- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087200157
作品紹介・あらすじ
世界的ベストセラー「文明の衝突」は21世紀の日本をどう予測しているのか。'99年に発表された最新論文2篇を収録し、豊富なCG図版で、“よくわかる文明衝突下の日本の進路"を提示する。
感想・レビュー・書評
-
私の中には、「ヨーロッパはおしゃれ、アジアはださい」という感覚がどうしてもこびりついてしまっていて、それを取り除くことがとても難しいことだと感じています。
ローマ帝国がNo1、中国がNo1、イギリスがNo1だったこともあるという内容を読んで、世界は文明が盛り上がったり、衰えたりの流れの中で動いている、ということを改めて認識しました。50年後、もしくはもっと早い段階で「中国っておしゃれだよね」となる可能性があるということを頭の中に入れておこうと思います。
「イスラム文明」や、「中国文明」と同じ並びで、「日本文明」というのがある、というのがびっくりでした。私は無意識のうちに、どこかの文明の中にあるのだという感覚を持っていました。
そして日本は同じ文明を持つ国がないから、孤独だと書いてありました。これからアメリカにつくか、中国につくかという選択を迫られ、筆者は中国につくと予想、訳者はアメリカにつくだろうと予想しています。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
面白かった。多文化していく世界の中で、文明間に発生する衝突について説明している。それがとても納得できるものであり、もっと早く読んでおきたかったと思う。中でも日本は一つの文明であり、且つそれを他のいずれの国とも共有していないという特殊性があるとの説明は説得力がある。
現時点でも紛争、戦争は絶え間なく起こり、破壊・殺戮活動が続いている。これを見て多くの日本人はどうしてそんな無駄なことしているのか、という疑問を持つんじゃないかと思う。でもそれは歴史やアイデンティティの感情に訴える地域や場所を侵された経験が日本には無いためなのだろうと思う。そういう勉強をして理解を示し、日本としての考え方を堂々と述べていくべきだと思う。
「解題」を中西輝政氏が書いている。これがまた大変いい。 -
2023/04/09 読了 ★★★★★
-
翻訳は2000年刊行。
話題になった本だったような記憶がかすかにある。
自分の年齢を考えたら、リアルタイムで読んでいてしかるべき本なんだけど。
…でも、今からでも読む!
だって、どのみち今も昔も、国際政治音痴だし。
喪うものはないはずだ。
と開き直って読んでみた。
現在の状況と合致する部分のみが強く印象に残りやすいのだろう、とは思うけれど、本書の内容は現在にも通用する部分が多いと感じる。
アメリカの覇権の弱体化。
一極集中ではなく、世界が多極化する。
1990年代から2000年代での見通しは、まさしくその通りになりつつあると感じられる。
そこでどのような新しい国際秩序ができるか。
本書では採られる方策を二つに類型化した。
ひとつは「バランス化」(バランシング)。
もう一つは「相乗り」(バンドワゴニング)。
覇権国(アメリカ)と地域の中核国の関係、あるいは中核国と地域の二番手の国との関係にそうした方策が採られ、関係が出来上がる。
さらに、その関係形成に、文明の違いや近さが影響を与えるというところが、この本の眼目。
共通する文化を持つ二つの国や集団の間では緊張関係があっても比較的協調関係が生まれやすく、異なる文化の間では紛争が激化しやすいということらしい。
国民国家と文化のまとまりが一致していないところで民族紛争が起きるという話もある。
そういう眼で米中関係、現在のロシアとウクライナの関係を見ていくと、ああ、なるほど、と頷けるところはたしかにある。
ところで、本書にはアメリカの多文化社会化に否定的な見方が示されている。
歴史的に見て、多文化を追求する国が永続したためしがないからだということだ。
トランプ政権が誕生したり、その後のバイデン政権も、白人の、中産階級のアメリカを再生させようとしていることを見ると、今揺り戻しが起きているようだ。
筆者がいうように連合国家になる、という選択肢もアメリカにはあり、そういう未来を選択することもできるのではないかと思うけれど、ダメなのかな?
