料理番 忘れ草 新・包丁人侍事件帖 (2) (角川文庫)

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  • KADOKAWA/角川書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041034873

作品紹介・あらすじ

江戸は梅雨の土砂降り。江戸城台所人の鮎川惣介は、自宅へ戻り浸水の準備に差配を振るっていた。翌朝、住み込みで料理を教えている英吉利人・末沢主水が行方不明となり、惣介は心当たりを探し始める。

感想・レビュー・書評

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  • 人並み外れた嗅覚を持つ江戸城台所人・鮎川惣介と剣の達人の大奥添番・片桐隼人の幼馴染みコンビが様々な事件に挑む〈新包丁人侍事件帖〉シリーズ第二作。
    〈包丁人侍事件帖〉シリーズから数えれば第九作になる。

    「半夏水(はんげすい)」
    豪雨の中、姿を消したイギリス人・末沢主水。かつて彼が在籍していた天文屋敷に向かったかと思われたが来ていないと言われる。調べると金貸しをしていた隠居老女の拐かしに巻き込まれたようで…。

    豪雨が収まるように願掛けした隼人が封印したのが親バカというのがコミカル。主水の人の好さが光る。しかし一番印象的なのは老女。こんな目に遭っても口が減らないのだから世話ない。

    「大奥、願掛けの松」
    幹に七度か十度か願いを刻めば叶うと噂の大奥の松。しかしそこに刻まれたのは新人上役を呪う言葉で…。

    このシリーズには度々厄介な性格の役人が登場し職場を不穏な空気にする話が出てくるが、今回もまた厄介。しかも勘違い型で人の話を聞き入れないのだから堪らない。
    それでも前作の松平外記の悲劇を繰り返すまいと奔走する隼人と彼を助けようとする惣介が良い。
    久しぶりに曲亭馬琴が登場したが、病のせいか少し傲慢さが引っ込んでいて逆に落ち着かない。

    「鈴菜恋病」
    麻疹が流行し、鮎川家も片桐家も襲われる(惣介と隼人は幼いころ罹患済み)。とはいえ今回の麻疹は軽いらしく命まで落とす者は少ない。そんな中、飲めば麻疹に罹らないという怪しい薬が売られて…。

    今回の作品を通してついに明かされる、鈴菜の恋のお相手。惣介は頭では気付いていたものの、父親としてかこれまでの関わり方からか、なかなか認めたくないらしい。
    一方で鈴菜の相手もまた鈴菜を思うゆえにお勤めに対する覚悟が揺れ動く。
    最後に娘に向かって共に生きていく覚悟を問う惣介が妙に格好良い。過去に志織も凛とした母親らしさをみせたが、この夫婦は普段は落ち着かないが決めるところは決めている。

    まだ麻疹に対してワクチンも治療薬もなかった時代、様々な噂や怪しい薬にすがる人々の姿はコロナに見舞われたばかりの世界を思い出す。
    料理のプロである惣介でさえ、麻疹に罹った者が食べてはいけないという迷信レベルの情報に惑わされて卵を食べさせるのを躊躇するくらいだから、庶民となれば盲信するのも仕方ない。そんな中で鈴菜の医者修行の師匠・滝沢宗伯が冷静に判断したり怪しい薬が堂々売られていることに憤りを感じているところは好感持てる。しかし宗伯が癇癪を起こすシーンもあり、そこは馬琴譲りの性質も感じさせる。

  • 徳川家斉の料理番を務める鮎川惣介が、同僚や友人たちの周辺で起こる事件を、料理の蘊蓄を散らばめながら、解決していく。家族や友人・同僚たちにあれこれ思う心のつぶやきがいちいち書かれていて、江戸時代の人の思うこともも現代人と同じようなものだったのかなとふと考えさせられる。徳川家斉が、意外と人心が分かっていたり、ちらっと出てくる滝沢馬琴がめんどくさいやつだったりして面白い。

  • 江戸城の御膳所で料理人を務める、ぽっちゃり系鮎川惣介の新シリーズ第二弾。
    鮎川家は、惣介と妻の志織、長女・鈴菜、長男・小一郎のほか、将軍家斉から内密にお預かりしている英吉利人・末沢主水(すえさわ もんど)、主水に料理を教えるために鮎川家に身を寄せている、ふみ、その息子の伝吉と、なかなかに賑やかな大所帯となった。

    第一話 半夏水(はんげすい)
    梅雨の集中豪雨で浸水被害の対応に追われる中、家斉から預かっているイギリス人水夫の主水が行方不明になった。
    人の心が闇に堕ちる理由はさまざまあれど、上に立つ人間が気付いてやれないのも、今回に限ったことではない。
    シングルマザーのふみさんがかなりのしっかり者で好感。

    第二話 大奥 願掛けの松
    大奥の事件に関わって何度もロクでもない目に遭っている惣介は、隼人の話を聞きたくない。
    江戸時代の幕府に仕える「お役目」は世襲制である。良いのか悪いのか・・・
    年長者の支えも大切だが、本人が多少痛い目にあって学んで行く中でしか、本当の成長はないのかもしれない。

    第三話 鈴菜恋病(こいやまい)
    文政六年、麻疹(はしか)が大流行。流言飛語飛び交い、怪しいおふだが売られ、薬の値段が釣り上がる。
    疫病を使った金儲けを目論むヤカラが雨後の筍のように湧くのは現代と同じ。
    鈴菜の医療の師匠・滝沢宗伯(たきざわ そうはく)は、ある偽薬の存在に危機感を抱く。

    そして・・・惣介の長女・鈴菜は、文政七年正月で十七歳。
    医学の勉強も始め、武家の娘らしい身なりや立ち居振る舞いをするようになった。
    大鷹源吾(おおたか げんご)と恋仲らしい。
    娘を持つ父親あるあるで、認めたくない惣介だったが・・・

  • ずば抜けて鼻のきく惣介。
    気付きたくないことにも気付いてしまったりもするけれど、悪人の嘘を暴く決め手にもなる。
    親友隼人とともに、家族のことで悩んだりもするけれど、2人の関係は、本当に素晴らしい。
    英吉利人主水の存在が、なんとも味があっていい。
    今回は、将軍のお召しは少なく、職場よりも私生活のあれこれが語られて、鈴菜ちゃんの今後。すごく気になる。

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著者プロフィール

三重県伊勢市生まれ。愛知教育大学教育学部教職科心理学教室卒業。高校時代より古典と日本史が好きで、特に江戸に興味を持つ。日本推理作家協会会員。三重県文化賞文化新人賞受賞。主な著作に「包丁人侍事件帖」シリーズほか、「大江戸いきもの草紙」シリーズや『芝の天吉捕物帳』『冷飯喰い 小熊十兵衛 開運指南』がある。

「2019年 『料理番 旅立ちの季節 新・包丁人侍事件帖(4)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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