つめたいよるに (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (209ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101339139

感想・レビュー・書評

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  • ねぎを刻む話が確かあったなぁと、ふと思い出して手に取った。
    もう何度も読んだ短編集。

    お目当ての一編はタイトルはそのまま、一人暮らしのOLがねぎを刻むお話。

    今の自分と重なる。孤独でいるのを好んでそうしているのは自分なのに、どうしたって我慢ならない時がある。

    最近、なんとはなしに涙が出てきてびっくりしたことがあった。
    仕事が忙しくてストレスが溜まってた訳でもないし、泣ける映画を見てたわけでもない。
    自分で作ったカレーを食べながら、涙がこぼれたのだ。

    カレーが美味しくて、美味しいと思うのはそれが母の味に似てるからで、ふと実家が恋しくなって、涙が出た。

    それ以来、またそんな風に泣いてしまうのが怖くて、なにかと忙しいフリをする。

    前は、退屈なくらい時間を持て余して1人でいるのも平気だったのに。一生1人で生きていきたいとさえ思っていたのに。

    今度涙が出そうになったらねぎを刻んでみようかな。

    • 大野弘紀さん
      感想と言う名の、小説を読んでいるかのようです。
      感想と言う名の、小説を読んでいるかのようです。
      2020/07/05
  • 人を恋するということはえらいことですわなぁ。
    江國さんの描く様々な恋と、ちょっぴり摩訶不思議な仕掛けのある21編の短編集。
    好きなタイプの話が多く、優しい、懐かしい、切ない等様々な気持ちが次々に生まれる。
    『桃子』『草之丞の話』『鬼ばばあ』『晴れた空の下で』『ねぎを刻む』が印象的。

    一番心に残ったのは『デューク』。
    「それだけ言いにきたんだ」
    あの時あなたは優しくそう言った。
    けれど私にとっては「それだけ」なんかじゃない。
    あなたが私にくれたものは一言では言い尽くせない程の深い愛情。
    ほんの数頁の短編なのに物語の余韻がずっと頭から離れない。
    以前大学センター試験に出題され、涙をこらえられなかった受験生が続出したという『デューク』。
    こんな心を揺さぶる作品を出題するなんて、出題者なかなかやるじゃん。
    受験生と試験官泣かせの作品。
    読めて良かった。
    この先何度でも読み返していきたい一冊。

  • 人生で初めて購入した本で、人生で一番大切な一冊(かもしれない)。
    中学受験の国語の文章題で「子供たちの晩餐」を読んで、それから半年間そのお話が忘れられず、中学生の時大人になった気分でドキドキしながら書店の文庫コーナーに足を踏み入れた。
    「子供たちの晩餐」のお話の中で、ていねいに大切に育てられた子供たちがお母さんの料理をこっそり全部捨てて隠れてへそくりのカップ麺やお菓子を食べながら言った「ああ、身体に悪そう」という台詞、たったそれだけなのにすごくゾクっとしたし子供ながらにあの背徳感に満ち足りた表現に感動した
    「デューク」でごうごう泣く。あと「草之丞の話」「鬼ばばあ」は2,3ページでこんなにも、というほどに切ない気持ちになる。「南ヶ原団地A号棟」もなかなか秀逸で好き。
    きちんと江國香織を感じるけど、ほかの長編やエッセイほど江國ワールド全開じゃないから友達に勧めても一番読みやすいって言われることが多い、江國入門にふさわしい一冊だと思っている

  • 心が温まる、大好きな短編小説。
    しばらくすると読み返したくなる。

  • 江國香織の短編集。前に『きらきらひかる』を読んで感動したので、その流れで読んでみた。

    ・どれも10ページに満たないもので、ひとつひとつを読むのに時間はかからない。でも、短いのに切れ味が鋭い。短いだけに、細かな状況は語られず想像力を試される。それがいい。読み終わった後の余韻がすごい。

    ・作品によっては叙述トリック(?)みたいになっていて、1回目に読んで「なるほど!」となる。それから続いて読み返すと、より豊かにイメージが膨らむ。どれも短い話なので、何度も読み返すことができる。

    ・『デューク』という作品がとても面白いと教えてもらい、この本を買った。強くおすすめされた理由がわかった。

    ・老い、死、悲しみ、懐かしさ、恋愛、不倫などなど、バリエーションに富んでいて、色んな感情が刺激される。自分は老いや死を扱った作品が好き。不倫や微妙な感情入り混じる恋愛を扱ったものも面白かった。

    ・作品で言うと『デューク』、『鬼ばばあ』、『晴れた空の下で』、『藤島さんの来る日』辺りが特に好き。

    ------------------------------
    ざっと印象に残った作品をあげてみる。

    ■『デューク』
    ・この本の最初に収められている作品。たった8ページでこんな気分になれるのかと衝撃を受ける。

    ・2001年大学センター試験で、この作品の全文が出題されたようで、有名なのかもしれない。もし試験でこんなのが出てきたら、もし愛犬の死を経験していたら、試験どころじゃなくなってしまうんじゃないか??

