渡りの足跡 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101253404

感想・レビュー・書評

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  • これまた素晴らしい一冊だった。日本のネイチャーライティングの到達点とあった。
    外部を、自然を探索することが、自らの内面を探る旅であるということが、渡り鳥の定位のメカニズムを通じて語られる。

  • 再読。梨木さんが渡り鳥を追いかけて綴ったエッセイ。カヌーに続き、梨木さんのパワフルな行動に驚かされた。たくさんの鳥の細やかな描写もすごいが、鳥を見つめる目がそのまま自分の内面に向かっていく道筋にも引き込まれる。私のぼんやりとした感想を解説の分析が隅々まで言語化してくれているので、これ以上書くことがない。

  • 渡り鳥の実態や飛ぶルートをより詳しく紹介して考察する本かと思ったら、そこは学術本ではないが故にタッチしないことにされているのか、はたまた明らかになっていないのか「〜なのだろうか」という投げかけに終始している。本当の鳥のドラマを知りたかったんだけどなあ(だからこそ『コースを違える』のA33の話は淡々としていながらも心に残った)。
    ご自身の著書含め他の本を引用して色々考察されていて、人の「渡り」という切り口は面白かったが、話があっちこっち飛んで、個人的にはあまり読みやすいタイプのエッセイではなかった。

    背表紙の「この鳥が話してくれたら、それはきっと人間に負けないぐらいの冒険譚になるに違いない」、この文は本の紹介としてはすごくワクワクした。

  •  やっぱ自分、梨木香歩、すきだな。
     このキリッとした文章。すっとした佇まい。柔らかで綺麗な表現。

     そして、こういう文章を読んで、あ、おんなじだ、って呟いた。
    <blockquote>こういう事態に追いやった責任の大部分が人間にあるにしても、その人間もまた nature の一部であるのだし、ならばその欲深さや浅はかさもまたその nature なのだから、この状況こそが、この時代この場所の「生態系」に他ならない。だが、なんとか環境の人為的な破壊を食い止めたいと試行錯誤する人々がその種の中に出ることもまた、自ら回復しようとする自然の底力の一つなのだろう。</blockquote>
     こういった感覚に共感できることが、自分が梨木さんの作品を好きな理由の一端であることは間違いないのだろうな、と思う。
     もちろん、何よりも惹かれるのは、その考え抜かれた、しかしどこまでも流麗である、研ぎ澄まされて美しい文章表現であることは間違いない。

  • 自分の庭に毎年来ているジョウビタキが、実はいつも同じ個体で、夏にはシベリアにいる、これを知ったときの感動、はい、わかります! 梨木香歩 著「渡りの足跡」、2013.3発行(文庫)です。「おつかれさま、よく来たね」心からそう思います(^-^)

  • 梨木さんの作品は植物の描写が素晴らしいので植物の造詣が深いのだろうなあと思ってましたが、鳥の知識もこれほどまでに豊富だとは知りませんでした。渡り鳥を見るために地方へ遠征までされていたのですね。観察者としての抑え気味の筆致の中に、時折擬人化していたりするあたりに鳥への深い愛情を感じます。私も、野山を歩くようになってもっと鳥のことを知りたいと思うようになり、動画サイトで検索してみたりもしてますが、まだまだ修行が足りないなあと実感しました。いつか、さらりと「〇〇の鳴き声だ」なんて言える人になりたいものです。

  • 私には、梨木香歩さんの文章について
    語れるほどの何も持ってはいない。

    それでもちょっぴり
    この本で分かったような気がすることを
    かいつまんで紹介してレビューとしたい。

    渡りの足跡を追う、梨木さんの立ち位置に
    背筋が伸びる思いがする。

    筆者は、種としての生きものを
    きちんと意識しつつ、しきりに「個体」と
    いう呼称を用いている。様々な鳥たちは
    彼女にとって、個々に向き合い、自分という
    人間の、生きものとしての品格を証明しようと
    試みる相手なのかもしれない。

    人もまた、渡る。
    知床開拓団の1人だったあや子さんの言葉や
    身振りを再現してみせる筆者の文章の、
    それはそれは饒舌なこと。あや子さんのことが
    好きでたまらないことが、梨木作品の愛読者には
    間違いなく伝わるだろう。

    人もまた、還る。
    そこでしか生きられないという消極的な選択
    ではなく、そこで生きるという確かで強いものを
    心に燃やして。そこがまったく見たこともない場所であっても、生きると決めた場所へ…人も鳥も
    還るのだ。

