- Amazon.co.jp ・本 (850ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122049697
作品紹介・あらすじ
人はなぜ人を殺すのか-。河内音頭のスタンダードナンバーにうたいつがれる、実際に起きた大量殺人事件「河内十人斬り」をモチーフに、永遠のテーマに迫る著者渾身の長編小説。第四十一回谷崎潤一郎賞受賞作。
感想・レビュー・書評
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歴史に残る大犯罪者を、読んでいるうちに応援したり、愛おしくなっていました。
彼を大犯罪者にしたのは周囲の人たち、強いて言うならばあの一族ではないか。あかんではないか。
分厚い小説ですが、サラサラ読めて、アホで面白く、終盤は切ない、大傑作です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
明治26年に実際に起こった大量殺人事件「河内十人斬り」をモチーフにした大作。作者得意の関西弁を駆使して、実際の事件をモチーフにしつつもあくまで町田節。たまに入る作者からの「あかんではないか」というツッコミや、ロックバンドを引き合いに出しての例えなど、本来重くシリアスになりがちなテーマを軽妙にしていて大好きです。
根っからの残虐非道な悪人というわけではない主人公・熊太郎が様々な紆余曲折を経てついに大量の殺人を犯すまでにいたる経緯を丹念に拾ってゆく作者の目線は、弱いもの、はぐれてゆくもの、滑稽で哀れなものへの深い愛情と共感があって、赤ん坊まで殺した残酷な殺人者でありながらどこか憎めない熊太郎という人間の一生を描き出します。どんな理由があっても、人を殺していいということはないですが、それでもこの熊太郎には共感せずにいられません。
熊太郎の弟分で、一緒に大量殺人を行う弥五郎も、まあ言ってしまえばただのゴロツキでチンピラなわけですが、直情的で単純な性格、少年の頃に一度だけ助けてくれた熊太郎を死ぬまでアニキと慕う一途さなんか、いっそ愛おしいくらい。どこかで少しづつ少しづつ歯車が狂っていって、取り返しのつかないところまでいってしまう、その残酷な悲しさ。この分厚さを読みきるだけの価値ある傑作だったと思います。 -
この小説を読むために数々の小説を読んできたんとちゃうか、ワレ、と思うほど、最高傑作に出会えたがな!(塩狩峠超えたな)この先読む小説、もうおもんないんちゃうやろか。河内弁のグルーブにのせて、熊太郎はあかんほうへあかんほうへ。思弁的な熊太郎の心のぐだぐだに共感し、わしもやと同化してしもて、わなないた。思弁的すぎて、うらはらな心が乱れ打ち、よくあるよなー。思いもよらん、けったいなことしでかすことあるよなー。アホと天才は紙一重。いわんや善人と悪人においてをや。人は人をなぜ殺すのか、というよりも、人はなぜ自分を殺すのかしらん。ありのままでなんて言葉がチープに感じる、一撃必殺の小説でした。
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ブクログでもアマゾンでも星5が多く、軒並み高評価だったので期待して手に取った。
一言で言うと大作だ。文庫で800Pくらいあり読み進めるのになかなか手間取った。
それでも面白いので小説の中にすんなり入り込めた。町田さんの集大成と言われる理由もわかる。
明治時代を舞台に、熊太郎という河内の無頼者を主人公として、実際にあった事件河内十人斬りと彼の一生を描いている。博打、酒、女、喧嘩のやくざ者。こう言うと主人公はとても強い人間のように聞こえるが、実際は思弁がちで意気地のない、ええ恰好しいだ。いつだって、悩みに悩んだすえに彼は行動を起こす。
思弁がうまく言葉にならず他人に伝わらない、その主人公の悩みと葛藤を描こうとしている珍しい作品だ。
河内弁というこてこての関西弁を駆使し、町田康ならではのくほほ、おほほといった笑い方や、ぬらぬらといったわけのわからない表現も健在だ。なぜかそれら独特の表現が本作の明治時代と絶妙にマッチしている。自堕落な主人公という点ではこれまで読んできた町田さんの主人公と一緒だが、その一生を描いているという点で、これは突き抜けている。人はなぜ人を殺すのか。その問いに対してのひとつの答えがここにある。
