宇宙のみなしご (角川文庫 も 16-8)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043941087

作品紹介・あらすじ

中学2年生の陽子と1つ歳下の弟リン。両親が仕事で忙しく、いつも2人で自己流の遊びを生み出してきた。新しく見つけたとっておきの遊びは、真夜中に近所の家に忍び込んで屋根にのぼること。リンと同じ陸上部の七瀬さんも加わり、ある夜3人で屋根にいたところ、クラスのいじめられっ子、キオスクにその様子を見られてしまう…。第33回野間児童文芸新人賞、第42回産経児童出版文化賞ニッポン放送賞受賞の青春物語。

感想・レビュー・書評

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  • 『ズル休み』、子どもの頃だけじゃなくて、大人になってもなんだか妙に心魅かれる言葉です。なんだかちょっとワルい子になってみたいという誘惑が朝に襲ってくることってないですか?何だか色んなことが急に面倒になって、ええい休んじゃえ、と決意するまでのドキドキ感。子どもの頃だと親を上手く誤魔化すために四苦八苦。そして勝ち取った自由な一日。特にそんな日の午前中の幸せ感はなんともいえないものがあります。でも、午後になるとちょっと心が陰りだし、近所の子どもが帰ってきた声が聞こえだすと憂鬱さが襲ってくる。夜になるともうなんで休んじゃったのかなあという後悔の時間。そして、翌日、学校に、職場に着くまでの地獄のような時間。時間が経つと記憶の彼方に消えてしまったそんな時間ですが、もしかしたら、今の自分にとってそれも大切な時間だったのかもしれません。

    『衝動的でせっかちな性分は、わたしが未熟児で生まれたせいかもしれない、と両親は言う。小さすぎるしわくちゃの手足が涙を誘ったらしい』と両親に心配された陽子も『物心がついたときには、わたしはすでに近所の悪ガキからも一目置かれるやんちゃ娘に化けていた。我ながらあっぱれな成長ぶりだった』と生まれの弱さを感じさせない成長ぶりの一方で、体格大きく生まれつき『人生初の試練がダイエットとなった』という対象的な弟・リン。この作品ではそんな二人を中心に物語が進んでいきます。

    ひょんなことから不登校になった陽子。『不登校をしていて一番こまるのは、わたしに不登校する理由がない、ということだった。全然、ない。刑事ドラマ風に言えば動機がたりないし、スポ根ドラマ風にいえば血と汗がたりない』何だか深刻さが感じられません。だから、『ところで、突然ながらわたしはまた学校に通いはじめた』と、ちょっとしたズル休みの長い版だったかのように学校生活に再び溶け込む陽子。でも不登校中、『陽子の不登校、ひょっとして、ぼくのせい?』と姉のことを親身に心配していたリンは姉との楽しい時間を作りたいと考えます。そんな二人が見つけたこと。

    『新しい遊び、見つけちゃったかも』というリン。『その夜、わたしたちははじめて屋根にのぼった。すっかり屋根のぼりのとりこになっていた』と深夜の屋根のぼりという楽しみを見つけた二人。知らない家の屋根に勝手にのぼる二人。『基本その一。のぼりやすい屋根を選ぶべし。基本その二。人気のない場所を選ぶべし…』と決まり事も設け、すっかり夢中になっいく二人。そんな二人を中心に、陽子のクラスメイトのキオスクと七瀬さんが絡んで物語は展開していきます。

    子どもの頃って夜に憧れるというか独特な魅力を感じることってなかったでしょうか。一方でとても怖いんだけど、何だか不思議な魅力。誰もが寝静まった真夜中。陽子とリンも『星はわたしたちのために輝いている。雲はわたしたちにむかって流れてくる。風はわたしたちのために空をめぐる。今だけはわたしたちを中心に回っている』屋根の上で感じるなんとも詩的な表現、感覚です。でも、何だかとてもわかるような気がします。

