。
     1つは「装甲部隊(戦術)の生みの親」の栄誉を実際以上に享受している点。
     当然グデーリアンもこれに大きく寄与していたことは事実ですが、一方でフォルクハイムやルッソといった優秀な先達が数多く存在し、彼らなくしても装甲部隊の創設はあり得ませんでした。

     もう一つは、グデーリアンは巷でいわれるような「政治や人道に中立な軍人」ではなかったという点。
     グデーリアンは元来国粋主義的な思想を有しており、第一次世界大戦後に創設された(彼も所属する)武装組織である「鉄師団」は、数々の残虐行為を繰り返します。
     また、ポーランドにおける保養地取得に関するマンシュタインの回想では、人道を意に介さないグデーリアンの非情な姿が垣間見られます。

     最後は、グデーリアンは優れた戦術眼を有する一方で(ドイツの多くの将星たちと同様に)戦略眼は欠如していたという点。
     グデーリアンの戦術眼には目を見張るものがあり、対仏戦での戦術行動は今でも各国軍の模範とされていることが示される一方で、対英戦や対ソ戦では随所で戦略眼の欠如を示す言行が見られることが紹介されています。

     本書ではグデーリアンのあまり知られていない経歴(特に第二次世界大戦前)が具体的に説明されているので新鮮です。
     また随所にみられる小ネタ(具体的なエピソード)もなかなか面白いですね(たとえばマンシュタインが自身の対仏作戦構想をグデーリアンに評価してもらう際、二人は異なる部隊に所属してたがその司令部はたまたま同じコブレンツに置かれており、しかも二人の宿泊するホテルはなんと隣同士だった)。

     ロンメル、グデーリアンに続き、マンシュタインの評伝も予定されているとのことで、それも楽しみですね。

  • 東2法経図・6F開架:289.3A/G91o//K

  • ■0994. 2020.04.22

  • 2020年4月28日BunDokuブックフェアで紹介されました!

  • 「独ソ戦」以来「ロンメル」、「グデーリアン」と
    きました。
    本書のあとがきにもあるように
    偶像破壊や受けを狙った奇矯な新説の提示などではなく
    欧米諸国の研究の成果をもとにした現代の定説を
    紹介しているとのこと。
    続くであろう「マンシュタイン」も楽しみ♪

  • 「韋駄天ハインツ」の異名を持つことで知られる第二次世界大戦時の軍人、「パンツァー・ジェネラル」ハインツ・ヴィルヘルム・グデーリアン上級大将の評伝(2020/03/10発行、990E)。

    本書は宣伝文句として謳われているような欲説を一掃するモノでは有りません。 著者が指摘するグデーリアン像は日本でも数十年前から指摘されており、個人的に期待していた程の内容では無く、寧ろ期待外れでした。
    又、前書のロンメルの評伝(「砂漠の狐」ロンメル ヒトラーの将軍の栄光と悲惨」)とは異なり、資料批判がメインとなっているため、面白みに欠けているのもマイナスです。

    因みに本書で著者が批判している下賜金の話や戦後アメリカ軍の管理下で進められた第二次世界大戦史については、守屋純 著の「国防軍 潔白神話の生成」やゲルト・ユーバーシェア,ヴァンフリート・フォーゲル共著の「総統からの贈り物 ヒトラーに買収されたナチス・エリート達」で本書より詳しく書かれているので、興味のある方は其方を参照するのが良いでしょう。

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著者プロフィール

現代史家。1961年東京生まれ。立教大学大学院博士後期課程単位取得退学。DAAD(ドイツ学術交流会)奨学生としてボン大学に留学。千葉大学その他の非常勤講師、防衛省防衛研究所講師、国立昭和館運営専門委員等を経て、著述業。『独ソ戦』(岩波新書)で新書大賞2020大賞を受賞。主な著書に『「砂漠の狐」ロンメル』『戦車将軍グデーリアン』『「太平洋の巨鷲」山本五十六』『日独伊三国同盟』(角川新書)、『ドイツ軍攻防史』(作品社)、訳書に『「砂漠の狐」回想録』『マンシュタイン元帥自伝』(以上、作品社)など多数。

「2023年 『歴史・戦史・現代史 実証主義に依拠して』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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