続 まんが パレスチナ問題 「アラブの春」と「イスラム国」 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062883313

作品紹介・あらすじ

宗教、民族、資源、復讐の歴史などが複雑に絡み合い、
世界の大問題の根幹ともいえる「パレスチナ問題」。

前作『まんが パレスチナ問題』では、ユダヤの少年ニッシム、パレスチナの少年アリ、そして智恵のある「ねこ」を語り部に、
パレスチナ問題を4000年の歴史を遡り、わかりやすく説明、
中高生から大人まで、多くの人の支持を集めました。

前作より10年、さらに混迷を深めるパレスチナ・中東問題を
前作と同じ二人とねこが解説します。

日本人にも関係のあるパレスチナと中東問題を理解するには、
まずはこの一冊から。

感想・レビュー・書評

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  • 早速だが、前作レビューのラストで抱いたモヤモヤが明らかになった。
    「リアル・ポリティックス(現実的政治)」。利害優先の政治であり、噛み砕けばエゴということになる。
    リビアで自国の旅客機が爆破されたにも拘らず、相手が賠償金と石油採掘権を差し出すや易々と乗ったアメリカ。ユダヤ人団体の圧力に屈して、パレスチナの独立を承認しなかったオバマ政権。対してシリアでは、政府による反政府運動へのジェノサイドが起こっても、石油が出ないからとアメリカばかりか国際社会まで救済を拒んだ。

    「ユダヤ人は2000年もの間民族差別を受けたけど暴力で反撃しなかった。神がユダヤ人に与えた試練だと思って耐えてきたんだ。でもホロコーストでは世界から見殺しにされた。だからイスラエルを建国した時ユダヤ人は誓ったんだ。『これからは暴力に対しては暴力で反撃しよう』って」

    前作『まんが パレスチナ問題』のエピローグで、ユダヤ人のニッシム少年はそう言っていた。
    前作から10年ぶりの再会を果たしたニッシム・パレスチナ人のアリ・エルサレムのねこだったが、情況は悪化の一途を辿る一方だ。エピローグのあの言葉を彷彿とさせるかのように、イスラエル軍によるガザ地区への空爆は続いている。
    本書では主に、チュニジアを発端とした独裁政権への反政府運動(通称「アラブの春」)や「イスラム国」の誕生・暴走をピックアップ。2人の国(イスラエル・パレスチナ)は直接関わっていないものの、充分に影響されている。

    前作よりも気が重くなり、憤りも強まった。前作よりも複雑になっていて、ますます暴力が世界を支配していた。暴力には暴力の厚塗り。「地上から人がいなくなるまで戦闘を続けるのか?」って何度思ったことか。

    「国民ってのは、いつの時代でも、とても好戦的なもの。イスラエルでも戦争をすると政府の支持率が上がる。ハマスはイスラエルにとって格好の、必要不可欠の『敵』なんだ」

    恐らくこれが世界的な真理なのだろう。あまり言いたくないが、日本人的には理解し難い。

    では日本はどうなのか。(以下は、あくまで個人の意見になります)
    本書でも言及されているように、日本が原爆投下への復讐心を止められているのは大したモンだけど、何でもアメリカの言いなりになるのは間違いではないだろうか。ハマスやイスラエル軍みたいに攻撃的でなくても、アメリカが我々に暴力の厚塗りをした結果(核兵器を二度も用いた罪)を立ち止まって思い出すくらい、強気に出ることも少しは必要なのではと。
    「アメリカから、国際社会から嫌われたらおしまいだ」と八方美人しているから、映画『オッペンハイマー』の宣伝で見られたような原爆軽視の風潮が起こる。(正直まだ腹の虫がおさまっていない) 核廃絶がいつまで経っても進まない。

    これが日本式「リアル・ポリティックス」であるならば、パレスチナ問題だって国際社会もろとも看過していた…なんてことになりかねない。好戦的はさることながら、こと勿れ主義も考えものである。