    ズル休みがちょっとしたことが原因であるように、陽子が不登校になったのもある先生がいなくなったからでした。そんな先生が語ったこと。『大人も子供もだれだって、一番しんどいときは、ひとりで切りぬけるしかないんだ、って。ひとりでやってかなきゃならないからこそ、ときどき手をつなぎあえる友達を見つけなさいって、心の休憩ができる友だちが必要なんだよ、って』何だかとても厳しい現実を突きつけられているようにも思います。それが現実だから。人が生きていくためには、最後は自分が歯を食いしばるしかない、これはそうなんだと思います。でも、そんなに気を張ってばかりだと生きていくこと自体辛くなります。気持ちを楽にすること、そしてそんな心の休憩の時間を共にできる友だちってやっぱり大切なんだと思いました。こう書いていて、私の頭の中にもある友人の顔が浮かびました。もうずっと連絡も取っていないけど、あの時代、あの瞬間に、心の内を語ったことがあった彼。自分にもいたのかもしれない、そういう友人が。なんだか色々なことがとても懐かしくなりました。

    「宇宙のみなしご」という書名。読み終えると妙に納得感がわいてきます。そして、それと同時に少し物寂しさも襲ってくる不思議な読後感です。ちょっとノスタルジック感のある、そして最後の数ページにものすごい魅力と説得力を感じた、そんな作品でした。

  • 中学2年という時期は青春であり、自分てなんなんだ?と考える時期なのかもしれない。両親が仕事が多忙であるが中2の陽子、中1のリンの姉弟が逞しく仲良く育つ。そこで考え出したのが真夜中に隣家の屋根に上り、星を見上げること。そこに仲間外れになっている七瀬と相川が加わる。彼らは逃げたくはないが、逃げようとする。しかし、屋根から見る壮大な宇宙を見ているとそんなちっぽけなことどうでもいいやと思わせる。この大宇宙からみたら人間の小ささは埃である。陽子が七瀬、相川に寄り添う姿だけは人間の大きさを示しているようだった。

  • 私の実家の屋根は窓から簡単に登れるところだったから何度も1人で屋根に登っていた。田舎だから山と田んぼと土手しか見えなかったけど、懐かしい。

    あれを弟や友達と一緒にやってたら、もっと強い思い出になっていたのかな?


    宇宙のみなしご…だから生まれてから死ぬまで…輝きは大きくなったり消えそうになったりしながら…自分でなんとかするしかないんだ。

    がんばろ。

  • どこか懐かしいあの頃を思い出し、心が洗われる児童向け小説。クスっとさせる陽子とリンの遣り取りや、時々ドキッとするような言い回しに唸る。さおりさんがいい薬味になっている。
    読後は胸がぽかぽかして誰かと手を繋ぎたくなる一冊。

  • 森絵都 著

    何だか、懐かしいような 胸に痛くなるような…
    一気に中学生の頃の自分に戻れた訳ではないが、、
    あの頃、色々抱いている思いが蘇ってきたりして
    何故かちょっぴり寂しいような切ない気分にもなった。
    性格も雰囲気も違った仲間同士 何気ない事にムキになったり 感情をいつも押し殺していたり…
    多分 等身大の自分よりも ちょっと粋がって背伸びしてた
    ことなんか思い出していて、、森絵都さんの作品って 透明感のあるものの中に いきなり鋭い感情を持ってくるなぁって ドキッとしてしまう
    「宇宙のみなしご」って意味が後半になって なるほどなぁって分かってくる。
    特に 共感しちゃったのは
    「大人も子供もだれだって、一番しんどいときは、ひとりで切り抜けるしかない」
    わたしだって知っていた。
    一番しんどいときはだれでもひとりだと知っていた。
    だれにもなんとかしてもらえないことが多すぎることを知っていた。
    だから おちゃらけたり 大人っぽくクールでいたり まだまだ 中学生の子供なのに どこか粋がって 妙に強いね…って言われる度に、何か馴染めない感覚あっても、でもそう見えるんだったら それはそれでもいいじやないって半分白けた思いを引きづって ここまで生きてきた気がする。
    中学生にもなれば 何だか...子供にもなれないような難しい時期だった気がする
    森絵都さんのラストは 気持ちが一呼吸出来るような それでいて 何かに向かっているような ストンに胸に落ちてきて終わる…