星5でないのは、主人公の他人に理解されないという悩み、この悩みと主人公が終盤にとる行動との間にあまり直接的な繋がりがないように自分には思えたからだ。この行動は主人公という人物を体現している。確かに主人公自身の悩みや葛藤から生じた諍いと、そのためにとった行動ではあるが、動機の一番大きなものはただむかついたからだという点で、少しうーんとなってしまった。熊太郎よりも私のほうが思ったことをうまく言葉にできていない気がする。うーん、難しい。
だが読む人にとってはうまく繋がっているように見えると思う。長さに億劫になるかもしれないが、一度手に取って読んでみてほしい。傑作だと思う。
なお本作で町田さんは2005年に谷崎潤一郎賞を授賞している。 -
一言一句飛ばすのが惜しい。引き込まれる饒舌な河内弁の騙り口。感想が難しい…小説って意図せずとも著者の価値基準や傾倒が文章にどうしても表れると思っていたが本作には全くそれがない。850Pもあるが熊太郎の一生に他ならぬ読み物で、そこが何より凄いと思った。
全epがあまりに巧妙。頭に熊太郎らが浮かぶ。例:駒、笛、耕らなかった田、盆踊り、熊次郎の声、縫の神格化、P709正義等ないと知る。
前半熊太郎の性質に自分も思い当たる節が多かった。普通を成せぬが人を陥れる悪人ではない、損し行き詰まる熊太郎を私は許したい。弥五郎も魅力的。
思弁的な熊太郎が、終盤、自分の中にある自分の本当の思いを吐露しようとするのに何も出てこなかったシーンが悲しくて印象的。 -
すごいものを読んでしまった。
久しぶりに夢中になって読んだ作品。
これぞ文学!と言いたくなる。
800ページ以上あって長いんだけど一気に読んでしまった。読後は茫然自失。
これは大阪の河内・水分村で実際に起きた‘河内十人斬り’という大量殺人事件をもとにした物語。全く救いのない話。
でも、不思議と薄気味悪さや底暗さがない。河内というお国言葉のおかげだろうか。河内弁というものを生で聞いたことはないのだけれど、小説のなかで主人公・城戸熊太郎と周りの人間との機知に富んだ会話が絶妙で所々笑える。実際笑った。
なにより擬音語を効果的に織り交ぜた口語による文体が読んでいて心地いい。すごい。
思弁性が強く周りとの距離が掴めない、どこまでも不器用な熊太郎に読み進むうちに心酔してしまう。真面目に生きられない、かと言って極道者にもなれない。人生の敗残者。その生き様を徹底的に描き切った町田さんはすごい作家です。 -
一番好きな小説と聞かれたら、これを出そうかな。
私の出身地が舞台。せやから、出てくる地名がまずいちいち知ってる。あそこね、あそこね、、とイメージがふくらむ。言葉が、テンポが、めっさ心地よい。大阪弁、河内弁のわからん人は、読めるんやろか?ちうか、めっさ読みにくいんとちがん。もう、めっさめさ読みやすい!うれしい!標準語ベースの本、読んでる時とはあきらかに異なる、心の喜び!町田康や川上未映子読んだら、鉤括弧以外もすべてが大阪弁ちゅのは、ストーリーとはまた別のところで、読むだけで、喜びが湧いてくると気づく。
ちなみに、大阪離れて20年近くたった今、こうやって河内弁に再会してみて、河内弁はきたないやら柄悪いやら言われてきた意味がようやく飲み込めた私。どっぷり浸かってよそを知らなかった頃は、なぜそう言われるのか、どこが汚いのかと疑問やったけど。こらまーきたないと言われますわ!
、、っと、ストーリーについては。。
主人公のアホさ、なんでそうなんね!とどつきたくなる薄鈍かげん、そんなアホに忠実に支えるスマートな舎弟と、そんな2人の正直者が馬鹿を見るというチョー現実的なストーリー(ま、現実にあった事件が下敷きなわけやけど)に、ラストはもう涙なしには読むことができない。
そんな泣かせるストーリーやのに、合間合間に町田さまのアホふざけがちょいちょい入って、終盤になるまで、まさかそんな悲劇が待ってるとは思わないくらいのアホ話やから、最後にあんな息をのむような逃亡劇があり、涙と洟水も止まらない2人の最期に行き着くなんて。そこまでのおふざけとのコントラストが、そしてその生温〜いおふざけに慣れきってグダグダ読んでたら、ショック大きすぎる‼️