桑田佳祐論 (新潮新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106109546

作品紹介・あらすじ

「胸さわぎの腰つき」の衝撃から44年。以来ずっと桑田佳祐は自由に曲を書き、歌ってきた。日本語を巧みにビートに乗せ、「誘い涙の日が落ちる」といった独創的な言葉を紡ぐ。情感豊かな歌詞で日本人の心を鷲づかみしながら、エロくキワどい言葉を投げ、愛と平和を正面から訴える。はたして桑田佳祐は何を歌ってきたのか――。サザンからソロまで1000に及ぶ楽曲のうち、26作の歌詞を徹底分析。その〝ことば〟に本質が宿る!

感想・レビュー・書評

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  • サザンがデビューした1978年当時、Char・世良公則&ツイスト・原田真二がロック御三家と呼ばれ『ロックがブレイク、お茶の間に進出!』なんて言葉が踊った。

    〈お茶の間〉なんて今や死語だけど、当時はテレビが複数台ある家って少なかったし、78年の紅白歌合戦の視聴率って何と72%⁈カウントダウンライブなんてまだ存在しない時代は、大晦日の晩は茶の間に集まり紅白観賞してたんですな。

    そんな『ジャパニーズロック』が台頭してくるまでの歌謡界を概観すると、1967年にブルーコメッツがGSの最終ランナーとして、骨と牙を抜かれ、すっかり歌謡曲化した ♫ブルーシャトー でレコ大受賞。それはGSブームという宴の終わりを告げ、代わって天地真理・郷ひろみ・山口百恵らのアイドルが歌謡界を席巻、方や拓郎・陽水・かぐや姫らのフォークが時代を斬り、世俗を反映した歌を次々に歌った。

    そんな中で異彩を放ったのが、1970年にデビューした『はっぴいえんど』。日本語ロックに対する疑念と羞恥を敢えて逆手に取り、活動するも1973年に解散。

    はっぴいえんど伝説なるものは残すも、ミュージックシーンに新しい風を吹かせたのがユーミン。75年に ♫ あの日に帰りたい がヒット。オシャレさと憂いをまとったシティミュージックの出現。〈スノッブ×都会性〉という価値観の萌芽が、長らく続いた『四畳半フォークをそんな時代もありましたね』的存在に追いやった。

    そして和製ロック御三家の登場。そこにしばらくしてサザンも加わり、4組は年齢も近いことからライバル視されるようになる。

    ただ、サザンの場合、デビューが派手なジョギングパンツというチープかつインパクトすぎる格好で登場したのが当時国民的番組の〈ザ・ベストテン〉。早口でシャウトする歌のタイトルが『勝手にシンドバッド』。世間はそら、キテレツなコミックバンドとして見ますわ。

    そんなキワモノ扱いされたバンドが一曲にして世間の評価が一変どころか激変。シングル3曲目の ♫ いとしのエリー。

    僕はこの曲をテレビで初披露した時のことを鮮明に覚えている。フジテレビの『スターどっきりマル秘報告』。司会の三波伸介が『サザンオールスターズの新曲を今夜この番組で初披露です!』と紹介し、スタジオで歌った。

    おっさん特有の長広舌の懐メロ噺はさておき本書。
    著者は昭和歌謡にフォーク、ニューミュージックに最新ヒット曲まで広範な守備範囲をほこる〈J-POP無双 スージー鈴木氏〉。

    サザン/桑田佳祐がビッグになり過ぎ、今や〈メガ・サザン〉になり、日本語を洋楽風に歌う桑田佳祐の最大の特徴もあり、詞・言葉がサウンドの付随物となった感を憂う著者。

    そこで桑田チルドレンを名乗る著者はペンを執る。味わうべき考えるべき桑田佳祐の歌詞に着目してほしいと、サザン・ソロ含め1,000曲から26曲を厳選。一曲一曲手を替え品を替えの徹底分析。自身の偏愛ぶりは振りかざさず、音楽評論の醍醐味を味わえる一冊となっている。

    お花畑と思われながらもポジティブで楽天的なメッセージソングもあれば、お下劣エロに、おフザケのコミックソング、涙ちょちょ切れるラブソング、ノリノリのロックンロール、意味から解き放たれたナンセンスソング…と広大な面積の歌詞の世界を自由きままに飛び回る桑田ワールド。

    では、桑田佳祐ははたしてどんな詞の作り方しているかが気になるところ…。

    その桑田佳祐の作詞法については…
    桑田佳祐著『ただの歌詞じゃねえか、こんなもん』より〉引用されている。

    歌詞はメロディが浮かぶと同時に、デタラメ言葉
    ーまぁ、英語が多いんだけどーで浮かんでくるわ
    け。日本語の歌詞は絶対に浮かんでこない。浮か
    んだ言葉とメロディをごにょごにょ歌ってくとコ
    ード進行がピーンとわかる。今度はギターを持っ
    て、言葉はデタラメのまま、何度も何度も歌うん
    だよね。それは僕ひとりでもやるし、バンドと一
    緒にもやる。そのうちに何となく、そのデタラメ
    言葉にピッタリとくる日本語が何ヶ所か出てくる
    わけ。

    それが…
    砂まじりの茅ヶ崎に
    誘い涙の日が落ちる
    女呼んで もんで 抱いて いい気持ち
    たまにゃ Makin’ love そうでなきゃ Hand job
    生まれく叙事詩(せりふ)とは 蒼き星の挿話
    夏の旋律(しらべ)とは 愛の言霊
    友は政治と酒におぼれて声を枯らし
    20世紀で懲りたはずでしょう?

