宇宙は「もつれ」でできている 「量子論最大の難問」はどう解き明かされたか (ブルーバックス)

  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (592ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062579810

作品紹介・あらすじ

アインシュタインが生涯信じなかった“幽霊現象”――。

最高の頭脳を翻弄した“量子の奇妙なふるまい”が、「宇宙観」に革命をもたらした!
量子力学100年の発展史を一気読み。


直観と論理の狭間で、物理学者がもがく!

一人の天才の独創によって誕生した相対論に対し、量子論は、多数の物理学者たちの努力によって構築されてきた。

数十年におよぶ精緻化のプロセスで、彼らを最も悩ませた奇妙な現象=「量子もつれ」。

たとえ100億km離れていても瞬時に情報が伝わる、すなわち、因果律を破るようにみえる謎の量子状態は、どんな論争を経て、理解されてきたのか。

EPRパラドックス、隠れた変数、ベルの不等式、局所性と非局所性、そして量子の実在をめぐる議論……。

当事者たちの論文や書簡、公の場での発言、討論などを渉猟し尽くし、8年の歳月をかけて気鋭の科学ジャーナリストがリアルに再現した、物理学史上最大のドラマ――。

感想・レビュー・書評

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  • 本書は、量子力学の歴史を紡いだ科学者の物語を、彼らの寄稿文書や個人間でやりとりされた手紙などを元に再構成したものである。その物語を紡ぐために当時の会話を再現するという手法で描かれているところが本書が他の類書と大きく異なる点である。しかも、それが作者の全くの創作となることを避けるため、それぞれの会話には、そのもととなった根拠となる証跡が存在し、そこで参照した内容をWebサイトで公開している。
    著者が取ったこの手法を通すことで、滲み出る臨場感と、いくばくかの偶然がそこにいた個々人に与えた影響が強調されることになった。アインシュタイン、ボーア、プランク、シュレーディンガー、ディラック、ハイゼンベルグ、ボルン、ド・ブロイ、パウリ、オッペンハイマー、フォン・ノイマン、...、登場人物にはきら星のごとく歴史上の有名科学者の名前が並ぶ。「ハイゼンベルク、わからないのかい?『観測できるもの』を初めに決定するのは理論なのだ」とアインシュタインは言った、と聞くとゾクッとする。とにかく労作であり、さらにその労力が本書に魅力を与えていることをもって、まずは敬意を捧げたい。

    それにしても、第二次世界大戦は、ドイツ圏を中心に発展を遂げてきた物理科学の世界に物理的にも大きな影響を与えた。当時の会話を再現することで、そのことはより際立つ。今ではそれも歴史の一部と考えることはできるが、もしあのときに違ったやり方で世界が進んでいればどういうことになっただろうかと当事者ならずとも考えてしまう。

    そして、本書のもうひとつの主役が「量子もつれ」である。相補的に存在する粒子と波。測定系の問題。当初、まともに相手にするかどうかが問題であったEPR論文は、天才フォン・ノイマンによる(後に誤っていたとわかる)反論に合って、いったんは無視される形になった。しかし、そのパラドックスはずっと明確な形では解消されることはなかった。時間を経て、ベルによって考え出された「ベルの不等式」が紆余曲折を経て多くの目に留まるようになって、EPR論文も発表されたとき以上に注目を浴びることとなった。そして、結果として二つのもつれた粒子の間の「分離不可能性」または「非局所性」が実験結果から証明される。これにより隠れた局所的変数は否定され、量子力学はある意味では救われることとなった。
    それでも量子力学における存在論の問題は、多くの人に引っ掛かりを残すものである。
    ジョン・ベルは「量子力学の道徳的側面」という題名の論文を次のような言葉で結んだ。
    「いずれにせよ、量子力学の記述は将来書き換えられるだろう。人類が作り上げた理論はすべてそうである。だが、こと量子力学に関しては、最終的な運命はその内部構造を見れば明らかだ。そこには、本質的に破壊の種が宿っているのだから」

    そして最後に、「もつれ」という概念に出会い物理学に将来を捧げようと決意した21歳のルドルフという青年が、その後自分がシュレディンガーの孫であることを知らされた、というエピソードで終わる。かつてこの現象を「もつれ(Entanglement)」と見事に表現したのはシュレーディンガーその人であった。まったく非のつけようがない終わり方である。素敵な本。


