不愉快な本の続編

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 99
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  • Amazon.co.jp ・本 (147ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104669059

作品紹介・あらすじ

女と暮らす東京を逃げ出した乾。新潟で人を好きになり、富山のジャコメッティと邂逅し、そして故郷・呉から見上げる、永遠の太陽-。不愉快な本を握りしめ彷徨する「異邦人」を描き、文学の極点へ挑む最新小説。

感想・レビュー・書評

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  • スピン3号の「絲山秋子 デビュー20周年」で改めて、著者の作品に向き合う。
    中期の作品、意外に知らないものも多く、その中の本作を選ぶ。

    退廃的な中に本来の優しさが潜んでいる、著者独特の人間観。
    登場人物みんなどこかアウトローでいて、人間臭くて、見放せない、そんな日常でもあり非凡な世界でもある。

  • 短編集『ニート』に収録されている「愛なんかいらねー」で衝撃のアブノーマルっぷりを見せつけた乾が主人公。カミュ「異邦人」が参考文献に挙がっているように、ムルソー同様 肉親に対して情の薄い乾は、実家とは音信不通。パリに留学するも、美しい変態娘アイシャと狂乱を尽くしただけ。金貸しが趣味のヒモ…とことんクズの彼が初めて本気で人を好きになり、結婚する。しかし乾は「不愉快な本」にしか興奮出来ず、結婚生活は続かない。

    近代美術館に展示されているジャコメッティの裸婦立像に魅了され、盗み出したそれをかわいそうな元同級生に託し「ああオレも太陽が見てえ」と逃亡し、たびの人になる乾。彼の行き着く先は…。

    訳の分からない嘘つきなクズ野郎、なのに時々真理としか言いようのない言葉を言わせてしまう絲山さん。
    「ボクだって腹は減るんだよ。でも手のこんだ料理はしたくない。だからお湯沸かしてカップヌードル食っちゃう」は、リアリティある。ユミコの立場なら悲しくなるけど…

  • 過酷な中を生き抜いた人が書いた文章。絲山さんのものにそんな雰囲気を見い出すことがある。『不愉快な本の続編』はその傾向が強く、読みながら「孤独」という絲山さんの本を読むと思いだされる言葉について考えさせられたり、強靭な精神を持つ絲山さんの背中が合わせて頭の中に浮かんだりするのだった。

    内田先生の『他者と死者』でカミュの『異邦人』のあっと思わせるような引用に出会ったところで、また『異邦人』を下敷きにしているともとれるような作品。『異邦人』また読みたくなる。

    これが「本」であることに意識的な作りになっているが、そこかしこに絲山さんの本音が織り込まれているように思う。「男であること」「女であること」に対する絲山さんの独自の意識へ関心が向かう。

    それにしても文芸書を読んでいて「オラクルマスター」なんて言葉に出会うとは思わなかった。杉村の職業はSEだし。

  • 「じゃあ、あんたのモデルは一体誰なんだ?」
    絲山作品の中でも特に幾つも付箋を貼りたくなりような言葉が溢れている作品だった。

  • ルックスが良いらしく、女性にモテ、ヒモのような生活を長年送ってきた主人公。
    この物語でいう「不愉快な本」とは変態的な性癖のことだ。彼は女を汚す趣味があるのだけれど、それは最初の段階ではもちろん自分で選択したことではない。何に欲情するかなんて人間が自分で決められることではないし。彼の本はたまたま他人から見ても、時折は彼から見ても「不愉快」な内容だったのだ。
    その不愉快な本から生まれ出た彼はそれを鞄の奥底にしまうように扱ったりしながらもやはりそれに振り回され、大事な人を失ってしまう。

    よく人生を本に例えたりなんかして、自分で書いていくんだみたいなことをいうやつがいるけれどやはりそうじゃないと思うんです。いや、基本的にはそうなんだろうけど、書き換えができない部分を多く含んだ本を持って生まれる人間もいるということ。そしてそれを適当に往なしながら生きていくしかないということ。その本が何かの誰かをモデルにして書かれたなんていうことは本来多くの部分であり得ない筈で、なお書き換えが難しいのであればこう生きていくしかないと。

  • 初絲山氏。
    初挑戦なので作風がわからなかったのだが、どうやらいつもこんなトーンの作品を書く方らしい。

    自堕落な主人公ケンジロウの目を通して語られる物語は、軽薄なのに理屈っぽい、リアリティ溢れるようでいてどこか不条理な奇妙な世界だ。
    読んでいて楽しい物語でもない。どちらかというと不快を感じるくらいのストーリーなのだが、不思議と引き込まれあっという間に読了した。
    何をどこまで描くか、どういう言葉選びにするか、そのあたりの著者の絶妙なさじ加減の為せる技なのかもしれない。

