二つの祖国(四) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101104485

感想・レビュー・書評

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  • 東京裁判の過程とケーンの苦悩が重なりあって読みごたえあり。
    現在の日米関係はなんだかんだ言っても親密だが、それに至るまでの犠牲は計り知れない。

  • 山崎豊子『二つの祖国』新潮文庫 読了。太平洋戦争に翻弄される日系アメリカ人、二世たちの物語。主人公は両国を祖国とするアイデンティティを模索し、苦悩と葛藤を抱えながらも善く生きようとするが、その信念と良心ゆえか虚しい結末を迎える。克明に刻まれる東京裁判は本作の真髄のひとつだと思う。
    2017/10/18

  • 日系2世のアメリカ人が太平洋戦争中及び戦後に直面した差別、そして二つの祖国に挟まれ翻弄されつつもその中で生きる道を模索する姿を実在の人物をモデルにした主人公を中心に描いている。後半は極東軍事裁判の争点や広島原爆の悲劇を丁寧に小説の中で伝える著者特有の史実小説。戦争に関する書籍を読む度に如何に自分が近代史に無知か、表現を変えれば義務教育において学ぶ機会が与えられなかったかという問題を深く考える。文庫で全4冊。84年には大河ドラマになったそうだ。再放送する価値ある。

  • 前巻から続く東京裁判も個人弁論に入り、判決へと向かっていく。
    そして賢治の心は、更に重苦しく重大な展開を見せるモニター、翻訳の仕事と、私生活における葛藤とストレスで次第にすり減っていく。

    二つの祖国を持つという特殊性から、どちらからも疑われ、疎まれ、それでも忠誠を貫こうともがき苦しむ賢治の姿には、もはや悲壮感しか感じない。
    この話自体はフィクションではあるが、天羽賢治のモデルのように、似た苦しみに苛まれて命を絶つことになってしまった人のことを忘れてはならないだろう。

    また、あまり知らなかったアメリカにおける太平洋戦争中の日系人への差別行為、東京裁判について知ることができたのは大きい。
    もちろん、この本だけで理解したつもりになってはいけない分野。
    太平洋戦争についての話題は、右翼だ左翼だとレッテル貼りの応酬になっている印象なので敬遠してきたのだが、日本人として少しぐらいは知っておくべきだと感じた。

  • 仕方ないとはいえ、東京裁判の引用のくだりは冗長だと思う。
    また、山崎豊子の作品に共通することだが、あまりにも主人公が生真面目すぎ不器用で、少し現実離れしているかなとも思う。
    まあ主人公の中に葛藤があるから作品が面白くなるので、凡人のようにその場の雰囲気に流されるままならば作品にはならないのだろう。

  • 沈まぬ太陽や、不毛地帯等とダブる、正義感の塊のような主人公。山崎豊子作品にありがちではあるが、題材としては日系二世を取り扱い、考えさせられる。そういった人間ドラマはおまけなもののようで、こういった問題と向き合いなさいというメッセージであろうか。4月にハワイに行くので、このタイミングで読めてよかった。

  •  東京裁判後半。

     秘密の暴露に匹敵する東郷爆弾大炸裂に、一見凛としながら、全く的外れな東条の在り様を描き、東京裁判の幕は下りる。

     そんな中、賢治の余りにも喧しい「武士道」連呼に、言い知れぬ気持ち悪さと違和感。連呼せざるを得ないからこそ、二世を露わにしたものとも、トチ狂ってきた証左とも見えるが、心の支えが遠く離れ、かつ永遠の別れという結末に至ったことから来ているのだろう。
     ということで、孤独を癒す術なくラストは大河版と同じに。

     さて本作。
     日系米国人という境界線を生きる人物からの目線は、日米双方を相対化・俯瞰化したかに見える。
     しかし、やはり目に付くのは一面性、単層性だ。つまり「兵」から見た上層、アジア諸国から見た日本という観点が皆無なのだ。
     確かに、忠という、日本「兵」の代表足りうるキャラクターを造形した。にもかかわらず、彼もまた賢治の引力に吸い込まれ、賢治へのカウンターになり切れず、もちろん東条ら戦争指導者層へのカウンターにもならなかった。
     こういう点が本作が物語としての単層構造を突き破れなかった弱さに繋がっている。これは俯瞰的な、あるいは突き放して物語を構築できなかった著者の思い入れによるものだろう。
     確かに、自分の好きな物語を紡げた著者は満足だろう。
    が、その○○に付き合うのはかなりの苦痛を感じずにはいられなかった。

  • 太平洋戦争開戦後の日系人収容所問題からフィリピン戦線までのくだりは、各登場人物の動きが活き活きして面白いが、中盤以降、東京裁判の描写の割合が増えてくるとと、小説としての面白さはやや失速した感があった。主人公の、勝者による裁判への疑問に発する戦犯への心情的な肩入れや、同時進行した家庭内不和にも、そこに共感できるか否かで評価が分かれるかもしれない。戦争を体験した著者が、日系人強制収容所、原爆、東京裁判といったテーマに抱いた思いが色濃く反映した作品で、ストーリーを追うというよりは、それら歴史的事実がに興味がある人への橋渡し的な役割を果たし得る小説のように感じた。

  • 悲しい結末
    しかし素晴らしい作品です

  • アメリカと日本という二つの祖国の間で揺れ動く日系人の物語。実話を元にして、作者の丹念な取材の成果がその筆致により十分に現れている重厚な作品。色んな考え、選択をする日系人が描かれており、同じ収容されている日系人の間にも考え方の対立がある。生き方や選択にきっと正解なんてなかっただろうし、当事者ではない人間があれこれいうべきものでもない。ただ、これは山崎作品全般に言えることだけれども、真実とフィクションを渾然一体に著すのはどうか。僕は、法律家なので、終盤の東京裁判の場面で、例えば横田喜三郎をモデルにしたと思われる横井という法学者なんかが描かれているのには違和感があり、興ざめした。きっともう山崎作品は読まないだろう。

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著者プロフィール

山崎 豊子(やまざき とよこ)
1924年1月2日 - 2013年9月29日
大阪府生まれの小説家。本名、杉本豊子(すぎもと とよこ)。 旧制女専を卒業後、毎日新聞社入社、学芸部で井上靖の薫陶を受けた。入社後に小説も書き、『暖簾』を刊行し作家デビュー。映画・ドラマ化され、大人気に。そして『花のれん』で第39回直木賞受賞し、新聞社を退職し専業作家となる。代表作に『白い巨塔』『華麗なる一族』『沈まぬ太陽』など。多くの作品が映画化・ドラマ化されており、2019年5月にも『白い巨塔』が岡田准一主演で連続TVドラマ化が決まった。

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