五年の梅 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101192215

作品紹介・あらすじ

友を助けるため、主君へ諌言をした近習の村上助之丞。蟄居を命ぜられ、ただ時の過ぎる日々を生きていたが、ある日、友の妹で妻にとも思っていた弥生が、頼れる者もない不幸な境遇にあると耳にし-「五年の梅」。表題作の他、病の夫を抱えた小間物屋の内儀、結婚を二度もしくじった末に小禄の下士に嫁いだ女など、人生に追われる市井の人々の転機を鮮やかに描く。生きる力が湧く全五篇。

感想・レビュー・書評

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  • 結構前の山本周五郎賞受賞作品です。

    著者の筆力は圧倒的で、特に瑞々しい風景描写はそれだけで感動的。
    長編小説好きな私にとって本作は短編集なので若干の物足りなさは感じますが、抑制された情熱とか人物の内面の描き方も巧くて、物足りないなどと言いながらもすぐに物語に引き込まれてしまいました。

    全体を通して過去を悔み、反省し、そのうえで前を向こうとする様々な人生が描かれており、少し切ないけれど心温まる作品ばかりでした。
    人はいつでも何歳からでも変わることができる。
    幸も不幸も自分の心持ち次第。ですね。

  • 美しく良い話達でした。五年の梅と小田原鰹と蟹…みんな良かったけどこの三話が特に好きですね。乙川先生、時代小説も凄くいいです。今回は短編集でしたが次は長編を読みたいと思います。

  • 胸を打つ短編5篇。特に後半3編はどれも読み終わった後しばし呆然

  • ほぼ15年ぶりに再読。一度目には読み取れなかった登場人物の心情が身につまされて、放り出したくなるくらいに辛い話もありました。特に「後瀬の花」。出会って、魅かれて、結婚して、でも時が経つほどに『何か違う…』という違和感が積もっていき、ある時気付かされるのです。『相手の姿を見ていたのではない。相手に、勝手に自分の希望を重ねて見ていたのだ』と。勝手に自分に都合よく、事実を曲げて受け取っていたのだと。誰のせいでもない、相手を選んだ自分が悪いのだと。
    それでも、諦めずに投げ出さずに添い続けてみるもんですね。今は良かったと思えます。今のタイミングで再読したのも良い機会でした。
    登場人物はみな、失敗や躓きを経験しています。つまり“しくじり先生”ですね。時代は違えど、良い先生ばかりですょ。

  • 山本周五郎賞受賞作。
    この5短編の作者名を伏せて、次の3人(①山本周五郎②藤沢周平③乙川優三郎)から作者を選べ。
    こんな問題があったら、全て正解できるだろうか、そんな妄想が浮かんだ(笑)
    市井の人々、とりわけ社会の片隅に生きる人々への優しいまなざしを持った3人の作家。
    山本周五郎、藤沢周平亡き後、その跡を継ぐ作家として、今後とも乙川優三郎氏に期待したい。

  •  男女の機微を丁寧に細やかに描き上げてらっしゃいます。乙川勇三郎「五年の梅」、独立5編、2003.10発行。第3話「小田原鰹」が一番のお気に入り。第4話「蟹」、第5話「5年の梅」も秀作です。

  •  2001年第14回山本周五郎賞を受賞した短編集。
     どんな時代にも生きるのに苦しいことがあり、その悩みはなかなか拭い去れないものでもある。そうした苦しさに心折れそうになりながらも、生きる目的・意味を見出し懸命に生きていこうとする姿を描いている。
     そうした目的・意味を見出す転機は意外な形で訪れることも多い。そんな転機をどう捉え、どう行動に移していくのか。人生の転機を鮮やかに描き出した作品集である。

  • 時代物の形を借りながら、現代人的な心理や会話の描写に身がつまされる感じで楽しめた。藤沢周平で江戸の女性の不自由な暮らしぶりを見慣れて免疫ができたからか、本作の女性たちは辛い境遇でも概ねもっと救いや主体性が確保されている。あるいは舞台を江戸時代にしてもやはり書かれた時代の影響が大きく、20世紀と21世紀の違いが見える気がする(作家にもよるとは思うけど)。一作目と五作目は急な展開の部分で(僭越ながら)もしかして書くの下手?と思えるほど整理できてない感じがしたが、総じて前向きで、ハッピーエンドでなくても読後感の良い作品が多い。

