八日目の蝉 (中公文庫)

著者 :
  • 中央公論新社
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レビュー : 1971
  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122054257

作品紹介・あらすじ

逃げて、逃げて、逃げのびたら、私はあなたの母になれるだろうか…。東京から名古屋へ、女たちにかくまわれながら、小豆島へ。偽りの母子の先が見えない逃亡生活、そしてその後のふたりに光はきざすのか。心ゆさぶるラストまで息もつがせぬ傑作長編。第二回中央公論文芸賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 最後のシーンの美しさとあたたかさがなんとも言えません。

    希和子のしたことは確かに犯罪。それでも確かに希和子は薫の母親だった。未来は見えないのにどうか逃げ切ってほしいと思わずにはいられなかったです。別れ際の言葉に涙が溢れます。

    お腹の中の子どもにいろんなものを、きれいなものをすべて見せてあげたい、という気持ちが芽生えたとき、恵理菜は自分のなかで渦巻いていた気持ちと自分、過去に向き合うことができたように思います。
    子に無償の愛をそそぎ、守ろうとする「母親」の姿が血の繋がっていないはずの希和子と重なります。

    本当の母親のように自分を愛した誘拐犯の希和子、本当の母親なのにうまく愛することのできなかった恵津子。また、愚かな父親ですら、自分が母親になることで許そう、受け入れようと思えた恵理菜は本当に健気で強い…というか、強くなろうとしている姿に感動しました。

    あと、千草が本当にいい子です。
    八日目の蝉。きっとこれから、お腹の子どもと一緒に素敵なものをたくさん見られるよ。

    偽りの母子の未来はなかったけれど、それぞれの未来に光が差し始めたラストがよかったです。

  • この本に登場してくる女達はみな世間一般の幸せと呼ばれる暮らしを手に出来なかった人たち。地上では七日しか生きられないはずの蝉の命が八日目を迎えられたら「ラッキー!」と思えるのが普通。でも、彼女たちは「死ねなかった、生き残ってしまった」と感じる。
    どうして自分だけ余計なものを背負わされ、生き続けなければならないのかと自問する。

    かつて薫とよばれた少女が自分の受け容れ難い境遇を呪い、反抗とあきらめと無と…なんとか折り合いをつけながら生きてきた様と、犯罪だと頭では分かっていたのに割り切れない衝動から、母性だけで乳飲み子を奪い逃亡生活を続けた誘拐犯、希和子の生きる様。両者の生は確かに強烈だ。
    出所後、「がらんどう」である自分にはもう何にも残っていないと認識しているのに、ふとしたときに手の中に温かいぬくもりや重みやかすかな光があるように感じるのは、全身全霊をかけて、愛し守ろうとした愛し子と過ごした月日が、身体に浸み込み焼き付いてしまっていたから。
    一方、誘拐された女も、小豆島でのささやかな幸せに満ちていた、母と呼んでいた人との暮らしを否定することはできなかった。再びそこに降り立った時、あふれるばかりに心地よい感覚が呼び覚まされ、初めて彼女は、自らの体の中に他者の存在を肯定的に認識することができた。未来と呼べるものを思い描くことができた。

    二人の女の生様はどちらも社会的性ではなく、原始的な性を強く刻印した在り方だと思った。読み進めていくうちに何度も熱いものがこみ上げ頬を伝わったのは、自分にも同類の血が流れているのが感覚的にわかったから。
    傑作に出会えた充足感。

  • 映画の方を先に見ていたが、原作も素晴らしかった。
    読んでいて感情が揺さぶられる作品で、読み終わったあとの疲労感がとてつもなかったが、綺麗事ばかり書いてある作品よりもこういった作品の方が読み応えがある。
    角田光代は女性の心理の描写が非常に上手い。
    最後、変に感動の再会をさせたりしていないのに、なぜだか救われた気持ちになった。

  • 2018/11/4読了


    岡山が舞台とか、女性の「母性」の物語とかで
    話題となり、大ヒットにもなった作品。
    自分は映画の方を先に見、今更ながら原作を
    読む次第となりました。
    映画評の方をしっかり書いたので、それを踏まえつつ
    読書評も書いていく。


    希和子の逃亡劇と、(育ての)親としての
    惜しみない愛をささげる前半と
    事件の被害者として「普通」ではない人生の中
    また自身も岐路に立つ薫/恵理菜 の後半。


    解説にあった「生理的犯罪」というのがしっくり来るが
    希和子の欲望から生じた罪。
    逃げつつ、薫を育てつつ(世話よりも育てるという方かな)
    自分の幸せのためではあるけど
    色んなものを見せたい、食べさせたい、聴かせたい
    薫が幸せになりますように、だけが祈りであり欲望だった。
    許されることではないけれど、本来の生き方とイレギュラーな
    小豆島での生き方。
    どちらもそれなりの愛はあれど、希和子の母性と純真な愛情は
    確かにそこにあったのではないだろうか。


    単純に母親にふさわしい性質だったのだろう。
    溢れんばかりの幸せを、薫に授けるために。そして
    薫と離れないために。大金を手放してまでも、逃亡を選んだのだから。


