- Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103525318
作品紹介・あらすじ
私たちは、かなしみを乗り越えるために〝家族〞になった――。関東大震災で最愛の妹を喪った八重は、妹の婚約者だった竹井と結婚したが、最新式の住居にも、新しい夫にも、上手く馴染めない――昭和と共に誕生し、その終焉と共に解体された同潤会代官山アパート。そこに暮らす一家の歳月を通して、時代の激流に翻弄されても決して失われない《魂の拠り所》を描く。今こそ見つめ直したい家族の原風景。
感想・レビュー・書評
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またまたフォローしている方々のレビューを読んで興味を持った作品。
「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズの作家さんだが、こちらはアパートを舞台にした四世代の家族の物語。
連作なので話毎に主人公は変わるが、全体としての主人公は八重だろう。
関東大震災で妹を亡くし、その妹の婚約者と結婚するという展開はギョッとしたが当時はそう珍しいことでもなかっただろうし、決して安易な婚姻ではなくきちんと気持ちが通じ合ってのことなので安心出来る。
建てられた当時は最先端のコンクリート造りでモダンなアパートだっただろうが、木造平屋でしか暮らしたことのない八重は三階の部屋が落ち着かない。更に規則が多くて煩わしいのも憂鬱にさせる。しかし夫の光生がこのアパートに住みたかった理由と亡き妹の想いが分かると、ぎこちなかった夫婦も一歩進んでいく。
その後戦時中、終戦直後、学生運動、昭和から平成へと時代は移り変わり物語の主人公も娘、その息子たち、さらに孫、ひ孫とバトンタッチしていく。
同時に最先端なアパートも次第に老朽化し時代に合わなくなる。日当たりの良かった三階は銀杏が枝を伸ばしすっかり覆われている。買い取った住民たちによる増改築があり、ついには取り壊され建て替えられる。
「ビブリア~」シリーズの作家さんらしく、時折ハラハラする場面もある。八重の結婚もそうだし、娘・恵子と結婚することになる青年の危うさもある。孫の代には火事が起こるし喧嘩沙汰も。そして最後は阪神大震災が起こり、家族が巻き込まれる。
時代や家族の節目に描かれるのはあからさまな家族の絆や思いやりではなく、まるで舞台となったアパートメントのようにひっそりとだがいつでも受け入れるという懐の温かさだった。そういう意味では口数の少ない八重はまるでこのアパートメントそのもののような人だった。
1927年から1997年の半世紀という時間に代官山アパートメントにはたくさんの人々や家族が住まい出ていった。
八重の家族のようにここで家族が増えた人もいるだろうしここで亡くなった人もいるだろう。
最後にもう一度戻りたいと思えるとは、代官山アパートメントも嬉しいだろう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
日本最初の近代集合住宅「同潤会アパート」
そこに暮らす一家の四世代にわたる物語りです。
昭和と共に誕生し昭和と共に終わりを告げた
代官山のアパート…本当にあったのですね(*_*)
写真を見てびっくりしました。凄かった…
1927年に始まるアパートでの八重さんの暮らし
1997年に終わりを告げるアパートと八重さん…
静かだけど胸が熱くなる八重さんとアパートの歴史でした。
三上延さん初読みでしたが良かった〜(^-^)
もの凄くこのアパートに興味が湧きました‼︎
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東京に住んでいた頃、代官山にはあまり行く事はなかった。
同潤会アパートがあった頃、1度行っているとは思うが、その場所を見たかどうか、後に写真集とかで見た記憶とごっちゃになっているのか・・・
モノクロなイメージはあって、その場所のお話という事もあり読んでみたくなった。
関東大震災や、阪神淡路大震災の事も書かれていて、
登場人物たちが引き継がれて長い歴史を歩んできた事。
八重さんの人生は立派だった。
私の人生はちっぽけかもしれないな。 -
アンソロジー「この部屋で君と」で
「月の砂漠を」は既読。
素敵な話だと思ったので
そのお話の続きが読めるのは嬉しい。
関東大震災後に建った「同潤会代官山アパート」
が阪神大震災の後に解体されるまでの
70年間のお話。
最初に入居した夫婦が家族を作り、
子、孫、曾孫の世代まで。
優しくてあたたかなお話だった。
戦前、戦後、高度成長期、バブル、天災、いろんなことが
あるけれど、家族はきちんと繋がっている。
温かい、優しい、お話だった。
こういうのはとっても好みだ。 -
同潤会代官山アパートに住む家族を描いた連作短編集。
昭和初期から物語は始まり、約10年ごとに一話ずつ進み、祖父母から曾孫へ4世代にわたって描かれる。
昭和から平成まで、戦争や災害を経験しながらも家族を支えにして生きていく人たちの姿が温かい。
巻末の参考文献から察するに、実在する同潤会アパートや時代背景についてかなり取材を重ねたようで、それぞれの時代にはリアルさがある。
その時代背景に合わせた人物の描き方も見事で、戦争の時代には物語に重苦しさがあるのに対し、戦後の孫の代になると現代にかなり近い普通の学生の日常だ。
時代ごとに空気感が変わる書き分けがうまい。
実は一章の「月の沙漠を」は『この部屋で君と』というアンソロジー短編集で読んだことがあり、その時も面白かったと感想を記している。
初出を見ると二章目以降が発表されるまでには時間が空いていたようなので、一章の出来が良かったから長編化したような形だろうか?
私は家族愛をそれほど強く感じる経験がなかったので、あまり家族小説に共感したり気に入るということがなかったのだが、初めて家族小説を好きになれた。 -
代官山のアパートを舞台に暮らす四世代の家族の話だが、一言、良かった…いい本読んだ。八重さんの寡黙だけれど強く優しい姿。ひ孫の代までちゃんとそれは伝わっている。
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代官山の同潤会アパートを舞台に、そこで暮らした4世代の家族70年の歴史。
亡き妹の恋人と結婚した八重。
義姉から妻となった女性を大切にし続けた夫竹井。
その娘、孫達、そして曾孫。
それぞれがその時代ごとに歴史を刻み、住み暮らしていた場所。
彼らの大切な場所であったことが、物語の最初から最後までずっと感じられます。
とても素敵な話でした。
最後まで読んでからプロローグに戻ると、そこに書かれた八重達の歴史が語られていた事に気づき、新たな感動に包まれます。
孫の進の高校時代のエピソードが良かった。
思わず吹き出す微笑ましいセリフ「少しは黙れ!星のフラメンコ!」
多くの人に読んでいただきたい作品でした。