阿片戦争(上) 滄海編 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (587ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061311886

感想・レビュー・書評

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  • 人口は過剰であるが精気がない。阿片が蔓延し衰退する対等の外交、貿易自由化を求め東インド会社を解散し英国(議会によって代弁されるブルジョジーの民意)
    に道光帝の阿片厳禁の意志が衝突。
    硬骨漢、林則徐は

  • 英国の持ち込む阿片禍によって銀の流出と人心の荒廃に苦しむ清朝後期。硬骨の人「林則徐」を中心に広州商人、北京政府の群像を交えて描く。
    英国人の醜悪さに吐き気を覚えつつも、大東亜戦争に際しては里見機関や一日一善の方が熱河の阿片を売り捌いておった事実に気が付いて、また嫌になってみた。
    陳舜臣の小説で面白いと思ったのは初めてかも。十八史略とか中国の歴史は愛読だけど、小説類はいまいち好きになれなかったが、これは面白い。

  • 阿片戦争、日本へのペリー来航直前の中国の出来事だ。

    阿片戦争は、近代夜明け前におけるアジアを舞台とした一番有名な戦争であり、日本に与えた影響は非常に大きい。中国の有様を伝え聞いた日本の知識人たちが、中国の轍を踏んではならじ、と江戸城無血開国・大政奉還という明治維新を短期間のうちに行い、日本開国へと進んでいったのである。

    しかし阿片戦争に関する歴史小説は少ない。著者の書物は幾つか読んだが、非常に難しい。というのも、一般的な歴史小説、いわゆる、人間が主人公となり、その人を個性的に描くことで読者に分かりやすく、時代にのめりこませることができる歴史小説とは違い、本書は阿片戦争の歴史を俯瞰して、一人の人間中心で進んでいかず、話が進んでいくからだ。歴史書という方が近いものかもしれない。この時代の続きで、著者が太平天国を書いているが、読もうか読むまいか思案中だ。

    さて、どこの国でも同じだが、革命的で体制が変わるような時は、必ず国内での保守派と新進派との対立になり、外国からの圧力は単なるトリガーに過ぎない。

    阿片戦争の時も同様である。この世の中を変えるのは容易なことではない。なぜ容易ではないかといえば、現状維持を望む人たちがそれを阻止するからだ。改革派はそんな連中と戦わなければならないが、そんな世の中を変えたくない人たちの代表が穆彰阿(むちゃんあ)であり、対抗するのが改革派の林則徐(りんそくじょ)である。

    清朝政府は対外貿易にまったく関心を持っていない。あの賢君として有名な乾隆帝でさえも、『わが国にはない物はないから、外国と通商して有無相通じる必要はない。しかるに外国は、茶葉、磁器、糸斤などの必需品がなく、それを求めて来航するのだから、天朝は”遠人に恵みを加え、四夷を撫育する”ため、交易に応じているに過ぎない。』と考えていた。つまり、一方的に恩恵をほどこすという考えで、平等互恵という根本的な精神はつゆもなかった。実際、当時中国が輸入していた商品は嗜好品が多く、中国から輸出する茶葉などは西欧の生活必需品だった。茶は16世紀初頭、船員や海外伝道士によってヨーロッパに紹介され、17世紀後半から次第に喫茶の風習が庶民に普及した。特にイギリスでは19世紀に入ってから『ティータイム』が慣習化し、茶の需要は驚異的に増加した。

    中国はおびただしい茶葉を輸出したが、それに見合うめぼしい輸出品がなく、代金はあらかた現銀で決済された。が、こんな有利な貿易も、清朝は好んでしているのではなく、外夷に恵を垂れてやろうというに過ぎない。

    通商どころか、清朝は外交さえ認めない。中国は天朝であり、同等の国家はこの世界に存在しないと考えた。天朝のまわりは東夷、西戎、南蛮、北狄という野蛮人の国であり、むこうから進貢してくるぶんには差し支えないが、対等の付き合いをしようなど、思い上がりもはなはだしい、というわけだ。

    そもそも阿片を中国は薬材として輸入していた。それが嗜好性麻薬として中国に広がったのは清代になってからである。阿片の快楽は受け身の瞑想的なもので、狂躁ではなく、静寂である。その点、極めて東洋的なものといえよう。清朝でも阿片の害に早くから気づいて、禁令を百出させた。しかし、阿片の輸入量は増加し続け、銀が大量に流出しだした。中国国家としては、阿片が愚民が使用しているうちはまだよいが、それが軍隊内部にも浸透し始めて、はじめてあわてたのである。禁令があってもなにがしかの賄賂を贈れば、当局も見て見ぬ振りをした。

    清朝の抜きがたい『天朝意識』は外交を認めず、貿易を進貢視した。その清朝を相手に、なんとかして開港貿易、通商条約締結まで持ち込みたいのがイギリスの悲願であった。産業革命でふくらんだイギリスの生産力は、イギリス国内の需要だけでは飽き足らず、一層切実に、4億の民を有する中国の開国を要求したのだ。対外貿易は英国と同様、中国も大切と思っているだろうというのがイギリス人の考えであったが、清朝側では貿易は大切とは考えておらず、それを大切と考えていたのは、実際に利益を得ている商人や賄賂の入る小役人だけであった。

    林則徐は英国と戦争をしても勝てる見込みはないとわかっていた。しかし、阿片を拒絶する意思は示さなければならない。そのために例え王朝が滅びても、中国人の意気だけは現すべきだと思った。その意気があってこそ、新しい時代は作られる。いまここで穆彰阿のように事を回避していては、中国は骨の髄まで腐って、新しい時代を迎える気力まで消滅するだろう。