  • 中東の地の歴史や事件を学ぶのにブク友さんのレビューで気になり図書館でお取り寄せ。「正」の前編は数十人待ちだったのでこちらから詠み進めた。情報量過多で消化不良 箇条書きでまとめる
    各章ごとに地図とサマリー掲載。アフガニスタンはヘロインの原料になる麻薬アヘン生成が世界一で世界の生産量の90%も生産、政府、軍、警察には密輸関与で儲けているらしい。
    世界で約16億人いるイスラム教徒、血縁関係なく優秀な人を選出する「スンニ派」80%、血縁重視の「シーア派」10%(サウジアラビアスンニ派 イラン、イラクはシーア派多数)
    多数派シーア派をおさえていたスンニ派だったフセインは、アメリカに倒されてイラク内の宗教対立が激しくなる。ビンラディンが作ったアルカイダはスンニ派で宗教対立煽られた。
    チュニジア ローマ帝国を攻撃した英雄ハンニバルで有名なカルタゴ遺跡、ローマ帝国の遺跡、サハラ砂漠が目玉の観光地
    アラブ諸国では昔からの政治の核はイスラム教、王、軍の3つしかなかった 
    国の条件 領土があること、国民がいること、政府があること、他の国が承認
    イスラム国は④がない
    自衛隊は24万人、新イラク軍30万人、シリア軍35万人、イスラム国軍3万人
    メディア部門が優秀とのこと
    イスラム教徒で独裁政権を倒すために参加する者
    欧米に労働者としてイスラム圏から移民した家族とその子ども
    欧米白人でイスラム教に改宗 資本主義社会に不満をもつか適応できない者らしい
    アメリカ在住のユダヤ人550万人からの圧力団体があり、イスラエルに有利な政策をとるよう働きかけオバマ大統領への影響大だったとのこと
    パレスチナ人若者へのユダヤ人による虐殺と報復のかけあいについても触れていた

  • 前作から10年。前作はユダヤ教の成立から3・11までだったが、今作は2005〜2015年。副題にあるように、正に「アラブの春」と「イスラム国」の10年。特に前者はチュニジア編・エジプト編・リビア編・シリア編と国別に整理されていて分かり易い。
    フランスだけでなく、世界には闘う風刺漫画家が沢山いることを知ったのが大きな収穫。著者の山井教雄さんも、何気に絵がお上手と思ったら、こちらが本職なんですねー。

  • 2005年〜2015年について。
    前作を読んで衝撃でしたが本作も衝撃でした。
    物事はこんな風に悪化してきたのかと。

    宗教や派閥が馴染みがなく複雑でややこしいな、と日本の中でどれだけの人がきちんとこの問題を理解し重要視できているのかなとふと思いました。
    きちんと状況や人々の行動の理由の原因などを把握していないと、外交で悪手を取りかねないのではと思う。

    読みながら、この先世界平和もイスラエル・パレスチナ問題の解決も不可能なのではと絶望しかけましたけど、終盤のねこのコメントでちょっと持ち直しました。
    何かを変えようとしたら命懸けなのだなと改めて思わされました。
    正直、イスラエル独立を阻んだオバマの拒否権にはがっかりしてしまいました。自分が可愛いんだ、と。
    でもオバマさんにも家族がいるし、アメリカほど大きな国だと難しいこともあるのかもしれない。
    だからと言ってパレスチナの人たちにも大事な家族がいてどちらが、とかそういう比較の問題でもないのだけれど。。

    第二次世界大戦後のアメリカの日本統治がどれほど奇跡的な成功だったのか。
    自分は日本人の倫理観で、嫌だなと思うところもあるけどやっぱり良いなと思うこともある。
    相手を信じられるところ、他人のものを奪わないこと。一部に、倫理観が欠如して自分が良ければ良いと思う人がいるのも事実ですが、それになびかず自分を律することができる人が多くいるのは誇りだと思います。
    自分が良ければそれで良いと言う身勝手な人はSNSの発展に伴い注目度を浴びるためにか目につくようになりましたが、そういうのに流されずきちんとした倫理の教育が日本の子供達に受け継がれていくのを願うばかりです。

    憎しみの連鎖を断ち切る、並大抵の覚悟ではないと思う。誰だって苛立つし悲しいしやり返したい感情はあるはず。そこで止められるか否か。目先ではなくもっと先の未来の平和の展望のために行動できるか。
    ワンピースのしらほしを思い出しちゃうね。

    中国経済の影響力が高まったらハリウッド映画の悪役から中国人がいなくなったという記事を見たことあります。
    逆に、ユダヤ人がハリウッド映画も牛耳ってるのであれば、ユダヤ人のポジティブキャンペーンみたいな意識があるのかなと思い至りました(今更?)
    ホロコースト題材の映画は賞レースなど評価高いのも、ユダヤ人に対する同情を広めたいとかあるのでしょうか。
    映画は政治的なものと肯定的に思ってきましたが、そこで偏った発信になっていたとしたら、慎重に見極めなくてはならないと思わされました。