    なお、本書の物語の主軸にもなっている「量子もつれ」を科学的な問題として遡上に載せることになったEPRパラドックスとベルの不等式について、より深く知るためには『量子力学の反常識と素粒子の自由意志』が特にお勧めである。数式盛りだくさんではないが、本質的なところがよくわかる優れた解説書である。
    また、『量子革命―アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突』も同じ時期のアインシュタインとボーアの対立を描いていて、本書に興味を持った人はぜひこちらも。名翻訳者の青木薫さんの翻訳で、しかも自ら志願して訳した本であるということからも読む前から素晴らしいことがわかる本である。
    ソルヴェイ会議の出席メンバーの写真を表紙に使った『そして世界に不確定性がもたらされた』もあまり売れなかったのではないかと思うが、名著と呼んでいい。とにかくこの時代の量子物理学を生んだ科学者たちは、いずれもスター揃いで、華がある。そこに「真理」や「プライド」や「意地」と「意志」が交じり合ってとてもドラマティックである。量子物理学の得体の知れなさが、さらに深みを与える。

    それにしても、この時代の人はよく手紙を書いていた。しかし、よく考えると今の時代はメールやSNSでさらに頻繁にそして気軽にコミュニケーションを取っているのである。もしかしたら、未来の人が今起きている出来事を同じように再現しようとした場合、より容易であるとともにより複雑なものとなるのかもしれない。


    いつか若きジョン・ベルが読んだという名著ランダウ=リフシッツの『量子力学』を読んでみなくてはと思うのだ。若いころにもう少しまともに勉強をしておけばよかったなと思う。あのとき、勉強する窓は大きく開かれていたのに。

    そしてまた、この本がブルーバックスから翻訳書として出るのは素晴らしい。きっと届かなくてもブルーバックスに勝手に敬意を表したい。
    科学史に興味がある人には特にお勧め。

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    『量子力学の反常識と素粒子の自由意志』のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4000295799
    『そして世界に不確定性がもたらされた―ハイゼンベルクの物理学革命』のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4152088648
    『量子革命―アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突』のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4105064312

  •  量子力学が現在に至る「物語」。内容はさっぱり分からなかった。なのに、590頁!最後まで興奮しながら読めた。
     数多くの物理学者が登場し、議論を重ねる。議論の内容も誰が何を話していたのかもぼくには理解できないが、互いに批判し励まし合い、時には挫折しながら、登場人物達が何かしら凄いことに向かって来たんだなと感じとることだけはできた。
     
     相関する電子は、一方の状態が決まるともう片方の状態も「瞬時」に決まるという。どんなに離れていても。
     原因があって結果があるという因果律と、光より早いものはないという相対性理論を前提とするならあり得ない現象であり、それ故アインシュタインは量子力学に疑念を持ち続けた。
     しかし、そういう現象が実験で観測されたとなると、この遠く(例えば銀河の端から端まで)離れていても「瞬時に」相関する動きを見せる双方の電子は、個別の存在(局所的)ではなく、全体の中の部分(非局所的)と考えざるを得ない。
     それはぼくらの直感から乖離している。
     仏教に「一念三千」とか「相即相入」といったことばがある。ぼくがこの本を読み続けられたのは、量子力学には仏教に繋がる何かがありそうだと感じたからだろう。
     
     そういう量子の振る舞いを「もつれ」と呼ぶらしいが、この日本語に最後まで悩まされた。
     本書原題は"The Age fo Entanglement"
     コリンズ辞書に拠れば、”A tangle of something is a mass of it twisted together in an untidy way. ”
     読了してから調べてみたんだが、最初にこの定義を知っていたらもちょっと本書の内容が理解ができたかも・・・いやいや「プラズマ」というコトバは知っていても、それがなにものであるかすらとんと知らないようなぼくには、やっぱり無理だろうな。

     以下、エピローグからの抜粋
     
     「一般に受け入れられている量子論の構造はほとんどすべて・・・物理学について何も語っていない」とフックスは1998年に述べている。「量子論とは我々が知っていることを記述する形式的なツールなのだ」。量子力学の奇妙さは、情報理論ときわめてよく似ている。情報理論は、情報伝達を説明するために計算理論と共に発達した強力な考え方であるが、量子論とよばれるものは実際は大部分が情報理論、つまり、量子の実体そのものよりむしろ実体に関する知識についての理論であるという点で、ルドルフとフックスの意見は一致しているのである。(p.588)

