- Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101135014
感想・レビュー・書評
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芥川賞受賞作品を読みたかったので購入した。表題作は話の筋こそありふれているが、丁寧な文体と情景描写によって何倍にも魅力ある作品になっている。特に、故郷に戻った「私」が車窓に映る雪景色を眺めるシーンは印象的である。
すべての収録作品が「死」を扱っている点も見逃せない。これは作者の育った家庭環境、特に姉たちの自死という体験を色濃く反映しているものだろう。このような作者自身のリアルな経験に拠った思想が表れていることも、これらの作品の価値を高めていると思われる。
もう一度読むとしたら、「團欒」を読みたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
兄姉たちは自殺、失踪し、自分の中に流れる暗い血に戦きながらも、生き抜こうとする大学生の私。
小料理屋につとめる志乃にめぐり遭い、結ばれる純愛小説『忍ぶ川』。
続編ともいうべき『初夜』『帰郷』『團樂』なども、味わい深いです。
私が生まれたころの作品です。
昭和の良き時代、名作、素晴らしい文学です。 -
2020/10/26-10/30
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長編『白夜を旅する人々』の続編的短編が集められた作品集。芥川賞受賞。
六人兄弟の内、二人の姉が自殺し、一人の兄が失踪した『白夜~』。それだけでも悲劇なのに、実はもう一人の兄も逐電してしまっていたという。
それゆえに主人公は、というか著者は、妻を持っても自らの中に破滅へ向かう血が流れていることの怖さから、子供を持ちたくないとする。けれど妻は妊娠してしまい…といった話。
父親が病気で亡くなったことを、まず尋常な死で人生の幕を下ろせたとを「喜ばしく」感じてしまうほどに、それまでの他の家族の死が異常だと感じていた話。
等々、家族の血にまつわる話が中心であるけれど、妻との出会いから交際に至る過程の話、初夜や出産、夫妻両方のチチキトクの話など、いかにも昭和的な婚約前後の話に、不思議なノスタルジアを感じ、癒されるところも。
最終作「驢馬」だけは他と趣が違っていて、こちらは終戦間際、東北地方の教師に預けられた満州人青年の話。青春物語とも読めるけれど、戦争による人の心の荒廃を描いた作品でもある。描写が素晴らしく、先が気になって読みやめることができなかった。傑作ぞろい。 -
さらっとしか読んでいないけど本が古すぎて崩壊しそうなので電子化。結局、以前にちらっと読んだ時も感じたけど、アナクロな恋愛ものに過ぎないという気もする。
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「忍川」は出会い、交際し、結婚する過程を、未来へ向いた晴れやかな青春の一時が、対比して暗く引きずる過去を押し流しつつ描かれている。両親からも祝福されて幸せな気分を共感できる。深川の風景や夜行電車での情景描写もよいですね。その後の続編で暗い過去を浮き彫りにして、全編読後感は少し陰鬱なものになってしまうが。
「驢馬」のみ作者の私小説とは違いフィクションのようだけど、当時の事情を題材に何やらリアルで救いようがなく変に印象に残る。 -
奥さんとの馴れ初めは初めて読んだかも。でもこれは事実に近いフィクションなのかな。どこまで本当なんだろう。結婚前、女性が生家へ男性を連れて行って、「これが私のすべて」と見せる場面はよかった。その生家というのが赤線地帯の一角にある場所だから尚更ね。そこで引いて去って行く男ならもちろん今後はないわけだし。男性が自分に留まる可能性は半々だろうに、その勇気ほんとうに感服する。私もこのように強くありたいと思った。最終話は満州からやってきた留学生が主人公。他短編とは趣きがまったく違い新鮮だった。けれど悲しい物語だった。
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静かで沈鬱にも感じるトーンだが読後感は不思議と悪くない。久しぶりに良い作品。
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作者三浦哲郎の人生を下敷きにした私小説。
6人兄弟で4人が自殺か失踪をとげてるんだから、どうしたって話は重くなりそうなものだけれど、この作者の文章は、雪の日の朝のように爽やかだ。
妻との出会いと結婚を主に描いているんだけど、この奥さんがまた良い女なんだな