世界最悪の旅: スコット南極探検隊 (中公文庫 B 9-4 BIBLIO)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122041431

作品紹介・あらすじ

二十世紀初頭に繰り広げられた南極点到達競争において、初到達の夢破れ、極寒の大地でほぼ全員が死亡した英国のスコット隊。その悲劇的な探検行の真実を、数少ない生存者である元隊員が綴った凄絶な記録。

感想・レビュー・書評

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  •  このような悲惨事は必然に問題を引き起こした。「そんなことをする値打があるのか。」「何のためにそんなことをするのか。」それは命を投げ出すに値する手柄なのであろうか。国家のために命までかける仕事なのであろうか。功業であればこそ立ち向ったのではあるが、スコットの心をひいたものは単なる手柄だけではなかった。それに一つつけくわえられなければならぬことがある。ーー知識である。ウィルソンとてもそうした手柄にはあまり心をひかれなかった。この本におさめられた日記にも見られるもっとも大切なことは、ノルウェー人が第一に極に達したことを知った時、彼は何らそのことに触れず、あたかも何もそんなことがなかったかのごとく感じていたという事実である。

     極地へ探検隊が出される理由は多くある。そして人々はみな知的な精力をこれに傾注する。詩k際人が知識のために知識を追求することを心から評価するかぎり、今日では新しい知見を集められるところは南極大陸をおいて他にはないのである。
     探検とは知的情熱の肉体定期表現である。
     そこでわたしはいう。もし君が知識にたいして意欲を持ち、これを肉体的に表現する力があるならば出でて探検のことに従うべきである。もし君が剛勇の人であるならば、君はほかに何もすることはない。もし君がこわがり屋ならばなすべき仕事はたくさんある。臆病な人ほど勇敢さをしめす必要があるから。ある人は極地へ行くといえば気が狂ったかといい、少なくとも大多数の人は「何のために行くのだ」と問うであろう。商人は一年以内にもうかる見込みのないものには見むきもしない。だから君はほとんど一人ソリを駆ることになるであろう。少なくとも君とともにソリ旅行をするものは商人ではないであろう。それこそ非常に尊いものである。君の欲するものがただ一個のペンギンの卵であるにしても、君は冬のソリ旅行で報われるところがかならずあるであろう。

  • なんだかこれまでアムンゼンに負けて、しかも生きて戻れなかったスコット隊、というイメージを持っていたけど、探検の目的というか探検とは?と考えたときにどれほどスコット隊が多くを持ち帰ったかを知り、見直した。

  •  図らずもアムンセンと南極点到達を争い、敗れたあげく全滅したスコット隊の一人が書いた報告書である。

     著者は極地到達部隊には組み込まれなかったため、帰還を果たした。極点の代わりに皇帝ペンギンの卵を得るため、著者は冬に営巣地まで行っている(これが「世界最悪の旅」)。スコット隊は科学者を何人も擁し、アムンセン隊に比べ科学調査の色合いが濃かったと強調されている。

     最悪の旅はもう本当に最悪だった。何が最悪かというと、まず、南極の冬は太陽がない。ずっと夜である。自分の行く手も、コンパスも見えないほどの闇なのだ。そして寒い。マイナス50度の寒さというのは、寝袋や手袋が凍るため、中に身体を押し込むことができず、紐や綱も凍るため設営や荷解きができないレベルの寒さで、人体の耐えうる限界だろうと思われる。あちこちに凍傷ができ、水膨れができる(下手をすると水ぶくれの中も凍るらしい)。息で帽子が頭にはんだ付けのように凍り付く。テントの外に出て、あたりを眺めただけなのに、その姿勢のままで衣服が凍り付いてしまう。また、犬橇ではなく、人力でソリを動かすのも最悪である。雪が柔らかく、足は沈み、ソリは砂の上を引くようなものだったという。ソリは2台だったが、1台ずつしか引けない。つまり1台引いて、また戻り、もう1台を引くというやり方だ。極寒の闇の中を3倍歩くことになる。クレバスだらけの氷脈を進むにも月光を頼りに人がソリを引いていく(著者は近視だが眼鏡すらかけることができない)。やっと卵を採集したと思ったら、大地をも吹き飛ばすような風が吹き、テントが飛ばされる。人間は吹き飛ばされながらも這って散乱した装備品をかき集める。極度の疲労に幻覚が始まり、眠りながら行進した。誰もが「最悪の旅」であることに異論はないだろう。