     「量子力学には、相対性理論のように根本となる原理がない。相対性理論では、あらゆる慣性系における観測者の物理法則はすべて同一で、ほら、そこからたくさんのものが得られる。ここに、情報理論的な制約をかけてみる。つまり、『観測者は決して粒子の位置と運動量を正確に知ることはできない』とするんだ。すると、ほら、その結果生まれた理論がどれほど制約を受けているか、どれほど量子力学と似通っているかがわかるはずだ」
     フックスも同じ意見だ。(p.589)

    以上

  • h10-忠生図書館2017.8.8 期限8/22 返却8/19

  • 初期の量子力学の歴史を、偉人たちの残した言葉をセリフとして使って、小説風に語った本。教科書には物理学の偉人たちがさも当然のように数々の発見をしたように書かれますが、実際はその着想に至るまで色々な苦労があったり、発表しても他の学者たちに受け入れられなかったり、様々なドラマがあったことが分かります。

    まあこの本はだいぶ脚色が入ってるとは思いますが、それでも大筋の流れは正しいのじゃないかと思います。

    シュレーディンガー方程式とかベルの不等式とか専門用語もたくさん出てきますが、それらの中身にはあまり言及せず、それらが当時の物理学者たちにどういう風に受け止められたか、という観点で主に描写されています。セリフ中心で書かれているので、読みやすく物理学者たちもキャラが立ってて面白いです。量子力学版の大河ドラマですね。

  • 量子論で議論されてきた歴史が、アインシュタインとボーアの対立点、ERPパラドックスとベルの不等式、さらにベルの不等式を破る実験と現代の量子もつれを使った情報理論まで 物語として著されている。数式はほとんどないが、量子論の不思議さは良くわかる。ボーアが相補的と呼ぶ 光子と波、アインシュタインが存在を願った隠れた変数と物理学としての実在。量子もつれや波動関数の観測による収縮は、読み終えても未だ理解できていないが、量子力学はそうゆうものだとして捉えることが、現在の大多数の学者の知恵らしい。ベル曰く、FAPP(For All Practical Purposes)
    実用的な目的には十分である。
    結局、量子に影響を与えずに測定することは不可能なのだから、測定という言葉は正しくなく、あくまでも実験の一部として捉えるべきらしい。シュレジンガーの猫は実験して初めて生死が決まるのだ!???

  • とても優れた歴史小説。

    量子力学の概念的な概要と寄与した物理学者の名前を知っている人の方が得るものが大きい。

    そうでない人にとっても、知らない国の知らない時代の面白い歴史小説を読んでいたらたまーに知っている人物やエピソードに出会う という楽しみがあると思う。

    資料研究に基づいた実話という立て付けだが、資料記録の表現方法は闊達でほぼ創作の域にある。

    私がこれまでに知っていた量子力学の研究の経緯、特に登場人物間の関係性について、ここまでビビッドに詳細に読めるなんて、、、有難う としか言えません。有難う。

    近年の理論物理領域の書籍の中には、数学で表すのが精一杯だった理論を概念的に説明する事に挑戦したもの そしてそれが数学的に間違っていない ものが増えました。
    有難い事です。
    そしてこの書籍は、そのような概念的理解のレイヤーで語られています。

    22世紀に残されるべき名著と思います。
    個人的にはこの本を1960年に読んでいたかったです。

  • 一人の天才の独創が生んだ相対論に対し、量子論は多数の物理学者たちの努力によって構築されてきた。その精緻化のプロセスで、彼らを最も悩ませた奇妙な現象=「量子もつれ」。因果律を破るようにみえる謎の量子状態は、どう理解されてきたのか。EPRパラドックス、隠れた変数、ベルの不等式……。当事者たちの論文や書簡、討論などを渉猟し、8年をかけて気鋭の科学ジャーナリストがリアルに再現した、物理学史上最大のドラマ。(出版社HP)

    ★工学分館の所蔵はこちら→https://opac.library.tohoku.ac.jp/opac/opac_link/bibid/TT22057276

  • この解説書いてる人が、めっちゃうま!
    これで書店員?!
    名前覚えておくといいよ。
    まあ、読んで分かるものなら読みたい一冊です。

    2023/07/18 更新

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