美濃牛 (講談社文庫 し 68-2)

著者 :
  • 講談社
3.47
  • (45)
  • (87)
  • (193)
  • (10)
  • (4)
本棚登録 : 824
感想 : 90
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (770ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062737203

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 長い助走、狂言回しがみごとです

  •  文庫本にして750ページを超える大作。首なし死体が登場するまで190ページ程度かかりブロンズの牛の角に腹を突き刺された二人目の死体が登場するのまで,430ページ程度かかる。非常にゆっくりした展開の作品である。
     登場人物も非常に多く,大きく分けると羅堂家の人々,コンミューンの人々,暮枝村の村人達,雑誌から取材に来ているフリーライターとカメラマンと,複数のグループが登場し,それぞれの思惑で動き,物語がかき回される。美濃牛の面白さは,それぞれの登場人物が,殺人事件とは別の思惑で動く姿がいきいきと描かれている点にある。
     犯人である羅堂陣一郎=鋤屋和人は,俳句を愛する老人として描かれている。陣一郎が開く句会の様子が描かれているが,ここでフリーライターの天城が詠んだ「秋風や牛舎の牛の白い角」という句が,羅堂真一殺害の重要な目撃証言になってしまい,最終的に天城が狙われる原因となる伏線として描かれている。登場人物のキャラクターが魅力的なこともあり,句会が事件に関係がないシーンとして描かれていると思って読んでいたので,感心してしまった。
     ミステリとしては全体として冗長であり,横溝正史作品へのオマージュとするのであれば,登場人物を少し減らしたり,出羽や藍下(=村長),灰田についての描写を減らすなどして,もう少しすっきりした作品にした方がよさそう。しかし,美濃牛は単なる横溝正史作品へのオマージュではなく,横溝正史が描きそうな世界へのオマージュであるように思われ,一見無駄のように思われる部分にも愛着を感じてしまう。
     ミステリとしてのこの作品のポイントは,羅堂陣一郎(=鋤屋和人)が,羅堂一族との奇妙な共存関係の終焉を避けるために,自殺した羅堂哲史の首から上を切断したことにである。自殺を猟奇的な殺人と見せかけることで,猟奇的な連続殺人事件が生じてもおかしくないと思わせ,羅堂美雄が,金のために,便乗して羅堂真一を殺害するであろうことを予測していたという点。
     実行犯になれる何者かが裏に存在し,連続殺人をプロデュースするという構造は,Yの悲劇に通じるものがある。羅堂陣一郎(=鋤屋和人)のお手伝いであるお栄さんが,羅堂哲史の首を切断したというのはシュールだが,お栄さんの行動がやや不自然であること,お栄さんと羅堂陣一郎(=鋤屋和人)の関係など,伏線もあり,納得できないほどではない。
     とはいえ,何人ものキャラクターが登場し,いくつものエピソードが並立した形で描かれているので,要約がしずらく,記憶に残りにくい作品となっている。このような作品は嫌いではないが,しばらくたつと,大体の構成は思い出せても,何人死んで,実行犯が誰だったかなど思い出すのが困難そうな作品ではある。
     全体の構成,文章の読みやすさ,キャラクターの魅力など,かなり好みの作品なのだが,印象の残りにくさも含め,あと一歩足りない印象がある。際,羅堂陣一郎が鋤屋和人であろうということは,ミステリ慣れしていると読めてしまう。サプライズを狙っているわけではないのだろうけど,ミステリを読んでいるので,サプライズがほしいのも事実。その点の割引もあって…★4で。

  • 色々踏まえていないので、深いところは分からないが、普通のミステリーとして楽しく読めた。牛肉についての知識も深まるし良かったと思う。

  • オーソドックスな本格ミステリなのに、読みやすい。
    キャラが個性的で面白い。
    本格の要素も、ホラー的な面も、申し分なくラストの収まりもいい。
    大傑作とは言えないまでも、際立ってよい作品でした。

  • 2015年12月27日読了。
    2015年235冊目。

  • 石動シリーズ1作目。
    不治の病をも治す"奇跡の泉"、地域開発調査に派遣される石動、泉の洞を封鎖する羅堂家、牛舎と美濃牛の像、俳句を嗜む隠居老人、他所者の古民家に出入りする美青年、閉鎖的な村の中で次々消える赤毛一族の命。
    視点は主に取材にかりだされたフリーライター天瀬のものだし、石動でシリーズになっているとは知らず読み始めたのもあり、序盤から探偵の怪しさが尋常じゃなかった笑
    登場人物が多いけれどそれぞれ個性と価値観がわかりやすく、『ハサミ男』から感じる皮肉屋っぽい洞察も好調でくせになる。
    事件の真相や真犯人については、なんとなく怪しい怪しいと思うところであったから意外性というほどではなかったけど、しっくりまとまっているとても楽しめるミステリ。俳句を練る風景がとても風流で好きだし、伏線として回収されたも素敵だった。
    章毎の引用文が多岐に渡っていて、著者の知識量に慄く。散りばめられているはずのオマージュについて半分も拾えていないだろう自分が残念。