    後瀬の花
    いきなり奇抜な話。「地図を読めない女と話を聞かない男」を時代物にして突然死後の世界?喧嘩の口論が多いが、そこがなかなかいいことを書いているというか勉強になる。一方的に攻められた女の子の反撃がいちいち図星で妙に冷静かつ天真爛漫なところが面白かった。

    行き道
    同じ中年女性の分岐点を描いて次作では思い切りがうまくいき本作は踏み留まる、二人の境遇や性格の違いからそれぞれそのほうがよかったと思える、常識的で安心して読める感が良かった。自分が病気をしたときの相手の態度に対し「目には目を」的なことを繰り返し描いているので子供っぽく且つ執念深い主人公に見えるが、実際にはそこに至るまで積年のものがあっただろう。

    小田原鰹
    一組の夫婦を起点に上下三世代を自在に行き交いバラバラな家族とそれぞれの孤独を点描しながら少し長めの短編でまとめる、という離れ業的な作品と言えるかもしれない。出奔するおつねさんは応援したくなるような元気をくれる人物像。鹿蔵の、今でいう中高年の引きこもり的な状態からの再生は悲惨ながらも、彼女が贈り続けた鰹が世間との関わりに大きな一助となり、彼も最期結局よかったと思えたのでは。


    漫画っぽいけど一番好きかも。複雑で微妙な境遇のヒロインが斬新。卑劣な男たちは時代物にはうんざりするほど出てきて、成敗されてもなんかすっきりしないことが多いけれど、現実には絶対いなさそうな岡本岡太が清々しく、彼の活躍がはっきり描かれていないところが逆にこの作品の魅力になっている気がする。

    五年の梅
    周りから豪胆と評されるような人の内面が、わりと単純で素直に描写されて、実際そういうものかもしれない、と思った。

  • 山本周五郎賞 短編5編
    付箋
    「行き道」
    ・酒も楽しみもほどほどのところでやめておいたほうが帰り道が楽になるはずだった
    解説
    ・市井の人々、とりわけ社会の隅のほうにいある人々の「悲しい思い」を描き続けている
    ・建て前ばかりが重んじられる侍の社会にあって、「情」を大事にして生きている。こういう男たちの良さがわかるのは、大人の女性たち

  • 何を読もうかと山本周五郎賞を辿っていたら、この本が目についた。
    最初の2つの話が案外だったが、後半3つの話はまずまず佳かった。
    いずれもありがちな人情噺だが巧みな運びでそれぞれ印象深い話になったのは流石なところ。
    ただ、どれも短い話なので、心の襞というか機微の変化がせかせかしているところがあって、些かの喰い足りなさは残った。

  • 昔からあるジャンル、人情物。乙川の場合は、主人公の心理を主観的に濃厚に書き込む傾向が、過去の大家と比べると、やや強いかもしれない。光景描写だけで語らせるという感じではない。

  • テレビで紹介されていて興味を持ちました。5編の時代短編。最初の「後瀬の花」はラストの展開に驚きながら読みましたが、2編目の「行き道」が自分が女性であるゆえか生々しくて読んでいて辛く少しも楽しくなかったのでそのまま投げ出しそうになりました。ところがその後の「小田原鰹」「蟹」がとても良かったのです。投げ出さなくてよかった。時代ならではのお話ですが想像させるラストまでじわりと心に染み込んできました。表題作も悪くなかったです。全てが再出発の話だと考えたとき1話目のラストもぐっと心に残るものになりました。

  • 2019/2/17
    苦難のわりにリターンが少ないよ~しんどいよ~
    と思いながら読んでいたけど、後半になるにつれだんだん納得のリターンになってきた。
    落ち着く。
    小田原鰹が印象深い。
    こんなに最低の人物の心情をなぞったことはあんまりないような。
    マジ死ねと思いながら読んでいくうちにだんだんと変化していく鹿蔵をやっぱり許せなかったり、哀れに思ったり。
    鹿蔵がまともになるにつれ、私の心も落ち着いていく。
    なんか安らいだ。