    今現在、ガザで起きてること。
    注視していかなくてはならないなと思いました。

    それと、日本は安全だし暮らしやすいし、出生率が下がっているから外国の移民受け入れが求められるということで外国人が増えていくと思うけれど、それにあたって今ある日本の良さを失わずにいけるように、日本の価値観・倫理観の良いところは譲らず貫いていきたいと思いました。
    移住してきた外国人の都合の良いように言うことを聞いてしまったら、日本の良さがなくなり、アラブの一部の国や人のように報復する価値観になっていったとしたら争いが尽きない国になる可能性もあるのかな?と。だいぶ飛躍してますが。。
    過去の歴史や今の現状をきちんと知って過ちは繰り返さないように、そして希望は捨てずに平和に向けて行動しなくてはいけないな。

  • 続編も読みやすく、中東とその周辺の国の歴史と実事を知れる。
    アラブの春で、独裁者を市民が打倒したにも関わらず、
    国を安定出来ず、生活がますます苦しくなってしまい最終的には軍に再度統治されてしまう悪循環は切ない。
    この本の最後にもあるように今の日本は「奇跡」であると強く感じた。

  • 前著から10年後に刊行された本作では、PLOアラファト議長の死後のパレスチナ地方を巡る状況からアフガニスタン、イラクでの戦争、チュニジアで始まった革命「アラブの春」と「イスラム国(IS)」の台頭についてわかりやすく描かれている。

    そしてこの本の後書きにもあるが、我々日本の人々もこの問題を対岸の火事だと思って眺めるのではなく、同じような悲劇を起こさないためにもしっかり学ぶことが必要だ。「憎しみの種」を育てることなく共に生きるためにどうすればいいのかを。

  • 前作「まんが パレスチナ問題」はユダヤ人とパレスチナを歴史的に振り返るのに役立ったので続編となる今作品も手に取ってみた。物語の設定は前作から10年後。農園の約束を交わしたニッシムとアリが出会うシーンに始まる。ニッシムはイスラエル人で兵役を終えた後。パレスチナに住むアリとは双方の言い分に乖離がある事に気づき始める…。
    戦争は外交の延長戦と言われる。話し合いで決着のつかない問題は最終的に力対力の構図をとる。イスラエルとパレスチナも長年その様な歴史を繰り返してきた。イスラエル側も首相が変わる度に対パレスチナ政策は変わるものの程度の差こそあれ威圧的な態度は変わらない。いや変われないといった方が正しいかもしれない。国民はパレスチナ強行姿勢をとる政治家を支持するし、双方が小規模大規模の戦闘・小競り合いを続ける。武力には武力を、復讐には復讐のスパイラルは変わらない。
    アラブ世界はチュニジアのジャスミン革命に始まりエジプトやリビア、更に広範囲に革命的機運が広まった事で、一気に複数の独裁政権が打倒された。しかしその様な混乱した政治状況で従来からの過激なイスラム組織や国境を持たないイスラム国などが力を付け、益々混沌としている。背景にはSNSや動画サイト、検索サイトに国際的なハッカー集団の協力などネット社会を通じた圧倒的な拡大と拡散スピードにあると思われる。そうした仮想空間では人の移動やモノの流通よりも情報の伝播スピードは圧倒な早さを持つ。混乱に乗じて力を蓄えるイスラム国などもネットを駆使した世界規模の勧誘を続けており、傾倒する若者も少なくない。原因の一つは増加の一途を辿り世界に移民していくイスラム教徒の迫害がある。日本でも一時期はイスラム原理主義=テロ組織的な報道が大半で、ムスリムの人々に対する静かな恐怖心が植え込まれた。小さな恐怖が迫害を生み、ネットやニュースで流れる自爆テロに恐怖や誤解がさらに助長され、最後には迫害や憎しみにさえ変わっていく。大半の人は情報だけに支配されてしまう。
    パレスチナ問題が平和的に解決されるためには、本書で言うネルソン・マンデラのような「相手を理解して許す」心がなければ難しい。
    争いを道具に使う国や人々がいる限りは実現は程遠いが、イスラム教カリフを名乗ったバクダディも違うやり方であればアラブ世界の統一と平和を実現していたかもしれない。人権問題は彼ら自身が解決する問題だし、我々の価値観だけを押し付けてはいけない。バクダディがいなくなっても、根本的な考えの差や、復讐のスパイラルが消えない限りは第2第3のカリフが登場するだけかもしれない。
    平和は尊いし誰もが望むもの。血を血で洗う世界に涙を流すのは女性や子供、お年寄りなど社会的に弱い立場にある人達だ。この様な漫画から先ずは知る事、そして平和について改めて考えたい。パレスチナだけでない。今日もスーダン内戦では多くの死者や怪我人が出ている。人は争いを止めることは出来ないのか?そんな事はないと信じ続けたい。