  • 青春 友情 家族

    両親が忙しく、新しい遊びを見つけて過ごす姉弟が屋根上りに夢中になる。グループから仲間外れにされている女の子、いじめられっ子の男の子も加わりそれぞれの成長を描く物語。

    主人公の女の子のさばさばした感じが好き。
    季節や時間の空気感の表現がリアル。
    最後のワクワク感が子供時代に戻った感覚になりました。

  • 思い立ったら我慢せずに行動する姉(陽子・中2)。
    いつも笑顔でスローペースな弟(リン・中1)。

    両親は仕事でいつも不在。
    だから2人は生まれながらの遊び仲間。

    真夜中の散歩で見付けた新しい遊び。
    ~~夜中に屋根にのぼる~~
    って、「屋根にのぼる」で1つの作品を成り立たせるなんて・・・。

    大人はすぐに理由を聞く。
    大抵のことは理由なんて後付けだもんね。

    弱っているときに読むと、
    きっとゆるゆると回復するぞ。

  • 帯タイトルは、
    「あなたにも
     手をつなぐひとが、
     きっといる。」

    装丁とタイトルがすごく素敵です。

    ぽーんと放りだされて
    心許ないような
    そんな不安定な感情。

    誰にも秘密のとっておきの遊び。
    陽子とリン。

    「たった今、
     入れかえたばかりのように
     しゃきんと澄んだ空気。」

    「深夜というのはやはり、
     ただの夜とはひと味ちがった。」

    そう、これ!
    ちびまる子ちゃんにも昔、夜の女王になる回があったけど。

    大人になった今でも、
    やっぱり深夜はちょっと違ってて、
    それが子供のときは
    なおさら。

    陽子とリンは真夜中に屋根を上る。
    誰にも内緒で。

    それは夜を独り占めした気分。
    ワクワクが降ってくるような夜空。

    そこに控えめで目立たない存在だった七瀬さん、
    いじめられっこのキオスク、
    二人が加わることで物語は進んでいきます。

    陽子の世界に
    今まで存在してなかったものが現れて、
    戸惑ったり怒ったり。

    優しい絵本を読んでるような感じです。
    大人になったからなのか
    無駄に年を重ねてきてるからなのか
    こーゆーのを読むと
    ホッとします。

    宇宙のみなしご。

    みんなひとり、
    あのこも
    このこも
    そして私も、
    ひとり。


    だから手をつなげたら。

    やっぱり深夜の星空は特別。

  • 個性の強い生徒たち、なにか噛み合わない大人たち、乗り越えることの大切さ、そしてみんな…

    森絵都さんの優しいメッセージとユーモラスな文章、宇宙のみなしごという素敵なタイトルの意味に少しウルっと。
    読後とても爽やかな気分です。

  • 爽やかな読み口
    ほぼほぼ4人の登場人物で構成されたお話は
    読みやすく、何より潔い。
    「カラフル」もあとあと心に響く作品ですが、
    この作品も読む年齢で感じ方がずいぶん変わると思うので何回も読み返してみたいです。

  • もともと短い話だったことに加えて、テンポ感も良く、また登場人物たちの掛け合いが面白くて、サクサク読めてしまった。
    面白かったけど、あっと言う間に読み終えてしまったので、この作者の他の作品も今度また読んでみたいなぁ。

  • 面白かった!一日で読み終えてしまった。こどもたちの興味深い行動が随所にあって、どのように展開するのかわくわくしながら読めました。

  • この作品にはユーモアあり、詩情あり、文章も作者の若々しいセンスに満ちています。夜の空気感や雰囲気の描写が透き通っていて綺麗ですね。夜空を見上げる心のゆとりを思い出させてくれたような。数々の賞を受賞したこの作品。ラストは爽やかで、心が洗われるような気持ち良さがあります。

