ジゴロとジゴレット: モーム傑作選 (新潮文庫)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (361ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102130285

作品紹介・あらすじ

避暑地でダイエット中の中年女性たちの前にスレンダーな女性が現れて巻き起こる痴話喧嘩。結核療養所での患者同士の結婚式。占領軍のドイツ兵の子を身ごもったフランス人女性の気丈。政治家が精神科医に告白する屈辱的な幻視。ホテルで危険な芸をみせて生計を立てる夫婦の悲哀。ヨーロッパを舞台に、味わいと企みと機知とユーモアに彩られた大人の嗜みの極致八篇を新訳で愉しむ。

感想・レビュー・書評

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  • モームは短編の名手と呼ばれているようだが、なるほど、この短編集はどれも本当に面白い。長編同様、短編に関しても癖のない文体で非常に読みやすかった。そして何より、ストーリーがよく練られているところが作品の完成度を高めているような気がする。

  • キレッキレのモーム短編集、どの物語もあっという間に引きずり込まれる。

    客観的に登場人物たちを観察する文章(わざわざその役目を担う人物を登場させる場合もある)、そうして物語を築く。
    「狂」が心に巣作るようす
    「知」という曖昧さ
    「恐」が高まり積み上げていくようす
    「死」に向き合うことの難しさを……

    読み手の心の動きまで操る
    それでいて軽妙で読後は心地よい。

    モームは良いですねー

  • これすごい良いですよ。『月と六ペンス』のモームのイメージは吹き飛びました。簡潔で、すごく読みやすいし、物語が転がり始めると一気に吸い込まれて、気がつくと結末、スカッとする読後感。おお、こんなこと出来んねや。やるやんモーム。
    人間という生き物の、一言では表せないおもしろさ、ややこしさ、めんどくささみたいなものたちを、短編でうまいことまとめるなあという感じ。ふりかけ程度のユーモアが効いてて、なんかちょっと、良い読書してる気がする。「アンティーブの三人の太った女」とか最高。一言で言うと、何が女子会だよ可愛い子ぶりやがって、みたいな。ちなみにこのふりかけは人情味「サナトリウム」、ホラー味「マウンドドラーゴ卿」とかもあります。

    だが、小池はふと、モーパッサンが読みたいなと思った。

  • 面白かった!
    笑えたのは『アンティローブの三人の太った女』。みんなキャラが濃い!
    『キジバトのような声』『ジェイン』を読んでいると、一人の人間も角度や切り口によって全然違う人物のように見えるんだなと感じます。みんな見たいように相手を見るし、相手との関係性で人物像も変わったりする。
    『サナトリウム』はユーモアやウィットや皮肉に溢れたこの短編集の中で唯一、とても優しくハッピーなエンディング。思わず涙が出ました。
    『ジゴロとジゴレット』は最後「えっ⁉︎」となる展開で、これを最後に持ってきた金原さんや編集者さんはうまいなーと思いました。取り乱して夫のシドを困惑の極みに追いやっておきながら、最後は自分1人で気持ちを立て直して前を向くステラ。そのスピードに更に困惑するシドとのコントラストが痛快でした。女は強い。

    モームの小説は本当にストーリーそのものが面白いのですが、登場人物の造形描写の豊かさが実に際立っていて、読みながらキャラクターがありありとイメージできます。これは短編集なので、一冊を通してたくさんのキャラクターが出てくるし、一編一編のお話は短いから各キャラクターの登場時間(?)も短いのだけれど、それぞれに強い印象が残ります。
    金原瑞人さんの翻訳もとても読みやすいです。上等な小説を豊かな翻訳で読める贅沢。日本に生まれてよかった。

  • 初読

    ひゃーもうめっちゃ面白い
    軽めの読み物、としてのモームの短編の良質さよ!

