人類と病-国際政治から見る感染症と健康格差 (中公新書 2590)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121025906

感想・レビュー・書評

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  • 感染症の世紀を生きる
    航空券連帯税の利用でエイズや結核治療へのアクセスとは知らなんだ。
    読みやすいような、ずっと論文を読んでいるような…

  • 493.8||Ta

  • 【263冊目】新型コロナが流行っているこの時期だからこそ手に取った本。きっとこういうことでもないと読まないテーマだと思ったから、逆にこれを未知の世界に出会うチャンスだと思わないと!とはいえ、似たようなテーマの本はこの時期(そしてこの後しばらくは)たくさん出版されると思われるところ、当たり外れあるだろうなと。その点、「新しい地政学」に寄稿していた筆者なら一定程度のクオリティは担保されてるかと思い、購入。あとがきで知ったが、北岡伸一氏の弟子だとのこと。

    内容は、①感染症は国際的な保健協力によって対処されてきておりいくつもの成功例があること、そして、②保健協力にはたぶんに政治的な側面があることを示しているもの。

    冒頭、チフスやペストといった有名な感染症の歴史の概観がすでに興味深い。特に、これまで公衆衛生分野に興味を持ってこなかった者としては、流行が当時の世相を作ったり、あるいはまさに現代と同じように家にこもって隔離という措置をとっていたことが興味深かった。

    また、インフルエンザが第一次世界大戦のフランス陸軍前線兵士の半分を撤退させたなど、感染症が軍事面にも影響を及ぼしてきた事例も、後に描かれるWHO外交とあわせて、感染症が安全保障に影響を及ぼす例として面白い。

    さらに、WHOが根絶に成功した天然痘やポリオと、根絶していないマラリアでは、政策面の違いだけでなく、感染経路(ヒトヒト感染か、媒介物があるか)が異なるというのも興味深い。

    あと、最後の章を割いて医薬品への「アクセス」を説明しているのも、僕的には◎。厚労省に就職しようとか考えたことすらなかったけど、薬価に対する規制が日本における医薬品へのアクセスを容易にしている面があるとは知らなかった!厚労省(医政局)ってすごいんだなー!

    薄くて読みやすいし、感染症が国際政治や安全保障の問題だという筆者の立場を踏まえれば、内閣官房国家安全保障局の職員さんとか読めばいいのに…笑

  • 【書誌情報+内容紹介】
    『人類と病――国際政治から見る感染症と健康格差』
    著者:詫摩 佳代[たくま・かよ] 国際政治学。東京都立大学教授。
    初版刊行日:2020/4/21
    判型:新書判
    頁数:256
    定価:本体820円(税別)
    ISBN:978-4-12-102590-6

    人類の歴史は病との闘いだ。ペストやコレラの被害を教訓として、天然痘を根絶し、ポリオを抑え込めたのは、20世紀の医療の進歩と国際協力による。しかしマラリアはなお蔓延し、エイズ、エボラ出血熱、新型コロナウイルスなど、新たな感染症が次々と襲いかかる。他方、現代社会では、喫煙や糖分のとりすぎによる生活習慣病も課題だ。医療をめぐる格差も深刻である。国際社会の苦闘をたどり、いかに病と闘うべきかを論じる。
    https://www.chuko.co.jp/shinsho/2020/04/102590.html

    【目次】
    はしがき [i-viii]
    目次 [ix-xiv]

    序章 感染症との闘い――ペストとコレラ 001
    1 ペストと隔離 002
      アジアからヨーロッパへ
      『デカメロン』に見る中世のペスト
      隔離政策への反発
    2 コレラと公衆衛生 009
      アジアから世界的流行へ
      公衆衛生設備の発展
      国際保健会議の開催
      スエズ運河の開通
      国際衛生協定の締結
      クリミア戦争での蔓延
      赤十字社の設立
      感染症との闘いが遺したもの 

    第1章 二度の世界大戦と感染症 025
    1 第一次世界大戦と感染症 026
      塹壕での生活
      マラリアの流行とキニーネの限界
      アメリカの参戦とスペイン風邪
      強大化したインフルエンザ
    2 大戦後のチフス 034
      赤十字社連盟のイニシアティブ
      感染症委員会の発足
      ロシアへの支援
    3 国際保健協力の発展 040
      マラリアへの取り組み
      植民地での活動
      感染症情報業務
      国際標準化事業保健協力と国際政治
    4 第二次世界大戦における薬の活躍 047
      サルファ剤の登場
      ペニシリンの登場
      抗マラリア薬クロロキンの登場
      DDTの活用から禁止へ
      第二次世界大戦と国際保健協力