    デビューから最近までの楽曲を順に取り上げた26曲。さぁ、深くて広い胸騒ぎ必至の『桑田語の世界』にどっぷり浸かっちゃってください。

  • 桑田佳祐さんが作った幾多の名曲から選りすぐった26曲、それぞれに込められた歌詞の内容を、著者の今まで培ってきた知識や過去の桑田さんの発言などからかなり深く掘り下げて考察していく内容

    私自身、サザン、そして桑田さんの歌を四半世紀近く聴いて来たこともあり、個人的にとても興味があり手に取りました

    なんでこんな歌詞なんだろう?と長い間感じていた曲が厳選されていてとても面白かったです

    著者としても、意味がよくわからない、と分析していながらも、でもこういうことですよね、と考察してくださっていて、内容を頭に入れた上で、改めてサザン、桑田さんの曲を聴き返してみたくなりました

    デビューから現在まで、歌詞に込められた共通的な考え方と、前半、後半て違った部分と、本当に興味深い内容でした

    曲がある程度イメージできないと、少し読み進めるのが難しいかもしれません

  • サザンの26曲をとりあげ、分析している。スージー鈴木さんならではの鋭さと軽妙さで面白い。

    『78年8月31日夜。演奏が終わった瞬間、日本のロックが一段上に跳ね上がった。見えてきたものは江ノ島と、新しい日本のロックのありようだ。』

    『ルイ16世「女呼んでもんで抱いてとか、おっぱいとか、これは暴動か?」

    リアンクール公「いいえ、陛下、暴動ではございません。革命でございます。」』

    『《いとしのエリー》たった一曲の中にも「誘い涙」「みぞりまじり」「泣かせ文句」という強烈な桑田語が並んでいた。これらは、言ってみれば、日本語ロックにおける「言語革命」の痕跡である。』

    『ぜひ一度、歌っていただきたい ♪芥川龍之介がスライを聴いて、"お歌が上手"とほざいたと言う。」

    私にとってこのフレーズは、声に出して歌いたい日本語の最高峰である。』

    といった感じ。ミーハーでいて評論家。


    あとがきで退職したことを書いている。退職して初めての著作で、職業人の制約から離れて少しだけ自由に書いたとのこと。仕事から離れることで評論家としての活動が進むのかもしれない。

    調べると博報堂にいたんですね。

    文中で紹介していた「Jポップにありがちな歌詞」が懐かしくて面白かった。

  • ファンなら読むべきだと思った。
    歌詞なんかほとんど把握していなくても、
    十二分に楽しめるからこそ、見過ごしている。
    キャリアの中からバランスよく選曲。
    その分析もとても参考になりました。
    たしかに、ユーミンや山下達郎、佐野元春、矢沢永吉、浜田省吾…が「マンピーのG★スポット」とは歌わないだろうな笑
    偉大すぎます。

  • 本読みながら、音楽聴きながら、歌詞検索しながら。桑田佳祐ってすごい人やねんなぁ。

  • 8/20

  • 日本ロック史に精通した著者による、桑田佳祐のここが凄い、を論じた本。出てきた26曲は全部わかるくらいサザン/桑田佳祐の曲は聞いてきたが、確かに歌詞は深く聞いてなかった気がする。
    守備範囲の広さ、バランス感覚の良さ、にも納得。これからは歌詞にも目を向けて、「ロック音楽は、何を歌ってもいいんだ」という桑田さんの根本思想まで味わってみたいと思った。

  • 天才桑田。ずっと前からそう思ってきた。メロディラインやアレンジはともかく、バラード以外は、歌詞は音に隠れて、あまり評価されてなかったような世論に、物申す?一冊。確かに!納得の内容だが。。。歌詞の分析って、本来恥ずかしい気持ちする。文字に起こすと、結構やばいもの多し。

  • 曲を聴くたびにより深みが増すようになりました。

  • Yeah!

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著者プロフィール

SUZIE SUZUKI
スージースズキ
1966年、大阪府生まれ。音楽評論家。
著書
『恋するラジオ』(ブックマン社、2020年)、『ザ・カセットテープ・ミュージックの本 〜つい誰かにしゃべりたくなる80年代名曲のコードとかメロディの話〜』(マキタスポーツとの共著、リットーミュージック、2020年)『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社、2019年)、『80年代音楽解体新書』(彩流社、2019年)、『いとしのベースボール・ミュージック  野球×音楽の素晴らしき世界』(リットーミュージック、2019年)、『イントロの法則 80's 沢田研二から大滝詠一まで』(文藝春秋、2018年)、『カセットテープ少年時代 80年代歌謡曲解放区』(マキタスポーツ×スージー鈴木、KADOKAWA 、2018年)、『サザンオールスターズ 1978-1985 新潮新書』(新潮社、2017年)、『1984年の歌謡曲  イースト新書』(イースト・プレス、2017年)、『1979年の歌謡曲 フィギュール彩』(彩流社、2015年)、『【F】を3本の弦で弾く ギター超カンタン奏法 シンプルなコードフォームから始めるスージーメソッド』(彩流社、2014年)。
ウェブ連載
「水道橋博士のメルマ旬報――1984年の歌謡曲」「東洋経済オンライン『月間エンタメ大賞』」「80年代音楽サイト『Re:minder』」など。

「2021年 『平成Jポップと令和歌謡』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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