本にだって雄と雌があります (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 999
感想 : 82
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101200217

作品紹介・あらすじ

本も結婚します。出産だって、します。小学四年生の夏、土井博は祖父母の住む深井家の屋敷に預けられた。ある晩、博は祖父・與次郎の定めた掟「書物の位置を変えるべからず」を破ってしまう。すると翌朝、信じられない光景が――。長じて一児の父となった博は、亡き祖父の日記から一族の歴史を遡ってゆく。そこに隠されていたのは、時代を超えた〈秘密〉だった。仰天必至の長編小説!

感想・レビュー・書評

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  • 何と言うか、とても不思議な手触りが残っている。完全にタイトルに惹かれて入手してそのまま積読していた一冊。少し前に読んでいたものの中で触れられていたため、そう言えば持ってたな、と満を持してページをくってみたのだった。
    開いて早々に現れる家系図に面食らい、そして祖父を中心に一族について語る密度の高すぎる言葉の洪水に圧倒される。場面も時代も、描写される人物すらいったりきたりするので、序盤は整理のために何度も家系図のページに戻ってしまった。けれども進むうちに深井家の構造が染み付いてき、更には與次郎のキャラクターにも惹き込まれ、あれよあれよと世界に入りこまされてしまった。
    あちこちにふらふらする描写が多いものの、ボルネオと飛行機事故の辺りはじっくりと読ませる筆致が続く。これまでの弁舌が前菜のように効いていて、この2地点は読後の印象も強い。
    幻書に飛ぶ本に白象にキノコに図書館。物凄くファンタジーをしているのに妙に信じ込まされてしまう説得力は何なんだろう。そういう仕組みが本当にあっても良いのにな、と読後感として抱かされている。

  • いやー面白かった。もっともっと読んでいたいくらいこの物語の世界にどっぷりとハマった。声に出して笑ったし、頭の中で色々とツッコミたくなるようなことが満載だし、ちょっと涙を堪えないといけないような展開もあるし、深井家は最高です。

    「あんまり知られてはおらんが、書物にも雄と雌がある。」

    タイトルからしてそうなのだが、始まりの一行がこの書き出しでは、興味を掻き立てられないわけがない。仮に面白くなかったとしても、個人的には最後まで読み通したい気になる。ただ、1ページ読み始めるだけで、面白そうだというのは確定した。まだ未読の方は公共の場で読む際にはお気をつけください。思わず声を上げて笑ってしまったり、無意識に独り言でツッコんでいるかもしれませんので。

    物語は幻の本を蒐集する深井家三代を中心に描かれる。学者の深井與次郎を主にして、その孫の博が息子の恵太郎に向けた手記を語るように進んでいく。與次郎の人生、妻である画家のミキ、四人の子とその孫、本の生態や幻の本の秘密、太平洋戦争や日航機墜落事故、実際の出来事や人物も織り交ぜながら一族の波乱万丈な人生を知ることになる。中盤までは話があっちこっち飛びながら家族の紹介が続くのだが、名言と迷言と傑作と駄作の綯い交ぜみたいな手記になっており、控えめに言っても最高だと感じる(私的に)。しかし、中盤以降、與次郎の人生の最重要事項と思われる内容や幻の本についての内容が語られるあたりからグッと物語の密度が上がり、もうここからはずっと深井家と共にいるかのように心から離れない。最後まで驚きとホッコリが満載で、深井家のことは忘れないだろう。

