密室 (角川文庫 赤 520-8)

  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (445ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784042520085

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  • 刑事マルティン・ベックシリーズ第8作。 復帰したマルティン・ベックはルンから事件を引き継いだ。老人の死体が発見されたが、現場は密室状態だったというもの。 杜撰な初動捜査のために手掛かりが乏しい中、ベックは地道な捜査を進める。一方、コルベリ、ラーソン、ルンは連続銀行強盗事件の特捜班に加わっていた。地方検事「ブルドーザー」・オルソンの指揮の下、犯人と目されるグループへと迫ってゆく。

    訳者の高見浩によるインタヴュー記事、「マイ・シューヴァル夫人会見記」を収録。

  • 15ヶ月ぶりに職場復帰したマルティン・ベックは、連続銀行強盗の捜査は免除され、孤独な老人の変死事件を一人で扱うことに。

    今作もまた独特で面白かった!大騒ぎの地方検事ブルドーザーのポジティブさとか、良い人過ぎるアパートの大家さんとか、登場人物も魅力的で楽しめました。

  • いつもよりテンション高い書きっぷり。スウェーデン社会や警察首脳部への批判も、より鋭くなっている。連続銀行強盗を追う特捜班たちの右往左往が面白い。対称的に大ケガから復帰したマルティンベックが、一人で密室内で死んだ男の謎を地味に追求する。お馴染みのラーソン、コルベリ、ルンが登場する一方、驚異的記憶力の持ち主のメランデルが異動しちゃったのは寂しかった。今回はベックのプライベートにも進展があったし楽しかった。

  • 〝密室〟を描くことで、作者は都会に暮らす人びとの深い孤独を浮き彫りにする。1972年当時のストックホルムを覆っていた重苦しい空気について、作者はこんな風に書いている。「暴力は反感や憎悪のみならず、不安や恐怖をも醸成するものである。人々はしだいに互いを恐れるようになり、ストックホルムは不安に怯える数十万もの人々を擁する都市となった。そして、恐怖にすくみあがった人々は危険な人々でもある」(73頁)。そこでは、誰もが被害者になりうると同時に、いっぽう加害者にもなりうる。

    そんな、抑圧された現代社会のもとで畏縮した都会人の心もまた、ある意味〝密室〟のように閉ざされている。その点、主人公マルティン・ベックも例外ではない。ようやく負傷からは立ち直ったものの、心に負った傷はまだ癒えていない。そんな折り、現場復帰し不可解な密室殺人事件の捜査に乗り出した彼は、その過程でひとりの生き生きとした女性と出会う。殺伐とした都会にあって、なにより人間的な絆を尊重する彼女の存在にやすらぎを見い出し、少しずつ生気を取り戻してゆくベック。読んでいて思わずホッとする。

    密室殺人と銀行強盗、ふたつの事件が複雑に絡み合いながらストーリーは展開してゆく。都会特有のエゴイスティックな情報に翻弄され、身も心も疲れきった警官たち。不注意によるミス、独善的な捜査、情報の読み違い、焦燥感…… そんな負の連鎖の中まんまと網の目をすり抜ける狡猾な悪人の姿もまた、ほかならぬ都会人のもつひとつの顔なのだ。ラスト、現代社会にむける作者の目は、いつになく厳しい。

    文中、ドッグフードを食べて細々と命をつなぐ老人という描写がたびたび登場するが、それについてはぼくも以前フィンランド人の知人から聞いたことがある。女性の社会進出が進んでいる北欧の社会保障制度は、そのぶん専業主婦に対してはひどくシビアなのだという。そのため、夫に先立たれ年金の支給を打ち切られた年老いた専業主婦のなかには、やむなくスーパーで手に入れた安価なドッグフードで命をつないでいるひともいるのだとか。まさに〝福祉国家の光と影〟といったところか。

    そのあたりの経緯は、巻末に付された訳者によるペール・ヴァールー女史へのインタビューでも触れられている。シリーズが進むにつれペシミスティックな色合いが濃くなってきたのでは?という問いかけに対し、社会民主党政権が導入した「社会主義と資本主義をミックスしたような経済システムはけっして良い結果を生まなかった」と指摘しつつ、けっして当初から社会批判的なものを書こうとしていたわけではないと語る彼女。「つまり、この十年間におけるスウェーデン社会の変化が、わたしたちにペシミスティックになることを強いたと受けとっていただきたいわ」。

  • 怪我から復帰したマルティン・ベックは、
    納得のいく捜査をしたにもかかわらず、
    裁判では認められず、上司には評価されず、
    しかし、その結果、本人の望みどおり現場に残れることになったという、
    なんとも皮肉な結末。

    皮肉といえば、
    犯した罪で裁かれず、犯してもいない罪で罰を受けたのも皮肉だが。

    登場人物の表現がいまひとつな中で、
    マルティン・ベックが捜査の途中で知り合った女性、
    レア・ニールセンは、なぜかとても生き生きとして魅力的だった。
    不思議。

    それにしても、ストックホルム警視庁の面々はどじばかり踏んでいるような気がするのは、
    気のせいか?

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著者プロフィール

1935年、ストックホルム生まれ。雑誌記者・編集者を経て65年から10年間ペール・ヴァールーとマルティン・ベックシリーズを10作書き上げる。ストックホルムに詳しく、マルティン・ベックシリーズの陰の主役ストックホルムの町と人々の暮らしの卓越した描写はマイの功績。現在ノルウェー語、デンマーク語、英語の翻訳者。

「2017年 『バルコニーの男 刑事マルティン・ベック』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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