竜が最後に帰る場所 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062776509

感想・レビュー・書評

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  • 「風を放つ」
    この作者にしては珍しく(?)妙に現実的なお話。

    「迷走のオルネラ」
    これもファンタジーというよりはリアルな怖さ。自らのトラウマをこういう形で昇華させる方法もあるのか。復讐も兼ねていて効率的ですね。

    「夜行の冬」
    これが一番、いつもの恒川作品ぽかった。いつもの、というか私の思う(好きな)恒川光太郎のイメージですけども。ちょっと民俗学的な匂いのする不思議現象。ただ、終わり方が少しあっけなかったかな。もう少し続きを読みたかった。

    「鸚鵡幻想曲」
    これはなんとも奇想天外。何が起こるのか、どこへ向かっているのか、展開が全く予想できない面白さがありました。「偽装集合体」という発想も奇抜だけれど、それがメインのテーマではなく、それを「解放」する側が主人公でもなく、ある意味被害者のほうがどんどん変遷していく意外性が面白い。ラストが一応ハッピーエンド(?)なのもいいですね。

    「ゴロンド」
    本タイトルの「竜が最後に帰る場所」は、この作品のサブタイトルみたいなものでしょうか。そこに思い当たれば、物語の主人公の正体は最初から明らか。とくに大事件が起こることもなく、一匹の竜の誕生、成長、そして旅立ちを描いているだけなのだけれど、童話のような印象でした。

  • 日本で幻想(ファンタジー)をまともに描ける稀有な作家、恒川光太郎の5話で構成される短編集。《狐に摘ままれた》ような語りのプロローグ『風を放つ』から、徐々に作者の持ち味を活かし、読む者を異界へ誘う構成は毎度ながら実に見事。
    誰しも一度は夢想する正義と悪をくじく力への憧れは《闇が有っての光》なのか?『迷走のオルネラ』、SFのパラレルワールドを見事に幻想譚へと変換した『夜業の冬』、予期せぬ展開に翻弄される《愉しさ》を満喫できる『鸚鵡(オウム)幻想曲』、クライマックスを飾るにふさわしい、大きなスケールで語られる、優しい読了感のある傑作は、表題作でもある『ゴロンド』で締めくくられる。
    デビュー作『夜市』から5作目の本書をして、恒川が紡ぎ続けてきたテーマが「再生」にある事を前面に強く打ち出した作品でもある。最新作は異界の題材にした時代劇小説の『金色機械』と。文庫になるまでじっと我慢だ。

  • 『夜市』でファンになり、いくつか読んできている恒川光太郎。『神家没落』とか、好きな話もあるんだけど、『夜市』を超えるものがまだ出てこない。

    少し不思議な話をあつめたような短編集で、『風を放つ』は電話でしか話したことのない女性とのなんだか村上春樹のような感じの話。『鸚鵡幻想曲』『ゴロンド』はなんだか壮大なファンタジー短編。

    好きだったのは、不気味なガイドについて歩くと別の人生にたどりつく『夜行の冬』。すごく変なんだけど妙に読ませる『迷走のオルネラ』も意外と好きだった。

  • 大好きな恒川さん(*^_^*) 文庫化してから全部揃えております。初めて、予約注文しちゃった (^_^)v 恒川作品でベスト3に入る作品。『南の子供…』よりも先に買っちゃった。

    ↓↓読了コメントここから↓↓
    あれれ?と違和感に焦る。こんなにドロドロいやな感じだったかな?鸚鵡も好きだったのに、こんな、こんな…(汗)
    恒川作品ファンを自負していましたが、返上しなきゃかな(涙)
    読むタイミングじゃなかったかも。またいつから再読します。
    とりあえず、11/7には『秋の牢獄』再読決定(^_^)v

  • 恒川作品にはいつも癒されます。本のタイトルが、どの短編の題名にもなってないのであれ?と思いますが、ちゃんと出てきますね。

  • 少し怖くて不思議な話が詰まった短編集。ファンタジーと現実の境目を行き来するような、怖くもありワクワクさせられる物語。

  • しんと静まる雪の夜
    錫を鳴らして歩く赤い女に導かれ
    町から町へと渡ってゆく怪しい集団。
    巡礼めいた一行。その一行に加わった僕は
    微妙に異なる世界から世界への旅に出る…
    (夜行の夜)

    「風を放つ」「夜行の冬」「鸚鵡幻想曲」
    「迷走のオルネラ」「ゴロンド」5編収録。

    幻想ホラー小説というのでしょうか。
    怖い感じはあまりなく、独特の世界観
    不思議な空気感を持った作品たち。
    「夜市」だけ読んで他作品を
    読んでいなかったのですが、
    この本を読んでもっと他作品も読んで
    みたくなりました…!