    一歩間違えると嫌悪でだけで終わってしまいそうだが、他の著者の作品もちょっと読んでみたくなる、癖になりそうな感じだ。
    思いのほか文学的に幕を閉じるラストも悪くない。

    オマージュ的に取り上げられるカミュの「異邦人」も、どんな話だったかすっかり忘れてるなあ。
    読み返してみようかな。

    余談。
    初めて読むので短編なら入りやすいかな、と思って手にしたのだが、短編集じゃなかった…。

  • 面白かった。

    何もかも捨ててすぐに蒸発してしまう
    住民票はちゃんと移す
    何を失っても平気なのに
    弟の死にダメージを食らう。

    弟が変わらずにずっとそこに生きて暮らしていると信じてそれゆえに流浪できたということか。嫁いでも帰る実家がある女みたいなものかな?

    呉・新潟・富山の街が暮らしているよそものの視点から書き分けられていて面白い。
    新潟市に住むものとしてはメジャーじゃないところが書かれていてびっくり。富山市に行ったことないわ。240キロも離れているのか。

    ジェノヴァの街の描写を読むと塩野七海の「ローマ帝国亡き後の地中海世界」を思い出した。どこにも行きつけないような細い迷路と山の上の街はイスラム海賊の略奪から人や財産を守るためだということを。

  • どうしようもない。肩掴まれて揺さぶられる

  • 男性主人公、しかも変わったやつとかヒモ系とかを語らせるのは絲山秋子 に限ると思う。残念なことにそれを証明するほど読書をしていないが・・・・。

    主人公の落ちっぷりが見事で、彼は誰も恨んでいないし、自分を憐れんでもいないし、悲観的にもなっていないし、かといって笑い飛ばすこともできない。とにかく救いがないのである。
    誰を恨んでいるのかは薄々わかるのだけれど、気付いていないのか気付かないフリをしているのか・・・。そういうところが現代社会の弱い立場の人たちを見ているようで何とも言えない気持ちになる。もしかすると私も「弱い立場の人」なのかもしれないことにもはっとする。

    浪人や留年は許されるが、大学卒業と同時に就職が決まっていないと「負け組」のレッテルを貼られてしまぞと警鐘を鳴らしているようにも見えるし、そういう社会を嘲笑しているようにも見えるこの作品。
    大学を出てもそのへんのアパレル系の店で店長をやるくらいしか能がない男、ちゃんと働いていても犯罪行為でしか自分を癒せない女、留学するほど能力があるのに性癖のせいで自分を押し殺してしまう哀れで不愉快さも表せない男。
    こういう話を高学歴な絲山秋子のような作家が書くと妙に説得力がありリアリティが増す。だから私は彼女の私生活まで気になってしまうのだ。現代社会の影の部分であったり、人があえて目をそらしてしまうことを堂々としかし悲観的にならずに書ける作家の一人だろう。

    まったく不愉快で愉快な1冊であった。不愉快なので星はあえて3つとする。

  • 年上の教授?のヒモの男・乾が主役の話。
    色々なことに飽きて、女性を転々と変えるような生活を以前までしていたが、遠くへ行こうとフラフラする。
    フラフラした先で、結婚。
    結婚なんて考えてもいなかった。でも、なぜかした。
    しかも今までの自分では付き合いたくないタイプの女性と。
    結婚したけれど、精神的な意味で人と触れ合うことを避ける乾。踏み込まれたくないらしい。
    今度は、その妻に飽きられる。
    そうやって行く先々で居場所をなくして、転々とする男の一生を描く。
    どこにいても、誰といても一人。

    どこかでこの設定見たことがあると思ったら「ニート」の中の短編の続きだと、あとで知った。
    面白いけど、ロマンが全くない笑
    読んだあとに「ほぉっ」とするものを、今の自分は求めているだけなのか。
    「袋小路の男」の中の短編、アーリオ オーリオも似たような、他人に深く踏み込まれたくなくて、静かにじわじわと独りを極めていく男の話なんだけど、爽快感がある。

    「独りを極めるひと」というのは、絲山秋子作品のだいたいの共通点なんだけど、物語によって読後の感触がこんなにも違うのは、とても美味しいこと。
    もっと読みたいと思わせる、素敵なひとですな。

