わたしが行ったさびしい町

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 157
感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104717040

作品紹介・あらすじ

最高の旅とはさびしい旅にほかなるまい。人生の最深部に触れる、通り過ぎた町の記憶。泡粒のように浮かんできては消えてゆく旅先の記憶。ペスカーラ、名瀬、シャトー= シノン、台南、トラステヴェレ、コネマラ、タクナ、長春、中軽井沢……。日常を離れた旅の途上で、人は凝り固まってしまっていた観念や思い込みを脱ぎ捨て、心も軀も身軽になる。こんな時代だからこそ読みたい、活字で旅する極上の20篇。

感想・レビュー・書評

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  • いつも行く図書館にイベント棚があり、そこで『旅の本』として紹介されていた一冊。
    パラパラと中を見ると、国内外の19の町+夢での町を書いた旅エッセイのよう。
    いくつか気になる町があったので借りてみた。

    「さびしい町」とは、どうということのないふつうの町のこと。
    と著者は書いている。
    ごく当たり前に人々が生活している町です。
    そしてもちろん、さびしい町が好きだから、このエッセイを書いたのでしょう。

    著者の松浦さんはフランス文学者でもあるので、フランスはもちろんの事、多くの国々を訪れている。
    これは、かつて通り過ぎたさびしい町のあれこれについての「昔話」だそう。
    なので旅の詳細は曖昧なのに対し、くっきりと記憶に刻まれているその町の空気や感じた事などは丁寧に記されている。
    そしてほとんどの旅は、奥様と一緒なのが素敵。
    連れがいるからこそ出来る体験もあるはず。
    中には「まだ妻ではなくガールフレンドだった女性」とのワクワクした旅もあった。(韓国・江華島)
    ーーーあの韓国旅行はわたしにとっての「始まり」の……人生にいくつもある複数の「始まり」の……一つだったと今改めて思う。(p190)

    どの町も細かく描写されている訳ではないが、奥行きのある文章が心に染みる。
    読者は昔話を聞きながら、自分の内側を見つめ、人生と向き合う(振り返ったりこの瞬間を感じたり、明日を想像したり)一冊になるのかもしれない。

    • ひまわりめろんさん
      アオイさん
      こんにちは

      図書館企画…侮れないっすよね
      言ってみれば本選びのプロたちに素直に乗っかってみることで「自分」っていう狭いカテゴリ...
      アオイさん
      こんにちは

      図書館企画…侮れないっすよね
      言ってみれば本選びのプロたちに素直に乗っかってみることで「自分」っていう狭いカテゴリーでは出会えなかった本に出会う
      図書館好きの後醍醐天皇間違えた醍醐味です!(≧∇≦)
      2023/05/21
    • aoi-soraさん
      ひまさん
      本当に図書館ってすごいですねー
      人気作家の新刊本などはどこでも目に入るけど、こういう地味だけど良質な本ってなかなか出会えない
      一冊...
      ひまさん
      本当に図書館ってすごいですねー
      人気作家の新刊本などはどこでも目に入るけど、こういう地味だけど良質な本ってなかなか出会えない
      一冊読んだだけでワンランクアップした気分よ(笑)
      2023/05/21
  • 現在日経新聞夕刊で掲載されている著者の週1回コラムを読み、心に留まり手に取った1冊。
    著者は詩人であり、直木賞受賞作家でもあり、フランス文学研究者として東大名誉教授でもある松浦寿輝氏。

    赤々と灯る空港ターミナルの光に照らされ霞や影を纏った飛行機がかすかに存在する印象的な装丁が素敵。

    研究者として留学やサバティカル等の機会で国内外への旅が多かった著者のエッセイ集。

    記憶に残った断片的な旅の記憶とご自身の思いが丁寧な言葉で紡がれる。
    あちこちで写真にとどめるだけのなんちゃって旅行記でも、自虐的ネタに終始する珍道中でもない。

    旅はすればするほど時間の経過とともに、瞼の裏に蘇る光景は極めて断片的なモノクロ写真のような一瞬となる感覚は私も同様。

    旅行当時の詳しいいきさつやそれにまつわる意味価値づけがそぎ落とされ、ただただ一瞬の匂いだったり、光と影のバランスだったり、同行者のふとした一言だったりと、意外なものが心に留まり続ける。

    松浦氏が旅先で心にとめた光景も「さびしい町」。人気で活気にあふれる著名な観光地ではなく、旅行者があえて入り込まないような通好みの秘境でもない。
    「たまたま」の先の予定・予想外の出来事と思い。そこに著者の生きてきた道の知見・見聞が混じり合い、湧きあがる感覚。

    言葉として表出された一言一句が非常に奥行きがあり、味わい深い。抑制されながら知性溢れる言葉の選択に憧れる。権威や知性を振りかざすこともなく、承認や過剰な共感を求めない文体ながら、読めば読むほどこちらの心に沁みてくる。素敵な日本語。

    ぼんやりしていたら日常に流されて見過ごしがちな自分の内面をじっくり見つめ、「違う場所」「違う人」との邂逅により、新たな自分に気づく。それを精緻な日本語で表現する言葉の力が溢れた1冊。

