クビライの挑戦 モンゴルによる世界史の大転回 (講談社学術文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062920094

作品紹介・あらすじ

十三世紀初頭に忽然と現れた遊牧国家モンゴルは、ユーラシアの東西をたちまち統合し、世界史に画期をもたらした。チンギス・カンの孫、クビライが構想した世界国家と経済のシステムとは。「元寇」や「タタルのくびき」など「野蛮な破壊者」というイメージを覆し、西欧中心・中華中心の歴史観を超える新たな世界史像を描く。サントリー学芸賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • <おどろきのモンゴル帝国>
    世界史の教科書では、モンゴル帝国は、中国史の中に位置付けられる。
    しかも、中国史の中にあっても、軽んじられている。
    しかし、モンゴル帝国は中国史の枠を越えるばかりか、「世界史」という発想を初めて生み出した国家だというのが、本書の見立てだ。
    モンゴル帝国は、世界史の中でも空前絶後の(ということは、現在においても達成できていないほど、ということだ)メガ経済帝国を築き上げた国家だった。
    モンゴル帝国をそんな視点で見たことがあるだろうか?

    歴史の固定観念を覆す、驚くべきモンゴル帝国の姿がここに姿を現している。
    西洋人の持つタタールへの恐怖と、漢人の反モンゴル感情の生み出したモンゴル帝国の姿を、歴史の常識として疑ってこなかった者には衝撃の姿だと言える。
    その歴史に対するバイアスを取り除いてみせる。
    そこに出現するモンゴル帝国は、今までの姿とは似ても似つかぬ姿をしている。

    世界で初めて東西を交流させるシステムを作り上げたクビライこそ<世界システム>の創始者だった。
    それまでのシステムは、唐にしても、ローマ帝国にしても、イスラム帝国にしても、所詮<地域システム>でしかなかった。
    その個別<地域システム>を連結させて、<世界システム>を作り上げたのが、モンゴル帝国の第三代皇帝クビライだった。
    今まで教えられてきた、「文明の破壊者」「殺戮者」「無知蒙昧」といったクビライに与えられたレッテルが完全に粉砕される。

    モンゴル帝国はクビライが登場していなければ早々に歴史から退場していた可能性が高い。
    その第三代皇帝クビライは、予定調和のように皇帝になった訳ではなかった。
    窮地に陥る中、強運と人脈に支えられて、クーデタによって辛うじて皇帝権を手にしたのだ。(この史実も意外だった)
    皇帝クビライは人種を公平に扱い、技術を正当に評価して、早大な帝国をゆっくりと着実に築いてゆく。

    皇帝になってからのクビライによるユーラシア大陸制覇の道行は、カエサルによるガリア制覇の過程を彷彿とさせる。
    攻略した地方政権をそのまま自陣に取り込んでいくのだ。
    昨日の敵を、自己の傘下に迎え入れ、征服した都市に文化の自由を与える手法は、ガリアにおいてカエサルが実践した統治政策そのものだ。
    塩野七生が「ローマ人の物語」で描きたかったのは、「寛容の精神」の興廃に他ならない。
    この「寛容の精神」こそ、大帝国建設•維持の要なのだ。
    ローマ「帝国」の精神の継承者は、モンゴル「帝国」だった言えるかも知れない。

    クビライによる南宋攻略の城攻めの持久戦略は秀吉のそれを彷彿とさせる。
    そして、通行税撤廃の政策は信長の楽市楽座を想起させる。
    信長、秀吉はクビライから基本政策を学んだのかもしれない。
    モンゴル帝国の政策は、元寇以外にも、日本史に大きな影響を与えていると言えるだろう。
    これこそ「中心」の「周辺(辺境)」に与える影響だ。

    クビライは、ユーラシア交通網を構築して、経済発展をこそ帝国の目標に定めるのだ。
    このことは、モンゴル帝国が「軍事国家」ではなく、「通商国家」であったという驚きの事実を明らかにする。
    クビライの目指した帝国は、政治帝国ではなかったのだ。
    目指したのは経済帝国、商業帝国だった。
    それによる利益によって、モンゴル帝国は中国独特の贈与体系=支配体制を維持することが可能となり、「中華」(世界の中心)に君臨出来たのだ。
    これは、商人のムハンマド(マホメット)が、巨大な経済圏の樹立を目指してイスラム帝国を築いたのと同じだ。