    「アンティーブの3人の太った女」
    の現代感。これ金原瑞人氏の翻訳も凄く良いよね。
    月と六ペンスの新訳版も買おうかなぁ…

    1番好きなのは「キジバトのような声」
    これ、原題が「the voice of the turtle」で何故キジバト?
    と思ったのだけどわからなかった。
    ググってみたら初演が1943年のジョン・バン・ドルートンによる戯曲、とあったのだけど??

    ま、ともかく、このラスト、
    「だが、わたしは物わかりのいい人間より、ちょっと面倒な人間の方が好きなのだ。
    彼女はいうまでもなくいやな女だが、あらがいがたい魅力があるのは間違いない」

    がこの短編集に相通づる、
    人間に対して冷静でシニカルでちょっとからかうような眼で見て
    それを興味深く楽しんでいるような。

    人間って面白いよね。

  • 20世紀イギリスの小説家サマセット・モーム(1874-1965)の短篇集。ストーリー展開(筋や、ときにはオチ)が巧みで、物語それ自体としての面白さを味わうことのできる作品が多い。やはり短篇の名手と云われているモーパッサンの作品に通じるところがある。

    他者に対する嫉妬・見栄・虚栄心・自己優越感情、そしてそれらを自分自身に対して意識的無意識的にごまかそうとする自己欺瞞。一見文学の主題にはそぐわないかのような、日常的で卑俗なつまらない感情の運動、そして卑近過ぎるがゆえに却って意識化されることなく素通りしてしまいがちな心の些末な動き。そういった微細な襞々に分け入っていく心理分析が巧い。モームは、普通の人生のありきたりな悲喜交々を、面白くまた意外性のある物語にして掬い取る。

    「アンティーブの三人の太った女」は、三人の女たちの実に俗っぽい心理描写がとにかく愉快な傑作。まるでコントを観ているよう。この一作に出会えたことだけでも、この短篇集を手にとった甲斐があった。その他「ジェイン」「良心の問題」「ジゴロとジゴレット」「サナトリウム」など、物語がテンポよく展開しており、読んでいて楽しかった。「征服されざる者」で、ドイツ兵士とフランス女の感情が全く交わりようのない別次元の平行線のように描かれているのが凄まじかった。

    「ヘンリー・チェスターが、あきらめてこの災厄に耐えようと考えられないのはしかたがない。みんながみんな、芸術や思想に慰めをみいだすことができるわけではないのだから。現代の悲劇は、そういう一般の人々が、希望を与えてくれる神への信仰を失い、この世で手に入れられなかった幸福をもたらしてくれる復活を信じられなくなったことにある。そして信仰に代わるものをみつけることもできないでいる」(「サナトリウム」)

  • いつものようにBBの本屋を一巡り

    あらら!

    大好きなモーム先生の短編の新訳が新潮文庫で
    出ているではないの!
    で、お買い上げ~

    この翻訳をした人(金原瑞人さん)が
    以前雑誌で何かの特集で読んで

    「なんだか虫の好かない人だわ…」と思っていたので
    少々警戒しながら読み始めたのですが、

    会話文がとても自然で、
    まるで現代の話の様にするすると自然に読めた。

    まあ、私は特に昔の小説の翻訳にあるような
    『本の中でしかない言葉遣い』が大好きで
    その為もあって読んでるような人だから
    ちょっと物足りなさはあるのだけれど、
    でもこれは本当に個人的な問題。

    さて、この中の
    「キジバトのような声」

    語り手(モームさんの分身?)はご近所友達の
    プリマドンナの女性を、その題材の小説を書きたがっている
    駆け出しの小説家に紹介する。

    この語り手が冷静に辛辣に人を見ている感じが
    愉快で仕方がない!

