- Amazon.co.jp ・本 (394ページ)
- / ISBN・EAN: 9784102074015
感想・レビュー・書評
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こういう理系の評論めいたものを読むのは初めて。(理系なのに…!)
一冊を通してずっと「農薬など人間のエゴによる発明品がいかに自然に悪影響を及ぼすか」ということを書いているから、たまに退屈に感じる時もあったけど、興味深い話も多かった。
特にX線や放射線を照射されると、なぜがん細胞ができるのか?という話や、農薬などを使わずに害虫を防除する方法などはすごく面白かった。
X線でできるがん細胞というのは、照射によって細胞への酸素の供給が阻害され、クエン酸回路が回らず、ATP生成ができないため仕方なく原始的な代謝手段である解糖を細胞質基質で行うようになったものらしい。本来の方法でエネルギーを生産できないため、様々な不都合が生じて結局これががん細胞になるらしい…これだけで面白い…!
理系、特に生物を高校・大学で詳しくやった人には是非読んで欲しい一冊…! -
とても有名な本。科学読み物としてもめちゃくちゃ面白いし、そのへんのホラー映画を観るよりも確実に面白かったです。
読んだきっかけは『&プレミアム』読書別冊号にカーソンの『センスオブワンダー』が載っていたこと。実家の本棚にあった『沈黙の春』を引っ張り出してきた。
だいたい高校生以上ぐらいの推薦図書としてよく挙げられています。有機化学や窒素固定や根粒菌の話などがあるので、高校生からの方がより興味が持てて面白いと思う。私の脳内では石牟礼道子の『苦界浄土』や、有吉佐和子の『複合汚染』と同じフォルダに入っている。中学生の頃、学校の図書館に『複合汚染』の下巻しか置いてなかった……という思い出が。『沈黙の春』を知ったのはもっとずっと後。
「DDTをはじめ有機化学合成された殺虫剤や除草剤の危険性を訴えた本」云々とよく評されるけど、私の捉え方だとちょっと違って、もっと根深い問題を感じる。
読んでいくと、この本のデータが取られたのは50年代初頭、51〜3年頃からのものが多いことに気づいた。映画のレビューでもよく書きますが、当時のアメリカは無茶苦茶だった。この本を読んでた頃、100分de名著でブラッドベリの『華氏451度』(1953年)をちょうど放映していて、執筆された当時の時代背景がしっかりと解説されていました。
化学と農業の関係で私が知ってるのは、ハーバーボッシュ法のフリッツハーバー。(説明が難しいけど、有機肥料と有機合成の殺虫剤や除草剤は意味が異なるのに注意。化学肥料はほとんどが無機肥料)ハーバーボッシュ法は多くの人を飢餓から救ったけど、同時に火薬に転用される技術だったし、ハーバーはその後毒ガスという、効率的に人間を殺傷する兵器を開発した。無機、有機ともに化学と戦争の縁は切っても切れない。
カーソンも書いているけど、有機合成された殺虫剤を使用した結果、広範囲の人体実験をしたのと同じことになったと思う。これで思いつくのは、広島長崎の原爆であり、同様に当時のアメリカでは国内の砂漠地帯で水爆の実験をしていたこと。砂漠以外でも、有名なのがビキニ環礁での第五福竜丸事件(1954年)。
『華氏451度』のブラッドベリ原作の映画が1953年の『原子怪獣現る』。原作では怪獣が出現したのは核実験が原因ではなく、映画版で追加された要素だそうだけど、当時の雰囲気が伝わってくる。言うまでもなく、この映画と第五福竜丸事件の影響で作られたのが1954年の『ゴジラ』。
カーソンがこの本で書いたのち、米軍はベトナム戦争で枯葉剤のTCDDを使い、奇形児が生まれ、帰還兵も含めて健康被害を受けた。
核兵器、細菌やウィルスなどの生物兵器、毒ガスなどの化学兵器。これらABC兵器に共通する恐ろしさは、「目に見えないこと」だと思う。これは、震災からの原発事故や、現在のコロナ禍で我々が直接体験している恐怖なので、想像に難くない。環境問題だとマイクロプラスチックなんかも同様だと思う。
話を『沈黙の春』に戻して。
有機合成された殺虫剤や除草剤が使われた根源的な理由は、行き過ぎた資本主義だと思う。効率や利便性、経済成長の追求。公害問題の根っこは基本的に同じ。これのさらに根源的な理由を考えると、人間の欲望の結果であって、脳が、ドーパミンが……と脳科学の話にまで行き着いてしまう。
あと、どう考えても殺虫剤が原因なのにそれをすぐにやめられないのは、アメリカが訴訟大国だからなのかなと。非があることを認めちゃうと賠償しないといけなくなる。原爆についても同様。それと、サンクコスト効果(コンコルド効果)とか……。
この本を読むと絶望的な気持ちになってしまうが、最後にカーソンがきちんと解決策を提示しているのがよい。しかし、あとがきにも書かれているように、解決策にしても人間が環境に手を加えることに変わりはないので、結局はイタチごっこになる可能性も高い。