  • 再読。ピラミッドのアヌビスの次は迷宮の奥のミノタウロスで。
    3歳の子どもはもっと話せるだろとか栄さん年のわりに老けすぎじゃないかとかその辺がひっかかりました。アントニオ出てくるのあれだけだったっけ?いやまあ黒い仏で大活躍だしいいか...。

  • 長い!が一気読み。

  • タイトルが良い。『美濃牛』で「ミノタウロス」だ。
    そして読後、俳句をやってみたくなった。

  • 700頁を超える大長編。クライマックスで登場する美濃牛の正体は何だったのか。天瀬の幻聴?亀恩洞の迷宮と窓音の中の迷宮の対比が印象的であった。

    前半は様々な人物の視点からなる群像劇で、キャラ同士の掛け合いも楽しめる。気に入ったのは藍下と出羽のコンビ。
    クライマックスで美濃牛が現れたのが面白かった。それも天瀬の前だけに。美濃牛ではなく窓音を選んだ天瀬。果たしてそれは天瀬の意思だったのだろうか。
    窓音の底知れぬ存在感は美濃牛をも凌ぐかもしれない。

  • 岐阜の奥地にある暮枝村。
    洞窟で見つかる、病を癒すという奇跡の泉。
    牛の角もつ鬼。赤毛をもつ地主の一族。
    飛騨牛にはなり損なったただの美濃牛。

    やがてわらべ唄を模したという陰惨な事件が起こり、村人たちは恐怖する。
    にやにや顔の名探偵 石動戯作が捜査を開始する。

  • 個人的に最悪な状況で読み進めた本。扁桃炎やら、身内のクソッタレな問題やら。人はいつでもどこでも大抵俺を困らせる理解不能な存在だ。俺の思いと小説はいつでもその時々の状況にリンクする。そうだよな、アル中になったお前。

  • 石動戯作シリーズの第一作

    先に「黒い仏」と「鏡の中は日曜日」を読んでしまってから本作に手を出した。
    内容はオーソドックスな本格ミステリーで、前に読んだ2作どちらも最後か途中にどんでん返しがあったので、今回も何か来るだろうと身構えしていたが、特に何も来なかったのが少し残念だった。
    色々な人の視点から物語が進行して行き、登場人物一人一人の内面描写からそれぞれの個性がみれた。
    とにかく文章が読みやすい。

  • 4

  • 石動シリーズ原点
    正直に言うと読んだ直後の感想は少し薄いと感じたが、不思議と無意識に印象深かった場面が多くあったらしく、忘れた頃にも思い返せる描写や浮かぶ情景が多かった本。

    何がいいのか上手く言えないけれど、何かがツボに来る。

  • タイトルと表紙から想像していたのはオカルト要素。
    実際は王道の本格ミステリ。

    ミノタウロスを題材に使っているのだから、
    もっと禍々しさを出した作風にした方が魅力が出たのかも。

    最初の殺人がインパクトがあっただけに、その後の殺人は失速してしまった気がする。

    それと窓音の得体の知れなさをもっと強調した方がタイトルとの相乗効果も出たのでは。

    「ハサミ男」と比べてしまうとどうしても物足りない。

  • 読みやすく、読みごたえもあり、探偵が魅力的という素敵なミステリ小説でした。

    読んでいるときは冗長な気もしましたが、不必要なエピソードがまた登場人物の魅力を描いていたり、たんに面白かったり、ヒントが隠されていたりもするのでこれは外せないなと。句会の場面に和みました。

  • 言葉遊びに見立て殺人、田舎の屋敷にとミステリ要素盛りまくりの上に、オカルトやら音楽ネタ、果てには俳句まで乗っけてしまう盛りだくさんぶり。それは800ページ弱にもなる。確かに盛りすぎ感もあるが、それでも徹頭徹尾本格ミステリだから殊能さんは信じられるな。面白かった。

  • あ、あれ?これで終わり?もう一幕あるかと思った。衝撃的といえば衝撃的な真犯人だったけど……。結末があっけなかったけど、ストーリーは面白かった。視点が章ごとに変わるので苦手な方もいるだろうけど、私は多視点の話は好きです。あの他人行儀な呼び方は伏線だったのか〜。ムツヒゲさんと藍下さんと出羽さんと町田さんがナイスでした。

  • 長いけれどひきこまれる様に読んだ。ハサミ男とこれは人物に関する描写が読みやすいのが魅力だと思う。また事件に絡む人物たちの狂気が伝わってきてゾッとさせられた。
    解説で食事の描写について触れられていたが、石動達の逗留していたおうちのご飯は本当に美味しそうだった。家庭的な料理なのに工夫が細かい。

全90件中 21 - 40件を表示

著者プロフィール

1964年、福井県生まれ。名古屋大学理学部中退。1999年、『ハサミ男』で第13回メフィスト賞を受賞しデビュー。著書に『美濃牛』『黒い仏』『鏡の中は日曜日』『キマイラの新しい城』(いずれも講談社文庫)がある。 2013年2月、逝去。

「2022年 『殊能将之 未発表短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

殊能将之の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×