    ・主人公は、愛犬の死に悲しむ女の子。名前すら出てこない。物語で描かれるのは、愛犬の死の翌日の朝〜夜までの1日だけ。

    ・最終ページの「そうだったのか感」がすごい。2回目に読む時は、少年とデュークの共通点を探してしまう。

    ■『夏の少し前』
    ・時間をスキップしているような、不思議な作品。しばらく前は学生だったのに、気付くと大人になっていて、おばあちゃんになっている。どこか切ない。

    ・社会人なら、どこか共感できるものがあるんじゃないかと思う。形のない、昔を懐かしむような、切ないような感情が刺激されてしまう。

    ・引用されている『いにしへの日は』もちゃんと読んでみたい。

    ■『鬼ばばあ』
    ・小学生の少年と、養老院のおばあさんの話。死がテーマに思う。

    ・おばあさんは認知症なのか、少年のことを忘れてしまう。

    ・今読むと、少年に感情移入してしまう。でも、もっと歳を取ってから読むと、おばあさんに感情移入してしまうのかもしれない。

    ■『いつか、ずっと昔』
    ・結婚式間近の二人が夜桜を見に来る。

    ・ヘビ、豚、貝の前世。不思議な話。抽象的なので、無意識のうちに意味を見出してしまう。

    ・『昔の私がどんな風だったとしても、私が好き?』というセリフで締められる。そこに至るまでの流れとこの言葉の意味を考える。

    ■『晴れた空の下で』
    ・おじいさんとおばあさんの話。

    ・『ご飯を食べるのに二時間もかかりよる。入れ歯のせいではない。食べることと生きることの、区別がようつかんようになったのだ。』という言葉で始まって、同じ言葉で終わる。最後まで読むと、なんとなく意味がわかる。絶対に2回読まないとだめだ。

    ■『さくらんぼパイ』
    ・離婚した二人の話。9歳の娘がいる。

    ・離婚しても、友達として元妻を気遣う。

    ・なぜこういう状況になったのか、何が悲しいのかといったことは直接的に描かれない。でも、母子家庭の辛さや苦悩が垣間見える。

    ■『藤島さんの来る日』
    ・語り手は、猫だった。それを知ってから2回目に読むと、一気に状況が理解でき、イメージが膨らむ。

    ・『彼らはまず寝室に行って運動し、運動がすむのは平均九時頃』というのが好き。笑ってしまう。確かに猫だとそう見えるよね。

    ■『南ヶ原団地A号棟』
    ・同じ団地に住む3人の小学生の作文が並んでいる形式の、シンプルな作品。

    ・隣の芝生は青い。

    ・作文の内容は、小学生の真剣な悩み。でも笑ってしまう。

    ■『冬の日、防衛庁にて』
    ・また不倫の話。交際相手の奥さんと昼食。

    ・相手はとても余裕がある。

  • 不朽の名作。
    「デューク」に始まり、草の丞の話など、この作者を好きになった素敵な小説短編集。

  • 小学生のときに母から借り、5回以上は読んだ本。
    なので内容は、ほとんど覚えている。

    …わけなんだが、子どものときに思ってたことと今とではやっぱり感じることが違う。

    年齢が移ろう度に様々な気持ちを引き出してくれる。
    だから読書は楽しい。だから読書はやめられない。

    以下、わたしの好きな短編集たち。

    『デューク』
    言わずと知れた名作。江國さんといったらこの作品。
    国語の教科書にも載ってたなぁ。
    “マジックアワー“という言葉をこの作品で初めて知った。

    『ラプンツェルたち』
    女子学生のワチャワチャ感が堪らない。
    自由奔放、点でバラバラな彼女たちだが不思議と仲の良さが伝わってくる。


    『子供たちの晩餐』
    子どもって時々とっても狡猾になるよね。
    ”スリルと罪悪感““胸の中で、梅ジャムとシュークリームがまざりあう”
    そんな表現されたら、嫌でもこちらもワクワクしちゃうじゃんか。

    『晴れた空の下で』
    若かれし頃を思い出し張り切っちゃうお父さんがかわいい。
    ここぞという時に「あーあ…」となっちゃうところもかわいい。かわいい通り越して愛おしい。

    『ねぎを刻む』
    孤独に苛まれ、ぐちゃぐちゃになりながらも自力で抜け出し立ち直る力をもっている女性ってタフだよね。


    『とくべつな早朝』
    “ピュア”という言葉がぴったりなんじゃないか。思わず微笑んでしまう。

  • 江國香織さんの短編は小粒でも魅惑的で美味しい高級チョコレート菓子を口にしたときのような満足感が味わえますね。不思議で、だけどどこか懐かしくて、切なくて、嬉しくて、寂しくて、暖かくて…ほんとうに一つ一つの物語が人生の悲喜こもごものいろんな瞬間を、命の儚さと尊さを味あわせてくれてとてもよかったです。うまい!と思わずうなってしまいました。「デューク」「子供たちの晩餐」「南ケ原団地A号棟」が特に大好き。クリスマスシーズンの今だからか1番最後の「とくべつな早朝」もとてもよかったです。図書館で借りて読んだのですが、手元に置きたい一冊になりました。

  • 読書好きになったきっかけのデュークは展開が分かってるのにいつ読んでも泣いてしまう。
    一つ一つの話が透明感があって好きすぎる。
    つめたいよるにしか江國さんの短編読んだ事ないけど、他のも読んでみたいなあ。

  • 「ふーん」と思いながらサクサク読んだが、各話のテイストが全く違っていて読んでいくうちに江國香織の圧倒的才能を感じた。

著者プロフィール

1964年、東京都生まれ。1987年「草之丞の話」で毎日新聞主催「小さな童話」大賞を受賞。2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、2004年『号泣する準備はできていた』で直木賞、2010年「真昼なのに昏い部屋」で中央公論文芸賞、2012年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、2015年に「ヤモリ、カエル、シジミチョウ」で谷崎潤一郎賞を受賞。

「2023年 『去年の雪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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