  • 考え抜かれた、端的でむだのない言葉は、参っちゃうくらい的確で、そこが好き。
    行動に意味があるところ、ないところ、そのバランスが現実世界と同じで、そこが好き。
    意味のないところを、深追いしない、ほうっておいてくれる、そこが好き。

    だから私はこの著者が好き。
    この本には、私の好きがつまってる。

    乾は主人公で、気づいてる、抗う、特別な存在だけれど、その乾がどうしようもなく恋したのが、平凡で俗っぽい、くだらない女だったことが、最高だった。

    ラストは唐突にほうり出されて歓喜。私は納得したいわけじゃない。

  • しょうもない男?女もか?を書いて秀逸らしいが、よくわからない。共感する部分が全くないせいか、自分の感性が無さすぎるのか?「海の仙人」にまた会えるのではないかと、この作家さんの本をつい手に取ってしまうが、未だ果たせない。

  • なかなか手許に届かなかった本~呉の履物屋でギャンブル狂いの親父と精神を病んでいるお袋の間に生まれ落ちた僕は,東京に出て行くのが運命で,弟のシゲは家に残るのが運命だった。成田さんの家から逃げ出そうとして,学生時代に貸した金の回収に出向き,古着屋で働いているイサオを見つけ出し,昔集金に行った新潟の実家を思い出して,新潟に移ることに決めた。新潟では運転代行の仕事をして,広告代理店で働く32歳のユミコと知り合い,フランスで変態女と暮らしていたことを思い出すが,不愉快な本を開くことなく結婚をした。結婚するなら実家に連絡すべきだとは思ったが,連絡が着いた親父の従兄弟の倅のトシヤさんは,結婚式に嘘を並べにやってきてくれた。1年経った後,妻が浮気相手に送ったメールが間違って届いて,グダグタしながらも離婚して,富山で建材の営業を始めた。30前に家に帰ってシゲが結婚して自分の部屋を若夫婦の寝室にしているのを知り,うっかり寝たばこをして火が付き,嫁さんの服を燃やして家を焼け落としてしまったのを思い出す。素の自分に戻れるのは近代美術館だけだが,喫茶店でSEとして東京から出張に来ている大学の友達だった杉村に声を掛けられる。杉村は出張に来ては,引っ詰め髪に事務服とママチャリで空き巣に入り,へそくりを盗んでいるのだ。東京へ帰る杉村に持たせようとして近代美術館からジャコメッティの裸婦立像を上着に刳るんで持ち出し,呉に帰る。呉では実家のあった場所に歯科医院が建ち,海を見ながらペルノーを飲み,立ち上がった瞬間に背中を押されて,不愉快な本の中に帰るのを意識する~江戸川乱歩の芋虫とカミュの異邦人が参考文献に揚げられている。乾ケンジロウというヒモの男が主人公だけど,様々な女を描いているようだ

  •  絲山秋子「不愉快な本の続編」、2011.9発行。広島に生まれた乾ケンジロウは、東京の予備校で1年浪人し大学に。フランス留学はして自慢だが、大学を中退。以後各地を放浪。最後のパトロンは吉祥寺に住んでる10歳上の大学の先生、成田ひろみさん。変態のヒモだった。新潟ではユミコ32歳と結婚するも浮気されて2年で離婚。富山では泥棒が趣味の杉村明日香の誘いを断る。実家のあった呉に帰り弟が死んだことを知る。そして、この不愉快な本を閉じるとあるが、本人はどうなったのか・・・。なんとも不思議な世界でした。

  • “ボクは言葉を捨てることの快さを初めて知った。言葉によって規定された自分自身も冬の服みたいに脱ぎ捨てて、裸の物質になるってことが、こんなに気持ちいいとはまさか知らなかった。そこにはボクの倒錯した過去もなく、ろくでもない未来もなかった。”(p.97)

  • 確かに不愉快な内容ではあるが作者のエネルギー感じた。一気に読み終えられる分量でよかった。

  • あれ、『異邦人』読んどかないとダメですか。

    宙ぶらりんな人生とか、地方が舞台とか、このまえ読んだのと似てはいる。だいぶ暗くなったけれど。

  • 数ある絲山作品の中でも、特に観念的。
    流されるままに流れ、先々で周りに寂しい思いをさせる主人公。
    でも何故かちょっと好かれたり。
    とにかく寂しい。

