- Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087478174
感想・レビュー・書評
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3.5 見えない愛を見えるようにしようとした短編集。人を思いやるはずの愛は、使い方次第では人を壊してしまうものにもなり得ると言うことがわかる。愛は正しく使うべし。
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愛情を抱く相手に、自分よがりの愛情を押し付けたり、逆に相手に求めたり。ほんとアルアル。
愛って抱くのはいいけど、自分勝手にあふれさせてはダメなのかも。
短編4つのうち3つは、何とも切ない気持ちになった。
ラストの「喪われゆく君に」の最後、幸乃の手紙を受けて浩之が髪を切ってもらいながら美季と語りあう場面と、コンビニでの浩之の行動に泣きそうになった。
どのストーリーもドラマを観てる感覚になったのが天童荒太さんのすごいところだ。 -
「すこし愛して、ながく愛して」故:大原麗子のCMのセリフが浮かんだ。
当時、思春期だった私は「そんなの物足りないじゃん」と思ったけど。CMコピーは正しかったのだ(笑)
溢れた愛に溺れそうな人たちを描いた4話短篇集。
どれもとても繊細な人が登場する。
屈折した愛は他者も自分も傷つける。
細か過ぎる描写が多く、なんかイラッとするのは作者の意図かもしれない。読んでいる私まで、溺れかけて息苦しさを感じた。初読み作家、読むのに覚悟がいるのね。 -
ささやかでありふれた暮らしのなかで、心に傷を負ってしまった人たちの短編集。
それぞれが悩み苦しむ描写に息が詰まりそうになる。
とても重く苦しく、短編集といえど一話一話のボリュームは割とあるのだけれど、先を読ませる不思議な力がある。
育児ノイローゼになってしまった妻と、その夫。
架空の恋人に焦がれる少女と、少女を無理矢理現実に引き戻そうとする男。
抑圧された子ども時代の影響で心を病んでしまった同士、手を取り合って生きていこうとする男女。
知らない人の死に偶然立ち会ってしまった青年と、故人の妻。
「やすらぎの香り」がよかった。
家族との不和から精神的に不調になり入院した男女が、退院し、二人で生きていこうとする。
半年間無事に生活していくことができたら、入籍しようと約束して。
二人が不器用に、慎重に、お互いを大切に思いあいながら半年間を過ごしてきた様子が身に沁みる。
少し揺らせばぷつんと切れてしまいそうな生活。
もしかして、全てだめになってしまうんじゃないかとどこかでドキドキしながら読み進めていたけれど、あたたかいラストで良かった。
「何も言えなくても、無理に何かができなくても……いいんだ。
なんとか、やっていける。そうだろ?」 -
4つの短編集。
いろいろな愛の形があった。
当たり前の生活の中で、相手の事をそして自分の事をどこまで理解出来ているかを、問われたような作品ばかりだった。
脆くすぐに壊れてしまいそうな二人の「やすらぎの香り」が一番印象に残った。
こうして好きな読書に時間を使える、今ある日常を大切にしたくなった。 -
某所読書会課題図書.中編が4つだが、それぞれ中身が濃い感じだった.「うつろな恋人」が良かった.架空の恋人にのめり込む桐島智子と彼女を助けたい塩瀬彰二.もどかしい感じで智子に当たる彰二だが、多摩湖畔での最後の場面は悲しい.精神的に不安定な奥村香苗と秋葉茂樹が生活を立ち上げて進める中で様々な困難を乗り越える「やすらぎの香」も楽しめた.