    阿片戦争をイギリス国民はどう考えていたのだろうか。戦争にはお金がかかる。その出費には、当然イギリス国民の支持が必要だ。その戦費支出の議会での議決は、賛成271票、反対262票、わずか9表差であった。当然、派閥抗争などもあっただろうが、イギリス人全員が阿片戦争を正しい戦争だと考えていたわけではない。阿片戦争はイギリスの最大の汚点を残すだろうと考えていた人も事実多かったようだ。

    戦争になれば人が死ぬ。しかし、それによって中国は近代化の扉を開いた。日本もまた同じである。未来のために、これは避けることが出来ない順序なのであろうか。

    清はこの時代、軍人は戦いに消極的で、人民を守るのではなく、逆に虐げ、ともすると、戦争のどさくさにまぎれて略奪・強姦の対象となった。そこには、清はモンゴル民族の国というのが濃厚にあり、漢民族は被支配者であった。官兵は役に立たず、結局、自分の土地を守るために、自分の家族を守るために、農民達が立ち上がった。いや、立ち上がらざるを得なかったと言うほうが正確であろう。平英団という武装農民の集団だ。平英団は英軍を悩ました。もっと悩まし、英軍の一部隊を殲滅までは出来る力があった。しかし、ある程度のところで終止符を打たないと、英軍の報復が待っている。きっと、後に戦備を整え、報復に来る。そこまでせずに、平英団は解散した。ここでは、清国民衆が武器を取って英軍に立ち向かったという事実が必要なのである。清国軍隊は抵抗しなかったが、清の民衆は抵抗した。平英団は中国の将来に付けられる値段を大きく引き上げたと言ってよい。英軍の最も恐れたのは一般民衆の敵愾心だったであろう。イギリスが中国の門戸をこじあけたところで、民衆の支持が得られなければ、通商はうまくいかないだろう。また、生活のために、自国清に背を向け、イギリスの先兵となり、中国軍と戦った人間も多い。清国側では彼らを漢奸と呼んだ。彼らも生きてゆかねばならない。妻子や両親を養わねばならない。仕事を欲しがっているのだ。当時、阿片に関わる仕事をしていた清国民は思ったより多く、それが、阿片厳禁いより職を失ったのだ。彼らは食い詰め、暴徒化するか、英軍の手先となったのだ。阿片戦争では、中国人同士が真っ先に争い、血を流した戦争であることを忘れてはいけない。そして、そのように仕向けたのは、イギリスであり、また、清国の阿片政策の無能さであったろう。結局、戦争とは、軍人がするものではなく、民衆を巻き込んで行うものであることを肝に銘じなければならないのだ。

  • 最近読んだ司馬遼太郎の「項羽と劉邦」と比べてみると、こちらのほうがややストーリー重視で、展開を追って行く面白さでは勝るけれど、知的興奮という意味では司馬遼太郎に軍配が上がる。

  •  『小説十八史略』『ジンギス・ハーンの一族』と読みすすめ、明時代と清朝成立から隆盛期を飛ばし、いきなり清朝末期『阿片戦争』を読み始める。できれば元滅亡から読みすすめるのが理想なのだが、このあたりの時代で、悲しいかな有名どころの本がないのだ。単にわたしが知らないだけなのかもしれない(笑

     ヨーロッパの列強が清朝に阿片を売りつける。自国では医薬用以外では決して流通することがない麻薬なのである。貿易利益が膨大な阿片は列強には魅力の商品なのだ。『沈黙』ではマカオからポルトガルのイエスズ会宣教師が日本を目指すのだが、将来マカオが阿片の巣窟になる惨状を見ると、いかに産業革命後のヨーロッパ諸国が堕落しているかが伺える。上巻最後のほうで自国民に清皇帝が阿片貿易に厳しい対応で迫る。巨利を貪る商人と賄賂を要求する役人にとって、それが一概に減収につながらないところに阿片の恐ろしさがある。中毒患者は確実にこの国を滅ぼそうとしているのだった。

  • 4061311883 587p 2003・12・15 59刷

  • ~裏表紙より~

    内に人心を荒廃し、外に中華思想をかざす清朝末期。

    産業革命後の英国新興資本は、市場を求め中国進出を企てていた。

    ”阿片を認めるか否か”

    暴利と保身に詭計をめぐらす特権商人、官僚達の渦中に
    国家を憂う清廉潔白な実力官史林則徐と豪商連維材がいた。

    近代中国黎明のうねりを活写する大河小説。

  • 中国の歴史の勉強になる

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著者プロフィール

1924年-2015年。神戸市生まれ。大阪外国語大学印度語部を卒業し、終戦まで同校西南亜細亜語研究所助手を務める。61年、『枯草の根』によって江戸川乱歩賞を受賞し、作家活動に入る。その後、93年、朝日賞、95年には日本芸術院賞を受賞する。主な著書に『青玉獅子香炉』(直木賞)、『玉嶺よふたたび』『孔雀の道』(日本推理作家協会賞)、『実録アヘン戦争』(毎日出版文化賞)、『敦煌の旅』(大佛次郎賞)、『茶事遍路』(読売文学賞)、『諸葛孔明』(吉川英治文学賞)、『中国の歴史』(全15巻)などがある。

「2018年 『方壺園 ミステリ短篇傑作選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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