  • 私達は皆、宇宙のみなしごだから、本当はいつだってひとりぼっちで、自分のことは自分で切り抜けていくしかない。そんなことはきっと誰だってわかっている。だけれど一人で出来ないことは決して恥ずかしいことではないのだ。遊びだったのに、普段から無視する周囲からは理解されるわけもなく、自殺失敗だなんて同情される。それでも、落ちるつもりじゃなくて登ろうとしていたことにちゃんと気付いてくれてる子もいた。なんだ、君は一人じゃないじゃない。宇宙の暗闇に飲み込まれてしまわないように、ちょっと休憩、手を繋いで遊びに行こうか。

  •  ホッとする優しさに包まれる。
     中学生ぐらいの年頃に、ちょうど自分に素直になれない自分に気づくのかもしれない。なるほど。
     気づかせてくれるのは友達。そうそう。
     忘れていた感覚です。
     作者の視点でいくと、素直になれない自分に次々と衣を着せて、いろいろな顔を持つようになるってのが、大人って事かもしれない。
     こねくり回さず、ストレートに気持ちが伝わる児童書は、明日に向けてのエネルギーがあるなぁ。夜空って素敵。
     陽子の気持ちを足踏みで比喩しているのも、楽しい。

  • とてもせつなく感じました。それでいて懐かしいような・・・自分も子供の頃、屋根に上りたいと思ったことがあったなぁと思い出す。屋根に上って宇宙を仰ぐ感じがせつなくてキュンとなってしまいました。一気に読めて、でも心に残る良いお話でした。

  • 夜の屋根って想像するだけで不思議な世界。
    陽子とリンの屋根遊びが、人を惹きつけるのもなんだかわかる。この遊びはとても魅力的だ。わたしもやりたい。

    大人になると自分の悩みで沢山で、友達のことで悩むのはあまりない。この表現がなかなか鋭い。

  • 屋根に上って星を見る。特別でものすごくこっそりと格好よくて。小学生のころから、こんな屋根に、ものすごく憧れていました。読み返してみると、いろんな言葉が刺さってきます。

    「一番しんどいときはだれでもひとりだと知っていた。」

    いまがふんばりどきかな

  • 中学生の仲のいい姉弟が夜中に屋根にのぼる遊びを思いつく。
    そして、ひょんなことから姉のクラスメイトの女の子と男の子も参加することになったり、ちょっとした事件が起こる。

    ただそれだけの物語なのだが、夜中の屋根の上という設定のせいか、星空の様子やひんやりした空気感や、少し悪いことをしているというドキドキ感が手に取るように感じられて、なんだか青春時代にタイムスリップしたような、こそばゆい気持ちになる。

    1日で読める量なので、静かな夜にゆっくり読むのがおすすめ。

  • 中学生の時に読みました。森さんの本読んだのはこれが最初の本…だった気がする、当時。
    ふと手に取るまでどんな本だか忘れていたけど、「一番しんどいときには、自分でなんとかするしかないんだよ」って書いてあって、「あ、この文章を見るために私はこの本を手にとったんだ」って思いました。本のほうで私のことを呼んでる。

  • さくさく読み進むせいか、印象の薄い本になりそう…と読んでいる間は思っていた。しかし、宇宙のみなしごという言葉がバチッと最後に印象に残る。

    物語の舞台でもある『中学校』って振り返ると恐ろしいくらいに狭い世界だけれど、なかなか必死に色々考えながら過ごしていたなぁと思い出した。

    古い友人に会いたくなる本。

  • ちょっぴり寂しいけれど、それが現実で、でも前へ進む勇気をもらえる一冊です。

    富塚先生、いい先生だなあー。自分でがんばることを伝えながらも、さりげなく友達の大切さを教えてくれる。

    悩み多き、思春期の子どもたちにおすすめです。


    私が心に残った言葉を抜粋します。

    「一番しんどいときはだれでもひとり」
     
    「ぼくたちはみんな宇宙のみなしごだから。ばらばらに生まれてばらばらにしんでいくみなしごだから。自分の力できらきら輝いてないと、宇宙の暗闇に飲み込まれて消えちゃうんだよ。」

    「頭と体の使いかた次第で、この世界はどんなに明るいものにもさみしいものにもなる」

    「ひとりでやってかなきゃならないからこそ、…..
    手をつないで、心の休憩ができる友達が必要」


  • 人は一人でいる時間も長いけど友といて友に刺激をもらって新たに何かに挑戦しながら成長するのだなと思う と同時に人に何かを与えることもできるしお互いに成長していくんだな 良き友と一緒に生きた娘はきっと幸せだったんだろうな