    しかし、ストーブのついた部屋に赤子を残して外出する元の親を
    信じられないなと(映画評では)責めようと思ったけど
    (今もそう思うけど)ヒステリックな性格や苦労のある生活で
    いっぱいいっぱいなとき、子育てからほんの少しでも距離を取りたいと
    思うときもあったのではないだろうか。という視点も最近少し湧き出した。



    映画は、小説で希和子が授けたいと願った「美しい風景」をたっぷり含んでいる。
    映像なので当然だが、小説は希和子の内情、怯えや不安が多いので
    若干だけど映画よりも余裕がなさそうに見えた。が、それこそ成長する我が子に
    苦心する母の像でもあって、こちらはこちらで「愛情」をしっかりと
    反映しているようだ。


    恵理菜は被害者で、普通でない自分、普通を奪った希和子
    受け容れてもらえない実の家族
    あらゆるものを嫌い、がんじがらめの中、頼りのない男性の子供を身籠り
    八方ふさがりになってしまう。
    呪いのような境遇の中、千草と共に過去と対面しようとする強さを得る。


    正直この小説は誰一人として幸せになることは無い。
    フェリー乗り場にて希和子だけが光の中にかつての娘の姿を見るくらいの
    ささやかさではあるが
    未来はきっとつらいのは目に見えている。
    けども、かつての4年間は母と娘にとっては存在していたということだけが
    本来見ることができない世界にいたということだけが
    この物語の、「8日目」という幸福なのかもしれない。


    とても暗く、辛く、けども美しい
    そういう小説であると思う。

  • すっごくよかった。

    許す、ということがテーマの小説だと思う。
    生きていると、どうしようもないことがある。
    みんな幸せになりたくて、だけど自分が幸せになるためにとった行動が、誰かを傷つけてしまうことがある。
    それはもう、正しいとか正しくないとか、いいとか悪いでは割り切れないもので。

    自分の幸せしか考えられない未熟さが生み出す悲しみ、でもその中で生まれてしまった優しくて温かい時間、悪いはずだった良いもの。
    そういう矛盾がうまく書かれた小説だと思った。

    そしてそういう矛盾に出会ったときに、いいとか悪いとかではなく、そういうものなんだ、と受け入れることができれば、楽になれるのかもしれない。
    許すこと、受け入れること。
    いつか自分にふりかかったとしても、そうできるだろうか。

    **************
    筋とは別に、印象に残った言葉:
    私、自分が持っていないものを数えて過ごすのはもういやなの

  • 私の中では比較的新しくお気に入りになった本。初めて読んだ時は涙が流れて止まらなかった。希和子が叫んだ、子どもを思うが故のセリフのシーンがたまらない。
    それぞれの女性の立場からの愛情や迷いが、細やかに描かれていて面白かった。

  • 家内が買ってきていたのですが、長らく積読状態でした、、
    『子供の教養の育て方』で取り上げられていたのに後押しされて、ようやく。

    子の親であれば、是非とも読んでおきたいと感じた一冊でした。

    終始、夏のヌルい風につつまれたかのような息苦しさを感じながら、
    一気に読了してしまいました、、タイトルの「セミ」の影響でしょうか。

    物語は二部構成、前半は「母性」、後半はその母性を受け止めきれなかった物語。
    普通とは違うこと、周囲から遮断されるということ、そして、社会への回帰とは。

    それぞれの人物の「どうして私が!」との想いの行き違いは、
    やるせない化学反応を起こしながらも、一つの結末へと進んでいきます。

    子を作るのが親なのではない、子と共に成長するのが親なのだと、個人的には。

  • 久しぶりの小説です。最近実用書ばかり読んでいるせいか、目が滑りました。特に風景の描写が全く頭に入って来ない。今はこの手の本を読むには不適な時期かもしれません。

  • 映画を先に観てますけど、あらためて凄いなと

  • 先が気になって一気読みだったけど心が揺さぶられて疲れた

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著者プロフィール

角田光代(かくた みつよ)
1967年、神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。
1990年、「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞し、小説家としてデビュー。受賞歴として、1996年『まどろむ夜のUFO』で野間文芸新人賞を皮切りに、2005年『対岸の彼女』で第132回直木三十五賞、2007年『八日目の蝉』で中央公論文芸賞、2011年『ツリーハウス』で第22回伊藤整文学賞、2012年『紙の月』で第25回柴田錬三郎賞、同年『かなたの子』で第40回泉鏡花文学賞、2014年『私のなかの彼女』で第2回河合隼雄物語賞をそれぞれ受賞している。
現在、小説現代長編新人賞、すばる文学賞、山本周五郎賞、川端康成文学賞、松本清張賞の選考委員を務める。
代表作に『キッドナップ・ツアー』、『対岸の彼女』、『八日目の蝉』、『紙の月』がある。メディア化作も数多い。西原理恵子の自宅で生まれた猫、「トト」との日記ブログ、「トトほほ日記」が人気。

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