    そんなふうにして見たこともない知床で生きると
    決めた、あや子さんの言葉が大好きだ。

    …人間って、行ったとこで、
    生きていくなりのこと。

    梨木香歩さんの作品には、梨木さんと梨木さんと向き合ったたくさんの生きもの(もちろん人間も含む)の生命エネルギーがぎゅうぎゅうに詰め込まれていると思う。

    決まり切った言葉などで表現されてきた自然など
    忘れてしまえ! 誰にともなくそう叫びたい。

    季節感がどうだとか、閑静な趣きがどうだとか
    言う前に、人間の先入観や予定調和で満たされた
    心を解き放たなければ、私たちはいずれ、この
    自然の中で個体としてその命を燃やす力を
    失ってしまう。きっと。

  • 知床の開拓は失敗例だった、というイメージを行政はつくりあげ、手つかずの大自然を売りに国立公園化したが、その背景には泣く泣く畑を手放した住人がいた。

    戦時中、「ノーノーボーイ」だった日系アメリカ人。
    移住者のイメージと渡り鳥のイメージが重なる。

  • エッセイだった。
    渡り専門の鳥見が好きみたいです。
    鳥の、人の、と、渡りをテーマに書いてるのかしら。

    北海道にお嫁に来たおばあさんのところでは、なんだか納得いかない感動をされてると感じた。
    そこの住人からするとね。変な風に捉えられてるんだなぁと思った。

    本としては★3つなんだけど
    ヒヨドリをこけ落としてたのでマイナスにする。
    あんなかわいいのに・・・
    特にほっぺかわいいだろ!( ・ˇ_ˇ・)

  • これはノンフィクション。
    彼女が植物や鳥に造詣が深いことは知っていたけれど、渡り鳥を見るために何度も北海道を訪れていたとは知らなかった。
    サロマ湖や長都沼は知っているけれど、チミケップ湖なんて北海道に住んでいても聞いたこともなかった。

    とにかく彼女は自然が持つ力というものを絶対的に信じていて、人間が自然破壊をしたのも自然の意志かもしれないし、自然を回復しようとささやかながら努力することすらも自然の計算のうちかもしれない、と。
    ここまで来たら、もう、自分が信じる行動をとるしかないよね。

    太古の自然にもどすことは今さら不可能なのだから、無駄に自然を損なうことなどないように気を付けながら、文明の恩恵を享受するというのが、今のところの私のスタンスですが。

    自然の前では人間同士はもちろんのこと、人間とほかの生き物の存在は平等であり、風や海流は世界中で命の流れを繋ぐものであるとするならば、それらをぞんざいに扱うことなど当然してはいけないこと。
    けれど、ついそのことを忘れちゃうんだよね、私たち人間は。
    自分だけ良ければいいなんて思っちゃって。

    “太陽は、いくら礼を言っても足りないほどの、そう、神と言ってもいいほどの存在だったのだ。そのことは、私の日常からいつの間にか乖離していた。雨も、風も霧も、みな、必要とされ、過ぎれば脅威も与える。それが自分の生命を左右するものだという、その、生物として当たり前の感覚が、乖離していた。”

    どんな環境でも、そこが自分の居場所と思い定めている生物がいる。
    環境が変われば、それに合わせて自分を変えていく生物がいれば、自分の過ごしやすい場所を求めて移動する生物もいる。
    梨木香歩は前者を植物の中に、後者を渡り鳥の中に見ているが、人間にだってそういうところはあるのではないか、と、外国に移民した日本人や北海道を開拓した人たちに思いをはせる。

    自然の中にすっくと立って世の中を見る彼女の目は、ぶれない。
    だから私は、ぶれそうになるとき彼女の本を手に取るのだ。かくあらんとして。

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著者プロフィール

1959年生まれ。小説作品に『西の魔女が死んだ 梨木香歩作品集』『丹生都比売 梨木香歩作品集』『裏庭』『沼地のある森を抜けて』『家守綺譚』『冬虫夏草』『ピスタチオ』『海うそ』『f植物園の巣穴』『椿宿の辺りに』など。エッセイに『春になったら莓を摘みに』『水辺にて』『エストニア紀行』『鳥と雲と薬草袋』『やがて満ちてくる光の』など。他に『岸辺のヤービ』『ヤービの深い秋』がある。

「2020年 『風と双眼鏡、膝掛け毛布』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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