- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784048737388
感想・レビュー・書評
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角田光代さんの作品は小説は「八日目の蝉」「対岸の彼女」「森に眠る魚」「三月の招待状」「空中庭園」に続いて6冊目です。
エッセイは「いつも旅のなか」「あしたはドロミテを歩こう」「何も持たず存在するということ」を読みました。
読んでいて外れがなく、今の私に一番合っている作家だという気がしています。
心理描写がとても上手です。
読んでいて自分のことをあれこれ振り返ることができます。
2年がかりで7編が3ヶ月おきに発表されています。
7つの短編の連作のような構成ですが、内容は続き物の長編です。
ハナという37歳の独身女性が主人公です。
「ホームメイドケーキ」
ハナの母親は「手作り狂」さらに「手作り教」というところがあります。
食卓に既製品や冷凍食品が並んだことは一度もなかったといいます。
誕生日はいつも手作りケーキです。
37歳になってもハナが実家に帰ると母はケーキを焼いてくれます。
このあたりはコミカルに描かれています。
ハナはタケダくんにプロポーズされますが、結婚ということばで喜ぶとタケダくんが信じていることについて、同じような気分を味わいます。
ハナは「私、結婚しない」と言って逃げます。
「月とハンカチ」
ハナは同年代のチサトと古着屋を経営しています。
20代半ばからですから、もう10年以上やっています。
チサトは結婚していた時期もありますが3年で破綻しています。
夫婦とも家のことを何もしないので、お金がかかりすぎたのです。
チサトは不倫していますが、相手の妻から慰謝料200万取れるだの言われます。
「薄闇シルエット」
ハナとチサトが20歳の頃知り合って、大学のカフェテラスで未来について語り合い、就職せずに好きなことをして生きていきたいと意気投合します。
26歳の時に店舗を借り、楽しいごっこ遊びのように古着屋を始めたという想い出が語られ、現在につながります。
「ホームメイドケーキ、ふたたび」
母が死にそうだということで、飯田の両親のところにハナや妹のナエが集まります。
母の死に際と向き合いながらハナは母の想い出を振り返ります。
本の一瞬、弁当を買いにいった隙に母は息を引き取ります。
父母が子どものために手作りのケーキを焼き、子どもの教育に良いからと飯田に引っ越したような発想が自分やナエにはないとハナは気づきます。
自分以外の誰かのために自分の生活を変えるという発想がないと思い至ります。
私にもそんな発想はないのではないかと思いました。
「記憶の絵本」
ボランティアについて興味深い記述があります。
第三世界の貧しい地域に古着を送っているという団体をハナは訪ねます。
資源ゴミの収集と間違えているようなケース、着払いで送ってくるケース、自分が提供したものがどこに届いたのか知りたいというケース、何かしてやっているという思い上がり、誤ったボランティア観、この辺は角田さんが世界各地を回った中から出ているように思われました。
「ウェディングケーキ」
3度目の結婚ブームということで、タケダくんが、そしてチサトが結婚します。
元彼のタケダくんの結婚披露宴の2次会にハナが出席するところは現代的です。
チサトは38歳で54歳の男性と結婚します。
この年齢になんだか時めきました。
「空に星、窓に灯」
ハナは引っ越しをします。
そのときに捨てるということについて考えます。
いつか使うかも知れない。
いつかなんて永遠に来ない。
玄関はやってこなかった「いつか」で満たされた袋でふさがれる。
「捨てる技術」という新書がブームになったことがありました。
私の書棚にもあります。
雑誌のインタビューや写真で見られる上条キリエの印象は秘書の演出だというところは面白いです。
原稿をキャラクターに沿って添削し、余計な発言はカットして、キリエの印象を創り出しているというのです。
テレビや本から受けとるものも、そういうところがあるのかも知れません。
男女の役割についても取りあげられています。
なんでもできる女が男をだめにする。
女に子育ても家事もやらせるのなら男をもっと稼がせる。
女を働かせるなら男も家事や育児をやらなくてはいけない。
などと、妹のナエが演説します。
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大人になる前に読んでよかったと思う。
結婚だけが全てじゃないけど、かといって仕事も友達も全てじゃない。
何が正解かなんて本当に分からないよね -
「(相手の)才能に打ちひしがれたと気づいて、私は自分が傍観者でなくなったのだと感じた。
他人の才能に打ちひしがれたとき、人は初めて舞台に上がるのだ。」うろおぼえだけどこの一文でどれだけ勇気付けられたことか… -
37歳独身。古着屋を営む女性の恋愛、生活模様。
これはなかなか面白かった。独身女性のどこか不安定な感じがよく描けている。「私なんにも持っていないんだよ。みんなひとつずつ手に入れて先を歩いているのに、私だけ手ぶらでじたばたしているだけなんだよ」・・・こういう悲哀を素直に出せる主人公はえらいと思う。そこを乗り越えて歩き出すラストも爽快。
出てくる登場人物が人の生き方をやっかんだり、人と競い合ったり30代後半にしては幼いような気もするが、まあ現実はこんなものなのかな・・。
最初のほうで「ぐっとトシを感じる瞬間」として、道を歩いていて風俗系の宣伝ティッシュを渡されなくなることをあげている。これ、わかるよねー、としみじみ共感してしまった。 -
この人の小説は、
あまり好きではなかったのですが、
これはとてもよかった。
読むのにとても時間がかかり、
すごく共感できたわけでもないのですが、
なぜだかとても心に染み入り、
不覚にも泣いてしまいました。 -
面白い。共感する。この筆者のこの微妙な感じは、なんだろう。既婚者と一線をひくつもりはないのだろうし、成功者と自分を比べているつもりはないのだろう。でも、でも、やっぱり、違うんだ。少し、卑屈になっているのかもしれない。でも、自分は自分・・・。すんごく、わかる。角田光代の全てが読みたい。
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読む前から分ってたけど俺が読む意味なかったなー。みたいな。
実にアラフォーな感じだった。 -
うまい!
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やりたいことしかやらない。だんだん難しくなるのかな。
共感しすぎた一冊。 -
「やりたくないことはやらない、妥協はしたくない」というポリシーを貫きながら、仕事も恋愛もしてきた37歳のハナ。
恋人が友人の前でプロポーズするも、「こいつもこんな年だしちゃんとしてやんなきゃ」に、むかつき、苛立ち、結婚を白紙にし恋人と別れる。(しかし、こんな言葉、人前で実際に言われたら、かなり腹が立つだろうと思う。)
友人・チサトと共同経営してきた古着屋も転換期に差し掛かっていた。軌道に乗った店をこのままにしていきたいハナに対し、新しいことに挑戦して、店を広げていきたい、そのためには趣味趣向に合わないこともやってかないといけない、と野望を持つチサト。やがてチサトが仕事においても人生においてもどんどん前に進んでいくのに対し、混沌とし、ひとところにとどまっているハナ。
そして、彼女のバックボーンにある「手作り教」の母の存在。
家庭的な母に対し、内心では圧倒的な劣等感を抱いている、専業主婦で2児の母である妹・ナエの生き方。
それにしても、ナエにしろチサトにしろ、ハナに対して遠慮なく切れたり本音をぶつけたりするのが凄まじい。
結婚にしろ、仕事にしろ、ハナは気づいていなかった。すべてが誰かの人生に参加するわけでなくひとりで引き受けることなんだと。幸せになるのにも覚悟が必要で、そう簡単には手に入らないものなのだと思い知らされる。