かもめ・ワーニャ伯父さん (新潮文庫)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102065020

感想・レビュー・書評

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  • ”かもめ”

    p23
    人も、ライオンも、鷲も、雷鳥も、角を生やした鹿も、鵞鳥も,蜘蛛も、水に住む無言の魚も、海に住むヒトデでも、人の眼に見えなかった微生物も、___つまりは一切の生き物、生きとし生けるものは、悲しい循環をおえて、消え失せた。・・・・もう、何世紀というもの、地球は一つとして生き物を乗せず、あの哀れな月だけが、むなしく灯火をともしている。今は、牧場に、寝ざめの鶴の啼く音も絶えた。菩提樹の林に、こがね虫の音ずれもない。

    p33
    ドールン:なんのために書くのか、それをちゃんと知っていなければならん。でなくて、一定の目当てもなしに、風景でも賞しながら道を歩いて行ったら、君は迷子になるし、われとわれが才能で身を滅ぼすことになる。

    p91
    ドールン:しかし、僕は、トレープレフ君を信じていますよ。何かがある!何かがね!あの人はイメージでもって思索する。だから小説が絵画的で、鮮明で、僕は強烈な感じを受けますね。ただ惜しむらくは、あの人には、はっきりきまった問題がない。印象を生みはするが、それ以上に出ない。なにせ印象だけじゅあ、大したことにはなりませんからね。

    p93
    トレープレフ:おれは口ぐせみたいに、新形式、新形式と言ってきたが、今じゃそろそろ自分が、古い型へ落ちこんでゆくような気がする。(中略)そう、おれはだんだんわかりかけてきたが、問題は形式が古いの新しいのということじゃなくて、形式なんか念頭におかずに人間が書く、それなんだ。魂のなかから自由に流れ出すからこそ書く、ということなんだ。

    解説:p199
    第一幕で展開される青年トレープレフの書いた奇妙な劇中劇は、十九世紀末にはやったデカダン芸術のパロディと言われるが、現実の人生を素っ飛ばしていきなり二十万年後の冷えきった宇宙のことを考える飛躍的な思索の仕方について、チェーホフは以前に書いた小説『ともしび』(一八八八年)のなかで年輩の技師にこんなことを語らせている。すなわち、数千年、数万年後の世界に思いを馳せて現在の生のはかなさ、うつし世の無常を思う<空の空>といった思想は、人間の叡智の到達する最高かつ究極の段階であるけれども、それは同時に思索の停止する極点であり、人生老年に至ってはじめて持つべき思想である、青年がいたずらにそういう思索にふけると、豊かな色彩を持つ長い人生が無意味に思われてくる、と。劇中のトレープレフはそういう不幸な青年として描かれている。そうして冒頭の劇中劇はそういう思想を表していて青年のその後の運命を予知している。青年は現世的なあまりにも現世的な名声を追うニーナとは結局、異質な人間であり、終幕にいたってニーナが忍耐の必要を悟った時にも、人生の過程を堪え忍ぶ忍耐を彼は信じきれずに自殺するのである。


    ”ワーニャ伯父さん”

    p141
    アーストロフ:百姓連中ときたら、じつに単調で、無知蒙昧で、不潔きわまる暮らしをしているし、インテリ連中はどうかというと、これまた、どうも反りが合わない。頭が痛くなるんですよ。つきあい仲間のインテリ連中は、誰も彼も、料簡は狭いし、感じ方は浅いし、目さきのことしか何も見えない___つまり、どだいもうばかなんです。一方、少しは利口で骨のある手合いは、ヒステリーで、分析きちがいで、反省反省で、骨身をけずられています。・・・・そうした手合いは、愚痴をこぼす、人間嫌いを標榜する、病的なほど人の悪口をいう、人に近づくにも横合いから寄っていって、じろりと横目で睨んで「ああ、こいつは気ちがいだよ」とか、「こいつは法螺吹きだよ」とか決めてしまう。相手の額に、どんなレッテルを貼っていいかわからなくなると、「こいつは妙なやつだ」と言う。私が森が好きならこれも変てこ。私が肉を食べないと、これもやっぱり変てこ。いや、今日ではもう、自然や人間に向って、じかに、純粋に、自由に接しようとする態度なんか、薬にしたくもありはしません。・・・・あるものですか!

    p158
    アーストロフ:・・・ところで、なぜそんなふうに悪くなったか、と考えてみると、つまりそれは、力にあまる生存競争の結果なのです。・・・言い換えると、無気力と無知と、徹底的な無自覚とが、今日このような情勢の悪化を招いたそもそもの原因なので、つまり飢え凍え、病みほうけた人びとが、なんとか露命をつなぎ、子供を守ってゆくために、いやしくも飢えをしのぎ、身を暖めるたしになるものなら、わっとばかり飛びついて、明日のことなどは考えもせずに、すっかり荒らしてしまったわけなのです。・・・今ではもう、ほとんど完全にぶち壊してしまったのですが、その代わりに創り出したものは、まだ何ひとつないのです。

  • 桜の園が収められた文庫を読んだ時分は戯曲をまるっきり読んだことのないせいか、ただロシアの灰色の土を想像するだけにとどまったものだけど、ようやく数作読んだあとでは、説明の前に感動がやってきて屋敷の内側に配置されたベンチや革の黒々としたつやを逐一楽しむことが出来た。
    しかし本作とツルゲーネフのはつ恋を読んだ印象を言い比べてみろ、と言われれば黙ってしまう。両作とも星は満点の評価をするし、感動が胸をゆすって自然に感動したあとのように放心する点では一緒だからである。
    そしてタレに説明するために筋を言っても駄目なことは一番僕自身で理解している。なんといえばいいのか。

  • 080503(m 091108)

  • とりあえず、最高の小説だと思う!
    優しい小説だ。

  •  

  • 映画版を観た後に読んだからか、内容がすんなり入ってきた。
    もし映画を観ていなかったらひょっとしたら理解しにくかったかなとも思うけれどどうなのだろう。
    でも印象的でした。

  • ペンネームの元になった登場人物が出てくる作品です。
    ひたすらふわふわしてるのに何だか緊張する妙な世界が好きです。

  • 舞台の予習用。

  • アーストロフを後ろから抱きしめてあげたい。

  • 最後のあたりのワーニャ伯父さんとソーニャの台詞に心が打たれた。

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著者プロフィール

一八六〇年、ロシア生まれ。モスクワ大学医学部を卒業し医師となる。一九〇四年、療養中のドイツで死去するまで、四四年の短い生涯に、数多くの名作を残す。若い頃、ユーモア短篇「ユモレスカ」を多く手がけた。代表作に、戯曲『かもめ』、『三人姉妹』、『ワーニャ伯父さん』、『桜の園』、小説『退屈な話』『六号病棟』『かわいい女』『犬を連れた奥さん』、ノンフィクション『サハリン島』など。

「2022年 『狩場の悲劇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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