二つの祖国(四) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101104485

感想・レビュー・書評

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  • 軍事裁判、椰子との関係の結末は。
    裁判後賢治は身の振り方をどうするか…
    重い結末はだったがこの物語らしい納得いく内容でした。山崎豊子さんの作品はどれも印象深い。

  • 第4巻目は東京裁判の後半部分が展開される。
    天羽賢治は東京裁判の言語調整官として、日々の裁判に臨んでいた。
    裁判が進むにつれて、勝者が敗者を裁く様相が明確に成っていった。
    最初は公正な裁判を望んで、その一助になればと思い、臨んだ賢治であったが、
    裁判が進むにつれて、その実相は裁判という体裁を整えただけの、勝者が敗者を裁く不正な内容だった。
    賢治は裁判が進むにつれて、煩悶する日々が続いた。
    日本に来ている賢治の妻エミーとも夫婦喧嘩が絶えなかった。
    かつての同僚の椰子との付き合いにだけ、心が癒される賢治だった。
    椰子は広島での被ばくが元で白血病になる。
    日々衰えていく椰子を、裁判が忙しく見舞いにも行けない賢治は、ますます苦悩の日々が濃くなっていく。
    椰子が重体の知らせを聞いた賢治は、すぐにでも駆け付けたかったが、裁判中に、それは許されなかった。上司になんとか許しを得て、極秘に広島に向かったが、間に合わなかった。
    死ぬ直前まで、「ケーン、ケーン」と言っていたと椰子の妹の広子から聞き、その遺体を見て賢治は慟哭した。
    傷心の賢治は東京に戻った。
    やがて、判決の時が来た。
    戦争犯罪人となり、7人が絞首刑の判決を受けた。その中の一人は文官であり、どう見ても死刑の判決はおかしいと賢治は思ったが、モニターである賢治は判決に一切の口出しはできなかった。
    裁判中に審議された、アメリカの原爆投下についても文書からは削除され、何も問題にされなかった。
    日々疲れていく賢治は自分のしていることは何なのかと煩悶の日々は続く。
    そんな中、賢治にCICからアメリカについての忠誠の嫌疑がかかり、査問される。
    自分はアメリカに懸命につくしているのに、どこまで行っても人種差別され、嫌気がさして軍隊を辞めてしまった。
    一方、かつて椰子の夫であった、チャーリー宮原は、軍隊を辞め、華族と結婚し、結婚式が済むとアメリカへ行ってしまった。
    賢治の弟、忠は生前の椰子の言葉によって、賢治とのわだかまりが解消していった。
    忠は日本に残った。
    裁判が終わり、妻のエミーと二人の子供は先にアメリカへ帰した。
    チャーリーの結婚式を中座した賢治は宿舎へ戻り、軍隊の制服とピストルを返却する用意をした。
    弟の忠から連絡があり向かったはずが、どういう訳か、誰もいない裁判所に着いてしまった。
    裁判では、「被告を絞首刑に処す」と言わされた。
    賢治は虚無感に襲われ、ピストル自殺をする。
    死ぬ瞬間の賢治の脳裏には、星条旗と日章旗がはためいて、砂漠の砂塵が濛々と容赦なく吹き付け、果てしなく続く鉄条網が焼き付いた。

    悲しい結末で終わってしまった。
    この物語はフィクションであるが、巻末にある作者が取材した協力者の氏名と膨大な参考文献から、史実を忠実に再現した物語だ。
    この物語を読んで、戦中戦後の日系人の苦悩が初めて分かった。
    テレビでもNHKの特集番組か、なにかで東京裁判の様子を流していたが、そんなものかと興味が無かった。
    戦犯として、極悪人に仕立てあげられた東条を含む死刑囚7人は普通の良識人であったようだ。
    本物語で、その様子が理解できた。
    偉大な作家のご冥福をお祈りします。

  • 東京裁判がクライマックスを迎える。
    通訳とはいえ、主人公は、一人の日本人に死刑を宣告をすることになる。
    また、広島で奇跡的に助かったはずの恋人は、白血病を発病し、広島の病院に入院してしまう。
    臨終に間に合うことができず、主人公はその後ずっと引きずることになる。

    そんな主人公のお荷物でしかない妻は、子供とともにアメリカに帰る。

    次第に主人公は心を病み、酒に溺れる。
    そして、自死という最悪の選択をして、この物語は幕を閉じる。

    主人公と、その親友のチャーリーはモデルとなる実在の人物がいるそうで、主人公はやはり現実でも自殺をするらしい。
    その原因は明らかになっていないが、この小説で描かれているように、東京裁判の重圧から心を病んだことによるものと考えられる。

    主人公には生き抜いて、アメリカのマスコミ業界でまた活躍して欲しいと思っていただけに、最後の展開は残念でならない。
    後味は悪い物語だったが、これまでスポットが当たらなかった東京裁判の詳細について、アメリカ在住の日系二世について知ることができたので読んで良かった。

