チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷 (新潮文庫)

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  • / ISBN・EAN: 9784101181028

感想・レビュー・書評

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  • 確か10年以上前、塩野氏の「ローマ人の物語」1巻途中で挫折しており、苦手な意識が植えついてしまい、ついつい避けてきてしまった
    でもイタリアは好きだし、イタリアの歴史をもう少し知りたい(しかし歴史の教科書のような本を読むのも面白くない…)
    というわけで、塩野氏へいざ再チャレンジ!

    15世紀末、当初のイタリアは今のように国家が出来上がっておらず、ナポリ王国、フィレンツェ共和国、ヴェネツィア共和国…というような小国家が群生している状態であった
    誰も「イタリア」と言葉にしないような時代に、統一国家を目指そうと野心あふれる一人の男
    それがチェーザレ・ボルジアである
    父が法王であり、その父がチェーザレをバレンシア大司教に抜擢、さらにバレンシア枢機卿へ任命…こんな感じでボルジア家の継承者へという思惑があったのだが…
    ある時期になると彼は枢機卿を返上し、大司教の職を捨て、俗界に降りることを決意
    そこまでしてなし得たかったことは自分の力で統一国家をつくり上げることだ
    父である法王の教会勢力を操り、政略結婚によって得たフランス王の援助をとりつけ、目的のためなら手段を選ばず、たとえ身内を手にかけても己の野心を全うする
    誰もがチェーザレの残虐さとしたたかさと強大な野心に恐れを抱くようになる
    そしてついに反逆が始まるのだが…
    どれだけ孤独になろうとも彼の野心は衰えを知らない
    が、勢いだけでもない
    忍耐強くしぶとく、そして裏切りは決して忘れず許さない
    どれだけ時間をかけ待ったとしてもやると決めたことはやり抜くのだ
    そしてあらゆる決断を一人で下す
    誰の助言も必要としない
    どんな作戦かも、今からの行動さえも家臣に語らない…
    織田信長みたいである
    孤独でただ戦うことと己の野心のみで生きたチェーザレ
    話をすることはなくても立ち止まることはない…
    ルネサンス期を生き急ぐように駆け抜けた!
    (本当に飛ぶが如く、いつもいつも奔走している)
    そして31歳という若さで命をおとす

    チェーザレに関わった偉大な歴史的人物として2人が登場
    ■レオナルドダヴィンチ
    チェーザレはダヴィンチに国土計画を依頼した
    この書では似たもの同士が良い相乗効果で…とあるが、以前読んだウォルターアイザックソンの「レオナルド・ダ・ヴィンチ」を思い出す
    レオナルドはチェーザレに仕えるものの結局チェーザレの残虐さに嫌気を指すとあった
    レオナルドは20年以上も軍事技術者になることを夢見てきたのだが、平和主義思想で不和や戦闘はごめんだと言っているのに、武術に興味がある…という葛藤があったようである

    ■マキャヴェリ
    マキャヴェリは曰く
    「チェーザレ・ボルジアは、残酷な人物とみられていた。しかし、この彼の残酷さがロマーニャの秩序を回復し、この地方を統一し、平和と忠誠を守らせる結果となったのである。」(メディチ家に献言するために執筆した「君主論」による)
    本書ではチェーザレはもちろん他人に一切心の内を見せることはなかったようであるが、それなりにマキャヴェリを気に入っていたようである


    チェーザレのセリフがほとんどなく、
    そのためチェーザレの心境を読み取る…という小説のようにはいかない
    実際記録が少なかったようで、ある意味史実に忠実な描写ともいえるのかもしれない
    しかしそれでもチェーザレの強い意志と颯爽とした様子は勢いよく伝わり圧巻ではあった
    地名や職業的地位、人物が混乱するほど多く出てくるため、これはまたもや挫折か…と途中で焦ったが、今回こそは1冊なんだから!と混乱しそうな部分はメモを取りつつ進めた(この時代のイタリア史の知識が豊富ではない限り、理解して読み切るのはなかなか大変である)

    やはりどうも相性が宜しくないようで…
    楽しめたかというと微妙である
    うーん何故だろうか…
    それでもチェーザレの人生とこの時代のイタリアに触れられたことはなかなかの経験だ

    刃の薄く鋭いナイフが何度もビュッと耳元で鳴っているような気がした

  • 塩野七生さん初期の作品で、独特な作風によるお得意の記録文学です。
    この作品によって、日本に「チェーザレ・ボルジア」という人物を広く知らしめることに貢献したといえますね。
    初期の作品ということで、文章表現に若干の拙さを感じる部分があることや、チェーザレ以外の人物が唐突に登場し過ぎて誰だっけと思うようなことなどはあるものの(笑)、疾風が如きチェーザレの人生に遅れまいとするかのような疾走感溢れる物語展開で目が離せず、とても面白かったです。