    ちなみに、作中の博が初めて目にした幻書は『はてしなく壁に嘔吐する物語』。サルトル『嘔吐・壁』とエンデ『はてしない物語』から産まれたようだ。読みたくない。

  • 本書を初めて読んだのは5年以上前。
    図書館でふと目に留まった背表紙のタイトル。
    面白そうだなと思い、同じ作家ばかり読む自分としては珍しく全く知らない作家の作品を手に取った。
    開いてみたらその文字量に絶句、読点まで8行なんてところもある。
    面白い、、けど読みにくい、、
    当時は読みにくさが勝り、著者にはとても失礼な斜め読みをして読破。それでも圧巻の読み応えでした。
    孫に宛てた手記という体の本で、完全にファンタジーなフィクションなんだけど現実の歴史がブレンドされていて重みもあり、もう言葉にできない!すごい本だ!というのが当時の感想。
    いつか手元に置きたいと思い数年が経った。
    何かの拍子に思い出し、文庫本を購入したけど
    積読本になり、また2年くらい経った。
    そして入院という時間をきっかけに再読。
    やっぱりすごい!
    今回は一言一句余すことなく読みました。
    なんて面白いんだ!過去の自分に喝!
    森見登美彦作品が好きなら絶対ハマると思う。そんな感じの文体です。
    ネタバレすると勿体無い作品なので細かい感想は差し控えますが、(というか言葉が足りない)本当に本当に面白い。鳥肌が立つ系の面白さもあり、笑える面白さもあり。
    確か単行本には蔵書印が押してあったような。。
    今の部屋には本棚がないけど、単行本を並べたくなる本であります。

  • 読み通すのはなかなか大変。全編、語りかける手記という形をとっていて、それがほとんど語り手自身ではなく祖父やその周辺人物についてなので、又聞きの距離感から淡々とした雰囲気になる。
    しかし読み進めればかなりおもしろい。本と本が隣り合ったことで時々生まれる"幻書"を軸に、與次郎の一生――終生のライバル釈苦利や、愛妻ミキの話、ボルネオでの過酷な戦争体験、そしてその死に様まで――が延々と語られる。起伏の激しい人生そのものもさることながら、時折出てくる妙に説得力のあるたとえやリズムがどうにも可笑しくて、つい先へ先へと読んでしまう、といった感じ。
    「その独特の笑顔には、麩を喰いに上がってくる鯉がくしゃみしたような鼻ぺちゃ離れ目をひっくりかえしてジャラジャラお釣りが来るほどの愛嬌があった。」

    喚起されるイメージもなかなか豊かで、脳裏に浮かぶ白い象やら空飛ぶ本やらアヤシイおじさんやらといったものたちの鮮烈な印象が、語りの単調さを補って余りあるとも言える。
    「地球を飛び立ったエヴァニ達はその本棚に自ずから収まってゆく。背表紙を宇宙の外側へ向けて。」
    「質蔵の瓦屋根の上、六本の脚でがっしりと棟をまたぎ、白じらと映える翼をゆったりとはためかせる象が、冴えざえと立ちつくしていた。」

    本・知識にかかわる言葉もいい。
    「万巻の書物を前にして、途方に暮れる、という心境こそが短命無力な人間として本来的な姿勢であり、――結局、與次郎は書物と喰いつ喰われつの果てしない格闘を生涯にわたって継続することを選択した。」

    與次郎とミキの手紙のやり取りのところは、素直で温かく、ほっとする。
    いろんな感情が次から次へと押し寄せてくる一冊。
    タイトルは刺激的だが、内容の主眼ではない気もする。

  • 「本にだって雄と雌があります」(小田 雅久仁)を読んだ。

    半分くらいまでは最後まで読むべきかどうか迷いながらの読書であったため、ずいぶん時間がかかってしまった。
    
『はっきり言ってあまり好みじゃないな。
はしゃぎっぷりが痛々しく上滑りしていると思うのだよ。
「残月記」は面白かったし「禍」も面白そうなんだけどなぁ。
どうしようかなぁ。』
    
が、しかし、半分過ぎたあたりから急に物語が動き出す。
    
『これは本当の本好きが読むべき物語なのではなかろうか。
混乱がほどけていく過程が心地よいのだ。
小田 雅久仁さんにしてやられたなぁ』
    
と、感想が変わっていく。
    
最後に気になった一行を引く。
『否、きっと書物とは全て祈りなのであろう。』(本文より)

  • 本にだって雄と雌があって、人の目のないところでアレコレをするそうな。そうすると、空飛ぶ本が産まれるんだって!