    第2章 感染症の「根絶」――天然痘、ポリオ、そしてマラリア 057
    1 WHOの設立 058
      「健康」の新しい解釈
      サンフランシスコ会議での進展
      影の立役者たち
      加盟国と名称をめぐる駆け引き
      非自治地域の加盟をめぐって
      冷戦の影響
      国際政治とのせめぎ合い
    2 天然痘根絶事業 068
      恐れられた疫病
      天然痘子防接種の登場
      フリーズドライ・ワクチンの普及
      ソ連のイニシアティブ
      全人口の八割接種を目指して
      米ソの協力
      根絶に向けた努力
      サンブルを破棄するか否か
    3 ポリオ根絶への道 080
      二つのワクチンの登場
      生ポリオワクチン実用化に向けた米ソ協力
      ポリオワクチンをめぐる問題
      ポリオ根絶に立ちはだかる壁
    4 マラリアとの苦闘 091
      アメリカの勧め
      DDTの副作用
      マラリア根絶プログラム始動
      耐性蚊との闘い
      根絶プログラムへの二つの評価
      資金調達メカニズムの登場
      なぜマラリアへの関心が高まっているのか?
      蚊帳・新薬・ワクチン
      感染症との闘い

    第3章 新たな脅威と国際協力の変容――エイズから新型コロナウイルスまで 107
    1 エイズは撲滅できるか 109
      感染症の世紀
      エイズの特異性
      難しい予防
      差別と偏見
      国連合同エイズ計画の設立
      安全保障上の課題として
      資金の動員
      治療をめぐる状況
      HIVワクチンの開発
    2 アジアを震撼させたサーズ 128
      謎の新興ウイルス感染症
      対応の光と影
      国際保健規則の改定
    3 エボラ出血熱の教訓 133
      再興ウイルス感染症の流行
      流行を長引かせた要因
      国連エボラ緊急対応ミッションの活躍
      エボラの教訓
    4 新型コロナウイルスと国際政治 141
      感染症が安全保障を脅かす
      中国のリーダーシップ?
      中対立の影響
      いかに感染症と向き合うか?

    第4章 生活習慣病対策の難しさ――自由と健康のせめぎ合い 147
    1 生活習慣病の台頭 148
      感染症から生活習慣病へ
      発展途上国を蝕む非感染症疾患
      早期発見、治療、予防の取り組み
    2 生活習慣病予防策の障壁 
      糖分の摂取量をめぐる攻防
      ソフトドリンクへの課税?
      フードガイドをめぐる攻防
      アルコールの過剰摂取
      自由か、健康か?
    3 喫煙と人類社会 
      たばこと健康
      元祖嗜好品
      政府による規制の始まり
      規制を望む努力が優勢に
    4 たばこ規制の進展と将来 168
      難航した交渉
      締結に至った背景
      市民社会組織の活躍
      たばこ規制枠組み条約の採択
      パッケージをめぐって
      なお残る課題
      新型たばこの登場
      日本における規制
      新興国・発展途上国での現状
      自由への脅威?

    第5章 「健康への権利」をめぐる闘い――アクセスと注目の格差 189
    1 医薬品アクセスをめぐる問題 190
      基本的人権としての健康
      必須医薬品へのアクセス
      政府による規制の不備
      市場メカニズム
      トリップス協定による特許保護
      トリップス協定の柔軟性
      先進国の圧力と途上国の対抗措置
      パテントプールの創設
      C型肝炎の治療薬へのアクセス拡大
      国境なき医師団などの活動
    2 顧みられない熱帯病 207
      注目の格差
      貧困と深い関係にある病
      高まる関心パートナーシップの活躍
      DNDiの取り組み
      「健康への権利」の実現に向けて
      人類と病――闘いの行方

    あとがき(二〇二〇年三月 詫摩佳代) [222-225]
    参考文献 [226-238]



    【抜き書き】

    □pp. 223-224
    “なぜWHOを中心とする協力の枠組みが存在するに至ったのか、その原点にたち返る必要があるように思う。結局、国際協力なくして人類は感染症に対処することはできないのだから。/健康を守るための国際協力は、感染症などの外敵に対抗しうるのみならず、国際社会の平和や友好といった内なる結束を固めることにもつながりうる。国際社会は主権国家によって分断されているが、感染症や非感染症疾患など様々な脅威から人間の健康を守ることは、国際社会における数少ない共通の価値観となる。もちろん、国家間の基本的な信頼関係が存在しなければ、保健協力も難しいことが多い。それでも、各国で自国第一主義が蔓延する今日だからこそ、人間の健康は国際協力によってしか守られないこと、そして国際保健協力に内在する政治的潜在力を、より多くの政治指導者が認識し、活用する必要があるように思う。人間の健康を確保していく上での保健協力の重要性と、保健協力の政治的な潜在能力。この二つについて、理解と関心を深めていただければ、本書の目的は達成される。”

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著者プロフィール

国際政治学者。

「2023年 『高校生と考える 21世紀の突破口』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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