    父に法王アレッサンドロ六世を持ち、ヴァレンシア大司教から枢機卿という聖界のトップに立ちながらその座をいともあっさりと捨て去り、俗界ではヴァレンティーノ公爵となり教会軍総司令官としてロマーニャ地方を平定、ロマーニャ公国設立ひいてはイタリア統一も射程にいれていたが父法王の死に伴い没落、31歳の若さで戦死するという波乱な人生には憧憬を禁じ得ないです。まさに人生を大いなる野心のもと凝縮して駆け抜けいったという感じでしょうか。しかも、美青年ということでもあり。(笑)

    内外を恐怖させたチェーザレの、ロマーニャ地方を蹂躙するかのような過酷で果敢な攻めや、平気で二枚舌を使う悪辣さ、酷薄な戦後処置は、彼の冷徹さ、残虐さ、冷酷さを如何なく示すものであったのに対し、それが一転、それと対称となるかのように坂道を落ちるがごとく没落し、哀れを感じざるを得ないほどの落ちぶれようには目を瞠らざるを得ないですね。
    例えていうなら、若さに任せてぶいぶい言わせてきたやんちゃな若者が、鼻っ柱をへし折られ往時の影もなくなってしまったという感じですかね。
    何だ、それならどこにでもいそうなヤンキーな兄ちゃん・・・ではやっぱりないか・・・。(^_^;
    落ちぶれた様は何だかこちらまで哀しくなってきました・・・。

    目的のためには手段を選ばず、己の欲望のみに忠実で計算高い。裏切り者には冷酷な報復を行い絶対に許さない。
    こうした彼の手法はニッコロ・マキアヴェッリをして統治のお手本だと言わしめるとともに、互いに過度な干渉はせず互いの才能を利用するだけ利用しようとしたレオナルド・ダ・ヴィンチとの関係といい、やっぱり才能ある人のまわりには才能ある人が集まってくるのですね。
    自分も集まりたかったなあ。うそ!(笑)

    イタリアの歴史や地理に疎いので地名や人物は何度となく地図や人物紹介を参照する手間があったことや(特に地名はどこに征服に向かったのか都度確かめた(笑))、記録文学という手法からチェーザレを含む登場人物の心情描写がほとんどなかったのはまあいいとして、登場人物の中でこれは重要と思われる人でさえ描写が少なかったこととか(妹ルクレツィアとか弟ガンディア公爵ホアンとか、あるいはジュリアーノ・デッラ・ローヴィレ枢機卿とか)、部下の反乱に至った背景を知るにはあまりにも唐突感があったことなど、もう少し丁寧に描いてもらえればより理解が深めれたと思うシーンが多々あったことは否めないながらも、冒頭の「読者へ」で作者自身も若書きということで欠点はあるけれどあえてそのままにしてあると書いてあって、そのような「若さ」も含めてページ数を感じさせないスピード感が魅力的な物語であったと思います。

    • 佐藤史緒さん
      延長線上というより、ど真ん中ストライクですね(笑)美青年君主だけでなく美青年従者をセットで描くところがポイント(?)と思います。

      塩野...
      延長線上というより、ど真ん中ストライクですね(笑)美青年君主だけでなく美青年従者をセットで描くところがポイント(?)と思います。

      塩野さんは最近はギリシア人の物語を書いているそうですね。中でもハンニバルの戦いの巻が銀英伝ばりに面白いという噂を小耳に挟みました。いつか読んでみたいものです。
      2017/06/20
    • 佐藤史緒さん
      失礼しました。ハンニバルはギリシアじゃなくてローマの方ですね
      σ(^_^;)
      失礼しました。ハンニバルはギリシアじゃなくてローマの方ですね
      σ(^_^;)
      2017/06/20
    • mkt99さん
      佐藤史緒さん、こんにちわ。
      コメントいただきありがとうございます!(^o^)/

      ははは。やっぱりど真ん中でしたか!(^o^)
      どー...
      佐藤史緒さん、こんにちわ。
      コメントいただきありがとうございます!(^o^)/

      ははは。やっぱりど真ん中でしたか!(^o^)
      どーりで美青年くさい(?)と思いました!(笑)
      なるほど、従者も美青年!?確かにその通りでした。ワン・ツー連続で怒涛の寄せということですね!(笑)