    まさに、「おどろきのモンゴル史」。
    凝り固まった歴史の固定概念を覆してくれる。
    モンゴル史こそ、真の意味で世界史であったことに感銘を受ける。
    「モンゴル」は明るい、そして「明」は暗い。
    このことを理解するだけでも、歴史の見方はガラリと変わる。

  • 222
    [通商帝国・大モンゴルが世界史の流れを変えた。本当に「野蛮な破壊者」だったのか? 西欧中心・中華中心の歴史観を覆す。13世紀初頭に忽然と現れた遊牧国家モンゴルは、ユーラシアの東西をたちまち統合し、世界史に画期をもたらした。チンギス・カンの孫、クビライが構想した世界国家と経済のシステムとは。「元寇」や「タタルのくびき」など「野蛮な破壊者」というイメージを覆し、西欧中心・中華中心の歴史観を超える新たな世界史像を描く。サントリー学芸賞受賞作。(講談社学術文庫)]

    「著者は、京都大学でモンゴル研究に取り組み、従来の定説を次々とくつがえす刺激的な議論を展開する気鋭の学者です。世界史の教科書に必ず載っている事項について、オゴタイ・ハンは存在しなかった、マルコ・ポーロは実在したか疑わしい、等新説を発表している。ー思い込みと伝説に彩られたモンゴル帝国の歴史を、新しい視点でズバズバと斬っていく杉山説は、読んでいるだけで楽しく、次から次へと新しい発見があります。みなさんもぜひそんな快感を味わってみてください。杉山さんの他の本もおすすめの力作。」(『世界史読書案内』津野田興一著 の紹介より)

    第一部 あらたな世界史像をもとめて
     1 モンゴルとその時代
      モンゴルの出現/目に見えるユーラシア世界/モンゴル時代のイメージ
     2 モンゴルは中国文明の破壊者か
      奇妙な読みかえ/杭州入城の実態/政治ぬきの繁栄
     3 中央アジア・イランは破壊されたか
      チンギス・カンの西征と「破壊」/中央アジアでの「大虐殺」/中央アジアは駄目になっていない
     4 ロシアの不幸は本当か
      「タタルのくびき」/アレクサンドル・ネフスキーの評価/ロシア帝国への道
     5 元代中国は悲惨だったか
      抑圧・搾取・人種差別はあったか/科挙と能力主義のはざま/元曲が語るもの
     6 非難と称賛
      文明という名の偏見/極端な美化という反動
     7 世界史とモンゴル時代
      ふたしかなシステム論/世界史への視角
    第二部 世界史の大転回
     1 世界史を変えた年
      アイン・ジャールートの戦い/戦いのあと/ふたつのモンゴル・ウルスの対立/モンケの急死
     2 クビライ幕府
      クビライの課題/混沌たる東方/なぜ金蓮川なのか/あるイメージ
     3 クビライとブレインたち
      モンゴル左翼集団/謎のクビライ像/政策集団と実務スタッフ/対中国戦略
     4 奪権のプロセス
      鄂州の役/クビライの乱/世界史の大転回
    第三部 クビライの軍事・通商帝国
     1 大建設の時代
      なにを国家理念の範とするか/第二の創業/「首都圏」の出現/大いなる都/海とつながれた都/運河と海運、そして陸運
     2 システムとしての戦争
      おどろくべき襄陽包囲作戦/南宋作戦のむつかしさ/戦争を管理する思想/モンゴル水軍の出現/新兵器マンジャニーク/驚異のドミノくずし現象/中国統合
     3 海上帝国への飛躍
      南宋の遺産/世界史上最初の航洋大艦隊/海洋と内陸の接合
     4 重商主義と自由経済
      クビライ政権の経営戦略/国家収入は商業利潤から/銀はめぐる/ユーラシアをつらぬく重量単位/紙幣は万能だったか/「高額紙幣」は塩引/ユーラシア世界通商圏
     5 なぜ未完におわったか
      モンゴル・システム/早すぎた時代/記憶としてのシステム/ふりかえるべき時
    あとがき
    学術文庫版あとがき