  • 2015年刊ということでイスラム国までで終わっていますのでその後は自分で補う必要がありますが、こちら、良書と思います。「パレスチナ問題」という題名ですが、「点」ではなく「面」そして「流れ」で追っていますので、背後にある絡み合った大国の事情もつなげて理解することができます。とてもよい頭の整理になりました。

  • 前回の「まんがパレスチナ問題」から10年経過した2015年現在の状況です。ここからさらにトランプ大統領の登場で乱世に突入していますので、この本よりもさらに混迷している世界情勢であります。
    しかしこの本は、小手先の事を書いておらず過去から現在に掛けてのアラブと世界の関係性を簡潔に書いているので、前作と一緒に読むとこの何千年かのパレスチナの状況が分かるとても素晴らしい本です。
    澄ました顔で色々介入したり口を挟んだりする欧米諸国が、どれだけこの地域を食い荒らしてきたかよく分かります。中東の問題の本を1冊でも読めば欧米の酷さが分かるのですが、意識して情報を取り入れないと、野蛮で寛容さの無いアラブ諸国、テロを国家ぐるみで推奨する恐ろしい地域。そんな風に思っている人達が多いのではないでしょうか。
    自分達の地域を護ろうとすることは自然な事ですよね。もし日本を勝手にアメリカとイギリスが山分けにしようとしたら絶対に赦せない事です。それをアラブの地域に対して行ってきたのです。どれだけ上から目線だったんだという話です。
    それにより自分たちの場所であると主張する民族が乱立する事となりました。しかも民族だけではなく宗教上の対立もあるので、お互いに譲る事が出来ないわけです。

    この本が出た背景には2014年にガザ地区へ行われた大規模な空爆が有ったのだと思います。この人道主義が表面上大事になっている現代で、イスラエルが行った空爆で2000人が無くなりました。当然医療機関も殆ど破壊されました。
    世界一の人口密集地、しかも市民に向けての空爆。これはがさほど大きな話題にならなかったのは、明らかにイスラエルへの配慮だったのだと思います。
    知らないうちに沢山の人が殺され、それに関与した人たちは何も処罰もない。これはどう考えてもおかしいし現代の話とは到底思えません。
    しかし、石油が出るか、経済的な影響力が大きくないと命も軽くなるってことなんでしょう。これから不穏なまま進んで行くであろう世界情勢本当に不安です。

  • 「まんが パレスチナ問題」の続編で、その後の10年間(2005~2015年)を描いたもの。

    前著と同様、わかりやすい説明で、ニュースなどで断片的に知っていたいろいろな話がつながってくる。

    タイトルは「パレスチナ問題」なのだが、内容的には、アラブの春とその後、そして、ISの話が中心。

    パレスチナ問題が改善に向かったわけでもなく、こう着状態におち入り、状況が悪化しているなかで、中東問題は、 ISやシリアなどの問題にフォーカスが移っていることをあらためて実感する内容。

    パレスチナ問題は、今や、そうした中東問題との関連においてしか語ることができないようだ。

    一時は、希望に思えた「アラブの春」も、その後の混乱のなかから生まれるのは、内戦状態であったり、独裁的な政権の復活だったり。。。。

    独裁者を倒せば、なんらかの民主的なプロセスが生じて、より平和で自由な体制が生じる、という期待は、なんども打ち砕かれる。

    最初は正義の人も政権にながくいると腐敗して、結局は独裁政治になってしまう。そして、体制を維持するために秘密警察や軍隊の力を使うようになる。

    権力は腐敗する。絶対権力は絶対的に腐敗する。

    という言葉をまた思い出してしまう。

    そして、中東からの難民の増加は、ヨーロッパの混乱を招き、多民族に対する不寛容さをさらに強めてしまう。そして、ヨーロッパ社会から阻害された若者が、テロリストとしての訓練をうけて、ヨーロッパでテロを引き起こし、それがさらなる不寛容さを高める、という悪循環。

    この循環をかえるレバレッジポイントはどこだろうか?

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