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最近はミステリを主に読んでいるので、気分転換になるかと、題名に惹かれて買ってきた。
少し暗いが、溢れた愛の持ち主は、精神に障害があったり、少しばかり日常からはみ出すような人々で、平常でない日常の中からでもわずかながらもあふれ出すような愛の物語だった。
とりあえず、愛
磯崎武史は大手広告社から町の紙器の印刷業者に転職した。腎臓に疾患があり、入院のあと社長に拾われた会社だった。契約がうまくいき社長と共に喜んで、高揚した気分のまま帰宅すると、育児ノイローゼ気味の妻が待っていた。
娘の夜泣きとアアトピーなどで、なれない子育てに自信をなくし疲れているようだった。結婚の際両親の快諾を得なかったことで妻の実家は敷居が高かったが、妻子を預けた。妻は心療内科で治療を受けその後に入院したが、退院するとすぐに子供をつれて帰ってきた。
妻の誕生日を祝い、少したったころ、妻が出て行ってしまった。
納品の締め切りに追われ働きすぎた武史は倒れた。
入院先でむつまじい老夫婦に会った。妻は痴呆症で夫を判別できなくなっていた、夫は身体が不自由で車椅子だったが、介助を受けて週に一回ハナミズキの木の下で会うのだという。
何も解らないままに病室に帰る妻が、車椅子が傾いたので片手が上がったように見えた。夫は自分の「バイバイ」と言う声に妻がこたえたように見えて、顔を輝かせて看護師に向かってそのことを話していた。
見送っている武史のそばに妻が来た。「いつまで」「とりあえずもう少し」と妻が言った。
うつろな恋人
塩瀬彰二は過労から不安神経症になりストレス・ケアを受けるために入院した。外出が出来るようになり、入った喫茶店で健康的な笑顔のいい少女に出会った。
次の出会いは病院の談話コーナーだった。忘れた本を見つけてくれたのはあの少女だった。性的な内容の本だったが、古典文学だと薦められて読もうとしていたところだった。少女はそれを見て、なにか文字が書いてる和紙の綴りを見せた。開くと露骨で猥雑な言葉の連なった詩のようなものだった。
カウンセリングで担当医にその話をした。「彼女のイメージとは会わない詩を見せられたんですよ」
喫茶店に行くと彼女がいた。中野まで行って男に会って来たという。詩はデート相手が書いたものだといった。
続きも見てくれと行ってまた詩集を渡された。「私のことを書いてくれた詩なんです」という。
だがそれは、ボードレールが戯れに書いた詩の書き写しだった。彼女がいるという中野のアパートに行ってみると少女はそこの部屋で時間を潰して帰って来るだけだった。
彼女はまた入院した。彰二は退院して会いに行って見ると、詩を書いてくれる恋人の名前が今度は彰二になっていた。
やすらぎの香り
香苗は長女で責任感の強い努力家だった。次第に完璧を目指すことが目標になり神経を病んでいった。過食嘔吐を繰り返すようになっていたが、隠して親の勧める結婚をした。だが夫は全て両親に依存している男だった。見つかった嘔吐が妊娠でなかったというので、離婚。精神科に入院した。
次第に回復して社会復帰病棟に入った。そこは社会に適応するための施設で、外出も出来た。宗教の勧誘を受けて困惑していたとき助けたのが同じ病棟にいる男性だった。付き合い始めて一緒に住むようになった。半年後も変わらなければ結婚を許されることになった。二人は交互に日記を書いてそれを証明にした。
結婚届を貰いに行って緊張のために倒れてしまった。約束は後二日だった。妊娠していることもわかった。職場でも思いやりがあり、夫の茂樹も優しかった。
「やっていけるよ」と言ってくれた。
喪われゆく君に
高校を中退したまま保志浩はアルバイトで暮らしていた。クリスマスの日勤め先の店で男が倒れてそのまま亡くなった。何の手立ても出来なかったのがしこりになっていたが、ケーキを貰って帰ってくると美容師見習いの美季が来ていた。
暫くしてなくなった男の妻が尋ねてきた。様子を聞かせて欲しいと言う。浩之は表が騒がしいことにかこつけてすぐに店から出てしまった。帰って店に顔を出すとまだ妻は待っていた。
彼は様子が気になってアパートに訪ねていく。彼女は家に入れて夫が趣味にしていた風景写真を見せる。花の咲く四季折々の美しい風景がうつっていた、もう一度行きたがった妻に見せるために、美季と同じ風景を訊ねて同じように写真を撮ってくる。そのうち美季が不審がり同行を拒んだ。それからは一人で写真を撮った。
「どうして一人なの」妻は責めるように言い、暫くして引っ越していった。
手紙が来た、新しく出直す気持ちになったと言う。
簡単なあらすじだが、社会に適応できない人たちが、心の病を見つめなおしていく姿が温かい。暗く苦しい物語になっているが、小さな愛が立ち直る切っ掛けを作る、心の中にある欠けた部分を補い合ったり、支えあう姿が静かに胸に響く。
「家族狩り」「永遠の仔」を読んだが救いようのない暗さが印象に残っている。その後の作品は題名だけでも何か違った方向が見える。機会があれば読もうと思っている。 -
天童荒太さんの作品2冊目です。
前回読んだ作品の時にも感じたのですが
スゴい!
というのが第1の感想感想でした。
「あふれた愛」という作品の名前ですが
自分には、愛ということよりも
闇と闇を抱えた人にどう寄り添うのか、
という事の方が考えさせられてしまいました。
簡単だけど難しい?
かなり頭の中がぐちゃぐちゃになった読後感でした。 -
テーマは『愛』の短編集。
どうも登場する男性の殆どが精神年齢が幼いのか考え方や行動に『アホなん?』と思ってしまう。
なんか猿山にいる腕力が強い雄ザルのような。
一話だけ『あ、少しまともな人間♂がいた』と思って読みすすめたら、ストレス社会で心を壊してしまった男性だった。私の感性がおかしいのかな?