      塩野さんの描くハンニバルの戦いは銀英伝ばりなんですか!
      それは機会があれば是非読んでみたいところですね。(^_^)
      ハンニバル将軍といえばアルプス山脈越えが有名ですが、そういえば銀英伝にも似たような話があったかも。(笑)
      ご紹介いただきありがとうございました。m(_ _)m
      2017/06/21
  •  久々に読んだ。
    学生の頃に妹に勧められて読んで、大好きになったチェーザレ•ボルジア。顔もイケメンだったらしいけど、何より生き様がイケメン過ぎる。昔の地図や現在のGoogleマップを見たり、衣装や肖像画を検索しつつ読みました。

     15世紀後半にイタリア統一の野望を掲げ、自らの軍も国も持たない所から、イタリア全土の1/3を支配下にしたチェーザレの物語です。

     まぁ、軍と国は持ってなかったけど、法王の息子で、18歳で枢機卿に任じられてるし、“今世紀で最も美しい武将”と言われてたようだし、カリスマ性も賢さも持ち合わせてたようなので、持ってたものも多かった。

     政治的手腕に長けていたようで、フィレンツェの大使としてチェーザレと接していたマキャヴェッリは、『君主論』の中で“理想の君主”と称えてます。

     また、国土計画に関心があったレオナルド•ダ•ヴィンチは自分の理想を共同で実現する友人としてチェーザレと行動を共にします。

     チェーザレの簡単な経歴を

    1475生まれ

    1493年 18歳で枢機卿に(パパは法王)

    1498年 枢機卿の地位を返上
    イタリア統一の野望のため動き始める

    1502年 元々法王領だった土地を取り戻したりして、イタリアの1/3に当たる中部を支配下に置く。

    1503年 父である法王が病で亡くなる
    チェーザレも同じ病に倒れる
        (多分マラリア)

    完治する前に捕らわれたり、逃亡したりしつつも、義兄の国で再び戦いに参加するが、、、

    1507年 31歳で亡くなりました。。。

    いつの日かイタリア•スペインに聖地巡りに行きたい。

     惣領冬実さんの『チェーザレ 破壊の創造者』も面白いのでオススメです。なんせ惣領冬実さんだから絵も美しくストーリーも素晴らしい。12巻が出てから5年経つけど、、、信じて待ってます。

     内容が濃ゆいのと、物語の中ででも長生きして欲しくて1週間かけて読みました。

  • どこにあるのか、わからない!とにかく良い!

    • 2020/08/16
    • りまのさん
      塩野七生女史の作品に、サロメの乳母の話
      という、面白く、読みやすい、短編集が、ありますよ。解説は、田中康夫氏です。いまよんでも、楽しく、オシ...
      塩野七生女史の作品に、サロメの乳母の話
      という、面白く、読みやすい、短編集が、ありますよ。解説は、田中康夫氏です。いまよんでも、楽しく、オシャレな文庫本です。♪
      2020/08/21
    • kurumicookiesさん
      りまさま〜、読んでみたいです✨
      りまさま〜、読んでみたいです✨
      2020/08/21
  • 従来のチェーザレのイメージとは異なり、マキャベリの「君主論」に近い英雄的な姿を表した書。
    読んでいて半世紀遅れて日本に現れる織田信長にとても酷似していると感じた。手向かうものには容赦なく冷酷に対峙するが、能力を認めた者(この場合、ダビンチ)は登用し、近くに侍らす(マキャベリ)。
    30歳そこそこで死んだチェーザレは時代を駆け抜けた英雄であったことには間違いない。

    • やまさん
      おはようございます。
      きょうは、快晴です。
      体に気を付けていい日にしたいと思います。
      やま
      おはようございます。
      きょうは、快晴です。
      体に気を付けていい日にしたいと思います。
      やま
      2019/11/16
    • kakaneさん
      おはよう御座います。
      コメントありがとうございましす。
      今日は本当に快晴で気持ちがいいですね。
      充実した1日をお迎えください。
      おはよう御座います。
      コメントありがとうございましす。
      今日は本当に快晴で気持ちがいいですね。
      充実した1日をお迎えください。
      2019/11/16
  • 父が法王に選ばれた時から死に至るまで、読み終わって、この量に随分圧縮されたんだなという感想。
    作者の筆致はとても濃密なのだが、要所をていねいに取り上げていて、きっと現実的な時間感覚で取り上げてしまったら何倍の量になっていただろう。

