半席

著者 :
  • 新潮社
3.54
  • (16)
  • (42)
  • (45)
  • (9)
  • (2)
本棚登録 : 266
感想 : 53
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103342335

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 目次
    ・半席
    ・真桑瓜
    ・六代目中村庄蔵
    ・蓼を喰う
    ・見抜く者
    ・役替え

    これは良い本にあたりました。
    徒目付として、日々仕事に励む片岡直人には、御家人から旗本への出世を目指さねばならない理由があった。

    彼の父は一度旗本に上り詰めたのだが、死後片岡家は再び御家人へ戻る。
    旗本としてついた役の次にまた同程度の役職につかないと、子どもも旗本と認められる永々御目見以上とはならず、一代限りの旗本ということになるのだ。
    それを「半席」という。

    父の死後無役の御家人からスタートした直人は、いずれ生れる自分の息子にはそんな苦労をさせないよう、旗本になれる役職を目指して日々仕事に励んでいた。

    ところが上役が持ってきた仕事は、公の仕事ではなく、個人的に頼まれた仕事。
    犯人は捕まり自白もしているが、なぜ事件を起こしたのかを口にしようとしない。
    自白があればそれで公に事件は解決なのだが、被害者はそれでは納得できない。

    本業の成績を落とさないよう、手早く解決しようとする直人だが、次第に武士として生きることの意味について考え始める。

    決して名のある武士ではない。
    しかし、市井に生きる侍にも、矜持はある。
    心の奥に隠してきた小さなしこりが、耐えられなくなった瞬間ひき起される事件。

    事件はどれも、些細な出来事がきっかけなのだが、それは被害者にも加害者にも痛みを与え得るものだった。
    そう、加害者も痛いのよ。

    直人が行き詰るとふらりと現れ、なにがしかのヒントを与えていく沢田源内という男がいる。
    ちょっとご都合主義のようにも思われる登場だけど、その素性は明らかにされないまま退場してしまったのが残念。

  • 歳を重ね、分別ある侍たちが、なぜ武家の一線を越えたのか。
    旗本に出世をすべく努力している若き主人公が
    上司からの「頼まれ仕事」で考え方が変わってゆく。

    彼らは「何故」事件を起こしてしまったのか。
    心に固く秘めた本当の理由はなんなのか

    ある意味「江戸時代のお仕事小説」

  • 事件の背景にある『なぜ』を読み解く。心理描写が秀逸。時代小説を読み慣れておらず、情景描写は理解しづらいところもあったが、面白かった。

  • 非常におもしろかった『泳ぐ者』の前作で、連続6話。
    1話目が『約定』所収で、他は2014〜16年の「小説新潮」

    徒目付を扱った小説は読んだことがなかったが、軍事政権である江戸幕府を、平和な世になってから支えたのが、勘定所(財政)と目付(検察と会計検査)なのだという。そこには2種類の人間がいて、何でもこなす表の御用を見込まれて、裏の「頼まれ御用」で稼ぐ者。そしてもう片方が主人公片岡直人のように上を目指すための梯子と考えて必死で表の御用だけを務める者。

    片岡は無役の小普請から抜け出し、父が一度だけ旗本格の役職に付いたことで「半席」となっている片岡家を永続の旗本にしようとさらに勘定所を目指していた後者なのだが、そのどちらでもない上役の内藤から渡される「頼まれ御用」を断り切れない。それはすでに罪を認めているが動機を語らない犯人から「なぜ」を聞き出すことだった。

    89歳で現役だった台所頭が水死したのは、銘刀を売って買った特殊な釣竿をめぐって72歳の養子と喧嘩し、放り投げた竿を拾うためだったと、養子から聞き出せたが、翌日養子は同じ場所で水死した。

    80歳以上で現役の幕臣の例会で、仲が良かった当日の主催者に切りつけたのは、昔疱瘡に罹った息子が希望した真桑瓜を食べさせたが命を落とした。相談して大丈夫だと言った友を恨む気持ちを押さえてきたが、例会で真桑瓜が出されたので、友は何も負い目を感じてこなかったと知った、というのが動機だった。

    一年契約で家臣として雇われた農村出身の男が20年以上も実直に働いたものの、病気で辞めたものの行き場がなく元の主家を頼ったが当主を突き落として絶命させ、最も重い鋸引きの刑が決まったのだが、親しんでいた主家の家族の依頼で動機を探ると、代々雇われ家臣に付けられるかつての自分の名前を新参の者が名乗ったからだという。

    隠密御用の老人が家の外で近所の当主に切りつけたのは、隠密御用を果たせていないのに下水掃除の割り当てを免除されていた引け目から、水害の多い大川の向こうで育って熱心にドブさらいをしていた男を逆恨みしたものだった。

    人間は本当に些細なことで箍が外れてしまう。「見抜く者」としてあまりに人臭い裏の御用の魅力に、片岡は出世の道へ進まなくなる。

  • 短編六作、最後の落としどころが良かった。

  • 周五郎の赤ひげを思いながら読んだ。時代小説は時代に連れてなのだなと。

  • 【収録作品】半席/真桑瓜/六代目中村庄蔵/蓼を喰う/見抜く者/役替え

  • 2016/12/23読了

  • 2014年8月新潮社刊の「約定」の収録分と小説新潮2014年10月号、2015年4、7、10月号、2016年1月号掲載の6篇を改稿して、2016年5月新潮社から刊行。事件の動機を探る武家社会の推理もの的な話が面白い。片岡直人と上司の雅之の人物像も楽しめる。続きが楽しみです。

全53件中 41 - 50件を表示

著者プロフィール

作家

「2022年 『ベスト・エッセイ2022』 で使われていた紹介文から引用しています。」

青山文平の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×