  • いつも書いている事だが、やっぱり歴史の面白さがわからない…
    書いてある事実の理解はある程度できるが、それのどの部分に面白さを見出すのかがわからない。

    今とても流行っているcoten radioも聞いていたが、やはり歴史の面白さをあまり感じられない私は何かおかしいのだろうか…
    おかしいと言うよりも頭が悪いのだと思う。

    ====
    ジャンル:グローバル リベラルアーツ
    出版社:講談社
    定価:1,122円(税込)
    出版日:2010年08月10日

    ====
    杉山正明(すぎやま まさあき)
    1952年、静岡県生まれ
    京都大学大学院文学研究科教授を経て、京都大学名誉教授、2020年没

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    flier要約
    https://www.flierinc.com/summary/2994

  • 著者らしく、既存概念へのアンチテーゼを強調しているのか、モンゴルへの称揚と伝統中華やヨーロッパへの批難が激しい。特に明朝に対しては手厳しい。残虐なモンゴルへのイメージ脱却のため、世界帝国形成の間の戦況を説明し、モンゴル征服後も人口の大幅な減少が起こっていないこと、都市の繁栄は続いていることを強調する。モンゴルの快進撃は、イスラーム帝国が急激な膨張をしたように、改宗を迫らなかったこと、降伏させて経済的に取り込むことを優先したことが挙げられる。
    クビライが大元大蒙古帝国として志向したのは、経済統合による世界システムだった。ムスリム商人を取り込んでの自由経済の奨励と、そこからの商税、そして大半を占めるのが塩の専売から上がる富が中央政府の財源であり、その富を各地の王室へ銀として賜与して政治的に繋ぎ止め、各王室は賜与銀をムスリム商人へ投資し、商税として回収する。そうした経済的な点と点の支配がクビライ構想の支配体制だった。
    モンゴル帝国が崩壊した理由を、世界的な寒冷化天災を一因ともしつつ、クビライのシステム構想が早すぎ技術的条件が整っていなかったためとしている。私見では、時代的な早さもだが、勢力拡大時に極力現地文化制度をそのままにしたため、強固なシステムを構築・根付かせることができなかった速さが大きな要因だと思う。

  • 歴史の教科書では学べなかった、歴史上世界最大のモンゴル帝国でなされていたことがわかる本。どこまでが事実かわからないものの、かなり現代化されたシステムが1300年代にあったかもしれないことがわかる。

  • クビライは、各王族が自立的な動きを見せながらも大カァンを中心とするシステムをユーラシア大陸に築きあげた。元を中国史の王朝交代の文脈でみるとスケールを誤るのは分かった。

  • 2010-9-26

  • 160109 中央図書館
    モンゴルは「反知性主義」だったのか?

  • 元々史書の習慣がない遊牧民のため「元朝秘史」など限られた文献しか残されていないモンゴル帝国。ゆえに破壊者の歪んだイメージが先行しがちだが、彼らの功績にスポットを当てる。

    いまの世界史の起源は東西を結び付けたモンゴルだと思うし、通商により世界を活性化させたのはチンギスでありクビライであろう。殺戮者という一方の見方の裏側を、被支配国からの視点で分析したのは面白い。

  • どうも興味がないみたい。

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著者プロフィール

京都大学大学院文学研究科教授
1952年 静岡県生まれ。
1979年 京都大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学、
    京都大学人文科学研究所助手。
1992年 京都女子大学専任講師を経て同助教授。
1996年 京都大学文学部助教授・同教授を経て現職。
主な著訳書
『大モンゴルの世界――陸と海の巨大帝国』(角川書店、1992年)
『クビライの挑戦――モンゴル海上帝国への道』(朝日新聞社、1995年)
『モンゴル帝国の興亡』上・下(講談社、1996年)
『遊牧民から見た世界史――民族も国境もこえて』(日本経済新聞社、1997年、日経ビジネス人文庫、2003年)など。

「2004年 『モンゴル帝国と大元ウルス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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