    父によって枢機卿に選ばれ、緋のマントを身につけていた頃は、まだ聖職者としての面影もあったように思うけれど……。
    それでは、「ここまで」しか行けないという、限界も見えていたのだろうか。

    金と力を手にし、還俗するという荒技を為してしまう中盤は、フランスを盾に持ち、イタリア中をボコボコにして回り始めるチェーザレ。
    他の本では、殊にその美貌を取り上げられていたりするけれど、備わっているものでは満たされないのか……。

    正直、この中盤はもっと描かれても良いと思うけど、全体から見ると致し方なし。
    マキアヴェッリとかダヴィンチとかのくだりも、短いけどめちゃくちゃ面白い。
    君主論未読が悔やまれる。

    マラリア感染以降、おのれ後一歩で、、、の展開を迎えるチェーザレ。
    まさに波乱万丈。
    たった一人の青年に、これだけのドラマが詰め込まれる。人間、恐るべし。

  • ルネサンス期の武将、チェーザレ・ボルジアを主人公とする歴史小説。
    序章のチェーザレの剣のくだり、チェーザレとダ・ヴィンチとの出会いのシーン、そしてダ・ヴィンチのデッサンと一緒に発見されたマントのエピソードなど、極力抑えた筆致の中から、それでも情感が零れ落ちるような名文が多い。
    大長編でもハッピーエンドでもないけれど、贅沢な読書を堪能できる豊かな小説。

  • チェーザレ・ボルジア。
    イタリアが統一される前の乱世の英雄。
    日本で言えば、織田信長のような存在。

    「わが友マキアヴェッリ」に何度となく名前が出てきて、マキアベッリの「君主論」にも当然登場する、チェーザレ・ボルジア。

    手段を選ばず勢力を伸張しながら、時代の流れに乗り切れず31歳の若さで逝ってしまった。

    時に残虐に、時に政治の力を駆使して強敵を倒していく姿にワクワクさせられた。

    1500年前後といえば、日本は応仁の乱が終わった後の戦国時代に突入しつつある時期。

    イタリアも複数の王国が割拠している時代で、法王の子という背景をフルに利用しながら統一の夢を見たチェーザレ。

    戦国武将にワクワクするのと同じ憧れを彼に持ってしまうのだ。

    解説で沢木耕太郎も書いているが、この本を傑作たらしめているのは、塩野七生のチェザーレの愛なのだろう。

  • マキャヴェリの『君主論』を体現するような生き方を示したチェーザレ・ボルジアの伝記小説です。

    むしろ自分にとっては、『君主論』の向こうにチェーザレという男の生き様を透かし見ているからこそ、権謀術数を説く『君主論』という書物に生き生きとした魅力を感じているのではないかという気がします。もしチェーザレの存在がなければ、『君主論』はただ読者を鼻白ませるだけに終わっていたのではないかとさえ思います。

    チェーザレの行動を端正に記していく文章も、彼のキャラクターにどこか似つかわしいと感じられます。

  • まず、タイトルが美しい。本書16ページの、チェーザレ・ボルジアの肖像が、「あるいは優雅なる冷酷」という言葉を裏付けるようだ。

    読後感は、「燃えよ剣」を読み終えたときに似ている。目的のために手段を選ばなかった、という点でも、チェーザレ・ボルジアと土方歳三はどこか似ているような気がする。その生涯の短さも。その最期の姿さえ。

    たった31年の生涯に、良くも悪くも、彼はどれだけのことを成したのか。成し得たことは彼の才によるものだが、没落は、彼の政治的基盤がすべて法王たる父にあったことが原因だろう。父の死のタイミングこそが、彼の命運を決したのだと思う。華やかに表舞台に登場し、瞬く間に上り詰め、あっという間に失墜した。

    イタリア統一。

    ガリバルディによるそれは、確か19世紀半ばのことだ。チェーザレが生きたのは、15世紀後半から16世紀に入った頃まで。歴史に「IF」はないけれど、父である法王があのときに死ななかったなら、そしてそのときにチェーザレ自身が病床についていなければ。イタリア半島が「イタリア」になったのはもっと違う日だったのではないかと、そんな壮大な夢を見たくなるような人物に、塩野氏はチェーザレを書き上げている。

    マキァヴェッリの「君主論」は、現代の政治・国家のあり方にはなじまないものであるかもしれないが、確実に、「それ」を必要とした時代があった。少なくとも、マキァヴェッリはそう信じ、彼をそう信じさせるに足りうる人物がその時代には存在した。

    チェーザレ・ボルジアというのは、たぶんそんな人だった。

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