  • 東京裁判の判決が下ろうとしていた。
    東京裁判にモニターとして携わる賢治は、連合国側が敗戦国・日本を裁く一方的なやり方に疑問を覚える。

    椰子には原爆による暗い影が…
    原爆の恐ろしさを感じる。

    勝者が敗者を裁く。
    勝者が正しいのか…
    広島、長崎への原爆投下は正しいことなのか…

    戦争は二度と起こしてはならない。
    核を使うなんてことはあってはならない。

    『私は米国の敵だったのだろうか』

    アメリカに忠誠をつくした日系二世にもかかわらず、戦争が終わってもまだ差別され、少しでも日本への心情があると反米と言われる…

    狭間で苦しむ賢治…

    賢治には二つの祖国を持つ身として、戦って欲しかった。
    日系アメリカ人の不遇と公正を世に問い続けて欲しかった。




  • やるせないな...
    虚無感に陥った賢治は、はっと、パズルのピースが全てハマったようにw、死へのピースを自ら埋めてしまったのだな。引き返す機会もあったが、椰子という心の支えを失った賢治には終焉へ一直線だった。
    これを読んで、第二次世界大戦や原爆などへの受けての考え方が微かに変わった気がする。▼インドのパル判事「戦争を犯罪として裁く法律が国際間に出来ない限り東京裁判の被告を戦争犯罪者とすることは出来ない」と東京裁判という名の政治を批判したように、現在は戦争犯罪を裁く国際法や国際法廷等が設置されているが、国連自体が安保常任理事国の拒否権で機能不全である。

  • 全巻を読んでみて
    在米2世でアメリカ国籍を持ちながら日本の精神を学んできた主人公が太平洋戦争という時代に差別や偏見と家族との関係に葛藤しながら開戦〜日本への国際軍事裁判までを綴った小説。
    戦争とはなにか・国とはなにか・家族の在り方とはなにか・法とはなにか・幸せとはなにか等の本当に答えのない問題を問いかけていて、こんなに考えさせられる小説はないし、日本人として戦争について考えるなら必ず読んだほうがいい本だと思う。

  • 正義とは、忠誠心とは、国籍とは、、、

    不幸な結末、最後は報われて欲しかったと思うが、そんな単純に整理ができない作品。

    日本人の精神ならではの意味を持つ、肚 。
    翻訳モニターとしての苦悩が凄く伝わる描写でした。

    そして、山崎豊子さんの作品は葛藤や苦悩の心情を分かりやすく解説してくれるのが、作者さんの魅力の一つだと思います。

  • 東京裁判を中心に描かれている。山崎豊子
    の緻密な取材に基づき、読者に分かりやすく
    描かれている。
    天羽賢治の苦悩はこの東京裁判の不条理さ
    そして愛する椰子の死と言う二重の苦しみ
    に苛まれる。
    アメリカの正義を信じて真摯に裁判のモニター
    をした賢治には、最初から判決有りきの裁判に
    批判をしたとして、アメリカに疑われ
    天羽賢治が日系二世として日本とアメリカの間
    で人生を翻弄され真摯な思いで日系二世の誇り
    を持って生きていたにも関わらず、最後はアメリカ
    への忠誠を疑われ苦悩の末自害すると言う結末は
    戦争の悲劇をより深く読み手に訴えかける。

  • さまざまな視点から見た東京裁判。
     この裁判での答弁は日本企業(経営者と従業員)に置き換えられる、と感じた。責任を取らない経営者と必死に働き憤死する従業員。
     ただ東条氏の裁判におけるロジカルかつ至極真っ当な答弁とその潔さは、これまで自分が思い込んでいた人物像と随分異なった。
     いずれにしても「二つの祖国」は、自分にとって生涯忘れられない一冊になる事は間違いない。
     

  • 再読。
    最終巻は東京裁判も折り返し地点、個人弁論から始まる。
    勝者が敗者を裁く展開で、天皇陛下を守るためには致し方なかったのかもしれません。
    その中でもパル判事のような意見が反映されてほしかったですね。

    デスバイハンキングの7名が13階段を登るところは、何回も読み返してしまった。

    この物語は戦争三部作の中で一番希望がなく後味が悪い。

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著者プロフィール

山崎 豊子(やまざき とよこ)
1924年1月2日 - 2013年9月29日
大阪府生まれの小説家。本名、杉本豊子(すぎもと とよこ)。 旧制女専を卒業後、毎日新聞社入社、学芸部で井上靖の薫陶を受けた。入社後に小説も書き、『暖簾』を刊行し作家デビュー。映画・ドラマ化され、大人気に。そして『花のれん』で第39回直木賞受賞し、新聞社を退職し専業作家となる。代表作に『白い巨塔』『華麗なる一族』『沈まぬ太陽』など。多くの作品が映画化・ドラマ化されており、2019年5月にも『白い巨塔』が岡田准一主演で連続TVドラマ化が決まった。

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