    あの「劇場」にも通じる
    『本当はこんな風!』と言う
    種明かしと言うと変だけれど、
    そんな様な面白さがある。

    また、流れ的にこうなって欲しい人がいるのに
    そうはならない、『ジェイン』や
    ある殺人犯の告白、残酷だけどユーモアを感じる『良心の問題』など、

    モームさんの落ち着いた毒舌と皮肉と面白味を
    十分に感じることのできる短編集。

    そしてそれでも私はやっぱり、行方先生の翻訳(岩波版)で
    ちょっと読み比べを…。

  • モームの物語は、掛け値なしに面白い。
    奇をてらう展開があるわけでもない、設定が突飛なわけでもない。
    なんとなく実際にありそうなシチュエーションを舞台に、人間の個性や本質をとても興味深くあぶり出す。

    8つの短編が収められた本書、「モーム傑作選」と銘打っているだけあってどれも面白い。とりわけ、サナトリウムで過ごすことになった主人公がそこで起こる様々な人間模様を描いた「サナトリウム」や太った3人の仲良し女性の仲間内に、ある日痩せた女性が一人入ったことによって生じる葛藤と、友情が崩れていくさまを面白おかしく描いた「アンティーブの三人の太った女」は、いわゆる"雨降って地固まる"系のしっとりと心地よい読後感を残してくれて好きだった。

    その他の作品も読みやすくしっかりと面白いので、広くお勧めしたい作品。

  • <人間、欠けたところがあって間違っているのが上等だ>


     思わず断面に見入ってしまいました。名作・名文を繰り出す作家というのは、圧倒的に短編のキレ味✧が鮮やかなのです。また、名刀を惜しまず、テーマ問わずサッと斬ってみせるような調子が、モームおじさんらしさなのかもしれません。
     それぞれ趣の異なる8つの短篇には、いずれも名人芸の閃きが宿っています☆ ニヤニヤしながらめくりたいお戯れ小話もあれば、人生の機微や人情の襞へとディープに分け入ってゆくドラマもあり、生命にかかわる深刻な事件事故も起き、「うっ」と凍りついてしまうような顛末もある。そのどれもが人間心理を突いてきます★

     しかし、短編集ってレビュー・感想をまとめるのが難しい。一作ずつがそれぞれ凄い短編たちなので、一冊で一括りに感想を言うのも土台無理な相談ですが……
     う~ん、そうだなぁ。他人に対する好奇心が、本書を貫く共通点と言えるかもしれません。

     知的好奇心とは限らず、ときとして俗な方向に働くケースもあるものです。しかし、著者モームは、そうと分かっていても、人間の愚かさを見捨てずに拾い上げるところがある。それどころか、モーム描く人間は、人としてできてないのが魅力的なのです★
     真面目な作品は息を止めて読むほどの凄みを帯びていますが、ここでは安くさい作品こそが秀逸だったと言いたい。
     くだらないおしゃべりが止まんないような、ダイエットに大失敗したり仲間の幸せを妬んだりするような女たちも、モームの手にかかると、たちまちチャーミングな存在へと変わります。BBAの扱いがうまいのです(笑)。だいぶ「痛い」こともありますが、最終的には「しょうがないけど愛せるわ」というところに着地する作品がほとんどです★

     およそ人間ほどくだらない動物は、金輪際、地球上に現れないでしょう。読了後、自分は確実におかしくなりました。人間、欠けたところがあって間違っているのが上等だと思えてきて、困ります。

  • お、おもしろ〜。O・ヘンリーばりにハートウォーミングだったり(サナトリウム)、「世にも奇妙な〜」にありそうな話だったり(マウントドラーゴ卿)、緊張感と嫌悪感がすさまじく、読みながらキツ…となるような話だったり(征服されざる者)、カラーは色々だけど全て夢中で読んでしまう。そして、全体的に作者が「ものわかりのいい人間より、ちょっと面倒な人間の方が好きなのだ」(キジバトのような声より)なあというのがよく伝わってくる人間描写。面倒な人間を茶化しつつ愛情を持って描いているように思う。
    通俗作家と評する向きもあるようだけど、面白いことはよいことだ。引き続き他の著作も読むぞ。

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