漂砂のうたう (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087451306

作品紹介・あらすじ

明治10年、根津遊郭。御家人の次男坊だった定九郎は、過去を隠し仲見世の「立番」として働いていた。花魁や遊郭に絡む男たち。新時代に取り残された人々の挫折と屈託、夢を描く、第144回直木賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 大政奉還、明治維新、そこから10年。根津遊郭の美仙楼(心淋し川のご近所でしょうか)の立番となり、客引きをする男は、元御家人、定九郎。出自を百姓と偽り、今の仕事に流れ着いた。日本の変化に取り残された男と、自由は名ばかりの遊郭の女達。
    明治維新の主役とはなれなかった人たちを取り上げて、自由という言葉だけが先走る空虚な日々。
    定九郎が、ずーっとふわふわしているので、物語もふわふわしてる。行きどころの無い、遊郭の女達の覚悟した雰囲気との対比で、その不甲斐なさが際立つ。武士がその立場を失った当時が偲ばれる。
    情景とか歴史感はとてもしっくりと読めるのだけれど、所々に挟む「学問のすすめ」や「自由民権運動」が、あまり物語にハマってこないなあと思う。
    花魁の失踪と圓朝の噺を重ね合わせて幻想的で良いんだけど、失踪の顛末は、あまりに想像通りでした。

  • 「さあ、徳川の時代は終わった。みんな自由だ」
    自由ってなんだ?何をしろと云うんだ。
    明治の新しい世に放り出された元武家の定九郎。
    焦燥感と諦めを抱えてもがく姿がよく描かれている。
    怪談調に導くポン太と凛とした小野菊とキャラクターも抜群に効いていて、直木賞受賞作品では久しぶりに夢中で読み耽った。読後感も爽やかでまさしく傑作である。

  • 作中常に漂う閉塞感、倦怠感、息苦しさ。とてつもなく気怠い空気がまとわりついてくる。
    加えて、ポン太が作り出す得も言われぬ奇妙で妖しいムード。

    アッと驚く何かが起こるでもない淡々とした進行なのだがページを捲る手が止まらない。まじないにでも罹ったように摩訶不思議な読み心地。

    御一新により、これまでの価値観・常識が覆った事でわかりやすく無気力に陥った定九郎の白けた様子がなんだかまるで現代人っぽくておかしくも共感出来る部分がある。

    癖になるなあ。


    1刷
    2022.4.5

  • 時は明治維新後、所は根津遊廓。登場するのは、客引きとなった元武士・定九郎、人気花魁・小野菊、噺家の弟子・ポン太。前半はダラダラ話が進む。後半は話が動くが、一体何が起こるのか?どう展開するのか?まるでミステリー。

  • 「自由」なんて聞こえはいいが、これほど「不自由」なものはない。

    御一新から10年の根津遊廓。
    武士の身分を失い遊廓の客引きとなった定九郎は、ただただやるせない日々を送っていた。
    新政府の造り出した「自由」という厄介な柵に縛られながら…。

    時折挟まれる落語や都々逸が物語の儚さをどんどん煽っていく。
    捨てたはずの過去の柵の中でもがき逃げてばかりの定九郎。
    それに対比するかのような花魁・小野菊の凛とした佇まいと華やかな笑顔が素敵!
    時代の波に翻弄されても自分を見失わずに生きていきたい!

    「自由」とは楽なようで、実はほんと難しい。

  • 読み終わるのに2週間もかかってしまった。
    すごく不思議な読後感の本。
    根津に、今はもうない遊郭があった頃が舞台。
    遊郭の客引きの定九郎。
    遊郭の中の権力争い、人気の花魁小野菊、切れ者の龍造。

    夢うつつや幻が半分を占めていた昔の感じが所々に描かれながら、遊郭の現実、人権なんてなかった時代で、自由を追い求める人たちがいた。

    手にしたものが、ずっとあるわけでもなく、手放したものが永遠に去ってしまうわけでもない、ポン太の、その人の芯にあるものは奪えないという言葉。

    薄ら恐ろしいような、見通しているようなポン太。

    途中で読むのをやめないでよかった。
    面白かった。

  • 定久郎は元武士、維新後家族捨て出奔。そして名を変え廓に身を潜めた。女は根津廓に売られてきた。どんなに美しくとも籠の鳥。小野菊花魁という名で生きている。彼女の情人、噺家ポン太。彼もまた名を捨て生きている。名を捨てた3人、カタチは違えど自由を求め行動をする。定久郎は翻弄されすぎて途中自由に負けそうになるが、小野菊とポン太がしかけた謎が明かされ全てに納得できた時、彼も彼なりの自由に出会えたのではないか。話に漂う面妖さは砂のよう。はらはらこぼれ心の片隅に塚を築いていく。塚が大きくなったその時、訪れるか私の自由よ。

  • 読み終わって、ストーリーを思い出し追ってみても
    起承転結、驚きの展開、心踊る出来事などはなく
    淡々と進んでいったような気がする
    それでも、この小説の世界に静かにずぶずぶと浸り
    なんとも言えない世界観に酔って読み終わる
    浮かれたところも、落ち込み過ぎるところもなく
    不思議な出来事も、すんなりと受け入れて
    小説という架空の世界を経験する醍醐味にひたった時間

  • 御一新後に時世のお荷物となった「昔のお武家」の定九郎は、江戸の香りが残る遊郭の下働きに身を置く。 「これからは誰しも自由に生きりゃあいいんです」と言われても、世の中の変化に自分の変化が追いつかない。 部屋でゴロゴロするニートが「幕末に生まれてりゃなぁー」と言う飯尾さんのネタがありますが、 定九郎は「幕末に生まれてこなければなー」と思ったに違いない

  • 読売新聞に連載の作品が面白いので読んでみた。ポン太の正体がぼんやりだけどこれはこれで良かったかなとも思う

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著者プロフィール

1967年生まれ。出版社勤務を経て、2004年『新選組 幕末の青嵐』で小説家デビュー。08年『茗荷谷の猫』が話題となり、09年回早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞、11年『漂砂のうたう』で直木賞、14年『櫛挽道守』で中央公論文芸賞、柴田錬三郎賞、親鸞賞を受賞。他の小説作品に『浮世女房洒落日記』『笑い三年、泣き三月。』『ある男』『よこまち余話』、エッセイに『みちくさ道中』などがある。

「2019年 『光炎の人 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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