さて、本書は「21世紀の日本」ももう一つのテーマとしている。
日本は中華文明から派生してはいるけれど、孤立した文明であるため、例の文明の衝突理論から考えると、なかなか他国と緊密な協調関係を結べないらしい。
力をつけていく中国とどう渡り合うか。
過去と同じように、その時々の覇権国家、別の地域の中核国家の力を借りながら牽制するしかない、ということのようだ。
割と、まあそうなんだろうな、と思っていたことだった。
正月に読む本の選択を誤ったといえばその通りだが、何というか世界の弱肉強食の現実をつきつけられ、暗い気持ちになってしまった。 -
文明衝突論を展開したハーバード大学のサミュエル・ハンチントンが日本にフォーカスを向けた名著。
政治経済の利益、イデオロギーによる分裂が顕著だった20世紀と比べて、21世紀は文化によって分裂している、これからもその分裂は続くと分析している。2000年に出版された本だが、この内容は2022年のロシア・ウクライナ戦争の勃発を予言していたとも言える。
宗教もなく、文化的にも完全に独立した日本だからこそ、先入観を持つことなく他宗教や他文明の理解・教育を進めて、国際平和を促進させることに一役買うことができるのではないかという希望を感じた。この本のように多様化する社会を深く理解しようとする価値観が広まり、平和な世界へ向かってくれることを願う。 -
本書は『文明の衝突』の著者サミュエル・ハチントンによる論文集だ。九九年に行われた日本講演、超大国アメリカに焦点を当てた論文、ハチントン理論の基盤となる国際論(著書抜粋)が含まれている。
冷戦時代の世界は主として「民主主義国家」「共産主義国家」「第三世界」の三勢力に分かれていた。しかし、21世紀における国家の行動基準はイデオロギーや政治体制でなく、諸国を文化的に類別する“文明”である。また、米ソという二極化したパワーバランスが崩壊した現在、グローバルな超大国は米国のみであり、他には各地域における主要な地域大国が存在するーーつまり、事実上の一極・多極世界だというのが各論文に共通したテーマである。
ハチントンによれば、文明とは数世代にわたる人々の生活様式全般であり、文化的な特徴と現象の集合を指している。現在、世界には①日本文明②中国文明③インド文明④イスラム文明⑤西欧文明⑥東方正教会文明⑦ラテンアメリカ文明(⑧アフリカ文明)が存在しており、各地域の諸国は中核国・構成国・孤立国・分裂国・引き裂かれた国のいずれかに該当する。通常、文明を異にする国家は冷淡で敵対的な関係となり、信頼と友好はあまり見られない。異文明間では断層線の戦争(フォルト・ライン戦争)が激化していくが、平和実現のためには中核国が他文明の紛争に介入せず、構成諸国はフォルト・ライン戦争を回避するよう努めなければならない。
最後に、世界をアメリカ化する多文化主義への警鐘が鳴らされる。10年代を通じてポリティカル・コレクトネスはグローバル社会に蔓延し、共同体の文明的差異が取り払われる傾向ーー例えば米国のユダヤ教徒やイスラム教徒に配慮して“Merry Christmas”の代わりに“Happy Holiday”を用いるといった、多文化主義的傾向がより顕著になった。しかし、著者は「世界帝国がありえない以上、世界が多文化からなることは避けられない」とし、むしろ人々は差異を認め合った上で「他の文明の住民と共通してもっている価値観や制度、生活様式を模索し、それらを拡大」することが共存への道だと説いている。
加熱する多文化社会への反動が保守主義の台頭という形で帰結したと考えれば、西欧文明から引き裂かれることを拒んだ国民がトランプ大統領を誕生させたことにも納得がいく。近年では英国のEU脱退など、同一文明の国家は強固な関係を築き上げると論じる著者の予見に逆行する情勢も見られ、世界はより複雑化の一途を辿っているように感じられる。現在の日本は中国とのバンドワゴニングでなくバランシング戦略を採用し、一方で米国は着実に超大国の座を降りながらも断固とした対中姿勢を表明している状況だ。今の世界は一極・多極体制から、細分化した多極主義体制への過渡期だと見るべきだろう。 -
本書は、講演録「二十一世紀における日本の選択」、フォーリンアフェアーズ誌掲載論文「孤独な超大国」、抜粋版「文明の衝突」を収録。内容的に重複がある。
1990年代の著述であるにもかかわらず、内容が示唆に富んでいて、今でも十分に通用すると思った。
著者は、イスラム国家では若年層の激増が好戦性を生み出しているが、イスラム教徒の年齢が高くなっていくにつれてやがて激情は沈静化する、と予測している。時間が解決してくれるといいのだけれど。
日本は、固有の文化を共有する国を持たない孤立国とのこと。要は、他国とは利害得失で関係することは出来ても、真に信頼し合う関係は構築できないってこと。いざというときに頼れる国が無いってことは肝に命じておく必要があるな。 -
文明を推し広めようとすると対立[conflict]が起こりやすくなる。その指摘は間違っていないと思う(どうして、こう至ってマトモな意見の出てくるアメリカが「正義の戦争」なんて始めちゃったんだろう)。だけれども類似する文化圏では必ずしも協力は進まないし、宗教すなわち文明と捉えるのはあまりに粗雑過ぎないだろうか(第一、みんながそれらしく使っている「文明」って何なんだろう)。もちろん、これが冷戦終結直後の文章であるという点で現実認識の鋭さは間違いないし、論争を喚起したという点からも一読に値する内容だとは思うけど(あぁ、ハーバードの先生の著作を前にして何を言っているんだ、自分は)。