    雄本と雌本がアレコレして産まれた幻書を蒐集する一族のお話。選ばれた人のみが死後もはるか南のボルネオにあるというラディナヘラ幻想図書館で、羽の生えた6本足の白象に乗り司書をするとな。

    軽快な調子の関西弁で語られており、文章が面白いです。ギャグというか漫才というか、下ネタというか…お腹いっぱいになりつつも、ラディナヘラ幻想図書館や幻書の設定を生み出す作者の想像力は凄い。本がまるで生き物みたいで、夜中に動いたり、飛んだりしてたら面白いだろうなぁ。登場人物も魅力的。

    サルトルの『嘔吐・壁』とエンデの『はてしない物語』からできた幻書が『はてしなく壁に嘔吐する物語』(←!!)うわー…。

    物語も終盤近く、航空機墜落事故の時、隣に乗り合わせた幼い姉弟を司書の力で助けた時に與次郎(つまり與次郎最期の時)が話したこと。
    「人間はな、死ぬとみんな一冊の本になって、遠くへ飛んでいくんやで」
    私自身が祖父に自伝を書いてほしいとせがみ、書いてもらった後で最期を看取ったことを思い出して、涙した。実家に帰ったとき、おじいちゃんの手記を読もう。

  • 壮大なファンタジー!
    最初は、読みにくくかつとっつきにくい、クドイ関西弁の語り口調もだんだん慣れてきて、読み終える頃には、
    もう終わってしまうのか、と名残惜しい気持ちにさせられる。

    圧倒的な描写力で、目の前に様々なシーンが流れていく、とても素敵なお話だった。

    ファンタジーなのに、戦争の残酷さ、けして繰り返されてはならない事故のこと、戦前戦後の日本に起こったこと、その深い悲しみと虚無感を感じずにはいられなかった。

    人は亡くなるとどこに行って何をしているんだろう、って誰もがきっと一度は考えて悩むことに、
    素敵な答えを返してくれる、心が温かくなる素敵な作品。

  • タイトルの引きの強さよ。
    加えて帯の「こんなにしあわせな気分になれる小説も珍しい。」というコメントに惹かれました。
    語り部の口調が軽妙で、ふざけていて、リズムだけで話してない?と思うほど語感がやけに良く、思わず脳内でツッコんだり。
    しかも、このふざけた文体で終始笑える感じかと思いきやグッとくる場面もある。
    独特な文体さえはまれば面白いと思う。

  • 壮大な嘘っぱちのファミリーストーリー!
    これは傑作。前半の行きつ戻りつ冗談交じり無駄話のような内容が、後半怒濤の展開に見事に生きてくる。
    どれほど時間をかけて練り込まれた文章と物語なのだろう。私は、夏目漱石やオルテガ、大岡昇平、ダンテなど数々の名著へのオマージュを感じたが、読む人の読書遍歴によっても印象は変わってくるかもしれない。本や人間への愛情がたっぷり詰まっている。

  • 基本、ジョークは苦手です。
    ジョーク連射のふざけた調子で話は進むんですが
    何故読めたかというと、苦手なジョークの比喩が
    すごいんですよ。この表現力ったら何なの?って感じ。
    本書は語り手の博が息子:恵太郎に充てたもので
    祖父母や両親や夫婦の話を通して、家族への思いや、
    ライバル?との本への欲望みたいなものを
    ファンタジックに幻想的に語っているのですよ。
    読み終わって、あぁ~繋がっているんだってわかったら
    鳥肌立ちましたぁ~
    ヤバい!これ、今年読んだ本の中で1番だわ。

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著者プロフィール

1974年生まれ、宮城県出身。小説家、ファンタジー作家。関西大学法学部政治学科卒業。2009年『増大派に告ぐ』で、第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、作家デビューした。2013年『本にだって雄と雌があります』で、第3回「Twitter文学賞国内部門」の第1位を獲得した。

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