     印象的なのは隊員の精神力である。著者と旅をともにしたのはボワーズとウイルソンである(2人とも極地南進でスコットとともに散っている)。ボワーズは「最悪の旅」中、九死に一生を得たあと、もう一度ペンギンのところに戻ろうと言い出す。
     「敬愛すべきバーディー(ボワーズ)、彼は断じて打ちひしがれることを承服できなかったのである。わたしは彼が一度でも打ちまかされたのを見たことはない」また、「暗黒と厳酷のもと、他人が生き抜く最悪の場合と信じられる、これら苦難のすべての日およびその後においても、一言半句の憎しみ、怒りの言葉も彼らの唇をもれたことはなかった」という。
     本書は「この仕事の名誉はだれに帰すべきであるか、だれが責任をとったか、だれが苦難のソリ行にしたがったか」を明らかにするために書かれた。著者は死んでいった僚友の真の姿を残したかったのだろうと思う。壮絶なノンフィクションであるにもかかわらず、行間から証人としての義務感と思慕の情とがにじみ出て、読んでいて切なくなった。

     極地に向かったスコット隊についても、残された日記から詳細に状況を書き起こしている。また、なぜ遭難に至ったか考察もされているが、それらは他の人の書いた解説本や伝記でも十分伝わる(つまり類書の方が分かりやすい)。ただ、スコットたちの葬儀を行い、十字架を立てる部分だけは、遺体を捜し当て、遺品を集めた当事者だからこその感慨を多く含んでいる。碑文を決めるのに異論もあったらしい。結局「努力し、探索し、発見し、しかして屈するところなく」に決まった。

     かなり読みにくい部類の本だと思う。訳もよくないし、注も少ない。
     最初は地理が分からなった。赤道を中ごろに据えたメルカトル図法の世界地図に慣れており、南極大陸の大きさや形もピンとこない状態だった。当然ながら南極点のまわりは全て北なのだが、なかなか頭が追い付かない。Google マップも無力だったため、極地研が出している南極の地図を購入し、横に置いて読んだ(立川の極地研にも行った。南極の地形模型があり、非常に参考になった)。部隊がいくつかに分かれ、同時進行で行動しているため、それらを追うのも一苦労だった。ネットで見つけた各隊の時系列行動表を印刷し、座右資料とした。そこまでしないと、なかなか本書の理解は難しかった。

  • スコット隊の死は、燃料不足と食糧不足。燃料が蒸発してしまった(コルク栓)。
    一般に言われる犬ぞりの不使用は、犬では途上の氷河は越えあられなかったと記載している。ただしアムンゼンは犬ぞりにスキーで人はそりを引いていない。
    ロス島ではなく鯨湾からの出発もアムンゼンの成功の一因。
    科学的資料を持ち運んだ(敗因)に対しては、その重さはたいしたことはない、問題はそりと雪面の接地面積だと。

  • かの有名な南極点初到達争いでアムンセン隊に1ヶ月もやぶれ、かつ隊が全滅した悲劇のスコット隊の記録。死の間際まで日誌を綴り続けたスコットの記録は読んでいて胸が苦しくなるが、それは偉大な旅であった。

    「探検とは知的情熱の肉体的表現である」世界最悪の旅 A・チェリー=ガラード

  • はっきり言って読みにくい

    序章も長いし、何が言いたいのかもよくわからなかった。

    スコット探検隊の詳細が調べたい人には向いているのかもしれない

  • 本書は、1912年1月に、ノルウェーのアムンセン隊に遅れること僅か20余日で南極点に達しながら、帰路において全員が死亡した英国・スコット隊について、若くして同隊に動物学者として加わったチェリー・ガラードがまとめたものである。
    スコット隊の探検については他にも何冊もの本が出ているが、本書『The Worst Journey in the World, Antarctic, 1910~1913』は、ガラードが10年をかけて、十分な反省と多くの批判を聞き、関係者からの資料と助言を得た上で執筆しており、それ故に、余裕をもって客観的に探検の経験を伝えながら、なお手に取るような臨場感をもっている点において、類書と大きく異なり、その価値を高めていると言われている。本書には、遺体の枕元から発見されたスコット隊長の日記からの抜き書きも随所に含まれている。
    本書に綴られた南極の自然の凄まじさと、そこで自らの信念に従いつつも、時折漏れる悲壮感は、我々一般人の想像を遥かに越え、まさに「世界最悪の旅」と言い得るものである。
    それにしても、探検・冒険とは一体何なのだろうか? 本書の著者はスコット隊に参加したガラードであるから、アムンセン隊のことを、「真直ぐに極にむかい、一番にそこにいき、一人の生命をもうしなうことなく、自分はもとより、その隊員にも極地探検の普通の仕事以上にとくに大きな労苦を課することなしに帰ってきた。これ以上に事務的な探検は想像できないのである」とこき下ろし、スコット隊を、「わかりきった数々の危険にむかい、超人的な忍耐力をもって非凡の業をなし、不朽の名声をえ、ありがたい教会の御説教にたたえられ銅像とまでなったが、しかも極への到達はただおそるべき余計な旅行を結果することとなり、その上、有為の人を氷上に空しく死なせるにいたったのである。・・・その目的は多岐にわたっていた。われわれはあらゆる種類のことに知的関心をもち興味を抱いていた。われわれは普通の探検隊の二倍あるいは三倍の仕事をしたのである」と書くのもむべなるかなであるが、スコットとアムンセンの南極点到達から1世紀を経た今、その意味を改めて問う時なのかも知れない。
    本書のあとがきを書いている石川直樹や『空白の五マイル』の角幡唯介が指摘するまでもなく、先人達によるこれまでの数々の挑戦に、科学技術の発達がドライブをかけて、現代においては、万人が納得できるような価値をもつ冒険的な対象は地球からなくなってしまった。とすると、冒険・探検とは無くなってしまうのか。。。?
    ガラードは最後に「探検とは知的情熱の肉体的表現である」と語っているのだが、この言葉にそのヒントがあるような気がする。つまり、本当の冒険・探検(の意味)とは、対象としている場所や空間に存在するのではなく、その行為を行っている個人の中に存在するのではないかと思うのだ。
    冒険・探検とは何か?を考えさせてくれる、貴重な記録である。
    (2019年6月了)

