ラジ&ピース (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062770668

感想・レビュー・書評

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  • 地方ラジオ局でアナウンサーをしている31歳喪女の話。群馬での暮らしが淡々と続くだけで、特に何も起こらない典型的な私小説。

    最近こういうの読んでなかったけど、私小説を読むと、ルーティン回してるだけっぽくもある自分の生活にも、ドラマじみた部分はあるし、何も起きていない風の人生をどう味わうかが人生の醍醐味だよなと思わされる。

    私も20代の頃は、知らない音楽を聴くことが何よりも楽しかったなぁ。そして、自分のことを厭になればなるほど、他人の目が気になっていたなぁ。
    いつのまにか新しい音楽を求めなくなって、他人の目も気にならなくなって、でも20代の頃から私の人生は地続きのはずで、きっとこの先もどんどん変化していくのだろう。楽しみだ。

  • 自分を醜いと思い込み、意固地になっていた野枝。現実世界では他人とつながることを拒否し、ラジオ局のスタジオの中でしか息ができない。例えば、気の置けない友人と一緒になって笑いたいが、どういう顔をして笑ったらいいのかわからない。そんな彼女が、群馬という土地で、少しずつ変わる物語。
    併録された「うつくすま ふぐすま」この表題の意味が分からないのは私だけ?

  •  あまり印象に残らなかったけど、嫌いではない。たぶん時間をおいてまた読んだら新たな発見があって、その都度好きになり、最終的に気に入りそうな本の予感はしたけど、それくらいの感じ。

     表題作の野枝のサバサバした感じ、世間に期待していない感じがちょっと好きだな~っていうのはある。沢音とは正反対のタイプなのに、気が合ってしまう感じもなんかわかる気がする。わかるけど、よくわかんないや。

     誰もがここにいる。ここに存在するっていう感覚が大切で必要なのかな。

  • 相馬野枝32歳独身。FMラジオのDJ。
    自分の容姿に強烈なコンプレックスを抱き、極端なほど他者との距離を保つ彼女が、唯一自分を解き放てるのが自らパーソナリティを務めるラジオ番組。
    仙台から群馬のFM局に転職した彼女が、半ば強引にできた女友達やリスナーとの関わりの中で、ほんの少しずつ自分を肯定していく・・・という標題作は、本当にFMラジオの番組を聞いているかのような孤独な心地よさ。
    群馬の小ネタ(高崎人は前橋人が嫌いとか・・・ホント?)も随所にはさまれクスッと笑える。

    併録された「うつくすま ふぐすま」は、短いながらスカッと晴れた空を感じさせるキレのいい作品。
    生ゴミのようだと感じる男とずるずる切れずにいる中野香奈(下から読んでもナカノカナ)が、もう一人の中野香奈と友達になり、違う世界を知ることできっぱりと別れを告げる。そのシーンがもう最高。
    ーー雲がみるみる晴れてきて日が差しこんできて、一斉に蝉が鳴き出したような嬉しさだ。誰にでも屑みたいな過去はある。でも私が忘れてしまえば、そいつは消える。なかったことになる。ーー
    なんと爽快!

  • 絲山女史の作品を
    追っかけているわけでないし
    すべてを読んだわけでもないけれど
    基本的に病んでいるものが多い。

    そうじゃない絲山女史を読んでみたい
    今回は特にそう思った。

    そう思っていたら
    オマケの一編『うつくすま ふぐすま』はかなりいい。

    『逃亡くそたわけ』に出てくる

    "亜麻布二十 エレは上衣一着に値する"

    といい、
    女史は言葉を切り取るのがとても上手い。

  • おのれの弱さが他人の目には強さであるように映ることがある。
    なぜかといえばその強さとは、弱さを覆い隠し守るための鎧のようなものだからだと思う。
    でも内心、その鎧の重さに辟易していたりする。

    『ラジ&ピース』も『うつくすま ふぐすま』もそんな短編で、少し乱暴にまとめると30代の女が武装解除するという話。

    あまりにすとんと変化が訪れるので、ちょっと物足りなかった。

  • 絲山秋子の文体や作品の中に充満している空気感、曇り空からほんの少し覗く太陽の光のような、好転の兆しが本当に好きだ。

    大きな波が岩肌にぶつかって割れて散るような激しさはないけれど、密閉容器に煙がどんどん立ち込めていくような、静かな圧迫感が凄い。
    本の薄さからも分かる通り、言葉は少ない。
    けれども、こちらに投げられる野枝という女の、世界に対する期待感の無さや虚無感は計り知れないものがある。

    だからこそラストに訪れる、決して派手な大団円ではない、喉に刺さった小骨が抜けるような小さな解放が沁みる。
    これからずっと幸せだろうという予感ではなく、とりあえず明日は大丈夫だろうというくらいの幸福感を描くのが、絲山秋子は天才的に上手いと思う。
    そしてそんな幸福が、野枝のような不器用で、人との距離も上手くつかめない人間を一番豊かにしてくれると知っている。

    今作でも、ラストに近づくごとに自分がいかに身体に力を入れて生きていたか、思い知らせてもらった。
    肩に食い込む煩わしい荷物を下ろせても、それでもやっぱり日々の孤独は変わらない。
    けれど、このままでいい、何も無理に分かってもらおうとしなくてもよい、ここにいたらいい、怯えることはない、誰に命を取られるわけでもない、とそんな風に思えるだけで、そこは住みやすくなるし、リラックスできる場所になる。
    そうしたらまた明日を迎えてやればいい。

    絲山秋子の小説は、負のものでいっぱいに膨れて、少しでも激しく動いたり突き飛ばされたりしたら破裂しそうな私の身体に、いつも細い針で穴を開けてくれる。
    悪いガスが抜けていく速度はとてもゆっくりだが、いつか確実に抜けるだろう。
    そんな予感を、この本もまた私に与えてくれた。

  • 他の本より地の文があっさりしていて、主人公の内面もガシガシ消しゴムで削られた跡だけがある。
    つまりは測りかねた主人公の変化が、大きいものなのか小さいものなのかわからなかった、それが読みのせいなのか作品の性質なのかもいまひとつ確信できない。

    「うつくすま ふぐすま」も、収録。

  • 再読
    ラジオDJの女

  • 人間の心はブラックボックスだなということを強く感じさせる。誰とのどういう関わりが、心の変化にどのように影響するかなんて他人にも本人にもわからない場合がほとんどだと思う。説明がつかないものは説明がつかないんだという態度がすごく気持ちいい。

    今回も野枝はきっと絲山さんなんだなあと思った。

著者プロフィール

1966年東京都生まれ。「イッツ・オンリー・トーク」で文學界新人賞を受賞しデビュー。「袋小路の男」で川端賞、『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、「沖で待つ」で芥川賞、『薄情』で谷崎賞を受賞。

「2023年 『ばかもの』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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