天使の梯子 Angel's Ladder (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087462210

感想・レビュー・書評

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  • 設定は『天使の卵』から10年後。主人公だった歩太が、元カノの夏姫とふたりで脇役を固める。歩太が随分と逞しくなっていた。

    主人公は、カフェでバイトする大学生の古幡慎一。前半で彼の生い立ちが語られる。両親はともに浮気をして離婚。母方の祖父母に育てられる。随分過酷な生い立ちだ。この両親って、子供にはつらいな。必要以上に大人びたというか、冷めた子供になるのは当たり前かもしれない。育ての祖父母がその分愛情を注いだらしいことでちょっぴり救われる気がした。

    ある夜遅く帰って、年老いた祖母に責められ、心ない言葉を吐いた翌朝、祖母は自分の美容室の床で冷たくなっていた。自分の暴言に良心の呵責に苛まれ、悔やむに悔やまれず、どうしていいかわからないときに、夏妃に慰められ、ようやく声をあげて泣いた。

    カフェにやってきた夏姫に気づいたのは慎一だ。高校の時、先生をずっと好きだったのだろう。のちに、好きな生徒だったと夏姫は言っているが、それにしても5年経つと、わからなくなるものか・・・好きだった人でも。この年頃は変化が激しいのかな。

    後半は、慎一が夏姫と歩太へ嫉妬し、誤解を解く形でふたりの過去への回顧と解放につながっていく。シリーズ第1作目『天使の卵』を読んだ読者なら、歩太と夏姫に起こった過去を知っている。慎一の疑いに理解を示しながら、どんな風に誤解が溶かされていくか、人の死に直面したことのある3人が、その現実にどう対処していくのかを見せられる。慎一は祖母の死にあったばかりだから、その感情はまだ生々しい。夏姫は10年経っても自分を解放できないでいた。10年は長い。積年の後悔・・・

    春妃の死から3年後、歩太の愛犬、フクスケの死にあって歩太は春妃への後悔から解き放たれ、春妃との再会をする。だから春妃の絵を描いた・描けたのだろう。春妃の死から4年後、歩太は春妃の絵を描いて世界的な賞を取った。

    でもその作品以降、歩太が人物画を描かなくなったことを夏姫は気にしている。だが歩太にとっては空を描こうが、森を描こうが全部春妃につながっている。人物という表面的な形にこだわっているのは夏姫だけだ、と歩太が諭す。

    すごく芸術的な理解の仕方なんだろうけど、芸術への理解に疎い私にはできないは発想だ。
    慎一の祖母の死をきっかけに、10年前の春妃の死からの解放が生まれた。慎一を夏姫は同じような後悔を一緒に乗り越えていくのだろう。そういう希望が見える作品だった。

    『天使の卵』が救いのない終わり方だったので、この第2作でみんなに救いの光が天から「天使の梯子」を伝って降りてきたのかな。

  • 「天使の卵」から10年後の夏姫と歩太。
    おばあちゃんに投げかけた最後の言葉が悪態になってしまった慎一を夏姫が包み込むシーンからはじまる物語は、夏姫を救済する物語でした。
    夏姫が恋した慎一は、皮肉にも姉の春妃と歩太の年齢差と同じく8歳年下。因縁めいたものを思わせる巡り合わせですが、春妃と同じような恋をしてどんな気持ちを相手に募らせるのか身を持って感じたことが何よりの良薬だったのでしょう。二人には別れることなくいつまでも寄り添っていてもらいたいものです。
    一方の歩太は、10年で随分と逞しくなったものです。男性ながら歩太には格好良さを感じずにいられません。

  • 良かったです。卵から繋がる世界に浸りました。
    解説で本作からでも読んだらいいと書いてあったけど、やっぱり卵を読んで映画も見てからの方が良いと思う。

  • 「誰に何を言われても消えない後悔なら、自分で一生抱えていくしかない」

    その後悔から自分を解放してあげることの大切さ。自分を赦すことの大切さ。

    いろいろな言葉が心に突き刺さり、涙が止まらない。

  • 天使の卵がとても良かったので読んだ。
    卵の続編ってなんだ?あれの後って歩太のあと?と思っていたら、そっちのあとで、しかも10年後で、なるほどと感心した。
    内容もとても良くて、個人的には好きなラストで満足しました。

  • 素晴らしかった。最近読んだ恋愛小説の中でもナンバ―ワン。
    天使の卵も良かったけど、この救いは本当に素晴らしい。
    展開に無駄がなくて、最後の語り合う場面は歩太だけがあれに気付いている描写もちらほら見受けられた。
    何回も読み返したい作品。スルスルと読み進められた。
    ちょっと時間経って感想あんまり思い出せなくて、書けてないのが残念だけど、間違いなく良かった。
    読み終わった後のスタプラの感想見たら、
    「時間忘れて読みふけってた。」→この感覚は個人的にすごい良い本。
    「知らぬ間にクライマックスになってそのままラストまで一気読み。素晴らしいわこれ。素晴らしい。素晴らしい。素晴らしい。今の感覚で間違いなく人生ベスト3に入る小説だわ。素晴らしいな。」
    「いやこの作品に出会えてよかった本当に」と書いてあって相当心来てたっぽい。
    やっぱり展開が作り物だとして生きた人間の群像劇というのは血が通っていて読みごたえがあるし、感情移入してしまう。

  • 恋愛系の小説で本当に胸が踊った本

  • 村山ワールド。ほわわわ〜

  • 天使の卵に続いてこちらも再読。卵よりこちらの方が読みやすい。慎一目線で書かれているけど夏姫の話。慎一よりも夏姫に感情移入する。

  • 昔読んで、卵よりこっちの方が好きだった気がする
    梯子の中の卵の男がカッコよかった

著者プロフィール

村山由佳
1964年、東京都生まれ。立教大学卒。93年『天使の卵――エンジェルス・エッグ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2003年『星々の舟』で直木賞を受賞。09年『ダブル・ファンタジー』で中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞、柴田錬三郎賞をトリプル受賞。『風よ あらしよ』で吉川英治文学賞受賞。著書多数。近著に『雪のなまえ』『星屑』がある。Twitter公式アカウント @yukamurayama710

「2022年 『ロマンチック・ポルノグラフィー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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