新装版 海と毒薬 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
3.81
  • (130)
  • (177)
  • (174)
  • (23)
  • (2)
本棚登録 : 2580
感想 : 208
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062769259

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 遠藤周作というと読みにくいイメージがあったんだけど『深い河』が意外と読みやすかったので、これも借りてみたら読みにくい。そう、遠藤周作といえばこれよこれ!
    色んな環境を生きてきた人々の人生が、紡がれて「捕虜の生体実験」という一つの糸になっていくという構成にゾッとする。
    ただリモ的には、人々の台詞が方言率高めなので頭に入りにくかった(そこ?)

  • 戦後、日本はアメリカの捕虜を使い、非人道的な人体実験を実施した。その内容は非常に残酷で、グロテスクで理解に苦しむものだった。しかも実験を行うのは軍人ではなく医師。実験を行う側の者に選ばれ、実際に実験を行った医師のリアルな葛藤を描いている。

  • 解説の言葉が印象に残った。

    良心とは、一個の人間が生きるうえで、常に心中を流れ、その活動を支える血液である。血液の色がその場に応じて、青や黄に変わるものではないように、良心とは確固たる立脚点をもって、初めて各人の心の健康を維持するものである。

    読んでる時には、良心の呵責というものを感じない姿に怖さを感じつつも、レベル感の話で言えば自分も何が違うんだろうと考えてしまった。

    犠牲になったアメリカ兵は考えてもなかっただろうし、いたたまれない。

  • 詳細を忘れてしまったし、再読して損はない作品のため2回目。

    主人公は勝呂なんだけど、今回自分には戸田の感情や思考、子供の頃の回想エピソードが、これ自分と同じじゃないのか?!とエゲつなく刺さった。対処せなばならない罪悪感、良心の呵責を抱えた時、良くも悪くも地頭がいいというのか、今風に言えばストレス耐性が強いというのか、その自己否定から抜け出す一見は論理的、しかし当然利己的とも言える思考プロトコルを脳内確立することで真っ向からの対面を回避する。

    戸田の場合つまり、今までの人生何か後ろめたいことをしでかしてしまっても、他人や社会からの明確な非難を与えられることで初めて良心が痛む人間なのだ、と自分の過去の経験則からこの不文律のようなものを作る。それと合わせて、この時代における良心とはそんなものなのだ、と厭世的な達観も加わって自己防衛壁が築き上げられる。

    人間は多かれ少なかれこの戸田的要素を持っていると思う。その意味では「人間失格」の葉蔵や「罪と罰」のラスコーリニコフとも似てると感じた。

    続編と言われる「悲しみの歌」も先日読破し、私的に本作では脇役だった勝呂のことも理解したが、戸田のその後も読みたかった。多分見た目は至極普通の人、普通の生活を送っているが、一生誰にも話さない心の闇が深く屈折して存在しているような気がする。

  • 神を持たない日本人だから、自分の中の正しさを尺度に生きていて、時に誰よりも残酷になれるのかも知れないと思った

    自分が正しいことをしていると思い込んでいる間って、周りが見えないもんなぁ

  • 戦時中の不穏な空気をひしひしと感じ
    暗い病院の中で今にも弱った人々が死の淵に
    いるのに何も出来ない、何もしない
    医者。そこにアメリカ人の捕虜を人体実験
    すると言う案件が持ち込まれる。
    実験はおこなわれるが、目を背ける物
    良心の呵責も起きない者、それぞれの細やかな
    心の動きが伝わってくる。
    罪の無い人間等一人もいないが、戦争と言う
    暗黒の世界は人の命や尊厳等全て奪われてしまう。
    虚無感だけが、世界を埋め尽くす。

  • 読んでいてしんどかった本。
    倫理観、自身の信念について考えさせられた。
    考え方1つによって物事の捉え方はどうとでも変わってしまう。その人の価値観や考え方が違えば、物事の判断は変わってくる。カオス。そこに必要最低限のルールを設けたのが憲法や法律なのか。

  • 重いテーマだけど短いのですぐ読み進められた。
    良心とは何か。捕虜を生きたまま解剖したという事実。その場にいた人々がどのように考えていたのか。戸田は何も感じなかったが、自分も沸き立つものがなかった。という精神状態で読んだから、再読が必要だと思われる。難解である。

  • 高校3年の読書感想文で読んで以来かな。当時読んだ記憶はかなり薄れていたのでほとんど初読の感覚。罪の意識、良心の呵責、何を拠り所にして善悪を判断するのか、それを自らの行動にどう繋げるのか。勝呂や戸田たちの過去や言動、心の動きを通じてそれらが描き出されている。ここで書かれているほど大きな出来事ではないにせよ、誰でも思い当たる経験があるのではないか。見て見ぬ振りをしたり、あとになっても後悔を引きずったり、罪の意識に苛まれたり。自分自身だったら、ということに思いを馳せながらまたじっくりと読み返したい。

  • ☑︎お前はいつも、そこにいたのじゃ。そこにいてなにもしなかったのじゃ。
    ☑︎他人の眼や社会の罰だけにしか恐れを感ぜず、それが除かれれば恐れも消える自分が不気味になってきた。

全208件中 111 - 120件を表示

著者プロフィール

1923年東京に生まれる。母・郁は音楽家。12歳でカトリックの洗礼を受ける。慶應義塾大学仏文科卒。50~53年戦後最初のフランスへの留学生となる。55年「白い人」で芥川賞を、58年『海と毒薬』で毎日出版文化賞を、66年『沈黙』で谷崎潤一郎賞受賞。『沈黙』は、海外翻訳も多数。79年『キリストの誕生』で読売文学賞を、80年『侍』で野間文芸賞を受賞。著書多数。


「2016年 『『沈黙』をめぐる短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

遠藤周作の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×