  • 「もっとこうなりたい。」「こんな自分が嫌だ。」そういった悩みやコンプレックスは大なり小なり誰もが抱えている。大人も子どもも関係なく。その時行動を起こすか起こさないかは自由だし、どちらが正解か間違いかなんてこともない。ただ行動を起こした方が、たとえそれが失敗に終わったとしても心が晴れるのは間違いない。何もしなければ心の内は変わらない。他の誰でもなく自分が一歩踏み出さなければならない時がある。『宇宙のみなしご』というタイトルにはそんな意味がこめられていると感じた。

  • 小学生の時に読んだことあるけど、その時は何も思わなかった。おもしろかった〜っていう単純な感想だったと思う。
    だけど社会人になってまた読むと、そんな単純な言葉ではない。大人も子供も人はみな宇宙のみなしご。暗闇に飲まれそうになった時手を繋いでくれる友だち。まあその暗闇は人それぞれだと思うけど、私にはそんな友だちがいるかなって一瞬考えた。けど深く考えて線引きしなくていいんだろうな。大切にしよう。

  •  中学生が主人公の小説、というと意外に思い浮かばない。私が中学生の頃だと、『僕らの七日間戦争』(宗田理)、個人的に印象的だったのは『ソロモンの偽証』(宮部みゆき)、海外だと『スタンド・バイ・ミー』(スティーブン・キング)などが思い浮かぶ。スタンド・バイ・ミーは小学生か?今Wikiで調べたら主人公は12歳とある。

     まあいいや。兎に角、思春期というのは、よろず甘酸っぱく、そして、ノスタルジーと共に語られる運命にある時代だと思う。本作『宇宙のみなしご』も、そんな甘酸っぱさを感じる作品だと思う。ただ、中高生向きと思ってバカにしないでほしい。個人的には大人にこそ心の選択に読んでほしい作品です。

     極々乱暴に話の筋を述べると、超放任家庭で伸び伸びと中学生をする陽子(中二)とリン(中一)の姉弟を中心にした人間関係のお話。彼らは制約のある中で面白い遊びを懸命になって探すのが趣味。ある日見つけた”人の家の屋根に登る”という遊びに、ひょんなことから陽子のクラスメートたち(へっぽこ系のクラスメート)が参加することでドラマが展開してゆく。

     話の筋はいくらでも他所に書いてあると思うので、主人公のキャラ設定から色々と裏読みしたいと思います。 
     主人公の陽子の性格は多感な中学生が多い中では特異だと思います。人と群れず、かといって閉鎖的でもなく、また自分のことも他人のことも結構客観的に見えている。何かをひけらかすわけでもなく、負い目や引け目を感じて生きているわけでもない。大人びた性格。
     現実に存在したら、陽子みたいなキャラに惚れてしまうのかもしれないなあ、と思ってしまった。人を見かけで判断しなさそうだし、判断しててもその事実をはっきり言いそうだし、裏表がなさそう。こういう人が友達だと楽だし楽しそうかな、と(もちろんおっさんの私ではなく、自分が中学生ならばね)。

     でも、作者が陽子を主人公に据えたのは、現実はやはり陽子のようなキャラは成立しづらいからだと感じてしまった。世の中、人の顔色を窺わないといけないし、いじめとかスクールカーストとか怖いし、人と違うことで指弾されたり、そうしたことに神経をすり減らすことが多いのだと思う。そんなことを考えると、日本国憲法第9条は現状ではなく理想を描くのだ、という主張のごとく、こんなすっきりとした中学生や中学生活は理想にすぎない(=現実にはありえない)と勘繰りたくなる。少なくとも、やっぱり中学生という時代は難しい時代なのだろう。