  • 2019.01.21 朝活読書サロンで紹介を受ける。
    http://naokis.doorblog.jp/archives/reading_salon_125.html

  •  軍人スコット率いるイギリス隊が、折角苦労して南極点に辿り着いたのに、既にノルウェー隊に先を越されており、しかも帰路でんでしまうという悲しすぎる話を、生存者がまとめた本。角幡唯介『極夜行』内で好意的に紹介されており、南極探検についてはWikipediaの記事で読み興味があったことから、実際に読んでみることにした。
     
     南極点への冒険はWikipediaや各ホームページにて詳らかに書かれており、本書の訳が古く読み辛いことから考えても、冒険の足跡を辿る目的ならばこの本を読む必要は薄いように思われる。
     しかし、実際に探検に携わった人物の手記や各記録、また世界の大英帝国国民が北欧の小国ノルウェーに抱いた複雑な感情、そして批判への時に冷静で時に感情的な反論等は、生だからこそ胸に迫ってくるものがある。
     「近代の文化国家は、探検をふくめて科学的研究の基金のために関心を払うべきである(p.254)」などは、ノーベル〇〇賞受賞者がよく発言している内容に酷似しており、いつの時代も一緒なのかなぁと思った。いつの時代でも一緒なら、今後も今のままで……とはならないか。

     なお、本書の翻訳年については1984年に河出で出たものを新たに文庫化したと書いてあるだけで、明記はされていない。同著者の同タイトルの本が昭和19年発売とあるが、戦前、というか戦時中だろうか??翻訳の古臭さや読みにくさはなかなかのものだった。

  • 1910年から、人類初の南極点到達をノルウェーと争ったイギリス探検隊の探検記です。

    同じく結末が遭難となった、小説「八甲田山 死の彷徨」とは違って、完全なる体験記録。

    なにせ著者は動物学者(ペンギン研究)として同行し、第一帰還隊に編入された探検隊の生存者です。

    南極点を目指したスコット隊長以下5名は、南極点に辿り着いた後、ノルウェーの旗を発見し、先を越された失意で帰還する過程で全員、死亡と相成ります。

    「世界最悪の旅」というタイトルでありながら、自虐を交えたユーモアは一切なし!

    前半は、ただただ淡々と事実が記録された作品です。

    吹雪が吹き荒れ、氷点下50℃の日々が続く中、氷点下20℃でも「ありがたい」と思えるらしい。

    そして凍傷で爪がボロボロと剥がれていくという。。。

    尋常ではない世界です。

    後半は、スコット隊長が遺した日記を紹介しながら、ノルウェー探検隊に先を越された上、全滅した敗因を分析しています。

    個人的にはノルウェー探検隊は南極点到達のみを目的としたのに対し、イギリス探検隊は研究という名目も含んでしまった点にあるように感じました。

    装備(食料や研究資材がかさみすぎ)・組織編成(地質学者や動物学者など探検に不得手なメンバーも連れて行く)・コース(研究に必要という理由で長距離コースを選択)のすべてにそれが現れていて、「確かになぁ」と思いました。

    何事も結果論で語るのは簡単ですが、本作品に限っては当事者が著者ですから、マジな話なんでしょう。

    著者自身、後世に教訓として残したいという動機で執筆している魂の作品です。

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