    生と死、出逢いと別れ、期待と失望・折り合い等々、物事のバランスの妙を堪能できた。旅先でもう一度手に取りたい。

  • 220607*読了
    江國香織さんの講演会で、2021年に読んだおすすめの本として紹介されていたのがこの本。
    うらやましいほどにたくさんの国、町を訪れられていて、いかにも観光っぽい場所にももちろん行かれている。
    でも、ここで綴られているのは、「さびしい」町。
    この「さびしい」というのは、わざわざ訪れたのに見たいものが見れなかったり、人気がなかったり、果てしない道のりを車で運転してやっと辿り着いた町がうらぶれていたり…。
    そして、地域色はあるものの特徴に乏しい「普通」の町だったり。

    江國さんも印象的なシーンとしてあげられていた、ナイアガラフォールズ事件は、この連載の初回、この本の冒頭の町に選ばれているだけあり、私の心にも深く残っています。

    私が思い出す「さびしい」町は外国だと、真冬のフィンランドのロバニエミ。
    氷点下25度、あたり一面雪で覆われた道路を肩をすくめて渡る人。さびしいショッピングモール。

    そんな、読み手にとってのさびしい町を思い出させてくれる本でもあります。

    松浦さんは大学の教授をされていたし、詩人でもあり、小説家でもあり、書き続けてこられた人。
    そんな人ならではの豊富な語彙で語られる「さびしい」町は、確かにさびしいんだけれど、行ってみたくなります。
    賑やかな観光地も素敵だけれど、そのすぐ近くにそっとある「さびしい」町にも訪れたい。
    記憶に蘇る「さびしい」町って、なんだかとても愛おしい。

    雨の降る日にお家にこもって読みたい本だなぁ。

    江國さんに教えていただけたからこそ、知って読めた本。そのご縁に感謝。

  • 講演会で江國香織さんがオススメしていた旅エッセイ。旅エッセイというと旅行先で起きた事件を面白おかしく綴っているものが多いイメージだけどこれは旅行先で筆者が味わったひたすら寂しい気持ちが綴ってある。読んでると「何やってるんだ…」ってなんかいたたまれない気持ちになる。読んでて台湾に行く時に飛行機のエンジントラブルで乗る予定だった便が欠航になった時を思い出した。言われてみれば旅行での楽しい記憶よりそういう寂しい気持ちになった時の記憶のほうが明確に残ってる。他人の寂しい気持ち知る機会なんてあんまりないからそういう意味では新鮮な作品、でも知らない土地の知らない人の寂しい話だからちょっと読み辛さはあった。

  • 村上春樹ライブラリー階段の本棚にあったのをパラパラめくり、ぜひ読もうと思った一冊。
    名著『名誉と恍惚』の作者による、紀行文…なのかな。

    旅の本が好きなのだが、この本は単なる町の風景や出来事の描写だけでなく、様々な思索やよしなしごと(と本人は仰るだろう)が織り交ぜられた文章が魅力である。

    一番行ってみたいと思ったのは新京=現・長春であるが、そんな感想を持つべき本ではないような気もする。

    「吉田健一にとって余生とは、何かが終わった後の時間である以上に、むしろ何かが始まる時間のことだった」
    「『余生があってそこに文学の境地が開け、人間にいつから文学の仕事ができるかはその余生がいつから始まるかに掛かっている』」

    というような言葉と引用、

    そして早世した私小説作家阿部昭への思いなどが印象に残った。

  • 図書館で借りたけども買い直したいぐらい良かった

  • 最高の旅とは寂しい旅である。一般的に楽しく良い記憶が残る旅が最高の旅と考えるだろうが、非日常の記憶に残るものは、トラブルや心的肉体的に弱っている時に、深く感じる事柄なのかもしれない。意外にも楽しかったことより、記憶から抹消したいものの方が残る。取り上げた場所も観光地からは縁遠いものが多く、興味がそそられた。

  • 蓮實重彦や吉田健一が書いたような「手すさび」「随筆」を想起しつつ、しかしこの著者が記すものにはそうした「人を食った」「悪意」がないなと思う。こちらが思わずむかついたり笑ってしまったりするような底意地の悪さがなく、代わりにどこか実直な生きづらさ・生真面目さを感じたのだった。その意味では意外とこれは堀江敏幸のような書き手の誠実・篤実な回想に通じるものであり『おぱらばん』『熊の敷石』が好きな人なら気に入るものなのかもしれない。ここにいる、ということそれ自体も疑わしくなり掘り返す記憶がどこかの別世界・妄想の彼方へ

  • 枯れ具合の表現が秀逸。残念な思い出じゃないとこが良い。

  • おそらく、旅に関するエッセイとしては極上の部類に入るのではないか。その旅の細部はほとんど忘れてしまっても、その中でくっきりと記憶に留まっている事柄の記述は、読者があたかも追体験するような錯覚を起こさせる。

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著者プロフィール

1954年生れ。詩人、作家、評論家。
1988年に詩集『冬の本』で高見順賞、95年に評論『エッフェル塔試論』で吉田秀和賞、2000年に小説『花腐し』で芥川賞、05年に小説『半島』で読売文学賞を受賞するなど、縦横の活躍を続けている。
2012年3月まで、東京大学大学院総合文化研究科教授を務めた。

「2013年 『波打ち際に生きる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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