終業式 (角川文庫 ひ 8-11)

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  • Amazon.co.jp ・本 (350ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041835111

感想・レビュー・書評

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  • どん、と強い衝撃を、何度も受ける一冊。
    痛かったり、恥ずかしかったり、羨ましかったり、色々な種類の衝撃を不意討ちで、喰らいます。

    「地の文」が一切なく、登場人物が他の登場人物に宛てた手紙だけで物語は進みます。

    主人公が高校2年生であった時を起点にした、約20年間が描かれています。

    同級生への淡い恋心、先生の悪口、同級生の噂話、受験、進学…
    そんなことで埋め尽くされていた手紙の内容は登場人物達が年齢を重ねると共に変化していきます。

    別離、結婚、不倫、奪取、離婚…。
    彼らに起きた様々な出来事が、変化する手紙の内容から、推察されます。

    手紙というのは、ある程度自分を客観視していたり、
    少なくとも自分の気持ちを文章にできる程度に整理できていないと書けないもので、その上でどうしても他者に伝えたい気持ちが詰まったものなので、出来事の受け止め方や、人の心について、核心をついている表現が多く、そういう意味で、色々な種類の衝撃を受けたのだと思います。

    作中にはいくつか、投函されない手紙も登場します。これが非常によい持ち味を発揮しています。

    伝えたいと思って書いた後に思い直して、自分の中に仕舞う感情。
    これが手紙の書き手の本心を表していて、作品全体をぐっとリアルに仕上げています。

    結局投函されなかった手紙の中に
    「なんていうのかな、わがままを言ってくれなきゃ応対できないんだよ、他人は。わがままを、ありったけのわがままをぶつけることが、それが他人を好きになるということなんだ。好きな人にはわがままを言われなければ意味がないんだ。
    こんなことを言ったら相手に悪いとか、こんなことをしたら相手に悪いとか、そういうことを考えることがもう、冷たいことなんだ。」
    という文がありました。強く印象に残りました。

    とても素敵な一冊に出会えました。おすすめ。

  • 行間を読むということがこんなにも面白い本に出会ったのは初めてです。特に投函しなかった手紙がミソですね。ある種推理小説のような側面もあり、読み返しつつだったので読了までに時間はかかりました。私は優子と似たところがあり、そんな優子を励ます都築らの言葉に涙しそうになる場面も少なからずありました。構成も斬新で、物語全体に厚みがあり、そして懐かしさを感じさせてくれた本でした。

  • 小説的な地の文が一切無く、全てが手紙やFAXなどで構成されている小説はとても斬新だと思った。その人がどう行動したか、何があったのかは細かく見ることができない分、投函されず、本人だけの想いが綴られた手紙などもあり、神の視点で登場人物それぞれの人生が見れた。登場人物がたどり着いた結末までの軌跡がとても切なく、興味深かった。

  • 僕が一番好きな小説です。
    恋愛小説として大好きです。
    今までも沢山恋愛小説を読みましたが、この小説が一番です。
    他の恋愛小説と、何が違うのか。ちょっと考えてみました。
    一言で言ってしまうと、それは「僕の身の丈にあっている。」と言うことです。
    もちろん、傷心の海外旅行での出会いとか、クルーザーで港の夜景を見ながらのデートとか、そういう恋愛小説も好きなのですけれども、そこには「僕」がいません。
    そう、「終業式」を読んで、僕が「一番好き」と断言できるのは、「たとえば登場人物の中に僕がいても違和感がない。」僕の身の丈にあった恋愛小説だと言うことです。
    物語は、一九六〇年頃生まれた同級生四人の高校時代からスタートします。舞台は、静岡県浜松付近。僕が生まれた年代や土地柄とは全く異なります。それでも、「僕が登場してもおかしくない。」と思えます。何故なのでしょうか。
    それが、この小説の他では読めない、恋愛小説であるポイントのような気がします。恋愛に対する四人の試行錯誤。これが、ポイントではないかと思います。
    都築は行き当たりバッタリですし、悦子は雰囲気に流されやすい。島木は猪突猛進ですし、優子は考えすぎなのですけれども、みんな失敗しながら、少しずつ大人になってゆきます。


    おきまりのパターンを踏まない恋愛は、試行錯誤、遠回りです。でも「恋愛」って、そういうものですよね。自分の好みの異性は、自分で見つけるしかないし「見つかった」と思ったら、相手にも「見つけた」と思ってもらえるように努力しなくてはならないのですけれども、それって、必ずしも雑誌に載っているようなテクニックがうまくいくとは限りません。もし、失敗したとしても、誰もフォロー(例えば、替わりを見つけてくれるとか?)してくれません。結局、自分でどうにかするしかないのです。たとえ、うまくいって、ドラマに出てくるような、トレンディーな恋愛になったとしても、それが幸せへの切符であると思えません。そんな僕は、登場人物の試行錯誤に励まされるのです。僕も「今は遠回りをしながら、でも前進しているのだ。」と思えるのです。
    自分の恋愛観を「遠回りが趣味」とは思いませんが、こんな登場人物たちに共感がもてる人とは、きっと仲良くなれる。そんなふうに思える恋愛小説でした。

    ーーーーーー

    角川書店から新たに刊行されたので、買ってみました。今回読んでも「やっぱり、保坂の気持ちがよく分かる。」なのですが(^_^;) 今回は、都築が終盤に悦子へ送った手紙(角川文庫ではp328~)にも注目しました。悦子が、相変わらず別れた男へ自分の欲求を訴えている(同p308~)のに比べ、都築のこの手紙は、悦子への接し方(つまりは女性への接し方)の変化が伺われます。男三兄弟の真ん中ッ子として育った彼が、遅まきながら、女性への接し方を学んだ様子が伺えます。僕も、男三兄弟の真ん中なので、今後(ていうか、今、ちょうど、ラストの都築と同い年(^_^;)だから、今こそ!)彼の後に続こうと思います。

  • 一番好きな本です。まず構成に驚かされ、内容にも惹かれてしまう。後味が悪いわけではないですが、読み終えた後は切ないもやもやが残り良い意味で引きずりました。年代でいうと、私よりもっと上の方々の青春でしょう。しかし人間の感情と言うものはどの世代でも変わらないもので

  • すごく良かった
    地の文がないから状況を掴むのに少し時間がかかるが、読み進めるうちにこうだったのか!となる展開
    大好きな本になりました

  • love is not saying sorry の訳が
    愛とは決して後悔しないこと って、
    訳が悪かったんだ。初めて言葉と意味を知った気がする。

  • 手紙やFAXのやり取りだけで話が進むという面白い構成の本。
    「Love is not saying sorry」
    私はこの文言の書いてある手紙が一番好きだ。

  • 手紙、FAX、メモ、日記などなどのみで構成された男女の物語。とても好きな作品のひとつです。

  • 作中に出てくる、とある一通の手紙が忘れられない。初めて吐露される彼女の本当の気持ちがひたむき過ぎてやりきれない……!

著者プロフィール

作家

「2016年 『純喫茶』 で使われていた紹介文から引用しています。」

姫野カオルコの作品

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