  • 乙川優三郎 「 五年の梅 」 男と女の生き直しをテーマとした短編集。花の映像を転換点として、人生のやり直し、生き直しがなされる。山本周五郎 のような 感動の終わり方

    後瀬の花
    「卯の花〜か細い枝に綺麗な花〜おれたちもあんなふうに
    生きればよかった」

    五年の梅
    「ひどい回り道をしたが、今からでは駄目だろうか〜この梅も 花のあとから葉がつく」

  • 相変わらずの乙川節です。
    特に目立った作品は無いのですが、一方で破綻もありません。というより、全てが及第点を楽々超えて行きます。
    どちらかと言うと、大きなストーリーの流れより、小ぢんまりとしたストーリを丁寧に描くのが美味い作家さんのようです。そういった意味で、この人の短編は読み応えがあります。

  • 時代小説マストリードから。短編集だし、そんなに本も厚くないから、軽い内容かと思って読んだけど、良い意味で期待は裏切られました。世知辛い現代だけに、純真を描くためには時代小説の形態がより好ましいんですね。現代が舞台だと、ともすればあざとく感じられかねない内容も、時代背景も相俟って、心に響く感動物語に仕上がっています。もちろん背景設定だけじゃなく、その筆致とか心象描写の妙とか、それがあってこその素晴らしさなんですが。5つの短編から成る本で、全てが好きってのもなかなか無いことで。男女の葛藤が根底に流れるテーマだけど、恋愛ものがあまり好きでない自分ですら、大いに満足させられる内容でした。

  • 少し重いかなと思ったけど、後半の話は少し救われた気がした。「小田原鰹」はちょっと読んでて不快になる内容だった。あまりに身勝手な男に腹が立ったのでこのままの内容だったらパスかなとあきらめたんだけど、「五年の梅」は良かった。

  • 2016年、24冊目です。
    表題作「五年の梅」は、心に染みる作品だった。
    山本周五郎賞受賞作品です。表題作を含め5編の短編が収められています。
    描かれているのは、江戸時代の世を生きる様々な人々です。
    彼の作品の主人公たちの生き方には、決して華やかさなどありません。
    むしろ不器用に、もっと言えば無様に生きているのです。そんな男や女の中に、
    消え残るかのように灯る人としての矜持を見る気がする。最後まで人を見捨てない
    暖かさのような気もします。器用に生きられないからこそ、そういった人間だからこそ、大事に守っておかなくてはいけない心情があるのだという気にさせられます。
    それを失わなければ、人として生かされている意味があるということだろか?
    それにしても、主人公へというか市井で生きる人に対する愛情を感じる作品集です。
    「小田原鰹」という作品は、最後までなんで小田原鰹なのか分かりませんが、
    主人公”おつね”が理不尽な夫婦生活の中で決して荒ぶことなく生きる心情には、
    感情移入してしまいます。また小品「蟹」も、主人公の女性が、生き直す希望を
    見出す様が素敵な作品でした。

  • 後瀬の花、行き道がいまいちスッキリとせず、あまり期待していなかったが後半の小田原鰹、蟹、五年の梅は面白かった。人生の転機というよりは漸く掴んだ幸せ、平穏といった感じで後味はよい。ただ、終わり方については、どれもこれからというところで終わるので
    (それがいいという人もいるのだろうが)、もう少し書いて欲しいなぁと思ってしまった。

  • 人情時代小説傑作選「世話焼き長屋」より、「小田原鰹」が気に入ったので。「小田原鰹」以降3編がよかった。

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著者プロフィール

1953年 東京都生れ。96年「藪燕」でオール讀物新人賞を受賞。97年「霧の橋」で時代小説大賞、2001年「五年の梅」で山本周五郎賞、02年「生きる」で直木三十五賞、04年「武家用心集」で中山義秀文学賞、13年「脊梁山脈」で大佛次郎賞、16年「太陽は気を失う」で芸術選奨文部科学大臣賞、17年「ロゴスの市」で島清恋愛文学賞を受賞。

「2022年 『地先』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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