(新型コロナの発生源と言われてるのが、ウィルス研究所からの流出説を除くと、コウモリ由来だそうで。結局は人間が自然環境に干渉したり生息環境に踏み込んだりした結果。と、switchインタビューで五箇公一先生が言っておられました。タイムリーな番組。あと、五箇先生の趣味は怪獣のソフビ集め。笑)
人間目線で読むと絶望的な気分にしかならないので、途中から駆除される側の昆虫、魚や鳥など地球目線で読むことにした。「自然たちよ、環境をナメきった人間どもに逆襲せよ!!」と。『エイリアン2』で、エイリアンにやられる海兵隊を見てザマァとなるのとまったく同じ。
たしか香川さんの『昆虫すごいぜ!』で知ったけど、昆虫などは世代交代が早いので、驚異的なスピードで進化し、環境に適応する。人間は2〜30年で子供を産み、6〜80年ほどで死ぬから、進化が追いつくはずがない。
この本でも、殺虫剤を使っても虫たちは耐性がついてしまって、人間は結局自分で自分の首を絞めるだけ。
有機化学のみならず、経済や脳科学など、色んな問題が複雑に絡み合っている。この本が出版された頃よりも、科学技術は飛躍的に進んだ。地球環境は悪くなる一方だけど、人類に叡智があるなら、少しずつでも解決できないか。我々一市民にもできることはあるはず。課題図書というより、人類の課題そのもの。
読書は、人間の考え方に影響を及ぼす。カーソンのこの本はケネディが読み、アメリカ政府を動かした。そんな力がある。
注:とはいえ60年以上前の本なので、現在の定説だと間違っている点もあるかも。全てを鵜呑みにせずに、思考の手助けにするのが大切。 -
人間のエゴによる無差別テロとも呼ぶべき環境破壊活動を赤裸々にした名著。生物・植物と環境を切り離して論じてはいけないことを、この時代に発信した先見性にただただ頭が下がる。改めて出所の分からないものの見極めと、成分の分からないものを口に入れないなど、情報リテラシーと判断基準の質的向上が必要なのだと実感できた。
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今さらながら。
化学薬品の恐ろしさ。
マメコガネ駆除に、乳化病の胞子を使うやり方はいいよね。
初期投資かかっても、どうしてそうしないんだろう。
殺虫剤は手軽だけど刹那的。
ほかの生態系にも影響するのに。
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・カーソンのいう、"より危険度の低い農薬を使うべき"は、多農薬農法の必然性をみるに、そうそう容易ではないし、"天敵の利用"もまた生態系破壊に変わりはなく、何らかの形で同様の困難が待ち受けるはず。
・カーソン執筆時には、このような対策がまだ実現の望みあるものと期待されていた。それから10年余り経ち、事態の一層の困難を明らかにしてきている。気休めでない解決策は、依然暗中模索のさなかにある。
(2022.2.13読了) -
本書は、米国の生物学者レイチェル・カーソン(1907~64年)が1962年に発表し、DDTをはじめとする農薬などの危険性を、鳥たちが鳴かなくなった「沈黙の春」という象徴的出来事を通して訴えた作品『Silent Spring』の全訳である。日本語訳は、1964年に『生と死の妙薬―自然均衡の破壊者<科学薬品>』という題名で出版され、1974年に原題をそのまま訳した『沈黙の春』として文庫化された。
世界で初めて環境問題に目を向けさせたその思想は、人類の歴史を変えたものと言われ、カーソン女史は、米国誌「TIMES」が1999年に発表した「20世紀に最も影響力のあった偉大な知性」20組24人に、ライト兄弟、アインシュタイン、フロイト、天文学者ハッブル、DNAの二重らせんモデルのワトソンとクリックらとともに選ばれている。
また、本書は、米国の歴史家R.B.ダウンズが1978年に発表した「世界を変えた本」27冊に、『聖書』、ダーウィンの『進化論』、マルクスの『資本論』などとともに取り上げられている。
本書によって農薬の残留性や生物濃縮がもたらす生態系への影響が公にされ、それにより、米国はじめ各国において農薬の基準値が設けられるなど、環境保護運動が世界中に及ぶことになったが、本書発表から半世紀の間にも、人間の文明は進歩し(それ自体は良いことのはずなのだが)、そのために、生態系の破壊に限らず、地球温暖化や(バイオテクノロジーによる)生命への挑戦など、当時は想像すらしなかった新たな問題を生んでいる。
60年前に発表された本書の内容自体は、今となっては広く知られたことであるし、また、一部には後に疑問符が付けられた部分もあるのだが、今我々が本書から学ぶべきは、一部の人間しか疑問を持たなかったことに正面から取り組み、それを明らかにし、その問題を世に問うたカーソン女史の姿勢なのだと思う。 -
農薬や殺虫剤の悪い面は書かれているけど、反対のいい面については一言も触れていない。物事はどちらの面もみないといけないのでこの本を読んで無農薬信者にはしるのは危険だと思う。
https://cigs.canon/article/20...
https://cigs.canon/article/20220510_6742.html