     そういえば、本作のタイトル『月のみなしご』、どういう意味だろう?と思いませんか。これについては本文の終わりの直前に触れられています。

    「ぼくたちはみんな宇宙のみなしごだから。ばらばらに生まれてばらばらに死んでいくみなしごだから。自分の力できらきら輝いてないと、宇宙の暗闇にのみこまれて消えちゃうんだよって。(中略)でも、ひとりでやってかなきゃならないからこそ、ときどき手をつなぎあえる友達を見つけなさいって、富塚先生、そう言ったんだ。手をつないで、心の休憩ができる友達が必要なんだよ、って」

     そう、この作品は、「心の休憩を許してくれるような友達」作りを薦める本なんです、きっと。私にはそんな友人いるかしら。。。まあ嫁さんは許してくれるかな。

    ・・・

     本作を読むと、きっとほっこり、すっきりしてもらえると思います。日頃のしがらみやら義務から同調圧力から上司からの要求やら、生きていると何かと大変なものばかりなおのです。たまには気を抜いてほっとしたくなりますが、本作はそんな息抜きを精神的にもたらしてくれる作品だと感じました。

  • 仲の良い兄弟が新しいあそびを考えては挑戦していく。ひょんなことから同じクラスの2人も加わり、様々な葛藤を乗り越えながら成長を描く友情の物語。

    一番しんどい時は誰でも一人だと知っていた。誰にもなんとかしてもらえないこのが多すぎる。

    頭と体のつかいかたしだいで、この世界は明るいものにも寂しいものにもなるのだ、と。

  • 忘れかけていた記憶。中学2年生の陽子と弟のリンを取り巻く物語。

    思春期の女子の、めんどくさいしがらみ。登場人物は少ないけど、子供のころのワクワクしたもどかしさが伝わってくるような。

    ぼくたちはみんな宇宙のみなしごだから。ばらばらに生まれてばらばらに死んでいくみなしごだから。自分の力できらきら・・。

    宇宙がテーマの読書会に参加するために苦し紛れに前日借りて読んでみた本。全体を通じて透明な感じ。

  • テーブルを彩る桔梗 実に唯の中学生なのよ 若草物語 ベス役 頭の中では七頭のカバが思い思いにフラダンスを踊っているかのようだった 頭の中で十一匹の白熊がシンクロナイズドスイミングをはじめそうになり 二兎追うものは一兎も得ず 世紀末まで待ちきれなかった? あまどい雨樋をよじ登って屋根へ 続きはカセットテープにでも吹き込んどいて 同情されるのとどっちがいい? 一番しんどいときは、ひとりで切り抜けるしかないんだ 僕達は皆んな宇宙の孤児だから 宇宙の暗闇に飲み込まれてしまわない為の方法だ

  • とても読みやすくて、漫画のようにさらさらとよめた。

    タイトルの「宇宙のみなしご」ってどういう意味?とか、
    姉弟と弟の陸上部の友達と真夜中に屋根を登るってどういうシチュエーション?とか、
    それをいじめられっこのキオスク(どういうネーミング)に見られたからってどうなんの?とかおもっていたけど、

    いい話だった(語彙力←)

    最後の方に宇宙のみなしごって意味がわかるんだけど、そのときにそれぞれの登場人物の葛藤とか自分との闘いがつながって、「おぉ~」と感慨深い思いになった。

    自分の力で輝いていないと、宇宙の暗闇にのみこまれて消えちゃうって、怖いけどいい言葉だなっておもう。
    朝井リョウさんの「何者」で、瑞月が隆良を「あなたのことをあなたと同じように見ている人はもういないんだって」と諭すシーンを思い出した。

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著者プロフィール

森 絵都(もり・えと):1968年生まれ。90年『リズム』で講談社児童文学新人賞を受賞し、デビュー。95年『宇宙のみなしご』で野間児童文芸新人賞及び産経児童出版文化賞ニッポン放送賞、98年『つきのふね』で野間児童文芸賞、99年『カラフル』で産経児童出版文化賞、2003年『DIVE!!』で小学館児童出版文化賞、06年『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞、17年『みかづき』で中央公論文芸賞等受賞。『この女』『クラスメイツ』『出会いなおし』『カザアナ』『あしたのことば』『生まれかわりのポオ』他著作多数。

「2023年 『できない相談』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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