  • まさか、「ニート」の最後の一編に出てきた、乾くんが主人公で一冊とは。だから、最初は、不愉快な本の続編の"不愉快な本"、って「ニート」の事かと思ってしまった。そうではなくて...。「ボクの不愉快な本をユミコに渡すわけにはいかない。口が裂けても自分の性癖については言うまいと思った。彼女のために、ことごとく文法をやり直す必要があった。」/呉、東京、パリ、東京、新潟、富山、呉と流されるようにめぐる乾。/さらりとして、人を見下しているようで、もろくて、自分の不愉快な本を持て余し、捨てたいのに捨てられず、もがき、投げやりになり、ユミコと結婚してやり直そうとして果たせず、投げ捨て、杉村に迫られても断り、過激な方法で彼女の盗癖を思いとどまらせ、最後は現実感のない地点へと読者を誘い込み。/ドライなロードムービーを見続けたかのような読後感。/「あっという間に死んでしまうっていうことは、一瞬しか生きていないみたいだ。人間って本当に簡単に死ぬんだなあ。」

  • 主人公が呉出身というだけで手にした作品。
    クズのような男が、東京、新潟、富山と渡り歩きながら、余所者として生きていく。彼はクズなんだけど、「考えるクズ」だ。だから、不思議と憎めない。
    だけど余所者はどこに行っても余所者だった。
    逃げるように故郷の呉に帰っても、唯一の拠り所であった弟が亡くなっていたことで、余所者であることから抜け出せなくなった哀しさ…
    不思議な読後感だった。

  • 絲山さんの小説が好きだったんだっけ…と、久しぶりに思い出して手に取った一冊。
    久しぶりに読むには、結構な作品でした。緑茶でも飲むかーと思ったら、抹茶出てきた感じ。
    淡々としているのに、物語の印象が強く残ります。文章のタッチが変わらないのは、出戻り読者である私には何となく嬉しく、懐かしい。

  • 日本版「ライ麦畑でつかまえて」みたい。サリンジャーと弟がいる家を燃やしちゃう主人公ってことでげんふうけいの「ひーちゃんとはーちゃんの話」だったかな、そんなのを思い出した。 どうしようもない主人公の男がなんだかんだ生きていって死ぬっていうか本になっちゃうメタ系。北陸の冬は暗いっていう一文にふふってなった。確かにそうだ。乱暴な口調で書かれていて一話ずつが短いので簡単に読める。主人公が格好よくて女の子にモテるのに不思議と嫌味じゃなかった。良作。2016/04/24 図書館

  • 主人公を駄目男とは思わなかった。

    どうしようもない人間なのに、目が離せない、
    おせっかいをしてしまう人。
    そういう人の、時間の流れが
    地域の温度や匂いを伴って
    ページから浮かんでくる。

  • 傑作でした。

  • 私にはお馴染みの地名が出てきて
    嬉しかった。

  • 他者との関係を断ち切ってしまって、そして自分からの発信は嘘なのか本当なのかのキワにある。そうした時に、どんどんと自分というものの形がなくなってしまって、いつどこでなにをやっていてなにをこれからやろうとしているのか、全部なくなっていってしまうようなヤツの話。最後には時間も止まっちゃう。

    変態、乾、、、なんか記憶の片隅にあると思ったら、絲山氏の別の作品「愛なんていらねー」の主人公だった。って、絲山氏が対談で言っていた。

  • とんでもないだめ男の話が書かれているが、実は主人公は今本を読んでいるあなたのではと思わせるような小説手法にトライしている。ページ数は多くはないが、後を引く物語だ。
    芥川賞をとってから大分時間が経ってきたが、今後がますます楽しみな作家だ。

  • 2014.9.14 - 9.15
    (147P)

  • 題名に引き寄せられた。
    「不愉快な本の続編」って言葉は、妙に頭に残る。

    クズ人間な「ボク」が日本を転々と移動しながら、
    数人の人と関わっていく…という話。
    読んで「ボク」みたいな人は本当にいそうだな…と思った。
    そういう人に限ってテレビのニュースにはならない。
    けど人の噂にはなってそう。

    飄々とした物言いのせいか、「ボク」は案外嫌いじゃなかった。
    自分の前には現れないで欲しいけれど。
    オチが好きだった。

  • 食いまくりのイケメン主人公が~心から愛せる人に~出会った~。

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著者プロフィール

1966年東京都生まれ。「イッツ・オンリー・トーク」で文學界新人賞を受賞しデビュー。「袋小路の男」で川端賞、『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、「沖で待つ」で芥川賞、『薄情』で谷崎賞を受賞。

「2023年 『ばかもの』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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