    文章がうまいので読みやすいけれど軽くなく、
    描かれる美しい情景。
    どれも魅力的でしたが
    特に「集合体」を探し出し「解放」する男が
    描かれた「鸚鵡幻想曲」が印象的でした。
    「夜行(やぎょう)の冬」も
    寂しくて不気味で静かで良かったです。

  • 1.風を放つ
    登場人物どうしの会話や状況を簡単に説明する文の量に対して主人公の考えを窺い知る文の量が少ないせいか、話の筋が分からない不安定な状態のまま話が終わった。人間誰しもが持つ攻撃的な側面や思い込み・偏見による歪みを表現しているのかもしれないが、個人的に好感の持てない人ばかりで不快な気持ちを掻き立てられるばかりで読後感が悪かった。

    2.迷走のオルネラ
    強者と弱者の立場が逆転した時、正義はどこまで許されるのか?
    「力で何かを解決しようってのが気に食わないんだな私は。」という正論。
    洗脳され、思い込みの世界に生きる姿は他人として見ると哀れに見えるが、自分たちも生まれた時から日々洗脳され、思い込みの中で生き、死んでいくのには変わりはない。

    3.夜行の冬
    パラレルワールドを移動し続け、人生を選択できない人たちの話と解釈。
    思考停止して他人に先導(≒ 煽動?)され流されていることの恐ろしさ。
    不幸は偶然に、そして突然起こることであり誰も助けてはくれない。
    問題は自分の力で解決するか、状況を受け入れるしかない。
    過去を振り返ってあの時ああしていればと思うことは多々あるが、ある時点で別の選択をしたことで今の状況を回避できたとしてもその結果がよりよいものであったかは誰にも分からないし、今の状況が好転するか悪化するかも分からない。

    4.鸚鵡幻想曲
    宏と鸚鵡のどちらが本物かということではなく、あくまで状態の変化と解釈したほうがよいのではないかと思った。
    「宏(人の形を留めている)=人として社会生活を維持している状態」
    「鸚鵡(人でいられなくなった)=他者に傷つけられ人間社会から距離をとった状態」
    と捉えると、島の女との交流を通して人の姿に戻るというエンディングにも「傷つきからの回復」という意味がついてくるように思えた。
    特定の人に自分を知ってもらいたいという欲求、相手の深いところを知りたいという欲求は双方にある一方で、他者に強引に深入りすることはただの自己満足であり相手を崩壊させることにもなりえる。
    アサノが一連の行為を「解放」と読んでいることに傲慢さを感じた。
    人間関係の距離感の難しさ。人を崩壊させるのは他者であり、人を癒す・人として生きさせているのもまた他者であるということか。

    5.ゴロンド
    同じ生き物の中でも強者と弱者はあり、留まる者と出ていく者がある。
    留まるものは現状を維持し、出ていく者は変化する。
    どちらも良し悪しを判断できるものではないが、同じ生き物どうしでの争いが避けられないのが常であるならば変化していくことが理想へ近づく可能性が一番高い手法なのかもしれない。
    それが絶滅の道であったとしても(飛躍しすぎか)。

  • 前作南の子供が、個人的に低評価になってしまったので、期待して閲覧。

    夜行の冬、鸚鵡幻想曲はそれぞれ一冊で読みたいくらい面白かった。

    特に夜行は、行く先々でのエピソードを連作短編集で作ってほしい。

    それくらい設定が良かった。

  • なんともいえない読後なのだけど読みたくなるのですよね。現実を忘れさせて欲しいんだろーな。

著者プロフィール

1973年東京都生まれ。2005年、「夜市」で日本ホラー小説大賞を受賞してデビュー。直木賞候補となる。さらに『雷の季節の終わりに』『草祭』『金色の獣、彼方に向かう』(後に『異神千夜』に改題)は山本周五郎賞候補、『秋の牢獄』『金色機械』は吉川英治文学新人賞候補、『滅びの園』は山田風太郎賞候補となる。14年『金色機械』で日本推理作家協会賞を受賞。その他の作品に、『南の子供が夜いくところ』『月夜の島渡り』『スタープレイヤー』『ヘブンメイカー』『無貌の神』『白昼夢の森の少女』『真夜中のたずねびと』『化物園』など。

「2022年 『箱庭の巡礼者たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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